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2021.09.21.08.42

いろおとこかねとちからはなかりけり

と、謂う成句をぼくが知ったのは、漫画『タイガーマスク (Tiger Mask)』 [原作;梶原一騎 (Ikki Kajiwara) 作画:辻なおき (Naoki Tsuji) 19681969ぼくら等連載] である。

少年時代に出奔しそのまま成年に達した伊達直人 (Naoto Date) が十数年ぶりに、自身のかつて世話になっていた孤児院 (Orphanage) ちびっこハウス (Chibikko House) に顕れ、そこに出入りする様になったばかりでの逸話に、その成句は登場する。
彼はそこに棲む子供達 [彼等は彼と同様に皆、孤児 (Orphan) である] に少なからざる贈り物を持参する。そして、そこに屈強の男性達が参上する。その孤児院 (Orphanage) にはその債務によって、立退問題が生じていたからであるのだ。
彼等は自己の腕力 (Power) でもって自身の主張を行使しようとするが、その際に伊達直人 (Naoto Date) の口から発せられた台詞が拙稿件名として掲げた成句「色男金と力はなかりけり (It's Very Rare That A Don Juan Is Also Blessed With Money And Power.)」なのである。そしてその成句に続けて彼はこんな趣旨の発言をするのだ。
"かねはあるがちからはない (A Don Juan Is Also Blessed With Money And No Power.)"、と。
と、謂うのは、出奔後に資産家に認められ莫大な資産を相続した優男として彼は、その孤児院 (Orphanage) を再訪したからである。しかも財産 (Money) こそあるものの彼は、全くの運動音痴 (No Power) なのである。
ここは本来ならば、嗤うべき箇所なのである。彼の発言の真意にあるのは、自身を色男 (Don Juan) であると認じている事なのだから。
だが、彼の自認が正しいや否や、彼が色男 (Don Juan) や否やは、この物語のなかでは瑣末な問題なのだ。
何故ならば、この伊達直人 (Naoto Date) こそが物語の主人公、タイガーマスク (Tiger Mask) だからなのである。

タイガーマスク (Tiger Mask) は当時、黄色い悪魔 (Yellow Devil) とまで怖れられる程の悪役レスラー (Heel Wrestler) としてプロレス (Professional Wrestling) の本場、米国 (United States) で活躍してきた選手であって、そこでの実力と悪名をもって我が国に凱旋してきたばかりである。
彼の正体は一切不明であり、その肌の色から東洋人 (Oriental)、そして日本人 (Japanese) ではないかと囁かれていた。
つまり、プロレス (Professional Wrestling) と謂う競技に於いてラフ・ファイト (Rough Fight) がおもうがままの肉体 (Body) と体力 (Power) を誇り、その結果としての莫大なファイトマネー (Fight Money) を得ていた人物、それがタイガーマスク (Tiger Mask) なのである。

images
つまり、拙稿の文脈に準じてみれば、彼は、かね (Money) とちから (Power) はあるが、色男 (Don Juan) や否やは判断がつきかねる人物なのである [上掲画像はこちらから]。

だが、その悪役レスラー (Heel Wrestler) の正体は、伊達直人 (Naoto Date) なのだ。孤児院 (Orphanage) に棲む少年少女達には、気前はいいが非力で気弱な青年と看做され、その評価に彼は甘んじている。否、そうであろうと敢えて振る舞う。自身がタイガーマスク (Tiger Mask) である事は彼等にも秘匿されているのだ。
つまり、伊達直人 (Naoto Date) がタイガーマスク (Tiger Mask) である事は誰に対しても秘密であり、タイガーマスク (Tiger Mask) が伊達直人 (Naoto Date) である事もまた秘密なのである。そこに、その漫画の主人公に、2面性の存在を認める事が出来る。作品内に於いて、本人もその様な自身を自覚している [上掲画像はそこから発生した自身の苦悶を表徴した場面である]。

しかし、タイガーマスク (Tiger Mask) = 伊達直人 (Naoto Date) にあるのはその2面だけなのであろうか。
彼の正体は、別のところにあるのではないだろうか。

タイガーマスク (Tiger Mask) は悪役レスラー (Heel Wrestler) の養成所、虎の穴 (Tiger's Den) 出身である。そして虎の穴 (Tiger's Den) は育成の成果を出身レスラー (Wrestler) に要求する。つまり、彼等には自身の肉体でもって勝ち得たファイトマネー (Fight Money) の、少なからざる額の上納が必須とされているのだ。それを拒否したり、金額が不足したり、遅延したりした場合は、虎の穴 (Tiger's Den) が放った刺客による復讐が執行、すなわち彼等には死が宣告され惨殺されるのだ。だから、嫌でも出身レスラー (Wrestler) は上納せざるを得ない。
それは、タイガーマスク (Tiger Mask) も同様である。
しかし、伊達直人 (Naoto Date) でもある彼は、その為の金員をその孤児院 (Orphanage) の為に費やしてしまうのである。そこの債務を弁済する為にだ。
以降、彼は虎の穴 (Tiger's Den) からは裏切り者として常に生命が脅かされる事となり、それが結果として、正統派レスラー (Babyface) であるタイガーマスク (Tiger Mask) の生誕を促すのだ。

と、謂う点に着目すれば、華々しく活躍するタイガーマスク (Tiger Mask) でもない彼、その孤児院 (Orphanage) に顕れる非力な青年でもない彼、そんな人物がそこにいるのである。つまり、レスラー (Wrestler) としての頑強な肉体を誇りこそすれ、自己の生命をも賭した債務に追われる無一物の青年が、タイガーマスク (Tiger Mask) = 伊達直人 (Naoto Date) の正体なのだ。その孤児院 (Orphanage) での彼の自認 [色男 (Don Juan)] を追認すればその彼の実態は、ちから (Power) があるがかねのない (No Money)「色男 (Don Juan)」なのである。

この漫画の主人公は、男性に備わっているべきみっつの要素、いろ (Don Juan)、かね (Money)、ちから (Power)、のそのどれかが欠けたみっつの側面をもつ、ひとりの人物なのである。

次回は「」。

附記 1.:
漫画『タイガーマスク (Tiger Mask)』では、不慮の事故によって伊達直人 (Naoto Date) が死亡し、彼がタイガーマスク (Tiger Mask) である事実は極秘のままで、幕を閉じる。つまり、彼に内在する2面性 [拙稿で謂う3面性] が、ひとりの個人へと集約される事はない。
しかしながら、その漫画を原作とするアニメ番組『タイガーマスク (Tiger Mask)』 [19691971日本テレビ系列放映] での最終話では、伊達直人 (Naoto Date) こそがタイガーマスク (Tiger Mask) であると白日の基に明らかになる。2面性ないし3面性が、ひとりの個人に統合されて幕を閉じるのだ。

附記 2.:
成句「色男金と力はなかりけり (It's Very Rare That A Don Juan Is Also Blessed With Money And Power.)」は出典不明の川柳であり、その意味は「色男 (Don Juan) 」と看做される人物を揶揄した語句、もしくはそうではない自身を自虐した語句として解釈されている。
だが、そんな認識で良いのだろうか。
ある意味で、「色男 (Don Juan)」である事によって、「金 (Money)」も「力 (Power)」も不要で生きていける、成功していける。そんな解釈は成立しないだろうか。ぼく達の大半は「色男 (Don Juan)」でないからこそ、財力 (Money) を蓄えようと努力もするし、腕力 (Power) を鍛えようともするのだから。
成句「色男金と力はなかりけり (A Don Juan Is Also Blessed With Money And Power.)」は、表現を変えれば成句「天は二物を与えず (God Doesn't Give With Both Hands.)」となる。そして、それと同様の趣旨を持ちながらも異なる視点からそれを見据えたモノに、成句「一芸に秀でる (To Excel In One Thing)」がある。
と謂う事はつまり、裏を返せば、「色男 (Don Juan)」も「一芸 (One Thing)」、そのひとつなのだ。
だから、それを駆使して生き延びるのが当然であるし、「色男 (Don Juan)」であるのにも関わらずにそれに便乗しないのは単に「宝の持ち腐れ (That Is A Useless Treasure.)」と謂う事になるのではないか。

附記 3. :
と、「色男 (Don Juan)」でもない上に、「金 (Money)」も「力 (Power)」もないぼくが、主張してもなんの説得力もないのではあるが。
本来らばここは、「色男 (Don Juan)」自らが力説すべき箇所である。
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