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2021.07.13.08.06

うそ

はじめて聴いた時は怖かった。そんな記憶が、中条きよし (Kiyoshi Nakajo) の歌う楽曲『うそ (Lie)』 [作詞:山口洋子 (Yoko Yamaguchi) 作曲:平尾昌晃 (Masaaki HIrao) 1974発表]にはある。

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"Woman Lying On Bed Next To Nightstand With Telephone, Lamp, And Ashtray" 1986 by David Seidner

折れた煙草の 吸いがらで / あなたの嘘が わかるのよ (By Your Cigarette Butts Twisted / You Tell A Lie I Know)」
これがその楽曲のうたいだしである。

烟草 (Tobacco) と縁があるのは、両親等からおつかいにだされる時ぐらいであって、階段をかけ降りて [当時のぼくの自宅は市営団地 (Municipal Dwelling House) の3Fだ] その隣の隣にある商店街の一角にある自動販売機 (Cigarette Machine) へと向かう。その往復のあいだだけのつきあいである。
勿論、両親も含め、当時のぼくの周囲に暮らす大人達は誰もそれを嗜んでいた。においもけむりもお馴染みのモノだし、その結果として生成される吸い殻 (Butts) もみるともなくみて暮らしている。
そんなモノを一瞥しただけで、その歌の主人公は、自身がその時に対峙している人物、「あなた (You)」の虚言を看破ってしまうのだ。

と、半ば強引な論理展開をもって、ぼくの心情を説明する事が出来ない訳ではない。
だが、それとはすこし違う事情、思考の蠢きが働いている様に思える。

嘘吐きは泥棒の始まり (Telling A Lie Is Taking The First Step To Being A Thief) [こちらも参照の事]
嘘ついたら針千本呑ます (On your Telling A Lie, Drink A Thousand Needle I Make You.)

嘘 (Lie) に関する言説、と謂うよりも、その行使を抑止する言説は、ぼくの幼い頃から、まことしやかに語られてきた。
例えば、誰もが知るところにあるのが『イソップ寓話 (Aesop's Fables)』の説話『狼少年 (The Boy Who Cried Wolf)』であって、その寓話 (Fable) を補完する様な素振りをみせていながらも、その実は反証の様な存在である"嘘から出た誠 (Many A True Word Is Spoken In Jest.)" と謂う成句もある [こちらも参照の事]。

映画『続・夕陽のガンマン (Il buono, il brutto, il cattivo)』 [セルジオ・レオーネ (Sergio Leone) 監督作品 1966年制作] の主人公のひとり、テュコ (Tuco ) [演:イーライ・ウォラック (Eli Wallach)] が放つ、名口調のひとつに次の様なモノがある。
この世には2種類の人間がいる。弾を込めた銃を持ってる奴と、自分の墓を掘る奴だ。 (There Are Two Kinds Of Spurs, My Friend. Those That Come In By The Door; Those That Come In By The Window. )」

そこでの論調をそのままここで剽窃すれば、"この世には2種類の人間がいる。嘘で騙そうとする奴と、その嘘を告げられる奴だ。 (There Are Two Kinds Of Spurs, My Honey. Those That Is Able To Deceive​, Those That Is Told His Lies.)"と謂う事が出来るだろう。
それを前提に考えてみれば、その楽曲の歌い出しは、ふたつある層の一方を攻撃している様に読む事が出来る。
彼等に対して、総てはお見通しである、そう断罪しているのである。

と、考えると、その楽曲の歌い出しは、遺ったもう他方の層の側にたっているのだろうか。彼等を擁護もしくは代弁しての発言である、そう解釈出来るのだろうか。
こちらはそう単純な話にはならないだろう。
その層に属する一部の人物達は、溜飲をさげる事はできるのかもしれない。
「あたしにだって、それくらいはわかるのよ (I Can Understand To That Extend.)」「しらぬのは本人ばかりさ、おかわいそうに (She Is The Last To Know. How Poor She Is. )」

[そして、"嘘で騙そうとする奴 (Those That Is Able To Deceive)"の方がそんな解釈をしてしまうと、この歌をおのれの行為とその対象をそのまま歌にしたモノの様に思えてしまうのだ。]

だけれども、"その嘘を告げられる奴 (hose That Is Told His Lies.)"の誰もが溜飲をさげるとは限らない。例えば、この歌を聴く事によって初めて、「あなたのうそ (Your Lie)」が自身にもむけられていると理解させられる場合もあるのに違いないのだ。そして、そんなモノに対しては、この歌はどの様な歌と響いているのであろうか。

聴き方によっては、そんな事も出来ないのか、そんな単純な「嘘 (Lie)」も見抜けないのか、と断罪している様に聴かれる事さえもあり得るのだ。

だが、安心して良い。
この楽曲の怖ろしさはここまでなのである。

この部分で語られてあるのは、喩えて謂えば、名探偵 (The Detective) が物的証拠 (Evidence) を真犯人 (The Criminal) に突き出した様な状況である。
この「折れた煙草の吸いがら (Your Cigarette Butts Twisted)」をみたまえ、と。
そして、なによりも怖ろしいのは、物的証拠たる (Evidence) 「折れた煙草の吸いがら (Your Cigarette Butts Twisted)」が何を物語っているのか、名探偵 (The Detective) からは一言も告げられていない、と謂う事なのである。
彼は「嘘 (Lie)」と謂う。その「嘘 (Lie)」とは一体、何なのか。
真犯人 (The Criminal) は、この後に及んでどう言い逃れようか、と考える一方で、きっと彼の推理はどこかで破綻するのに違いないとか、ありとあらゆる事態を想定し始めているのに違いないのだ。
推理小説 (Detective Story)、しかも、倒叙型 (Inverted Detective Mystery) のそれならば、そこで語られている物語にようやくクライマックス (Climax) が訪れたところなのである。読者や観客ならばそこでの展開から決して眼を逸らす事の出来ない箇所であり、当事者たる名探偵 (The Detective) にも真犯人 (The Criminal) にも、一時も息を抜けない箇所なのである。

そんな緊張がそこ、その楽曲の歌い出しにあるのだ。
この緊張がそのままこの楽曲全体を支配していれば、とぼくはおもうのだが、残念ながらそんな志向はこの楽曲にはない。

歌い出しの後に続くのは、具体的な「嘘 (Lie)」の詳細であり、そしてその「嘘 (Lie)」に翻弄されている主人公の述懐なのである。

でも、だからこそ、この楽曲はヒットし、その後、歌い継がれる様になったのではあろう。
たちどころにみやぶれる「嘘 (Lie)」をつく「あなた (You)」と、それになかされる主人公、そんな虚構に身を委ねる事が出来るのである。つまり、どこかで絵空事、自分自身とは縁も縁もない物語として突き放す事が、ここに於いて許されているのである。

それをもってすれば、"この世には2種類の人間がいる。嘘で騙そうとする奴と、その嘘を告げられる奴だ。 (There Are Two Kinds Of Spurs, My Honey. Those That Is Able To Deceive​, Those That Is Told His Lies.)"と謂う言説はここで訂正する必要もあるのかもしれない。
少なくとも"嘘で騙そうとする奴 (Those That Is Able To Deceive)"と"その嘘を告げられる奴 (hose That Is Told His Lies.)"と、単純に2分してそれでよしとはならない筈なのである。

そこに「嘘 (Lie)」はある。
至るところにその証拠はある。
それを見据え、声高に主張する事も出来るだろう。
逆に、みてみぬふりをしてしまう事も不可能ではない。
と、同時に。
騙していると思うのは勝手だ。だが、既にその「嘘 (Lie)」はみやぶられてはいないか。そして、その「嘘 (Lie)」を前提とした関係があり、それがこれからさきもずっとつづくのではないか。
勿論、そんな妥協、妥協と呼んでしまえばだが、それができない。換言すれば、そんなおとなになりきれない、おろかものがいないではない。そして、そんなものたちの存在をわすれてしまってはいけないのだ。

この楽曲の告げている主旨はおそらく、うえのようなものへと還元出来るだろう。

一言をもってすれば、狐と狸のばかしあい (hey Are Trying To Out Fox Each Other.) ができない、おさないもの達へむけられた挽歌 (Elegy) なのである。
否、子守唄 (Lullaby) であろう。

次回は「」。

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