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2020.11.24.11.39

ようばしかんののろい

これをみているぼくは一体、おびえるべきなのか、それとも、ほくそえむべきなのか。

尤も、恐怖と笑いは紙一重の産物である。恐怖が頂点に達したとみるや発狂し、けたたましくも哄笑しだす、そんな情景を何度も読んできたし、何度もみてきた。
しかし、この作品を観る事によって生じる困惑にも似た、恐怖と笑いの混濁は、それとは違う趣きなのだ。

映画『妖婆・死棺の呪い (Viy)』 [アレクサンドル・プトゥシコ (Aleksandr Ptushko) 1967年制作] は、ここで観た。吹替 (Dubbing) でもないし字幕 (Subtitles) もない。制作地の言語であるロシア語 (Russian Language) と思われる。
と、なると、眼に映ずるモノしか理解出来ない筈なのだが、ぼくが困る事は少ない。と、謂うのは、本作を紹介する文献をこれまでに幾つも読んでいたからだ。

手許にあるのは、文庫『オカルティズムへの招待 - 西欧"闇"の精神史 (The Invitation To Occultism : Psychohistory Of Western Europe In The Dark)』 [編:文藝春秋 (Bungeishunju) 1993年刊行] の1記事『「魔物」の出る映画 おすすめはこれだ! (The Movie Demons Appears : The Recomneddeds)』 [早川光 (Hikaru hayakawa) 著] とムック『新映画宝庫 Vol.3 スプラッターカーニバル - 悪夢映画流血編 (Shin-Eiga-Hoko Vol. 3 Splatter Carnival : Bloodshed In Nightmere Movies)』 [大洋図書「新映画編集部」 (Editorial Department For Shin-Eiga-Hoko In Taiyoh Tosho) 編 2001年刊行] で、それぞれで粗筋が紹介されている。そして、それらで言及されてある様に、この映画の原作は、ニコライ・ゴーゴリ (Nikolai Gogol) の短編小説『妖女 [ヴィイ] (Viy)』 [1835年発表] である。その忠実な映像化作品がこの映画であるらしい。

その小説に関しては、ムック『世界のオカルト文学 幻想文学・総解説 (Explanation For Occult Literatures And Fantasy Literatures In The World)』 [著・監修:由良君美 (Kimiyoshi Yura) 1981年刊行] でも紹介されてあるし、その紹介に基づいて、文庫『怪奇小説傑作集 5 <ドイツ・ロシア編> (The Collection Of Masterpieces For Horror Novels Ver. 5 Germany And Rusia)』 1969年刊行 創元推理文庫 (Sogen Mystery Bunko) 当該小説の翻訳は原卓也 (Takuya Hara) による] 所収の邦訳『妖女 [ヴィイ] (Viy)』を読んでもいる。
猶、拙稿には物語を詳細に語る場所はないので、興味のある方はこちらで映画の粗筋でも読んでもらいたい。

images
上掲画像はこちらから。R. シュタイン / R.Shteynによる『ヴィイ (Viy)』 [1901年発表] である。小説『妖女 [ヴィイ] (Viy)』の挿絵であるらしい。その小説で語られる怪異の実態がこれ、ヴィイ (Viy) なのである。
「全身泥にまみれ、鉄の顔をもち、長い瞼を地面まで垂らした化け物」[ムック『世界のオカルト文学 幻想文学・総解説 (Explanation For Occult Literatures And Fantasy Literatures In The World)』 より引用。引用文は沼野充義 (MItsuyoshi Numano) の記述による] である。
そして、映画には、上掲画像そっくりのモノが物語のクライマックスに登場するのだ。その映画が公開された当時のポスターを検索すると、上掲画像を模したモノがそこに描かれてある。恐らく、原作小説の忠実な映像化を謳う為のモノであるのであろうし、と同時に、上掲画像がヴィイ (Viy) の容姿として一般的に知られていたのだろう、と推測する事も出来るだろう [ぼく達がいくつかの妖怪 (Yokai) の容姿を鳥山石燕 (Toriyama Sekien) 描くそれで認知している様に]。

で、観た。

1967年制作と謂うのが、少し信じられない。尤も、特撮 (Special Effects) は稚拙だ。現在の視点ではとてもお話にならない。しかし、怪異の描写が現代に通じるモノを感ずる。何故だろう、と思うと、上に紹介した記事「魔物」の出る映画 おすすめはこれだ! (The Movie Demons Appears : The Recomneddeds)』の中で次の様な一節がある。
「息つく暇さえ与えないスピーディーな展開には驚嘆させられること請け合いだ<中略>動きのスローモーな当時のアメリカ映画のモンスターに比べて斬新だった」
そうなのだ。当時の恐怖映画や怪奇映画は、心理的なモノ、内面的なモノへの肉迫を追求していたのだから、恐怖や怪異の実体は、緩慢に、時間をかけて少しづつ顕れるモノなのである。それが様変わりしたのは、所謂スプラッター映画 (Splatter Movie) の登場以降、精神にではなくて物理的かつ直裁的な恐怖や怪異の描写へと移行したのである。その点だけを汲みすれば、随分と新しい表現である様に思える。

そして、恐らく、ぼくが、この映画が設定した時代や風俗を全く知らないからであろう。物語を語る口調や描写が、現実的なモノとは思えないのだ。映り込む実景 [つまり撮影用に設けられたセットではない] を観るだけで、不思議な感興を抱いてしまう。
それは恐怖譚だから、怪異譚だから、と謂う論調で斬り捨てるのには抵抗がある。その様な物語の語り口とは異質なモノ、フランツ・カフカ (Franz Kafka) の作品に漂う、現実からすこし外れた場所にいる様な、そんな気配の様にも思えるのだ。一言をもってすればシュール (Surreal) なのである。

物語は基本的に退魔の物語である。しかし、魔に対峙する人物が、徳の高い高僧でも、妖術を錬磨した魔術師でもないところが、この物語独特の采配となっている。主人公は、神学校 (Seminary) の寄宿生、つまり、駆け出しの未熟者であるのだ。しかも、物語冒頭での神学校 (Seminary) の描写をみれば、彼が優秀でも知的でも真面目でもない、落ちこぼれとは謂わないが、卒業後、破戒僧 (Depraved Monk) にしかならないだろう、そんな事すら思わせる様な、平々凡々もしくはそれ以下の神学生 (Seminary Student) である様に思える。

そんな彼が、思わぬ体験が発端となって、3日3晩に渡り、たった独りで怪異と対峙するのである。故人の遺言によって3夜に渡る通夜をとり行う筈が、その遺骸が覚醒め、彼をとりころそうと秘術の限りを尽くすのだ。彼が出来るのは、結界をはり、その結界が侵犯されぬ様に、只管、経文を読むだけなのである。

夜が明けると、怪異は霧散する。そして、日中、彼が行うのは逃亡への試みだが、これは周囲の監視によっていとも簡単に阻まれてしまう。彼は憔悴し、自棄となり、自壊寸前にまで追い詰められる。勿論、それは精神的なモノだけではない。肉体そのものも疲労困憊の域にあるのだ。

しかし、だからと謂って、そこから恐怖を感じる事はない。
彼の足掻きと消耗を観ているぼくは、何故か、笑えてきてしまうのだ。
例えばそれは、小説集『怪談 (Kwaidan)』 [小泉八雲 (Lafcadio Hearn)1904年発表] の1篇『むじな (Mujina)』の描写にも似ているのだ。物語の主人公は、恐怖に怯え、怪異に翻弄されるばかりだが、読んでいるこちらは、1篇の笑話を読んでいる様な気分に浸る、あれとよく似ているのだ。

だから、もし仮に、水木しげる (Shigeru Mizuki) がこの映画ないしはその原作小説を翻案するのであるのならば、その主人公である神学生 (Seminary Student) に該当する役回りは、鬼太郎 (Kitaro) でも悪魔くん (Akuma-kun) でもない。眼鏡で出っ歯の小心者、サラリーマン山田 (Salaryman Yamada) が相応しいだろう。

えぇっ? ねずみ男 (Nezumi-Otoko) はどうかって?? あいつならヴィイ (Viy) と結託するに違いないよ。

次回は「」。

附記:
小説『妖女 [ヴィイ] (Viy)』を原作とするもうひとつの映画『血ぬられた墓標 (La maschera del demonio)』 [マリオ・バーヴァ (Mario Bava) 監督作品 1960年制作] がある。
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