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2020.11.10.08.54

いんざむーど

ザ・ビートルズ (The Beatles) のシングル曲『愛こそはすべて (All You Need Is Love)』 [アルバム『マジカル・ミステリー・ツアー (Magical Mystery Tour)1967年発表] 収録 1967年発表] の終焉部に、その他の幾つかの楽曲と共に、その曲の一節を聴く事が出来る。
その楽曲『愛こそはすべて (All You Need Is Love)』 は、フランス共和国 (Republique francaise) 国歌 (Hymne national)『ラ・マルセイエーズ (La Marseillaise)』 [作詞作曲:クロード・ジョゼフ・ルージェ・ド・リール (Claude Joseph Rouget de Lisle) 1792年発表] で始まる。それに呼応するかの様な演出である。
終了間際に聴こえるのは、その楽曲の1節の他に、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ (Johann Sebastian Bach)の楽曲『2声のインヴェンション8番BWV779 (Invention Nr.8 F-Dur BWV 779)』 [1723年頃作曲] やイングランド民謡 (English Folk Songs)『グリーンスリーブス (Greensleeves)』 [16世紀半ば成立] やザ・ビートルズ (The Beatles) の自身の楽曲『シー・ラヴズ・ユー (She Loves You)』 アルバム『パスト・マスターズ 1 (Past Masters Vol. 1)』 [1988年発表] 収録 1963年発表] や同じく楽曲『イエスタデイ (Yesterday)』 [アルバム『ヘルプ! (Help!)1965年発表] 収録] である。

レコーディングが終了した時点で、本曲のプロデューサーであるジョージ・マーティン (George Martin) は焦る。と、謂うのは、彼は彼等自身の楽曲を除いたその他の楽曲は総て、パブリック・ドメイン (Public Domain)、著作権 (Copyright) の終了した楽曲ばかりだと思い込んでいたからである。
しかしながら、楽曲『イン・ザ・ムード (In The Mood)』だけは、まだ著作権 (Copyright) の存続期間内、楽曲使用料が発生する。その曲はジョー・ガーランド (Joe Garland) の作で、グレンミラー楽団 (The Glenn Miller Orchestra) が1939年に演奏した曲、彼等の代表曲である。本楽曲が録音された当時、作者であるジョー・ガーランド (Joe Garland) は存命であり、当然の如くに、著作権 (Copyright) は厳然と彼の許にあるのだ。

但し、ここに綴られてある事を素直に真に受けるのは、些か拙速であると、ぼくは思う。
もうすこし、その詳細をみてみる必要があると、ぼくは思うのだ。

[念の為に、事前に明記しておくと、ぼくの著作権 (Copyright) の知識は精々がところ、その概念程度のモノであり、現実的な運用とそこで起こり得る事柄を熟知している訳ではない。また、当時と現在での著作権 (Copyright) の認識や運用に関しては異なる場合もあるだろう。これから拙稿で綴るのは、そんな見方もあるであろう程度の認識で読んでもらいたい。勿論、明確な誤認があるのならば、具体的に指摘もして欲しい。また、その一方で、ザ・ビートルズ (The Beatles) と、彼等の著作権 (Copyright) ないしそれを含む諸権利に関する文章をいまだに読んだ事がないぼくには、その上に幾つかの疑問点があるので、もしかしたら、その分野は充分な調査や研究が待たれているモノなのかもしれない、と思っていたりもする。つまり、ビジネスとしてのザ・ビートルズ (The Beatles) とはなんなのか、と謂う命題である。]

著作権 (Copyright) が発生する楽曲を収録してしまっただけでは、レコード会社の人間としては、あまり重要な問題ではない。何故ならば、 [音楽録音物に於ける] 著作権 (Copyright) 印税と謂うのは、その価格と販売数だけが因子であり変数であるからだ。売上に関して、発生する印税のパーセンテージは総て一律なのである。そしてその事前に決定された印税率を前提に、楽曲数と作者数に応じて、按分するだけなのである [単純に謂えば、延べ20名の作者による全10曲の収録楽曲があれば、支払われた著作権 (Copyright) 使用料を20×10等分して、分配するだけでなのである。] 。レコード会社が著作権 (Copyright) 使用料として支払う額は、曲数や作者数に無関係なかたちで決定され、一律に徴収されているのだ。

寧ろ、レコード会社の人間として悩むべきは、楽曲使用の許諾に関する部分に於いてであろう。例えば今回の場合、楽曲『イン・ザ・ムード (In The Mood)』の著作権 (Copyright) に関する権利を有するモノが、ザ・ビートルズ (The Beatles) の楽曲の1部に、当該の楽曲が使用されるのはまかりならんと主張した場合が、最もややこしい、切実に困ってしまう問題なのである。

だけれども、楽曲使用の許諾云々と謂う点に関しては、当該の楽曲よりも、楽曲『愛こそはすべて (All You Need Is Love)』の冒頭に据えられたフランス共和国 (Republique francaise) 国歌 (Hymne national) の方が、悩むべき事柄は多く、しかも煩雑なモノではないのだろうか。
著作権 (Copyright) こそパブリック・ドメイン (Public Domain) ではあるが、そこで使用される音源が仮に、既録音のモノであるのならば、音源使用料 [とその使用に関する権利者からの許諾] と謂うモノが横臥している筈なのである [使用箇所がジョージ・マーティン (George Martin) による編曲であり、あらたに演奏したモノであるのならば、音源使用料は発生しない。但し、国歌 (Hymne national) と謂う特殊な楽曲であるが為に、しかるべき筋からの使用許諾と謂うモノは必要なのかもしれない]。
[1969年にウッドストック・フェスティバル (Woodstock Music and Art Festival) に於いて、ジミ・ヘンドリックス (Jimi Hendrix) がアメリカ合衆国 (United States Of America) 国歌 (National Anthem) 『星条旗 (The Star-Spangled Banner)』 [作詞作曲:フランシス・スコット・キー (Francis Scott Key) 1814年発表] を演奏したが、後に音源化・映像化されたその際には、自らによる演奏であるが為に、音源使用料と謂うモノは派生しない。クイーン (Queen) によるグレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国 (United Kingdom Of Great Britain And Northern Ireland) の国歌 (National Anthem) 『女王陛下万歳 (God Save The Queen)』 [作者不詳 1745年頃成立] の演奏である『ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン (God Save The Queen)』 [アルバム『オペラ座の夜 (A Night At The Opera)』 [1975年発表] 収録] も、同様である。また、ジミ・ヘンドリックス (Jimi Hendrix) 演奏のアメリカ合衆国 (United States Of America) 国歌 (National Anthem) 『星条旗 (The Star-Spangled Banner)』を最終部に据えた、ザ・ローリング・ストーンズ (The Rolling Stones) のアルバム『スティル・ライフ -アメリカンコンサート '81 (Still Life American Concert 1981)』 [1982年発表] は、ジミ・ヘンドリックス (Jimi Hendrix) の演奏音源の権利者に対して許諾を得ると共に、音源使用料を支払わなければならない。]
一方でそれらの楽曲は、権利関係の処置が総て終わったとしても、世情ないし世論の反応と謂う問題も起こり得るやもしれない。他国の国歌 (National Anthem) を自国の歌手がその新曲冒頭に据える、もしくは、自国の国歌を他国の歌手が新曲冒頭に据える、それが一体、どういう効果ないし反響をもたらすのだろうか、と謂う問題である。ぼくの綴っている意味がよく解らないヒトは、ある国の歌手の新曲の一部に我が国の国歌 (National Anthem) 『君が代 (Kimigayo)』 [作詞:古歌 [『古今和歌集 (Kokin Wakashu)』等] 作曲:林廣守 (Hiromori Hayashi)、奥好義 (Yoshiisa Oku) 1888年公布] が流れたらどうなるのだろうか、とか、我が国の歌手の新曲の一部に某国国歌が流れたらどうなるのだろうか、と考えてみればいい。

と、使用許諾云々と同時に考えなければならない事は、もうひとつある。
レコード会社からひとつの録音物に支払われる楽曲使用料があらかじめ決定されているのだから、その使用料を按分されるべき著作権 (Copyright) の権利を有する者の数が増え、その事の結果として、個々の権利者へ支払われるべき著作権 (Copyright) 使用料が結果的に減少する事になるのだ。今回の件で考えれば、楽曲『イン・ザ・ムード (In The Mood)』の一部を使用した事によって、楽曲『愛こそはすべて (All You Need Is Love)』の作者、レノン = マッカートニー (Lennon - McCartney) の著作権 (Copyright) 収入が減少する事になってしまう。そんな事態を、レノン = マッカートニー (Lennon - McCartney)、この ふたりの作者を含むその著作権 (Copyright) 収益に関する関係者達を説得し理解を求めなければならない。
勿論、その過程に於いては、楽曲『愛こそはすべて (All You Need Is Love)』に於けるクレジット [つまり名目上のモノ] を如何に処理すべきかと謂う問題と、その著作権 (Copyright) 印税の分配率 [つまり実質的なモノ] を如何なる比率にすべきかと謂う問題、このふたつを実務として対応しなければならない [例えば、演奏時間3分に対して10秒間だけの使用だから著作権 (Copyright) 収益の5%が相当だろう、とか、いやいや、その曲の最も印象に遺る部分を構築しているから収録時間で決定される訳にはいかない、とか ...]。

ジョージ・マーティン (George Martin) が、楽曲『愛こそはすべて (All You Need Is Love)』に楽曲『イン・ザ・ムード (In The Mood)』の一部を使用した事によって横着してしまった問題は、大雑把にみて、上の様なモノであると思える。
もし仮に、彼が、ザ・ビートルズ (The Beatles) 自身の楽曲から発生する著作権 (Copyright) 収益に関して、なんらかの便宜が謀られる様な地位にあるのだとしたら、実際の事態はもう少し、込み入ったモノであるのだろう。

次回は「」。

附記 1.:
映画『グレン・ミラー物語 (The Glenn Miller Story)』 [アンソニー・マン (Anthony Mann) 監督作品 1954年制作] に於いて、著作権 (Copyright) 云々が話題となるシーンがあった様に記憶している。
主人公であるグレン・ミラー (Glenn Miller) [演:ジェームズ・ステュアート (James Stewart)] が新曲を録音した際に、一体、どの様な収益がもたらされるのか、その内訳を、彼の親類達が話題にするシーンである。そして、それぞれが取らぬ狸の皮算用をしてほくそ笑んでいるその談笑が終わるや否や、新曲『ペンシルベニア65000 (Pennsylvania 6-5000)』 [作詞:カール・シグマン (Carl Sigman) 作曲:ジェリー・グレイ (Jerry Gray) 1940年発表] が披露される。
その曲名は、主人公と彼の妻が結婚する際の、重要なモチーフとなったモノなのである [実際はどうなのかはぼくは知らない、ここでしているのはあくまでも作劇上での話だ]。
物語は、ここに来て新たな局面を提示しようとしているのであろう。その映画の冒頭は、店頭に飾られたトロンボーン (Trombone) を恨みがましくも羨ましげに凝視めているグレン・ミラー (Glenn Miller) の叙景なのである。彼と彼の恋人であり後に妻となるヘレン・バーガー (Helen Burger) [演:ジューン・アリソン (June Allyson)] との、若くも困難だった生活はここに来て一新された。それを物語るが為の、親類達の会話とそれをさらに裏付けんが為の新曲披露なのであろう。

附記 2.:
楽曲『イン・ザ・ムード (In The Mood)』に関しては、作者の認定に関してかつて争いがあったと謂う。その楽曲のテーマ部にあるのは、ウィンギー・マノン (Wingy Manone) 作曲の『ター・ペパー・ストンプ (Tar Paper Stomp)』 [1930年発表] ではないのか、と謂う疑義である。これに関しては、和解が成立しているらしい。

附記 3.:
では翻って、楽曲『愛こそはすべて (All You Need Is Love)』に於ける楽曲『イン・ザ・ムード (In The Mood)』の著作権 (Copyright) に関しては結局、どの様なかたちで解決をみたのであろうか。少なくとも、楽曲のクレジット上での扱いは、その作品が収録されてある音楽作品にあるそれを眺めてみれば、文字通りにひとめで理解出来るモノなのだが。

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