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2022.01.04.08.08

とっぴんぐ

もう10年以上も昔だ。
当時の、同居人と外食に行った際の事だ。それぞれが注文した食事が供されて、いざ喰べようとした段である。いつもの様に食卓脇に置かれていた胡椒 (Pepper) を手にし、いつもの様に自身の皿にふりかけたぼくに対し、嗜める様に彼女はこう謂う。
「失礼である」と。

怪訝な顔をするぼくに対して彼女は畳みかけるのだ。
「せめて一口、それからにして。味もみもしないで」
普段の鬱憤がそこで爆発してしまった様なのだ。何故ならばぼくは普段、提供された食餌に対し、真っ先に調味料 (Condiment) を加味する事になっている。彼女の本心としては、自身の調理、味付けが蔑ろにされている、そんな理解なのだろう。
彼女の主張には一理ある。否、全くもって正しい。悪いのはぼくだ。
だが、ぼくのそんな行為には、彼女が忸怩たるおもいを抱かせる様なものは、実は内在していない。
ぼくのその癖には、それとは違う理由があるのだ。

例えば、こんな事がある。

最近のぼくには昼食は週に1回、パン食 (Bread-centered Diet) が習わしとなっている。
買ってきたバターロール (Bread Roll) をまっぷたつに割り、それぞれにスプレッド (Bread Spread) を載せ、その上にタバスコ (Tabasco) をふりかける。そして焼かずにそのままむしゃぶりつく。
とても辛い。何故ならば、そのタバスコ (Tabasco) はタバスコ スコーピオンソース (Tabasco Scorpion Sauce) であって、通常のそれよりも10倍も辛いのだ。辛いだけではない。食がすすむにつれて、額に汗が滲む事もある。さらに謂えば、食後にドライアイ (Dry Eye) 対策として医師処方の目薬 (Visine) を両の (Eye) にさすと、とても沁みるのだ。沁みるばかりかそれは痛い程で、時に文字通りに眼も開けていられない (Can't Even Keep The Eyes Open) 程なのだ。
食事中に、 (Eye) にタバスコ スコーピオンソース (Tabasco Scorpion Sauce) がはいってしまったのだろうか。でも、眼鏡 (Glasses) はかけているしなぁ。指についていた1滴が入ってしまったのだろうか。それとも、 (Stomach) から吸収された成分がもう (Eye) にまで到達してしまったのだろうか。そんな馬鹿な。とは思う。では、この汗はそれではなんなのだろうか。よく解らない。
解らないが、そんな手酷いめにあいながらも、そんな食餌を辞めようとはしない。対策として食前に点眼し、相変わらず豪快に10倍辛いタバスコ スコーピオンソース (Tabasco Scorpion Sauce) をかける習わしとなっている。

そして、こんな事をおもう。
もしかしたら、本当にぼくが味わいたいのは、このタバスコ (Tabasco) の辛さなのではないだろうか。そしてそれを堪能する為にこそ、バターロール (Bread Roll) やスプレッド (Bread Spread) を起用しているのではないか、と。
恐らくぼくにとっては、バターロール (Bread Roll) もスプレッド (Bread Spread) も、タバスコ (Tabasco) の皿でしかないのだろう。
そんな気がするのだ。

そんな事を考えてしまうと、他の食事、調理に関しても思い当たる節がある。

例えば、刺身 (Sashimi) である。
刺身 (Sashimi) 本体よりも、それと一緒に口内に入る、山葵 (Wasabi) や生姜 (Ginger)、そんな薬味 (Relish) をこそ喰いたいのではないか。生の魚介 (Fish And Shellfish) は実は、醤油 (Soysauce) でとろりと溶けたそれを堪能する為にこそ、存在するのではないか。
そんな気がする。
それは、野菜サラダ (Vegetable Salad) に於けるドレッシング (Dressing) にも通じるモノであるし、豚カツ (Japanese Pork Cutlet) の上にだぼだぼとかけたソース (Sauce)、ケチャップ (Ketchup) にも通じる。
ぼくが本当に味わいたいのは、ドレッシング (Dressing) やソース (Sauce)、ケチャップ (Ketchup) であって、その下に埋もれている調理は、それらの味覚をより豊かに堪能する為にこそ、存在しているのだ。

そんな馬鹿な、あれらは味付けの一環だろう、そんな批判が聴こえないではない。
だけれども、主食 (Main Dish) と謂い副食 (Other Dish) と謂いはするが、誰しも本心から喰べたいのは、御飯 (Rice) ではなくておかず (Side Dish) の方であろう。それとおんなじだ。ここにも建前 (Public Face) と本音 (Real Intention) が介在しているのだ。

また、マヨラー (Mayonnaise Freak) なる人種も考慮しても良いだろう。ぼくの様な嗜好が、マヨネーズ (Mayonnaise) と謂う1品目だけに特化したのが彼等なのだ。
但し、彼等とぼくが異なる点は、彼等がマヨネーズ (Mayonnaise) 単体で愉しめる様には、ぼくは愉しめそうもない。胡椒 (Pepper) だけタバスコ (Tabasco) だけ、山葵 (Wasabi) だけ、生姜 (Ginger) だけ、ドレッシング (Dressing) だけ、ソース (Sauce) だけ、ケチャップ (Ketchup) だけ、それだけではとてもとても物足りないし、それ以前にそれらをいくら思う存分に食したところで、いつまでたっても満腹にはなりそうもないからだ。
彼等よりも狡いと謂えば狡いのだろうし、未熟だと謂えば未熟なのだろう。さもなければ、口が奢っている、そう断定してくれても良い。

以上の点をもって、冒頭に紹介した彼女からの非難への弁明とはならないだろうか。
つまり、ぼくはその店の料理を介在させて、この胡椒の味覚を愉しみたかったのだ、と。

images
"Imaan Hammam" photo by Theo Wenner for the magazine "Vogue" 2017 (the original image is here)
[猶、上掲画像は本文とは無関係。ある食事光景と謂う、それだけの理由で掲載してある。]

次回は「」。

附記 1.:
拙稿への原案を練っていると一昨日 (2022. 01. 02.)、『ほぼ日刊イトイ新聞 (Hobo Nikkan Itoi Shinbun )』の『糸井重里が毎日書くエッセイのようなもの今日のダーリン (Today's Darlin' : A Kind Of Essay Written By Shigesato Ito On Everyday)』の一部に、糸井重里 (Shigesato Itoi) のこんな記述が掲載されていた。少し長いが、拙稿と関係するであろう箇所をそのまま抜き書きする。ちなみに、原文は遺されてはいない。
「どうして、こういうことを書こうと思ったかというと、
炊きたての白い『ごはん』がおいしいなぁ、と感じてね。
よく噛んで食べると、おいしいごはんのおいしさが、
さらにじわじわぁっと感じられていくんだよね。
出会い頭の一瞬ではわからないおいしさが発見されるんだ。
世の中のたいていのものは『ごはん』だと思ったよ。
すぐおいしいということもあるし、そうでない要素も多い。
そして、毎日のように食べていても飽きるものでもない。
人だってそうだし、仕事だって、遊びだってそうだよねー。
昨日、ぼくはここで『張らないでやろう』と言ったけど、
それは、『よく噛んでいこう』ということでもあるな、と。
なかなか、いいこと思う『寝正月』のワタクシであります。」

附記 2. :
一読すると、拙稿とは正反対の主張である。だけれども、それを以て、糸井重里 (Shigesato Itoi) に対抗しようとは思わない。
ぼくが考えているのは以下の様なモノだ。
糸井重里 (Shigesato Itoi) の主張は、正論ではない。正義や真理とは少し違うところに立脚していると思う。何故ならば、彼の主張が成立するには、少なからぬ豊かさと謂うモノが前提とされているからだ。経済的にも、心情的にも、そのヒトが豊かであってこそ、向かう事の出来る境地と思われる。
[ありとあらゆる調理、ありとあらゆる味覚を体験したモノのみが到達する地点とは決して謂わないが] 飢えたる児に対しては、決して成立し得ない文言ではないだろうか。

附記 3. :
と、謂う事を認じて拙稿に向かうと、ぼくの味覚や嗜好も、ある程度の豊かさを前提としたモノである、そう考えざるを得ない。どう考えてみても、貧困 [それは経済上のモノでもあろうし、心理的なモノでもあろう] からは決して産まれない。飽食 (Satiety) とは謂いたくはないが、どこかに贅沢 (Luxury) に慣らされたモノから派生している様に思える。しかもそれは、糸井重里 (Shigesato Itoi) の見解が正しくあるべき地位を占めているのだとしたら、そこからはすこし歪んだ地点にある様にも、思える。

附記 4. :
では、この対立軸を前提にすれば、マヨラー (Mayonnaise Freak) はどこに存在しているのだろうか。
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