2020.11.15.08.35

作品上の表記に着目すれば、本作は構成メンバーである4名、均等の作品ではない。各2名ずつのユニットの共演作である。すなわち、マイケル・ホワイト (Michael White : Tp.) とミッシェル・ランバート (Michel Lambert : Dr.) のユニットとデヴィッド・トーン (David Torn : Gu.) とミック・カーン (Mick Karn : B) のユニットである。ロンリー・ユニバース (Lonely Universe) と謂う集団の作品は、本作の他にもう1作品『ア・ラ・プラージュ / À La Plage』 [1993年発表] があり、そのメンバーが前2者だけである事を考えれば、それ程に的外れな指摘でもないだろう。
だけれども、実際に作品に向かうと、その2対2とは異なる印象を抱かざるを得ない。
前2者に加えて、デヴィッド・トーン (David Torn) を含む3者は対等な存在感を放っている。この3人だけで作品の世界を構築していると謂っても良い。総てが硬質な、しかも鋭利な音質を持ちながらも、そこで聴かれるのは、緊張感にみちた音楽ではない。寧ろ、逆に、解放へと向かおうと謂う様な印象をぼくは抱く。
そこに、遠慮しがちに、しかし、決して無視できない様なかたちで、ミック・カーン (Mick Karn) の演奏が挿入されるのだ。一聴、彼と彼の発する音がとても、居心地が悪い様な気がしないでもない。


本作が国内発売されたのは、ミック・カーン (Mick Karn) のソロ第3作『ベスチャル・クラスター (Bestial Cluster)』 [1993年発表] と同時期であり、その作品を補填する副読本の様な役割でぼくは聴いた。彼はいま、ここにいる、そして、彼がここにいるのは、ここを通ったからだ、とでも謂う様な。
それはそのまま、デヴィッド・トーン (David Torn) とテリー・ボジオ (Terry Bozzio : Dr.)との作品『ポリタウン (Polytown)』 [1994年発表] への伏線として聴く事も出来るのだ。
アルバム『ロンリー・ユニバース (Lonely Universe)』に関しては、ミック・カーン (Mick Karn) と謂うアーティストの部分でしか、ぼくは語れない。他の3者への視点をもって本作を眺めてみれば、異なる理解を得られるのかもしれないし、その作業は他者に委ねたいと思う。
ミック・カーン (Mick Karn) がかつて在籍していたバンド、ジャパン (Japan) [1974〜1982年活動] は、ぼくの中では、そのバンドのヴァーカリストであるデヴィッド・シルヴィアン (David Sylvian) とミック・カーン (Mick Karn) の双頭バンドであると謂う認識がある。デヴィッド・シルヴィアン (David Sylvian) の世界観、もしくは彼の内面から発するモノに具体的なかたちを与えると同時に、少なからざるそれへの反意を語るモノと謂う認識である。決して、デヴィッド・シルヴィアン (David Sylvian) の傀儡ではない。彼へ対抗できる唯一の存在でもあるのだ。

そんな彼が、バンド解散後、迷走するのは決して不思議ではない。彼の演奏するフレットレス・ベース (Fretless Bass) の音と旋律の存在感はまごう事のないモノであるが、それを必要とする居場所がみつけられない、そんな印象が、彼が参加した作品群を聴くと、常にまとわりつく。
ある意味では、スーパー・プロジェクトである、ピーター・マーフィー (Peter Murphy) とのデュオ、ダリズ・カー (Dalis Car) が、たったの1作品『ウェイキング・アワー (The Waking Hour)』 [1984年発表] だけで終了してしまったのは、その象徴でもある [バウハウス (Bauhaus) 解散直後のピーター・マーフィー (Peter Murphy) 自身も、ミック・カーン (Mick Karn) と同様の事が謂えてしまうのかもしれない]。


ミック・カーン (Mick Karn) のソロ第2作『ドリームス・オブ・リーズン (Dreams Of Reason Produce Monsters)』 [1987年発表] は、ジャパン (Japan) 解散間際に発表されたソロ第1作『タイトルズ (Titles)』 [1982年発表] よりも遥かに完成度も高く、時に感涙を誘う作品ではあるのだが、それはその作品へのデヴィッド・シルヴィアン (David Sylvian) の参加が大きく寄与している、[残念ながら] そう断罪する事も可能であるのだ。

だからと謂って、ジャパン (Japan) 再結成以外の何者でもない新バンド、レイン・トゥリー・クロウ (Rain Tree Crow) には、元ジャパン (Japan) である彼等4人ならではの錬金術の発露はみられない。仮に、そのバンド名での活動が継続されれれば、あたらしいなにかを創造できた、そんな期待を抱けはするものの、そのプロジェクトは唯一の作品『レイン・トゥリー・クロウ (Rain Tree Crow)
そんな岐路を辿っての、アルバム『ロンリー・ユニバース (Lonely Universe)』への参加であって、そこで得た人脈と練磨の成果が、ソロ第3作『ベスチャル・クラスター (Bestial Cluster)』へと帰着する、そんな解釈をぼくはしているのである。
ものづくし (click in the world!) 217. :『ロンリー・ユニバース (LONELY UNIVERSE)』
by ロンリー・ユニバース (LONELY UNIVERSE : MICHAEL WHITE & MICHEL LAMBERT WITH DAVID TORN & MICK KARN)

『ロンリー・ユニバース (LONELY UNIVERSE)』 by ロンリー・ユニバース (LONELY UNIVERSE) : マイケル・ホワイト (MICHAEL WHITE) & ミッシェル・ランバート (MICHEL LAMBERT) WITH デヴィッド・トーン (DAVID TORN) & ミック・カーン (MICK KARN)
孤独な世界に潜む「美」の響き ...
あのJAPANのミック・カーンも全面参加した、CMPレコードの最強プロジェクト「ロンリー・ユニバース」。その神秘のベールを脱いで遂に姿を現した ...
1. エンジン
Engine (White) 3'27
2. テリトリー
Territories de Pontougas (Lambert) 6'33
3. パッセンジャー
Passenger (Karn / Torn) 4'38
4. セレモニー
Ceremony (White) 3'25
5. オール・ディス・ノイズ
The Wind in all this Noise (White) 5'39
6. 回廊
Corridor (Karn / Torn) 4'44
7. 危機
Precipice (Lambert) 4'58
8. エクステンション
From the Scope Extension (Lambert) 4'39
9. セレモニー II
Ceremony II (White) 0'44
Total Playing Time [38'57]
Passenger and Corridor published by Opium (Arts), Ltd., all other titles published by Contemp Music-GEMA
MICHAEL WHITE : Trumpet
MICHEL LAMBERT : Drums & Mikatron
DAVID TORN : Guitar
MICK KARN : Bass
Recorded by Walter Quitus at Ztudio,
Zerkall, Germany, December 1988
Produced by Kurt Renker & Walter Quitus with David Torn
Cover /Artwaork by ULF v. Kanitz
Photo of Lonley Universe by Bruno Kassel
Digital Recording (P) & (C) CMP Records 1990
Thanks to Bernie and Uli at Prosound
Mick Karn is represented Worldwide by Opium (Arts), Ltd.
and plays a Wal Bass
David Torn playsSteinberger Guitars and Pearce Amps
UNDER LICENSED FROM CMP RECORDS
(P) 1993JIMCO RECORDS : a division JIMCO JAPAN CORP
ぼくの所有している国内盤には市川哲史 (Tetsushi Ichikawa) [音楽と人 Inc. (Ongaku To Hito Inc.)] による解説が封入されている。
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