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2020.07.19.08.27

『ゴースト・ダンス (ghost dance)』 by ジャイルズ / ミューア / カニンガム (michael giles / jamie muir / david cunningham)

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ロートレアモン伯爵 (Comte de Lautreamont) のことばをそのままかりれば、ぼくが期待するのはまさしく「解剖台の上での、ミシンと雨傘との偶発的な出会いのように美しい (Beau comme la rencontre fortuite sur une table de dissection d'une machine a coudre et d'un parapluie.)』 [『マルドロールの歌 (Les Chants de Maldoror)』 [1869年発表] より] である。
しかし、その語句を阻むのは、本作が映画『ゴースト・ダンス (Ghost Dance)』 [ケン・マクマレン (Ken McMullen) 監督作品 1983年制作] のサウンド・トラック盤である、と謂う事なのだ。

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それはあたかも、本人役で登場するジャック・デリダ (Jacques Derrida) の発言の様なモノなのである。そこで発せられる語句は果たして、思想家自身の思索の表明であるのか、それとも、作品の物語を紡ぐ為の台詞なのか、とんと見当がつかないのと、同樣なのである。
[上掲画像はその映画ポスタージャック・デリダ (Jacques Derrida) の出演シーン:猶、映画全編はこちらでそこでの彼の発言はこちらで観る事が可能だろう。]

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「ミシン (machine a coudre)」であるべき、マイケル・ジャイルズ (Michael Giles) は、キング・クリムゾン (King Crimson) の創立メンバーのひとりである。その第1作『クリムゾン・キングの宮殿 (In The Court Of The Crimson King) [1969年発表] のドラムスを担っている。
あらためてその作品を聴くと、彼の演奏は、そのバンドのある指針を呈示している様に聴こえる。そのバンドの楽曲における壮麗な印象、そしてそれとは真逆であるべき繊細な印象は、彼の演奏からにこそ発しているのではないか。そんな気がするのである。
だからこそ、その1作への参加をもって脱退した後も、そのバンドのリーダーであるロバート・フリップ (Robert Fripp) に請われて、第2作『ポセイドンのめざめ (In The Wake Of Poseidon)』 [1970年発表] へも彼は参加したのだ。そして、その結果、その作品はあたかも前作の続編であるかの様に響く。

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「傘 (parapluie)」であるべき、ジェイミー・ミューア (Jamie Muir) は、そのバンド・メンバーが一新されて制作された第5作『太陽と戦慄 (Larks' Tongues In Aspic)』 [1973年発表] に参画している。継続して在籍しているのはロバート・フリップ (Robert Fripp) ただ独りである。
ジェイミー・ミューア (Jamie Muir) がキング・クリムゾン (King Crimson) のメンバーであったのは、その1作品のみに於いてである。だが、当時のそのバンドのもう1人の打楽器奏者であるビル・ブルーフォード (Bill Bruford) は彼の演奏に大いなる影響を受けた。そして、その影響と発展をもって、キング・クリムゾン (King Crimson) の打楽器奏者と謂う大役を引き受け、ながきに渡ってその任にあたる。
つまり、マイケル・ジャイルズ (Michael Giles) が、彼の演奏するドラムスで構築した世界は、ジェイミー・ミューア (Jamie Muir) とその後継であるビル・ブルーフォード (Bill Bruford) によって一新されたと謂えるのかもしれない。

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「解剖台 (table de dissection)」であるべきデヴィッド・カニンガム (David Cunningham) は一般的には、フライング・リザーズ (The Flying Lizards) の首謀者として知られる。その最初の2作である第1シングル曲『サマータイム・ブルース (Summertime Blues)』 [1978年発表] と第2シングル曲『マネー (Money)』 [1979年発表] は、パンク (Punk)〜ニュー・ウェイブ (New Wave) が実はダダイスム (Dadaisme) にも通底すると謂う事を知らしめたヒット作である [いずれの楽曲も第1作『ミュージック・ファクトリー (The Flying Lizards)』 [1979年発表] 収録]。その2曲にながれる思想は、音楽が欲するのは技術でも資金でもない、智力とそれを実現化する為の行動力だけである、と主張しているのだ。
だから、そんな彼と2人の"技術者"、マイケル・ジャイルズ (Michael Giles) とジェイミー・ミューア (Jamie Muir) の邂逅は、あたかも水と油の混淆を謀るモノにも思えるかもしれない。
だが、デヴィッド・カニンガム (David Cunningham) にはもうひとつの顔がある。
それは、ディス・ヒート (This Heat) の第1作『ディス・ヒート (This Heat)』 [1978年発表] のプロデューサーとしてのそれである。そのトリオの1/3である、チャールズ・ヘイワード (Charles Hayward) がクワイエット・サン (Quiet Sun) のメンバーであった事を想えば、実は出逢うべくにして出逢った「ミシン (machine a coudre)」と「傘 (parapluie)」と「解剖台 (table de dissection)」なのかも知れない。
それに第一に、当時、パンク (Punk) 〜ニュー・ウェイヴ (New Wave) の手法に傾倒して、自身が開発した演奏システム、フィリッパトロニクス (Frippertronics) に没入していたロバート・フリップ (Robert Fripp) が、フライング・リザーズ (The Flying Lizards) の第2作『フォース・ウォール (Fourth Wall)』 [1981年発表] に参加しているのだ。その事をもってして「ミシン (machine a coudre)」と「傘 (parapluie)」と「「解剖台 (table de dissection)」の遭遇の必然性を保証する事も、然程には無謀ではないのかもしれない。

つまり、この3名による本作品に関しては、ロートレアモン伯爵 (Comte de Lautreamont) からの引用は、全く意味を解さないと謂う様な事にもなってしまう。

[それはともかくとして] 3者のここに至るまでの経歴を前提を踏まえて本作に向かうのであるのならば、ぼく達が期待すべきは、新旧キング・クリムゾン (King Crimson) とフライング・リザーズ (The Flying Lizards) の相克ではなくて、新旧キング・クリムゾン (King Crimson) とディス・ヒート (This Heat) の衝突であるのかもしれない。

しかし、そんな期待を阻むのが、上述した様に、本作がサウンド・トラック作品であると謂う大前提なのである。

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だから、映像の介在抜きで、もしくはその大前提を忘却して本作に向かえば、キング・クリムゾン (King Crimson) でもディス・ヒート (This Heat) でもないのは当然にしても、フライング・リザーズ (The Flying Lizards) でもない。
敢えて謂えば、デヴィッド・カニンガム (David Cunningham) 自身のソロ第1作『グレイ・スケール (Grey Scale)』 [1976年発表] の発展である様な面持ちなのである。

音、もしくは楽曲の断片が、そこから発展する事も展開する事もなく、継続されていく。
だからと謂って、環境音楽 (Ambient Music) として聴くには、演奏者達の意思や志向がその行手を阻む。
だから、細部へと細部へと、耳を傾けなければならない。
仮にその行為を放棄するのならば、楽曲『カスケイド (Cascade)』の美しさばかりがこだまするだろう。と、同時にその曲のイニシアティヴを握る親指ピアノ (Thumb Piano) の調べから、その題名を裏切るモノ、キング・クリムゾン (King Crimson) の楽曲『太陽と戦慄 パートI (Larks' Tongues in Aspic, Part One)』 [アルバム『太陽と戦慄 (Larks' Tongues In Aspic)』収録] の様な構成を願ってしまうのに違いない。

ところで、ジャケットに記載されているライナーノーツ、筆者名はないが文意からはそれはデヴィッド・カニンガム (David Cunningham) であろう、には次の1文があり、ぼく達は混乱せざるを得ない。

「1983年に我々はトリオという形で作業を始めたところ、ケン・マックミューレンから、彼の『ゴースト・ダンス」という映画のための音楽を作って欲しいという注文があった。 (in 1983 as we began to work as a trio. ken mcmullen commisioned us to provide the music for his film 'ghost dance')」 [文章ママ。日本語文は本作封入のモノ。小山景子 (Keiko Koyama) の訳である。]

本作制作が映画音楽制作の為の、一期一会の結集ならば、納得させられもするだろうし、諦めもつくのかもしれない。
しかし、その1文はそんな理解を一蹴しているのである。
そして、こんな疑念も抱かざるを得ない。
だとしたら、何故、この3人による音楽作品がその後、登場しないのであろうか、と。
もしかしたら、映画音楽としての制作と謂う実作業を行う事自体が、この3人による音楽の、その後の発展を疎外してしまったのだろうか。そんな悶々とした想いがここに発生してしまうのである。

ものづくし (click in the world!) 213. :『ゴースト・ダンス (ghost dance)』 by ジャイルズ / ミューア / カニンガム (michael giles / jamie muir / david cunningham)


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ゴースト・ダンス (ghost dance)』 by ジャイルズ / ミューア / カニンガム (michael giles / jamie muir / david cunningham)

「デヴィッド・カニンガムが80年代に設立したレーベル、ピアノ復活第二作。
元キング・クリムゾンのマイケル・ジャイルズ、ジェイミー・ミューア、そしてデヴィッド・カニンガムというユニークな顔ぶれによって制作された同名の実験映画のサウンドトラック。」

1 ゴースト・ダンス ghost dance 5.41
2 スクラッチング・ザ・カーヴ scratching the curve 1.35
3 スピラーズ・ヴィレッジ spillers village 7.27
4 カスケイド cascade 3.52
5 スクリーンウォッシュ screenwash 2.51
6 マウスワーク mouthwork 2.45
7 スネイク・ダンス snake dance 2.05
8 ザ・ムーヴィング・シンバル the moving cymbal 2.51
9 メタルワーク metalwork 1.29
10 スロー・モーション slow motion 1.46
11 カーゴ cargo 2.52
12 パスカル pascale 2.01
13 ブルー・ダンス blue dance 6.01
14 ゴースト・ダンス・リプライズ ghost dance reprise 4.55
15 ザ・トライアル the trial 6.34

michael giles : kit drums, assorted percussion, mouth horns, mouth reeds, bow, voice, keyboard
jamie muir : assorted percussion, hand drums, bow, thumb piano, mouthpiece, conch
david cunningham : loops treatments, guitar, occasional percussion

recorded 3 - 6 1983
mixed and reworked 10, 11 may and 5 september 1983

all compositions giles / muir / cunningham

compiled for CD by michael giles and david cunningham july 1995
photographic image by jamie muir
splash images delivered from 'ghost dance', a film by ken mcmullen with leonie mellinger, pascal ogier, robbie coltrane, dominique pinon with the participation of jacques derrida and stuart brisley
design jon wozencroft

the recording contains analogue tape distortion, noise and hiss which besides being unavoidable at times plays an integral part in the music

thanks to ken mcmullen, robert hargreaves, mark lucas, jane thorburn, rob ayling

PIANO 52

(P) 1995 giles / muir / cunningham
(C) 1995 giles / muir / cunningham

[ぼくが購入した日本盤CDには、小山景子 (Keiko Koyama)による『ゴースト・ダンス英文ライナー・ノーツ訳』と市川哲史 (Tetsushi Ichikawa) [音楽と人 (Ongaku To Hito)]の解説が封入されている。]
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