2009.03.22.15.51
"The New Age Steppers" by THE NEW AGE STEPPERS

エイドリアン・シャーウッド(Adrian Sherwood)という非常に灰汁の強い プロデューサー(Record Producer)に出逢った、作品である。しかしながら、本作品が発表された当時は、彼よりも、彼の掌の上で、自由奔放に飛翔してみせたミュージシャン達の行動の方に、眼を輝かせていたのだった。
つまり、スリッツ(The Slits)とザ・ポップ・グループ(The Pop Group)である。


スリッツ(The Slits)とザ・ポップ・グループ(The Pop Group)がつるんで何か面白い事を始めて出した、という情報は1980年当時、音楽雑誌か何かで観た。
それが具体的な形となって、僕の前に最初に現れたのは、彼らのカップリング・7インチ・シングル(7 Inch Single Records)だった。
両A面扱いのそのシングルでは、片面にスリッツ(The Slits)の「In The Beginning There Was Rhythm」もう片面にザ・ポップ・グループ(The Pop Group)の「Where There's A Will...」が収められている。
ふたつの曲目に共通しているのは、リズムもしくはビートが持つ、始原的なエネルギーの追求と、盲信とでも呼ぶべきプリミティヴなビートへの信仰告白である。つまり、非常にポジティブなのだ。
ヨハネ福音書(Evangelium Secundum Iohannemm)の最初の言葉を捩った「最初にリズムありき」と唄う彼女達と、「意志あるところに道は開ける(有志者事竟成 / Where There's A Will, There's A Way)」と問う彼らとが、背中合わせに一枚の7インチ・シングル(7 Inch Single Records)に収められている[上に掲載した左側が「In The Beginning There Was Rhythm」サイドのジャケット、右側が「Where There's A Will...」サイドのジャケットである]。その形態は、当時の僕にとって、非常にぞくぞくわくわくイカしている[ナイスン・スリージー(Nice 'N' Sleazy)な]状況に想えたのだ。
これを可能としたのが、当時のインデペンデントな音楽シーンであり、わけても、彼らの作品発表の場を与えたラフ・トレード(Rough Trade Records)というインディーズ・レーベル(Independent Record Label)の存在である。と、いうのは、このふたつのバンド共に、他レーベルでの作品発表を経た後に、本レーベルを活動の拠り処としたからである。
これまでにも新しい創作活動や新しい行動様式が産まれる度に、その発表の場として、もしくは、活動拠点として機能する"場"が誕生してきた。
例えばキャバレー・ヴォルテール(Cabaret Voltaire)やファクトリー(Factory)の様に...。
それらとラフ・トレード(Rough Trade Records)の果たした役割は、同じか否か、一度、誰かに検証してもらいたいのだが...。
というのは、コラボ(Collaboration)というネーミングの、クリエイターの自由な活動に基づいて行われ[ている様に観え]る作品群が、僕から観れば、とてつもなく息苦しい産物にしか想えないからだ。
だから、音楽が、その媒体の変化に呼応して、作品から情報へと変化しつつある過程にある現在、今一度、1980年代(1980's)に英国を中心に興きたインディペンデントな動きを見直す必要もあるのではないのか?
と、大風呂敷を拡げすぎて何を語りたいのか分らなくなったので、話を元に戻します(苦笑)。
本作品は、そんなふたつのグループに所属するミュージシャンと、彼らの個々の動きに応じて集合してきたミュージシャン達の、プリミティヴな動きの成果のひとつである。
ロンドン・ミュージシャンズ・コレクティヴ(London Musicians Collective : LMC)の中枢となるスティーヴ・ベレスフォード(Steve Beresford)もいれば、ブリティッシュ・レゲエ(British Reggae)の牽引力となったアスワド(Aswad)の元メンバーのジョージ・オバーン(George Oban)もいれば、同じラフ・トレード(Rough Trade Records)所属のバンド、ザ・レインコーツ(The Raincoats)のヴィッキー・アスピノール(Vicky Aspinall)もいる。ザ・ポップ・グループ(The Pop Group)のブルース・スミス(Bruce Smith)はここに参加したショーン・オリヴァー(Sean Oliver)と後に、リップ・リグ・アンド・パニック(Rip, Rig And Panic)を結成し、ネナ・チェリー(Neneh Cherry)を世に知らしめる事となる。
これまでの個々の活動を強力な地場で引き込み、現在の状況を呈示し、さらには未来をも予兆させる"動き"なのである。
そして、それをひとつのニュー・エイジ・ステッパーズ(The New Age Steppers)という称号に統合したのが、エイドリアン・シャーウッド(Adrian Sherwood)というプロデューサー(Record Producer)なのである。
敢て言えば、ジャマイカ(Jamaica)の音楽シーンの独特な音楽生産方法のひとつであったダブ(Dub)という手法を換骨奪胎して、全く、新しい創造手段に創り変えてしまった人物、それが彼。
エイドリアン・シャーウッド(Adrian Sherwood)なのである。
重い音圧。鋭利な輝き。窒息しそうな程の高密度。にも関わらずに、ヴォーカルは中空に解き放たれたかの如く、自由闊達に振る舞う。
実作業上、彼がどこまで楽曲の創造に関わっているのかは、分らない。
彼が主宰するレーベルであるオン・ユー・サウンド(ON-U Sound Recording)の中心となるバンド、タック・ヘッド(Tackhead)では、一切の楽器を演奏しないのにも関わらずに、ダグ・ウインビッシュ(Doug Wimbish)[ベース(Bass)]、キース・レブラン(Keith Leblanc)[パーカッション(Percussion)]、スキップ・マクドナルド(Skip McDonald aka Little Axe)[ギター (Guitar)]と対等な存在としてエイドリアン・シャーウッド(Adrian Sherwood)ミクソロジスト(Mixologist)とクレジットされている。
この作品では彼はプロデューサー(Record Producer)とミキシング(Mixing)[そしていくつかの楽曲提供]としての位置づけしかなされてはいないけれども、作品への関わり方は、この時から既に、変わらない筈である。
特にマーク・スチュワート(Mark Stewart)がヴォーカルを担当する「Crazy Dreams and High Ideals」では、その後の彼のソロ・ワークでの、エイドリアン・シャーウッド(Adrian Sherwood)との強力なタッグをそのまま予見させているのである。
ものづくし(click in the world!)78.:
"The New Age Steppers" by THE NEW AGE STEPPERS

"The New Age Steppers
1. Fade Away J.Byles (5.30)
2. Radial Drill A.V. Scott / A. Sherwood (4.30)
3. State Assembly A.V. Scott / A. Sherwood (6.19)
4. Crazy Dreams and High Ideals M.Stewart (5.48)
5. Abderhamane's Demise A.V. Scott / A. Sherwood (3.48)
6. Animal Space Albertine, Forster, Pollitt (5.49)
7. Love Forever J.L. Vincent (7.22)
8. Private Armies V.Goldman (4.55)
(P)1981 Statik Records
THE NEW AGE STEPPERS
DRUMS Bruce Smith, "Style" Scott, Cecil, "Shoes", Dan
BASS George Oban, Steve Beresford
Guitar John Waddington, Viv Albertine, "Crucial" Tony
PIANO Steve Beresford, Sean
VOCALS Ari, Viv, Mark
PERCUSSION EFFECTS "Nobby" Turner, Steve Beresford, Bruce Smith
SYNTHESIZER Bruce Smith
VIOLIN Vikki
Produced & Mixed by Adrian Sherwood / New Age Steppers
A 1980's ON-U Sound Recording.
Recorded at Berry Street Studios, London.
Engineer : "Nobby", Bob
Cover by Bill Bell
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