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2021.03.30.09.02

ながぐつ

長靴 (Boots) という熟語には読み方がふたとおりある。
ひとつは訓読み (The Japanese Reading Of A Chinese Character) して"ながぐつ (Nagagutsu : Boots)"。ひとつは音読み (The Chinese Reading Of A character) して"ちょうか (Choka : Boots)"。
そして、どうやらその熟語を湯桶読み (Mixed Kun-on Kanji Reading) したり、重箱読み (Mixed Kun-on Kanji Reading) はしない様だ。

長靴 (Boots) を"ながぐつ (Nagagutsu : Boots)"と読んでしまうと、それは雨具 (Rainwear) としての履き物 (Footwear) の様な印象を抱くし、その結果、その素材はゴム (Natural Rubber) 乃至ビニール (Vinyl) である様な気がする。

長靴 (Boots) を"ちょうか (Choka : Boots)"と読んでしまうと、それは軍装 (For Military) の為の履き物(Footwear) の様な印象を抱くし、その結果、その素材は皮革 (Leather) である様な気がする。

おなじ熟語の、その読み方を変えただけで遥かに遠い存在であるかの様に思える。だが、長靴 (Boots) と呼べるモノもしくは長靴 (Boots) と看做せるモノは、その2系統しかないかと自問すれば、決して、そんな事はない。
ぢゃあ、そのふたつの間隙にある様なそれをなんと呼ぶべきなんだろうか。

と、居住まいを正して熟考する程のモノではない。その答えは既に文中に何度も登場している。
そう、ブーツ (Boots) である。

しかも、"ながぐつ (Nagagutsu : Boots)"も"ちょうか (Choka : Boots)"も、ブーツ (Boots) と呼ばれるべきモノである筈である。
と、謂う事はすなわち、ブーツ (Boots) とは、"ながぐつ (Nagagutsu : Boots)"や"ちょうか (Choka : Boots)"を含み呑んだそれらの上位概念 (Hypernymy) と看做すべきであろうか。

と、ここまで頭を悩ました後に、ぼくの採った行動は、書架の奥まった場所に埋もれているムック (Mook) 『男の定番事典 [服飾品] (Standard Number)』 [1987年 編集:婦人画報社書籍編集部] を引っ張り出してみる事だった。確か、そこには数種類かの履き物 (Footwear) も分類されて、紹介されてある筈なのである。

そのムック (Mook) は、ひとつの服飾品 (Accessories) 等に対し、見開き2頁を提供し、その服飾品 (Accessories) の定番中たる定番に値する商品とその製造メーカーを紹介してある。
そして、ブーツ (Boots) と謂う項目には、2品目4頁が割かれてある。
すなわち、チャーチ (Church's)チャッカ・ブーツ (Chukka Boots) とJ.M. ウエストン (J.M. Weston) のサイドゴアブーツ (Side Gore Boots) である。

その2品目は確かにブーツ (Boots) を自称しているのだが、それを以ってそのまま、"ながぐつ (Nagagutsu : Boots)"と"ちょうか (Choka : Boots)"の上位概念たるブーツ (Boots) と認めるのには、いささか抵抗がある。
敢えて謂えば、上位概念 (Hypernymy) たるブーツ (Boots) のさらに上にある上位概念 (Hypernymy) によって統合されてしかるべきモノ、さもなければ、全く異なる系統に連なる存在であるかの様な相貌を、チャーチ (Church's)チャッカ・ブーツ (Chukka Boots) とJ.M. ウエストン (J.M. Weston) のサイドゴアブーツ (Side Gore Boots) とはしているのである。

しかも、そのムック (Mook) で紹介されてあるブーツ (Boots) はそれだけではないのだ。2品目4頁とは別の品目として、デザート・ブーツ (Desert Boots) が2品目4頁 [掲載されてある商品はクラークス (Clarks) のモノとワラビー (Wallabee) のモノ]、ワーク・ブーツ (Work Boots) が1品目2頁 [掲載されてある商品はレッドウィング (Red Wing Shoes) のモノ] と謂う分類で掲載されている。そのどれもが、チャーチ (Church's)チャッカ・ブーツ (Chukka Boots) とJ.M. ウエストン (J.M. Weston) のサイドゴアブーツ (Side Gore Boots) とであるブーツ (Boots) の亜種ないしは改良型と謂う佇まいをしている。実際に、クラークス (Clarks) のデザート・ブーツ (Desert Boots) はチャーチ (Church's)チャッカ・ブーツ (Chukka Boots) を発展させたモノである。

徒らにここに綴られた文章だけを読んでみても、殆どの読者は、ぼくがなにを問題視しているのか、不明瞭なままであろう。
だから、単純至極に、ここにぼくを困惑させているところを指摘してみようと思う。

つまり、これまでに挙げて来た、そのムック (Mook) に掲載されてあるブーツ (Boots) はどれも、丈が短く、どこをどう転んでも"ながぐつ (Nagagutsu : Boots)"とも"ちょうか (Choka : Boots)"とも呼べない様な代物なのである。
だから、"ながぐつ (Nagagutsu : Boots)"や"ちょうか (Choka : Boots)"の上位概念 (Hypernymy) としてのブーツ (Boots) 、と謂う系統を押し立てるには、それらふたつの長靴 (Boots)とは異なる、"丈の短い長靴 (Short Length Boots)"と謂う二律背反 (Anitomy) する概念が登場しなければならないのだ。
それとも、そんな系統は存在しないで、"ながぐつ (Nafagutsu : Boots)"や"ちょうか (Choka : Boots)"とは全く異なる範疇にそのブーツ (Boots)、すなわち"丈の短い長靴 (Short Length Boots)"と謂う系統を押し立てる必要があるのだろうか、とも思ってみたりもするのである。
そんな逡巡が為に、そのムック (Mook) を読んで以来ずっとして右往左往しているのが、ぼくのいまなのである。

ところで、そのムック (Mook) には"丈の長い長靴 (Long Length Boots)"も2品目、各2頁を与えられて紹介されている。

ひとつは、ゴム長靴 (Rubber Boots) [掲載されてある商品は月星化成 [当時 : 現株式会社ムーンスター] (MoonStar Company) のモノ] で、ひとつはウエスタンブーツ (Western Boots) [掲載されてある商品はトニーラマ (Tony Lama) のモノ] である。そして、前者が"ながぐつ (Nagagutsu : Boots)"と呼びうるモノであるのに対し、後者は"ちょうか (Choka : Boots)"と呼びうるモノではある。

そして、この2品目は極めて対照的な存在なのである。
例えば、その外観である。
ゴム長靴 (Rubber Boots) が簡素極まりないばかりに、実用に徹しようと謂う意思を主張している様にみえるその一方で、ウエスタンブーツ (Western Boots) は過剰ともいえる華美な装飾ばかりが、観るモノの視線を奪う。真逆なのである。
しかしながら、その内実を丁寧にみていくと、それとは全く逆の効果と思考とがそこには産まれてもいるのだ。
前者には、簡素を旨とした結果、意外にもそこに機能美とも呼べる美しさを発見する事が出来る 。
そして、後者には、その過剰な装飾こそが、ウエスタンブーツ (Western Boots) を実用に用いる為に必須のモノである事を知る事が出来るのだ。何故ならば、それは乗馬 (Equestrianism) の際に用いるモノであって、しかもその乗馬 (Equestrianism) はスポーツ (Sports) としてのそれではない。牧畜 (Stock Raising) や狩猟 (Hunting)、もしくは銀行強盗 (Bank Robber)、はてや銃撃戦 (FireFlight) の際に於けるが為にあるのだから。

つまり、"ながぐつ (Nagagutsu : Boots)"たるゴム長靴 (Rubber Boots) と"ちょうか (Choka : Boots)"たるウエスタンブーツ (Western Boots) は、文字通りに両極端な位置にある。しかも、両極端でありながらも、どこかで密接にその類縁たる証拠を述べ立てているのだ。

そして、やっぱり、そのふたつの極端を統合する存在を、ぼくはいまだに見出せなていないのだ。

次回は「」。

images
"Wasserstiefel" 1986 by Roman Signer, which was featured for the cover art of the album "Upgrade And Afterlife" 1996 by Gastr Del Sol

附記:
長靴 (Boots) と同様に、訓読みにも音読みにも可能な熟語と謂うのは、他にもある。
例えば銀杏 (Ginkgo Biloba) と謂う語句である。訓読み (The Japanese Reading Of A Chinese Character) して"いちょう (Ginkgo Biloba, The Tree Or The Leaf)"とすれば、それは秋になって黄葉する樹木やその葉を指すが、音読み (The Chinese Reading Of A character) して"ぎんなん (Ginkgo Biloba, The Nuts)"とすればその時季に熟すその樹木の果実をさす [しかもその熟語に湯桶読み (Mixed Kun-on Kanji Reading) も重箱読み (Mixed Kun-on Kanji Reading) も存在しない]。だから、その時季、銀杏狩り (Viewing Or Picking Ginkgo Biloba)は、視覚をもって愉しむのを主目的としたモノと、そうではない、味覚をもって愉しむのを主目的としてモノ、2派が顕れる。その差異はその熟語の発音のされ方次第によるのである。
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