2021.11.21.08.26
"THE BEST OF BOOKER T. & THE MGs" by BOOKER T. & THE MGs

この4人はオーティス・レディング (Otis Redding) のバックで演奏していた。それだけではない。ブッカー・ティー・ジョーンズ (Booker T. Jones)、スティーヴ・クロッパー (Steve Cropper)、ドナルド・ダック・ダン (Donald "Duck" Dunn) そしてアル・ジャクソン・ジュニア (Al Jackson Jr.) は、彼が所属していたスタックス・レコード (Stax Records) のハウス・バンドでそのレーベルから発表された幾つもの名曲・名演・名唱は彼等がいたなればこそである。そう断言しても良い。嘘だと思うのならば、例えば、彼らが演奏を勤めたライブ作、アルバム『ヨーロッパのオーティス・レディング (Live In Europe)』 [1967年発表 こちらも参照の事] やアルバム『スタックス / ヴォルト・レヴュー・ヴォリューム・ワン ライヴ・イン・ロンドン (The Stax / Volt Revue, Volume One, Live In London)』 [1967年発表] を聴けば良い。


勿論、バック・バンドだけに彼等が徹している訳ではない。彼等単体、つまりこの4人を主役とする名曲のひとつに楽曲『グリーン・オニオン (Green Onions)』 [アルバム『グリーン・オニオン (Green Onions)』 収録 1962年発表] がある。


映画『アメリカン・グラフィティ (American Graffiti)』 [ジョージ・ルーカス (George Lucas) 監督作品 1973年制作] と映画『さらば青春の光 (Quadrophenia)』 [フランク・ロッダム (Franc Roddam) 監督作品 1979年制作] にも登場する。
前者ではジョン・ミルナー (John Milner) [演:ポール・ル・マット (Paul Le Mat)] とボブ・ファルファ (Bob Falfa) [演:ハリソン・フォード (Harrison Ford)] との夜明けの自動車レースのシーン [こちらを参照] だ。彼等の死闘を凝視しすべく街の若者が続々とそこへ結集してくる。その高揚感と緊張感を高めてくれる。
後者では、ブライトン (Brighton) のクラヴ、そこでのダンス・シーン、この後、モッズ (Mods) のヒーローであるエース・フェイス (Ace Face) [演:スティング (Sting)] の奇妙なダンスが堪能出来る [こちらを参照]。その場面だけを捉えれば、歓楽の光景だが、翌日の、モッズ (Mods) とロッカーズ (Rockers) の騒動を思えば、その伏線と看做せなくもない。そこでの体験が物語と主人公ジェイムズ・マイケル・クーパー (Jimmy Cooper) [演:フィル・ダニエルズ (Phil Daniels)] が迎える葛藤と波乱の要因のひとつともなる。
そんな印象をもって購入したのが本作である。ベスト盤 (The Best Album) と銘打ちながらも、件の楽曲『グリーン・オニオン (Green Onions)』が収録されていないのは気にはなったが、その楽曲はサウンド・トラック盤『アメリカン・グラフィティ オリジナル・サウンドトラック (41 Original Hits From The Soundtrack Of American Graffiti)』 [1973年発表] の中の1曲として既に入手済みだ [余談ながら、後者に関しては、その楽曲こそ収録されてないものの、その原作であるザ・フー ( The Who) のアルバム『四重人格 (Quadrophenia)』 [1973年発表] は入手してある]。


そして聴いてみたら、少し求めるモノと違っていた。
変だなぁとおもう。こんな筈ではなかったのに、とおもう。
おもいながらも、腑に落ちる点がない訳ではない。
例えば、収録されてある17楽曲のうち、2楽曲はザ・ビートルズ (The Beatles) のカヴァーだ。楽曲『エリナー・リグビー (Eleanor Rigby)』 [アルバム『リボルバー (Revolver)』収録 1966年発表] と楽曲『サムシング (Something)』 [アルバム『アビイ・ロード (Abbey Road)』収録 1969年発表] である。何故、この2曲なのだろうか、とおもう。ザ・ビートルズ (The Beatles) とブッカー・ティー・アンド・ザ・エムジーズ (Booker T. And The M.G.'s) と並べて、このふたつの共通解となる楽曲は、この2曲でなくとも別に幾らでもある。2バンドには出自を同じくするモノがあり、そこに根ざした楽曲を演奏すれば、ぼくにとって、納得のいく選曲、そして解釈が生成される筈なのだ。
ザ・ビートルズ (The Beatles) の初期作品は勿論の事、例えばアルバム『ラバー・ソウル (Rubber Soul)』 [1965年発表] あたりにはその該当曲が幾らでもある筈なのだ。
なのに、楽曲『エリナー・リグビー (Eleanor Rigby)』と楽曲『サムシング (Something)』である。
前者はポール・マッカートニー (Paul McCartney) 歌唱の弦楽八重奏 (String Octet) だし、後者はジョージ・ハリスン (George Harrison) のナイーヴさが美しく開花した楽曲だ。いずれも主旋律を堪能すべき楽曲である。
つまり、単純にぼくは骨格のくっきりとしたリズム主体の楽曲の、彼等の解釈を聴きたいだけだったのだ。
そして、そんな要望を本作は決して満たしてはくれない。がっかりする。
だけれども、後に彼等の作品の幾つかを聴き倒していくと、本作は紛れもない彼等のベスト盤なのである。
オーティス・レディング (Otis Redding) のバック・ミュージシャンでも、スタックス・レコード (Stax Records) のハウス・バンドでもない彼等、そしてもしかしたら、楽曲『グリーン・オニオン (Green Onions)』の主体でもない彼等こそ、ブッカー・ティー・アンド・ザ・エムジーズ (Booker T. And The M.G.'s) の真の姿なのだ。
逆の視点からみれば、本来の彼等が何故、オーティス・レディング (Otis Redding) やスタックス・レコード (Stax Records) や楽曲『グリーン・オニオン (Green Onions)』で豹変するのか、そしてそれを音楽の魔術と看做すべきなのだろうか、と謂う大きな疑問も発生する。
だが、ここではそれは問わない。
その代わりにこんな事を考える。
例えば楽曲『エリナー・リグビー (Eleanor Rigby)』の主題は、ひとりの哀れな女の死である。原曲ではそれを劇的に唄いあげている。しかし、彼等の編曲ではそんな主張はなりを潜めている。一言で謂えば、恐ろしく不気味であり、邪悪な印象がそこにある。彼等が綴っているのは女の不幸な物語ではない。死に逝く女の主因を語ろうとしている様なのだ。つまり、原曲よりもより具体的に死そのもの、その正体に直面しようとしているとも思える様だ。
そんな転倒した聴き方、倒錯した聴取をしてみると意外と本作は得るモノが多い。
楽曲『サムシング (Something)』で謂えば、原曲の流麗とした主旋律を重視してその甘さばかりを強調した解釈が多いなかで、どうしてこんなにもダンサブルなんだろう、そう思わせる解釈である。DJ的な発想をしてしまえば、その部分だけを切り取れば、フロアは充分に満足するだろう、そんな気がするのである。

ところで、本作を購入した最大の理由はそのアルバム・カヴァーにある。
入手当時は、フリーソウル (Free Soul) なる語句自体は存在してはいなかったと思うが、ここにある写真はそう呼んでも差し支えないモノだ。4人の服装、姿勢、そして居並ぶ順。
本作のヴォイジュアルを観て想起するのがジ・インプレッションズ (The Impressions) のアルバム『ヤング・モッズ・フォゴットン・ストーリー (The Young Mods' Forgotten Story)』 [1969年発表] である [そして購入時もそうだったのだろう]。


ちなみに本作に軽い絶望を感じて数年後、彼等のコンピレーション・アルバム2作品が発表された。
アルバム『プレイ・ザ・"ヒップ・ヒッツ" (Play The "Hip Hits")』 [1995年発表] とアルバム『ブッカー・ティー・アンド・ザ・エムジーズ ... ギャング・ステージ・セレクションズ (Booker T. And The M.G.'s ... Gang Stage Selections)』 [1996年発表] である。
前者は未発表楽曲だけで構成されているカヴァー盤で、後者はギャング・ステージ(Gang Stage) 監修によるベスト盤である。
偏見に満ちたぼくの彼等への印象に近い彼等の姿をこの2作品にみいだす事が出来る。ブッカー・ティー・アンド・ザ・エムジーズ (Booker T. And The M.G.'s) のぼくの愛聴盤と謂えばこの2作品であって、申し訳ないが本作ではない。
附記:
彼等と似た様な存在は、他にないのかなぁと思う。
例えば、あるレーベルのハウス・バンド、もしくはそこでのレコーディング作業に従事しているメンバー達が、一方では単独の主体作品を発表し、継続的な演奏活動をしている、と謂う様な。
ぼくがおもいあたるのは、タック・ヘッド (Tackhead) である。オン・ユー・サウンド・レコーズ (On-U Sound Records) のハウス・バンドで彼等名義の作品を幾つも遺している。そして、構成メンバーがキース・ルブラン (Keith LeBlanc)、スキップ・マクドナルド (Skip McDonald)、エイドリアン・シャーウッド (Adrian Sherwood) そしてダグ・ウィンビッシュ (Doug Wimbish) の4人であり、ブッカー・ティー・アンド・ザ・エムジーズ (Booker T. And The M.G.'s) 同様に、ツー・プラス・ツー (Two Plus Two) の人種構成なのも何故か共通している。
ものづくし (click in the world!) 229. :"THE BEST OF BOOKER T. & THE MGs" by BOOKER T. & THE MGs

"THE BEST OF BOOKER T. & THE MGs" by BOOKER T. & THE MGs
1. Hang 'em High 3:53
(D. Frontiere) CBS-Unart Music - BMI
2. Eleanor Rigby 3:34
((Lennon - McCartney) Maclean Music - BMI
3. Soul Limbo 2:21
(Jones - Cropper - Dunn - Jackson) East/Memphis - BMI
4. Over Easy 4:01
(Jones - Cropper - Dunn - Jackson) East/Memphis - BMI
5. Mrs. Robinson 3:39
(Paul Simon) Paul Simon Music - BMI
6. Something 4:08
(George Harrison) Zero Prods. - BMI
7. Time Is Tight 4:54
(Jones - Cropper - Dunn - Jackson) East/Memphis - BMI
8. Johnny I Love You 3:00
(Booker T. Jones) East/Memphis - BMI
9. Heads or Tails 2:30
(Jones - Cropper - Dunn - Jackson) East/Memphis - BMI
10. Meditation 3:59
(Jones) East/Memphis - BMI
11. Hip Hug Her 2:22
(Jones - Cropper - Dunn - Jackson) East/Memphis - BMI
12. The Horse 2:45
(Jesse James) Dandelion Music / James Boy Publ. - BMI
13. Slum Baby* 2:34
(Jones) East/Memphis - BMI
14. Born Under a Bad Sign 3:05
(Jones - Bell) East/Memphis - BMI
15. Light My Fire 4:16
(Morrison - Manzarek - Densmore) Doors Music - ASCAP
16. It's Your Thing 2:59
(R. Isley - O. Isley - R Isley) Triple Tree Music - BMI
17. Melting Pot 8:12
(Jones - Cropper - Dunn - Jackson) East/Memphis / Memphis Group Music - BMI
* monaural
BOOKER T. JONES - organ
STEVE CROPPER- guitar
DONALD "DUCK" DUNN - bass
AL JACKSON JR. - drums
Original recordings produced by BOOKER T. & THE MGs
#1 - 4, 9, and 14 originally released on Soul Limbo (Stax 2001, currently available as Stax 4113) ; #5, 12, 15 and 16 on The Booker T. Set (Stax 2009, currently available as Stax 8531) ; #6 on McLemore Avenue (Stax 2027) ; #7 - 8 on Uptight (Stax 2006) ; #13 originally released as a single only (Stax 0049) ; #17 on Melting Pot (Stax 2035, currently Available as Stax 8521). #1 -11 were also released on Booker T. And The MGs : Greatest HIts (Stax 2033, currently available as Stax 8505).
Digitally remastering directly from the original analog master tapes by Tom Size, Fantasy Studios, Berkeley, CA.
Cover Photo - William R. Eastabroock
Liner Notes - Lee Hildebrand
Stax Records (P) & (C) 1986, Fantasy Inc.
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