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2021.11.16.07.53

まるでだめお

「<前略>いわば平均 [以下] 少年の『まるでだめ』な日常生活漫画のすばらしくいい味が出てきた。<中略>少年たちの生活のリズムをそっくり漫画の中で併行して生きてくれる主人公たちに、平均以上をめざして他をかえりみない暮らしを強いられつつあったぼく [たち] は、だめだなぁと思いながら、大きな共感をおぼえた。」
[ムック『荒俣宏の少年マガジン大博覧会 (The Great Exhibition Of Weekly Shōnen Magazine by Hiroshi Aramata )』 [荒俣宏 (Hiroshi Aramata)、高山宏 (Hiroshi Takayama) 1994年刊行] より]

と、1964年の週刊少年マガジン (Weekly Shonen Magazine) 掲載作品を概括する本文で、マンガ『丸出だめ夫 (Dameo Marude』 [森田拳次 (Kenji Morita) 作 19641967週刊少年マガジン連載] に関して、高山宏 (Hiroshi Takayama) が『だめ夫とボロットが異常な日常から救ってくれた (Dameo And Boroto Salvaged Us From Inordinality Everyday)』の項にて述べている。
ちなみに、<中略>とある箇所にはそのマンガと同傾向、それに先行する作品や同時季の作品が幾つか綴られてあるが、拙稿はそれらには関心を払うモノではない。
そのマンガ以降にみられる「平均 [以下] 少年」が登場する作品、もしくはそのマンガの後継であろう作品群に着目する。

そのマンガには、主人公である丸出だめ夫 (Dameo Marude) の活躍を補佐する [と謂う事は彼のだめさを強調する] 様に1体のロボット (Robot) が登場する。彼の父親である丸出はげ照 (Hageteru Marude) が創造したロボット (Robot)、ボロット (Boroto) である。彼はガソリン (Gasoline) で駆動し、その名称の由来は、彼がボロ (Boro : Junk) から製作された点にある。
この1人と1体の言動 [すなわちだめっぷり] を描いたのが、そのマンガなのである。折口信夫 (Shinobu Orikuchi) 的言説を弄すれば、ボロット (Boroto) と謂う稀人 (Marebito : Alien or Stranger) が「平均 [以下] 少年」である丸出だめ夫 (Dameo Marude) 宅に仮寓する物語なのである。物語の主人公は、あくまでも「平均 [以下] 少年」である丸出だめ夫 (Dameo Marude) である。

ところが、そのマンガの作者である森田拳次 (Kenji Morita) の次作はマンガ『ロボタン (Robotan)』 [森田拳次 (Kenji Morita) 作 19661968少年画報連載] と謂う。
その作品でも、カンちゃんこと青空貫一 (Kan-chan) と謂う「平均 [以下] 少年」宅にロボタン (Robotan) と謂うロボット (Robot) が仮寓する。しかし、作品名に明らかな様に、その次作での主人公は、「平均 [以下] 少年」ではなく、平均 [以下] の ロボット (Robot) なのである。
この転換は何故に生じたのだろうか。
マンガ『丸出だめ夫 (Dameo Marude』が週刊少年マガジン (Weekly Shonen Magazine) で連載開始した同じ年の1964年に競合誌である週刊少年サンデー (Weekly Shonen Sunday) でマンガ『オバケのQ太郎 (Obake No Q-Tarou)』 [藤子不二雄 (Fujiko Fujio) [藤子・F・不二雄 (Fujiko F. Fujio)藤子不二雄 (A) (Fujiko Fujio (A))] 作 19641966週刊少年サンデー連載] が連載を開始する。稀人 (Marebito : Alien or Stranger) である Q太郎 (Q-Taro) が「平均 [以下] 少年」である正ちゃんこと大原正太 (Shota Ohara aka Sho-chan) 宅に仮寓する物語だ。この作品ではQ太郎 (Q-Taro) が主人公である。この作品は恐ろしくヒットした。それ故に、その作品の成功もしくは影響下で、マンガ『丸出だめ夫 (Dameo Marude』からマンガ『ロボタン (Robotan)』 へと、主人公の転換が発生したのではないだろうか。
そしてその転換に影響を与えた事となる藤子不二雄 (Fujiko Fujio) [藤子・F・不二雄 (Fujiko F. Fujio)藤子不二雄 (A) (Fujiko Fujio (A))] はこれ以降、「平均 [以下] 少年」宅に仮寓する稀人 (Marebito : Alien or Stranger) の物語を量産する事となる [ちなみにそれ以前には、彼はマンガ『サンスケ (Sansuke)』 [藤子不二雄 (Fujiko Fujio) [藤子・F・不二雄 (Fujiko F. Fujio)藤子不二雄 (A) (Fujiko Fujio (A))] 作 1964週刊少年マガジン連載] を週刊少年マガジン (Weekly Shonen Magazine) に連載している。マンガ『丸出だめ夫 (Dameo Marude』同様に、その作品は「平均 [以下] 少年の『まるでだめ』な日常生活漫画」なのである]。

さらに後には、稀人 (Marebito : Alien or Stranger) であると同時に平均 [以下] でもある主人公ロボット (Robot) [ロボタン (Robotan) 同様に] が「平均 [以下] 少年」宅に仮寓する特撮TV番組『がんばれ!! ロボコン (Ganbare!! Robocon)』 [原作:石森章太郎 (Shotaro Ishinomori) 19741977NETテレビ系列放映] が放映され、この主題はその特撮TV番組以降、同趣向の番組として、何度となく繰り返される事となる。

そして、「平均 [以下] 少年」と平均 [以下] ロボット (Robot) の物語は、一見すると全く異なるジャンルであるかの様な作品群にも散見される様になる。

ここまでに登場した1組、この1人と1体は、同じ背格好である。この1人と1体はおなじ目線で、考え、行動し、そして [両者共にだめだから] 失敗するのである。その結果、両者には友情が育まれる事となる。尤も、前者が未成年であり、後者が人造であるがゆえに、後者の体格は前者よりも遥かに誇れるモノではあるだろう。だが、ここまでの拙稿に登場した平均 [以下] ロボット (Robot) は皆、等身大ではあった。
もしも、そうではないロボット (Robot)、後者が巨大ロボット (Large Robot) であるのならばどうなるであろうか。

「平均 [以下] 少年」は平均 [以下] ロボット (Robot) に搭乗しそれを操縦するのだ。
アニメTV番組『マジンガーZ (Mazinger Z)』 [原作:永井豪 (Go Nagai) 19721974フジテレビ系列放映] に登場するボスボロット (The Boss Borot) がそれである。

と、綴ると論理に飛躍がありすぎる様に思えるかもしれない。
しかし、光子力研究所 (Photon Power Laboratory) に勤務する3博士 (Three Scientists) [のっそり博士 (Professor Nossori)、もりもり博士 (Professor Mori Mori)、せわし博士 (Professor Sewashi)] をボス (Boss) が拉致 (Kidnap) 監禁 (Confine) して製造させたその巨大ロボット (Large Robot) は、ガソリン (Gasoline) 駆動で廃材すなわちボロ (Boro : Junk) で構造されているのである。その点だけをもってしても、ボスボロット (The Boss Borot) は [その名称以外の点でもって] ボロット (Boroto) の後継であると看做しても良いのではないだろうか。
そしてボスボロット (The Boss Borot) の残照として、原作者を同じにするマンガ『ゲッターロボ (Getter Robo)』 [原作:永井豪 (Go Nagai) 作画:石川賢 (Ken Ishikawa) 1974週刊少年サンデー連載] に於ける、ベアー号 (Bear-Gou) ~ゲッター3 (Getter-3) とその操縦者である巴武蔵 (Musashi Tomoe) を挙げる事も出来るのではないだろうか。彼に関しては後に非常 / 非情にシリアスな展開が待ち受けてはいるが、彼のコスチュームに着目すれば当初はコメディ・リリーフ (Comedy Relief)、すなわち「平均 [以下] 少年」である事は疑いもない。
ボス (Boss) と巴武蔵 (Musashi Tomoe) の存在は、後に登場する幾つもの合体ロボット (Combined Robot) の物語に顕われている筈なのである。そこに登場する操縦者達のひとりにボス (Boss) や巴武蔵 (Musashi Tomoe) をおもわせる性格や体躯をもった人物を発見出来るであろう。

また、彼等2人とアニメTV番組『科学忍者隊ガッチャマン (Science Ninja Team Gatchaman)』 [原作:吉田竜夫 (Tatsuo Yoshida) 19721974フジテレビ系列放映] に登場する、G-5号 [ゴッド・フェニックス] (God Phenix) の操縦者である中西竜ことみみずくの竜 [G-5号] (Ryu Nakanishi aka Ryu The Owl) は、特撮TV番組『秘密戦隊ゴレンジャー (Himitsu Sentai Gorenger)』 [原作:石森章太郎 (Shotaro Ishinomori) 19751977NETテレビ系列放映] に於けるキレンジャーこと大岩大太 (Daita Oiwa aka Kirenger) [演:畠山麦 (Baku Hatakeyama )] へと影響を与えているのに違いないのだ [ここで巴武蔵 (Musashi Tomoe) が操縦するベアー号 (Bear-Gou) のメイン・カラーが黄色 (Yellow) である事を思い出しても良い]。そして、その彼こそがスーパー戦隊 (Super Sentai) に於けるコメディ・リリーフ (Comedy Relief) の嚆矢である事は謂うまでもない。

と、丸出だめ夫 (Dameo Marude) とボロット (Boroto) から遥か遠くへ来てしまった。
元へと戻ろう。

冒頭に掲げたムックで、高山宏 (Hiroshi Takayama) が「『丸出だめ夫』は一種『ドラえもん』に似ていて、」[同掲書より] と綴っている。
マンガ『ドラえもん (Doraemon)』 [藤子・F・不二雄 (Fujiko F. Fujio)19691996小学館の学習雑誌他] も、「平均 [以下] 少年」である野比のび太 (Nobita Nobi) と平均 [以下] のロボット (Robot) であるドラえもん (Doraemon) が登場する。後者を平均 [以下] とするのには異論はあり得るだろうが、ここではあるべき耳殻 (Auricle) があらかじめ喪失されていると謂う点を指摘しておこう。そして、それよりも大事なのは、この作品でも前者宅に後者が仮寓している点にある。
だが、その作品の主人公は誰もが知る様に、平均 [以下] ロボット (Robot) であるドラえもん (Doraemon) ではなく「平均 [以下] 少年」である野比のび太 (Nobita Nobi) なのである。この点が、マンガ『ロボタン (Robotan)』 や特撮TV番組『がんばれ!! ロボコン (Ganbare!! Robocon)』と、明確に異なる点である。また、それをもってそのマンガをマンガ『丸出だめ夫 (Dameo Marude』の剽窃であるかの様に看做す論点もある。
だが、この2作品を引き比べて考えるべきはそこではない、とぼくは思う。

マンガ『ドラえもん (Doraemon)』の作者は、マンガ『丸出だめ夫 (Dameo Marude』と同趣向の作品であるマンガ『サンスケ (Sansuke)』を創作していたのにも関わらずに、平均 [以下] である1人と1体の物語上での関係性を逆転させたマンガ『オバケのQ太郎 (Obake No Q-Tarou)』で成功したのだ [その成功をもって同趣向の、「平均 [以下] 少年」宅に仮寓する稀人 (Marebito : Alien or Stranger) の物語を量産したのである]。にも関わらずに、マンガ『ドラえもん (Doraemon)』では再び1人と1体の関係性を逆転、すなわち原点へと回帰したのだ。
ぼく達が考えるべきはそこなのだ。
何故ならば、原点回帰したその作品こそ、その漫画家にとって最大の成功作であるのだから。
敢えて謂えば、マンガ『オバケのQ太郎 (Obake No Q-Tarou)』からマンガ『ドラえもん (Doraemon)』への転換、そして何故、ぼく達はそれを支持したのか、と謂う点こそが難問なのである。

次回は「お」。

附記:
冒頭に引用した文章では、マンガ『丸出だめ夫 (Dameo Marude』を次の様にも紹介している [後掲画像はこちらから]。
「まるでだめな主人公を『ボロット』というロボットが助けていく日常茶飯漫画。かつては大科学者であったはずの父親がつくりだしたまるでだめロボットである。科学、とくにロボットという、少年漫画きってのスター的主題がみごとに骨抜きされて、<中略>この作品の舞台を<中略>自由奔放に広げる仕掛けとしておなじみのタイム・マシンが出てくるのだが、これが昔ごはんをたいたお釜の巨大なやつ<後略>」 [同掲書より]。
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