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2021.07.20.08.56

そり

母は悩んでいた。おかねがでていくばかり。
一生に一度しかないかもしれないのに。なんとかならないだろうか。

息子達2人の夏休み (Summer Vacation) を目前としてそうぼやいていた。長男、それがぼくのことだ、はもう4年生 (Fourth Grade In Elementary School)。これから毎年おおきなおかねが必要となってくる。どうしたものか。
でてくるのは溜息ばかりで、妙案は絶対にそこから産まれてくる事はない。わかっている。否、わかっているからこそぼやいているのだ。

ぼくが当時、通っていた小学校 (Elementary School) は、4年生 (Fourth Grade In Elementary School) の夏休み (Summer Vacation)、1泊2日で学校内に合宿する事になっている。そこで課外授業が組まれるのだ。翌年夏に予定されている、5年生 (Fifth Grade In Elementary School) による2泊3日のキャンプ合宿 (Summer Camp For Kids) の予行演習でもある。ちなみに、例年秋に行われる遠足 (Field Trip) では飯盒炊爨 (Outdoor Cooking With Mess Kit) を行う事になっており、その日の行程は学年縦割りのグループでの行動となっている。リーダーシップを発揮すべく、学年に相応しい行動と思考が、否応もなく求められてくるのだ。その為の1泊2日、そして2泊3日なのである。
そして、その翌年、6年生 (Sixth Grade In Elementary School) ともなれば、1泊2日の修学旅行 (School Trip) が待っているのだ。それら計5日間へのご褒美と謂っても良い。

当事者であるぼく達の視点からみれば、これから毎年、愉しみの行事が待っているのだが、親の視点には決してそうとは映らない。それらには総べて、おおきな出費が控えており、その為の資金繰りで彼等を悩ますばかりなのである。
勿論、いくつかの用具や支度は、日常使いこなしているモノで事足りるであろうし、新たに買ったとしても後々にそれが必要となる時が来るであろう。
だけれども、そうではない、何か。その日の為、その時の為に必須であり、しかもそれがたったの1度しかないモノだったら、どうしたら良いのだろうか。勿論、そんな時季、そんな事件、そんな行事があっても構わない、結婚式 (Wedding) なぞ、最たるモノだ。だけれども、そんなモノが小学生 (Elementary School Students) 時代に何度も何度も訪れてくれてはたまったモノではないのだ。
また、モノによっては親戚や知り合い、もしくはご近所から借り受けられるモノがない事もない。だが、借りたは借りたで、今度はお返しと謂うモノが必須となる。決して、ただではすまない。どっちに転んでもおかねは必要でそれはでていくだけなのである。

よその地域ではどうなのか知らない。そして、年号もかわった現在でもおなじスケジュールなのかも、知らない。
だとしても、少なくとも、ぼく達の世代でぼくが産まれ育った地域では、似た様なプログラムが組まれていたと思う。

そして、他所の地方にはない、ぼく達の地域ならではの行事が、4年生 (Fourth Grade In Elementary School) の冬に組まれていた。
冒頭で母が悩んでいたのは、その事なのである。
何故ならば、その行事の為に、子供用の橇 (Sled) を手配しなければならないのだから。

ぼくが産まれ育った地域は極端に、降雪 (Snowfall) も積雪 (Snowcover) も少ない。前者に関しては1年に数回あるかないか、またあったとしても、どんなに [冬将軍 (Russian Winter) が] 頑張ったとしても、小雪 (Light Snowfall) 程度のモノでしかない。後者に至っては、おそらく10年に1度あるかないか、だろう。その土地に産まれてから大学進学の為に上京するまでの約20年間、2回しか積もった雪 (Snow) をみた事がないのだ。しかもその積雪 (Snowfall) は、降った翌日の午前中で綺麗さっぱり溶けてなくなってしまう、そんな程度のモノなのである。

一例を挙げれば、こんな事があった。
おなじ市内といっても、ぼく達が暮らしていた市街地と山間部では天候がまるで違う。なにせそこは日本アルプス (Japanese Alps) の南端なのだ。雪 (Snow) が降れば、それはそのまま降り積もる。そこからきた転校生 (Transfer Student) がある寒い日に、雪だ雪だ (It's Snow! How Snowing!) と校庭を駆け回っている級友達をみて、呆れ返っていた。彼曰く、あれは風花 (Snow Flurry) だ、雪 (Snow) なんかじゃない。幼稚園児 (Kindergartener) ですらは歯牙にもかけない様な代物にはしゃぐおまえ達は馬鹿か、と。
つまり、それ程に、ぼく達のその地は雪 (Snow) とは無縁の場所なのである。

images
"Eskimo Children Playing – Cape Dorset" 1968 by William Kurelek

そんな気候条件を考慮してか、4年生 (Fourth Grade In Elementary School) には、雪見遠足 (Field Trip For Snow‐scene Viewing) と謂う行事が控えているのである。学年一同で、富士山5合目 (The Fifth Station On Mount Fuji) まで幾台かのバスに分乗し、そこで半日、雪遊び (Playing In The Snow) をするのだ。
その為の必須の用具と謂うのが、母を悩ませていた子供用の橇 (Sled) なのである。

雪国 (Snow Country) ならば、例年、自身の子供達が遊具とするからその為にはあっても良い。でも、よく考えれば、そんな地域ならば、わざわざ、学年で富士山5合目 (The Fifth Station On Mount Fuji) まで出かける事もない。大概の家は、旧くからある手製の木製橇 (Sled Made By Woods) がある。うちにはそんなものがない。買ったとしても、使うのはきっとこの1回だけだ。いや、みっつしたの弟もつかうか。だとしても、2回だけだ。兄や妹達の子供ならば、おふるとして使ってくれるだろうか。でも、まだまだ随分さきだ。長兄には長男がいて、次女には長女がいる。この2人が最速だが、都合の悪い事に、弟とおなじ学校のおなじ学年だ。行く日はおなじだから、その2人も別に手配する事になる。と、なると彼の次男と彼女の次女にはそれぞれのおふるがあてがわれるのだろう。結局、2日、2回つかっただけで用無しとなる。その為にわざわざ高いかね払うモノかねぇ。だれか貸してくれないかしら。第一に、クラスのみんなが使い回しやおふるで、うちだけ新品の未使用品だとしたら、それだけで外聞も悪いわよね。あのうちは、雪遊び (Playing In The Snow) もした事がないのか、って一眼でわかるぢゃない。貧乏なのは仕方ないけど、それが子供達にも知れてしまうのは嫌なモノよねぇ。格好のいじめネタぢゃん。でも、行ってやるのは雪遊び (Playing In The Snow) なんでしょう。橇 (Sled) がなくったっていいじゃん。いっその事、買わなくても良い、どっかから借りてこなくたったいいぢゃん。でもなぁ、うちの子だけてぶらだったら、それこそなに謂われるのかわかったものぢゃない。それこそ、いじめられるだろうし、うちが貧乏なのを実証している様なものなのだ。ああ、めんどくさい。しかもそれだけではない。用意するのは橇 (Sled) だけぢゃあない。一体、なにをその日、着せればいいんだろう。雪山 (Snowy Mountain) にいく服装なんかうちにはありゃしないのに。

以上の様な、思考が彼女の脳内であったと思う。
そして、その行事が終わってからずっと、兄弟2人の自転車 (Bycycle) が並んだ倉庫の片隅に、青いビニール製の橇 (Sled) が居心地も悪そうにずっと潜んでいるのであった。
ぼくがその橇 (Sled) を掌にしたのは、その日1日だけだった事は謂うまでもない。

次回は「」。

附記 1.:
雪見遠足 (Field Trip For Snow‐scene Viewing) 当日の事は一切、しらばっくれているつもりだったが、やはりそうもいかないだろう。
雪見遠足 (Field Trip For Snow‐scene Viewing) と謂う文字面から上掲画像の様な、長閑な、そして、牧歌的な光景を連想するかもしれないが、実際はすこし違う。
積雪 (Snowcover) をみた場所ならば、それ固有の遊び方・過ごし方があるだろうが、ぼく達は橇滑り (Sledding) の1点張りだった。雪達磨 (Snowman) もつくらなければ、雪合戦 (Snowball Fight) もしない。ひとつには、当日の雪質がアイスバーン (Eisbahn) であり、非常に硬かったと謂う点が挙げられる [橇 (Sled) が必須用具とされた理由もそこにある]。そして、それよりも重要な要素として、殆どの生徒が橇 (Sled) と謂うモノを掌にした初めての体験だったと謂う事だろう [それだけウィンター・スポーツ (Winter Sports) とは隔絶した環境だと思ってくれれば良い]。
だから、時間の許す限り滑る。そして、滑る為に斜面を登る。その繰り返しだ。そしていつの間にか、主従の判断がつかなくなってくる。滑る為に登るのか。登る為に滑るのか。いまのぼくならば、それをまさに意識がホワイト・アウト (Whiteout) してしまったと謂う、と小馬鹿にしてしまう様な光景が、そこにあったのである。

附記 2. :
行事が終わって出された最初の課題が、当日の写生、水彩画 (Watercolour Paint) の作成である。図画工作 (Arts And Crafts) の授業である。
誰もが、しろい画用紙を何故、雪を表現する為に、わざわざしろくぬらなければならないのだろう、となやんだ。
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