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2021.04.13.08.05

くるーしぶるおゔほらー

映画『呪われた血族 (The Corpse)』 [ヴィクトール・ライテリス (Viktors Ritelis) 監督作品 1971年制作] は、北米地域での公開に際して、その題名を『クルーシブル・オヴ・ホラー (Crucible Of Horror)』と変更された。恐怖の坩堝と謂う意味である。
これから綴るのは、その映画の紹介とそれを観たぼくの感想である。そして、どうしても物語の根幹、すなわちネタバレと非難されてしまわざるを得ない部分に触れざるを得ない。
その点は事前にご了承を願うモノである。

その屋敷に4人家族が棲んでいる。父ウォルター・イーストウッド (Walter Eastwood) [演:マイケル・ガフ (Michael Gough)] と母イディス・イーストウッド (Edith Eastwood) [演:イヴォンヌ・ミッチェル (Yvonne Mitchell)] と長男ルパート・イーストウッド (Rupert Eastwood) [演:サイモン・ガフ (Simon Gough)]、そして長女ジェーン・イーストウッド (Jane Eastwood) [演:シャロン・ガーニー (Sharon Gurney)] である。
物語は、その父親と長女の対立から語り始められる。厳格な中年男性と現代風の少女との齟齬である。

作品制作当時は、世代間の対立とでも眺められていたかもしれない。
だとしても、父親の言動はあまりに度を越している。そうでなくとも、時間厳守に厳密である上に、事ある毎に登場する彼の手洗 (Handwashing) の描写をみれば、極端な潔癖症 (Mysophobia) と看做す事が出来そうだ。
現在の視点から観れば、そんな彼のふるまいは明らかに家庭内暴力 (Domestic Violence) のそれである。尤もそこに暴力 (Violence) と謂う語句が顕れているが、彼の行為の殆どは精神的なそれである。直接的な肉体への攻撃がない訳ではないが、それ以上に内心への攻撃の方が強く、しかも効力を発揮している様に思える。敢えて謂えば、カルト集団 (Cult) のそれ、すなわち洗脳 (Brainwashing) に近いのかもしれない。

母親はそれを眺めている事しか出来ない。自身の夫に対しては無力なのだ。だからと謂って諦念の域にも達する事も出来ていない。彼女が出来る事と謂えば、虐げられた長女に対し、いたわりのことばを囁くだけだ。

長男は無風である。それは既に職に就いているからかもしれない。さもなければ、同性であるが故なのだろうか、彼と父親には一種の共同体の様な暗黙な了解がある様に思える。彼が抜け目なく行動しているともとれるし、彼に対しては父親が手心を加えているともみてとれる。恐らく今後このままでいけば、彼は自身の父親の様なふるまいを、自身の妻や子供達に行うのであろう。そんな気さえしてくる。

そんな家庭の光景が一変するのは、母親が長女に「殺しましょう (Let' Kill HIm)」と呟いた事から始まる。横暴な夫 = 父親の言動に、その支配に従順であらねばならない女性2人が決意し、その行動を起こすのである。
世代間対立もしくは家庭内暴力 (Domestic Violence) の物語が、夫 = 父親殺害と謂う復讐譚 (Revenge Tragedy) へと転じていくのだ。

だからと謂って、彼等の行動をみているぼく達は決して居心地がよいモノではない。
何故ならば、母娘ふたりの行動はあまりに稚拙で失敗ばかりを犯してしまっているからだ。彼女達の念頭にあるのは、事故死 (Misadventure) もしくは自殺 (Suicide) を装った完全犯罪 (Perfect Crime) なのであろうが、結果として達成される事物は、遥かにそれとはかけ離れたモノなのである。
否、夫 = 父親は確かに死んだ。しかし、それと同時に、警察 (Metropolitan Police Service) の捜査によって簡単に犯罪者2名は馬脚を顕してしまうだろう。そうとしか思えない様な、拙策に彼等は惑溺しているのである。
そんな光景を彼女達の行動から看取ってしまうと、犯罪者として追求される被害者2人、家庭内暴力 (Domestic Violence) によって追い詰められた母娘の物語へと転じてしまうかの様に思えるのだ。そして、その向きを期待しているのが、ぼくなのである。

しかし、物語は決してそんな結果へと収斂しない。
ここで一転してしまうのである。

images
現実的にはあり得ない事、不合理 (Irrationality) 極まりない事が起きるのだ。しかも、それは物語の中にいる母娘にとってだけではない。この物語を観ているぼく達にとっても、不条理 (Absurdity) で不可解 (Incomprehensible)、非現実的 (Unrealistic) な事態ばかりが出来し始めるのである [上掲画像はこちらから]。
勿論、そんな不合理 (Irrationality) を演出するかもしれない人物 [達] の存在は示唆されている。例えば、2人の犯罪の舞台となる彼ら家族の別荘近隣の住民であるリード (Reid )[演:オラフ・プーリー (Olaf Pooley)] だ。少なくともぼく達はそれを疑う事は出来る [不可解不可解 (Incomprehensible) の渦中にある彼女達はその不可解 (Incomprehensible) に翻弄されるばかりで決してその様な事は及びもつかない]。しかし、それを裏付けるモノが一切、ぼく達には提供されていないのだ。しかもそれ以上に、その人物 [達] の言動や表情には、その為の策略が潜んでいる様には思えない描写ばかりが続いているのだ。

その結果、母娘は自宅に於いて、恐怖の1夜を迎える事になる。
だが。

場面は一変する。
いつもと変わらぬ4人家族の朝の描写だ。殺害された筈の父親も、昨日となんらかわりない風情で登場する。

一瞬、あれは夢だったのだろうか、ともこころをよぎる。
だが、その家族の外部のモノの行動、すなわち、長女にセセクシャル・ハラスメント (Sexual Harassment) 紛いに自身の懸想を打ち明ける青年ベンジー・スミス (Benjy Smith) [演:ニコラス・ジョーンズ (Nicholas Jones)] の行動が描写されてある結果、そんな想いは打ち消される。父親殺害の1日を夢として看做してみれば、彼の行動のその殆どはその夢の中の出来事になるのである。 しかしながら、翌朝の彼の行動は、その夢の中での彼の行動をそのまま継承している様にみえるのだ。

但し、それまでの物語を引き受けてのそこでの描写に対しては、いくらでも解釈の可能性が示唆されてある様に思える。
極めて曖昧なまま、なんらの解決も呈示される事もなく、この物語はその発端へと回帰しそれを永遠に反復していくだけの様な気配がある。

そして、うすくらがりにさしこむあおざめたひかりのなかにうかびあがる母親、その表情で物語は終わる。

観ているぼくはぞっとする。
物語の主人公は、厳格な父親でもなければ、それに抗う娘でもない。母親なのだ。
そして、もしかすると映画の原題「屍体 (The Corpse) 」とは、と。

次回は「」。

附記 1. :
この家族4人が棲む屋敷の、この物語に於ける役割と謂うモノが、ぼくのなかには課題として遺っている。恐らく、屋敷が与えられた役割は、父親の出自や社会的地位を説明するモノであろう。つまり、保守的な教育のなかで産まれ育てられ、それに対してなんの疑義を感ずる事もなくここに至った、とでも謂う様な。
だけれども、ぼくは恐怖譚 (Fear Story) や怪異譚 (Horror Story) のいくつかに、住居それ自体が恐怖を産み出す主体である物語が幾つもある事を知っている。
この映画もまた、その様な種に属するモノではないだろうかと不図、考えたりしているのだ。

附記 2. :
ぼくがこの映画を体験したのは、まったくの偶然である。当初は映画『殺しのマスク (Crucible Of Terror)』 [テッド・フッカー (Ted Hooker) 監督作品 1971年制作] を観るつもりだったのだ。原題名が似ていたが為に、誤検索とぼく自身の誤解の結果、この映画を鑑賞する事となったのである。
ちなみに、この映画と邦題が同名異作品に小説『呪われた血族 (Dark Debts』 [作:カレン・ホール (Karen Hall) 1996年刊行] がある。

附記 3. :
オムニバス映画『クリープショー (Creepshow)』 [ジョージ・A・ロメロ (George A. Romero) 監督作品 脚本:スティーヴン・キング (Stephen King) 1982年制作] の第1話 (Episode One) として短編映画『父の日 (Father's Day)』がある。厳格な父親を殺害した1族が、復活した父親の報復に遭遇する物語である。映画『呪われた血族 (The Corpse)』の、ありえたかもしれないもうひとつの結末として、短編映画『父の日 (Father's Day)』を看做す事も出来るのかもしれない。
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