2021.12.19.08.27

君達にはトム・ワーマン (Tom Werman) よりもジャック・ダグラス (Jack Douglas) の方が適しているのではないか。
渋谷陽一 (Yoichi Shibuya) は、そのバンドの中心人物、リック・ニールセン (Rick Nielsen) にそんな疑問を投じた。
それを聴いたぼくも彼に賛同したのと同時に今、それを尋ねるかねとも、おもったのだ。
そして、ふたつあるぼくの一方の考え、つまり後者の方を裏付けるかの様に、リック・ニールセン (Rick Nielsen) は渋谷陽一 (Yoichi Shibuya) の疑問を一蹴したのであった。
トム・ワーマン (Tom Werman) の方が適している、次作も彼に委ねるつもりだ、と。
彼がDJを勤めるFMラジオ番組『サウンドストリート (Sound Street)』 [1978~1987年 NHK-FM放送] の中での事だったとおもう。そして恐らくそれは彼等の第3作『天国の罠 (Heaven Tonight)』[1978年発表] が発表された頃だとおもう。番組ではDJ自身によるリック・ニールセン (Rick Nielsen) へのインタヴューが放送されていたのであった。その中の1問である。


彼等は前作『蒼ざめたハイウェイ (In Color)』』[1977年発表] とそのシングル・カット曲である楽曲『甘い罠 (I Want You To Want Me)』で、一躍、人気となった。尤も、その成果は我が国だけで於いての事、すなわちビッグ・イン・ジャパン (Big In Japan) である。そして、そこでの成果を受けて、当時の最新作である第3作『天国の罠 (Heaven Tonight)』が制作、発表されたのだ。この2作はどちらもトム・ワーマン (Tom Werman) のプロデュース作である。
だから、こんな時季に作品制作に関わったプロデューサーの力量を疑う疑問に関しては、そのバンドのメンバーとしては否定するのは明らかだ。DJの疑問を首肯する事はすなわち、自身の最新作をも否定する事になるのだから。
しかも、バンドはそこでのリック・ニールセン (Rick Nielsen) の発言を裏付けるかの様に、次作『ドリーム・ポリス (Dream Police)』[1979年発表] でもトム・ワーマン (Tom Werman) をプロデューサーとして起用しているのだ。
渋谷陽一 (Yoichi Shibuya) がジャック・ダグラス (Jack Douglas) の名を挙げたのは、彼が、エアロスミス (Aerosmith) の名盤『ロックス (Rocks)』[1976年発表] を手掛けていたのを始め、当時の時代の最先端をいくプロデューサーであったから、それだけではない。彼が彼等の第1作である本作[1977年発表] をプロデュースしていたからだ。そして、その作品をもって彼は彼等の音楽と存在を評価した。
ぼくが彼の疑問に賛同したのも同じ理由による。以前に彼がその番組内で紹介した本作収録曲のひとつ、楽曲『ザ・バラッド・オブ・TV・ヴァイオレンス (The Ballad Of T.V. Violence (I'm Not The Only Boy)』の印象が強く遺っていたからである。


当時、このバンドは雑誌『ミュージック・ライフ (Music Life)』[1937~1987 シンコー・ミュージック刊行] 等でアイドル的な扱いを受けていた。それは主に、メンバー4人のうちの2人、ロビン・ザンダー (Robin Zander) とトム・ピーターソン (Tom Petersson) の存在、彼等のルックスに起因するところが大きい。そして、彼等2人の美形度をより強調する様なかたちで、遺り2人の存在、リック・ニールセン (Rick Nielsen) とバン・E・カルロス (Bun E. Carlos) をコミック・リリーフ (Comic Relief) 的な役割で認識されていた。
それはメディア自身の対応ばかりではなく、バンド自身のアプローチとして既にある。第2作と第3作はどちらもアルバム表面に、美形2人をスタイリッシュに配置し、その裏面にはコミカルな演技をした遺り2人が登場しているのだ。
そのツー・プラス・ツー (Two-Plus-Two) の対比、2枚目対3枚目 (Good Looking Man vs Comic Role) の落差をバンドのヴィジュアル要素として採用していたのである。
だけれども渋谷陽一 (Yoichi Shibuya) の視点をもってすれば、バンド本来の魅力はそこではないだろう、そんな主張が彼の疑問の根底にあるのだ。そしてそれは、彼等をいち早く評価した自身の認識をスポイルした形で、バンドがアイドルとして評価されている事への忸怩たるおもいがあったのかもしれない。
一方のぼくは、そんな扱いをされるバンドに見向きもしない中で、別の視点でもって彼等を認識しだす。それは、ギタリストとしてのリック・ニールセン (Rick Nielsen) の存在とその力量である。
バンドの評価は本国では低いままでありながらも、彼の演奏を幾つかのアーティストの作品の中で見出すのだ [ぼくが最初にギタリスト、リック・ニールセン (Rick Nielsen) のクレジットを観、そして聴いたのは、アリス・クーパー (Alice Cooper) のアルバム『閉ざされた世界 (From The Inside)』[1978年発表] だったと思う]。
と、同時に、雑誌『ヤング・ギター (Young Guitar)』[1969年創刊 シンコー・ミュージック刊行] や雑誌『プレイヤー (Player)』 [[1969年創刊 プレイヤー・コーポレーション刊行] 等の専門誌に於いて、彼の演奏が何度となく取り上げられる様になったのだ。コミカルな佇まいと呼応して、もしくはそれを裏切る様なイメージで、彼の演奏している姿がそれらに顕れたのである。



バンドのそんな扱いは、ライヴ・アルバム『チープ・トリック at 武道館 (Cheap Trick At Budokan)』[1978年発表] まで継続される。その作品での成功を受けて制作された第4作『ドリーム・ポリス (Dream Police)』からは、ツー・プラス・ツー (Two-Plus-Two) のアプローチは消え、4人全員の存在に注視したアプローチへと移行するが、それと同時季にアイドルとしての人気は翳りをみせていく。
そして、リック・ニールセン (Rick Nielsen) の盟友とも呼ぶべきトム・ピーターソン (Tom Petersson) の脱退 [この2人はバンド結成以前から共に活動をしていたのだ] を以て、それは決定的なモノとなる。
バンドが再浮上するのは、彼のバンドへの復帰とライブ作の思わぬかたちでの本国での再評価が始まるまで待たなければならない。
ところで、本作のヴィジュアルでは、2枚目対3枚目 (Good Looking Man vs Comic Role) の対比は為されていない。メンバー4人が対等にそこにある。
しかし、4名の衣装に着目すれば、画面左側にはフォーマルな装いをしたバン・E・カルロス (Bun E. Carlos) とロビン・ザンダー (Robin Zander)がいて、左側にいるのはカジュアルなトム・ピーターソン (Tom Petersson) とリック・ニールセン (Rick Nielsen) である。ある意味で、このジャケットもツー・プラス・ツー (Two-Plus-Two) なのである。
[尤もロビン・ザンダー (Robin Zander) ひとりがシリアスな表情で佇んでいるのは、詰めが甘いと謂うべきか、それともバンドのヴォーカリストを1歩前へと推しだそうとしている為なのか。そして本作での評価の低さを前提として、明確にツー・プラス・ツー (Two-Plus-Two) を打ち出すと同時に、本作のモノクロ画像を [表面だけ] 否定して作品名にまで明示してみせたのが次作『蒼ざめたハイウェイ (In Color)』』なのである。両面フル・カラーのジャケットになるのはさらにその次、第3作『天国の罠 (Heaven Tonight)』である。]
ものづくし (click in the world!) 230. :"CHEAP TRICK" by CHEAP TRICK

"CHEAP TRICK" by CHEAP TRICK
1. HOT LOVE - R. Nielsen -
2. SPEAK NOW OR FOREVER HOPLD YOUR PEACE - T. Reid -
3. HE'S A WHORE - R. Nielsen -
4. MANDOCELLO - R. Nielsen -
5. THE BALLAD OF T.V. VIOLENCE (I'M NOT THE ONLY BOY) - R. Nielsen -
6. ELO KIDDLES - R. Nielsen -
7. DADDY SHOULD HAVE STAYED IN HIGH SCHOOL - R. Nielsen -
8. TAXMAN, MR. THIEF - R. Nielsen -
9. CRY, CRY - R. Zander - T. Petersson - R. Nielsen -
10. OH, CANDY - R. Nielsen -
ROBIN ZANDER / lead Vocals, Rhythm Guitar
TOM PETERSSON / Bass Guitar, Vocals
RICK NIELSEN / Lead Guitar, Vocals
BUN E. CARLOS / Drums
Produced by Jack Douglas for Waterfront Productions Ltd.
Engineered by Jay Messina
Asst. Engineer, Sam Ginsberg
Recorded, mixed and mastered at The Record Plant, New York, N.Y.
Photography : Jim Houghton
Design : Paula Scher
(C) 1977 CBS Records Inc. / (P) CBS Records Inc.
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