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2020.04.28.08.49

かいだんのぼりりゅう

その映画のタイトルバックとして流れる出入り、剛田組 (Gouda Organization) に殴り込んだ関東立花一家 (Kanto Tachibana Organization) の闘いぶりをみて、ぼくはあるマンガ作品を想い出してしまったのだ。
マンガ『群竜伝 (Gunryuden)』 [作:本宮ひろ志 (Hiroshi Motomiya) 1972週刊少年マガジン連載] である。
なぜならば、諸肌を脱いだ関東立花組 (Kanto Tachibana Organization) の一頭が横一列に並ぶと、彼等の背に彫り込まれた刺青 (Japanese Tattoo) が1匹の (Japanese Dragon) となって顕れるからである。

そのマンガ作品には、数奇な運命に導かれて結成されたある野球チーム9人の背に、刺青 (Japanese Tattoo) が彫られてあって、彼等が一堂に解すれば、やはりそこにも1匹の (Japanese Dragon) が顕れるのだ。
そのマンガ作品は、その作品と期を一にして連載が始まったマンガ『アストロ球団 (Astro Kyuudan)』 [原作:遠崎史朗 IShiro Tozaki) 作画:中島徳博 (Norihiro Nakajima) 19721972週刊少年ジャンプ連載] によく似ている。どちらも、読本 (Yomihon) 『南総里見八犬伝 (Nanso Satomi Hakkenden)』 [作:曲亭馬琴 (Kyokutei Bakin) 18141842年刊行] に想を得たモノで、その読本(Yomihon) 上では集う8犬士 (Eight Dog Swordsman) の身の証が、珠 (Orb) と牡丹型の痣 (Peony Shape Bruise) であるのと同様に、マンガ『アストロ球団 (Astro Kyuudan)』のアストロ球団員達 (Members Of The Astro Baseball Team) の9名には、ボール型の痣 (Baseball Shape Bruise) があり、マンガ『群竜伝 (Gunryuden)』の9人には (Japanese Dragon) の刺青 (Japanese Tattoo) があるのである。
そんなマンガ『群竜伝 (Gunryuden)』の結構とそっくり同じ構図をぼくはその映画『怪談昇り竜 (Blind Woman's Curse)』 [石井輝男 (Teruo Ishii) 監督作品 1970年制作] に発見してしまったのである。

勿論、それぞれの作品の制作年をみれば、どちらがどちら、なのかはすぐに解る。
また、解ったところで、それをもって一方の立場に則って、他方を非難する所以もないであろう。
ただ、この映画には、そんな他の創作作品との相互関係 [って謂えば良いのであろうか] をいくつかみてとる事が出来るのである。

例えば、その映画の登場人物のひとり、青空一家 (Aozora Organization) を擁する山高帽の兄 (Aozora) [演;内田良平 (Ryohei Uchida)] の異装だ。派手で悪趣味とは謂えそれなりの品位を保っている上半身でありながらも、その下半身は赤褌 (Red Fundoshi) 1丁を履いただけだ [本来ならば、彼を含めた三つ巴の闘いが起こるべきなのに、物語中盤以降、彼の存在は忘れ去られてしまう。以降はお互いが性格は似たモノ同士と認ずる谷正一 (Tani Shouichi) [演:佐藤允 (Makoto Sato)] が活躍する事となる]。ぼくからみれば、それはマンガ『ハレンチ学園 (Harenchi Gakuen)』 [作:永井豪 (Go Nagai) 19681972年  週刊少年ジャンプ連載] の登場人物のひとり、丸ゴシ先生こと荒木又五郎 (Matagoro Araki aka Marugoshi) である。本作には、その漫画作品のTVドラマ『ハレンチ学園 (Harenchi Gakuen)』 [原作:永井豪 (Go Nagai) 19701971/a>年 東京12チャンネル系列放映] に於いて、吉永小百夫ことヒゲゴジラ (Sayuri Yoshinaga aka Higegodzilla) を演じた大辻伺郎 (Shiro Otsuji) が達 (Senba-tatsu) の役で登場しているから、余計にそう想う。
しかしながら、その達 (Senba-tatsu) が吉永小百夫ことヒゲゴジラ (Sayuri Yoshinaga aka Higegodzilla) よろしく、髭もじゃで虎革 (Tiger Fur) 1枚の原始人ルック (Primitive Man's Fashion) で登場している訳ではない。
寧ろ、丑松 (Ushimatsu, Hunchback Dancer) [演:土方巽 (Tatsumi Hijikata)] の方が、吉永小百合夫ことヒゲゴジラ (Sayuri Yoshinaga aka Higegodzilla) に近い [そして何故だか、丑松 (Ushimatsu, Hunchback Dancer) は女子高生 (Female High-school Student) が穿く様なハイソックス (Knee Socks) を穿いている]。そして、当然の如く、土方巽 (Tatsumi Hijikata) は同じ監督の映画作品『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間 (Horrors Of Malformed Men)』 [石井輝男 (Teruo Ishii) 監督作品 1969年制作] の生残りの様な様相、立ち居振る舞いを演じているのだ。

その映画は、表題に怪談 (Ghost Story) と謂う文言が躍っているが、果たしてその文字を信じて良いのか悩む。
恐怖譚のかたちを借りた任侠映画でもないし、さりとて、股旅モノのかたちを借りた怪奇映画でもない。
ぼくが知っているモノのなかに最も似ているのは、かつてティービーエステレビ (TBS : Tokyo Broadcasting System Television, Inc.) 系列の土曜21時枠で放映されていたドラマ、TV番組『キイハンター (Keyhunter)』 [19681973年放映] から始まってTV番組『Gメン '75 (G-Men '75)』 [19731982年放映] に至るその枠の、お盆の時季に放映されていた幾つかの物語である。
つまり、そこにあるのは、便法としての怪異であり恐怖であると同時に、便法としての勧善懲悪 (Poetic Justice) や生者必滅 (All Living Things Must Die) なのではある。
だからと謂って、その映画は必ずしも勧善懲悪 (Poetic Justice) に徹し切っている訳でもない。

この映画の物語には、おもての物語とうらの物語、このふたつがあるとみるべきなのだろうか。
おもての物語とは、関東立花一家 (Kanto Tachibana Organization) が実効支配している宮場のシノギを巡る対立であり、関東立花一家 (Kanto Tachibana Organization) の配下でありながらも土橋組 (Dobashi Organization) のちからを借りて彼等を亡き者とせんと暗躍する達 (Senba-tatsu) の物語である。
うらの物語とは、物語冒頭の出入りの場に於いて、兄である剛田組々長 (Gouda) [演:加原武門 (Bumon Kahara)] の命と自身の視力を奪った立花明美 (Akemi Tachibana) [演:梶芽衣子 (Meiko Kaji)] への復讐に燃える盲目の女侠客、剛田藍子 (Aiko Gouda) [演:ホキ徳田 (Hoki Tokuda)] の物語である。

と、綴ってしまうと各方面から違和を表明されるのかもしれない。
映画の主人公は、関東立花一家 (Kanto Tachibana Organization) の再興を誓う立花明美 (Akemi Tachibana) であろう、と。
だが、果たしてそうなのか。

おもての物語を支配する論理は、筋、すなわち義理と人情の世界である。そして、己の信ずる筋 [義理と人情] に従って、誰もが行動しようとする。立花明美 (Akemi Tachibana) の乾分の寛吉 (Kantaro) [演:砂塚秀夫 (Hideo Sunazuka)] や、彼女が服役中に出逢った元女囚達は勿論であるし、彼等に相対立する土橋組組長 (Dobashi) [演:安部徹 (Toru Abe)] も彼に媚を売る達 (Senba-tatsu) もその陰画として、その論理に支配されている。
それに対して、うらの物語を支配するのは、謂うまでもなく、怨みである。立花明美 (Akemi Tachibana) を仇敵と狙う剛田藍子 (Aiko Gouda) がそうであるのは勿論、剛田藍子 (Aiko Gouda) を慕う丑松 (Ushimatsu, Hunchback Dancer) もうらの物語での登場人物なのである。そして映画の題名に躍る『怪談 (Ghost Story)』の殆どが、彼女の歓心を買う為に丑松 (Ushimatsu, Hunchback Dancer) が仕掛けたモノなのだ。

[雑に、と同時に過大評価した視点を得てしまうと、歌舞伎 (Kabuki) 『仮名手本忠臣蔵 (Kanadehon Chushingura)』 [作:二代目竹田出雲 (Takeda Izumo II.)、三好松洛 (Miyoshi Shoraku)、並木千柳 (Namiki Senryu I.) 1748年初演] と歌舞伎 (Kabuki) 『東海道四谷怪談 (Tokaido Yotsuya Kaidan)』 [作:鶴屋南北 (Tsuruya Namboku IV.) 1825年初演]、このふたつの作品世界で構成されている世界観を、それらとは全く異なる物語でもって、1本の映画作品に強引に纏めてしまった、とも謂えるのだろうか。]

そして、"主人公"立花明美 (Akemi Tachibana) は、そのふたつの物語の狭間にいて自身の立場を一向に明瞭にし得ないのである。翻弄されているといっても良い。
宮場を護るべき関東立花一家 (Kanto Tachibana Organization) の親分として血気に逸る寛吉 (Kantaro) 達を常に押し留めているのも彼女であるのならば、「猫の呪い (Black Cat's Curse)」に怯えているのも彼女なのだ。
それが、ふたつの物語が語られていくと共に、自身が逼迫し、ある決断を下さざるを得ないところまで彼女は追い込まれる。
それはこれまで我慢に我慢を重ねてきたその末の顛末の様にも看做せるが、実はそうではない。やくざ家業から足をあらった三井丈太郎 (Jutaro Mitsui) [演:加藤嘉 (Yoshi Kato)] の死、つまりふたつの物語のそとにあるべき人物達までもが自身を巡るふたつの物語に陥れられたからである。
その時点になって漸く、立花明美 (Akemi Tachibana) はふたつの物語の主人公となり得る、否、引き受けざるを得なくなる。

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タイトルバックの前、彼女の初登場シーンをみてみよう。
激しく降りつける雨のなかを、雨笠に蓑の出立が顕れて、名乗りをあげる。女の声だ。そしてその口上が終わるや否や、伏せていた面の面をあげる。
その映画は、そうして始まる。
その女こそ、本作の主人公である立花明美 (Akemi Tachibana) ではある。
が、しかし妙に若い。否、幼くみえるのだ。

タイトルバック直後に、彼女は同室の女囚達に向かって仁義を切る (To Make A Formal Salutation) 訳だが、その際の声も態度も、どこか生硬なモノに、ぼくにはみえる。

この幼くみえるその顔がこの映画のあるときに全く異なった表情を伴って顕れる。ぼく達はその時をみる為に、この作品を観るべきなのかもしれない。

次回は「」。

附記 1. :
本作の制作元である日活 (Nikkatsu)この頁をみると、あたかも、剛田藍子 (Aiko Gouda) が主人公である様なかたちで物語が紹介されている。
また、本作の英語題名をみると、その剛田藍子 (Aiko Gouda) が、物語の主人公ないし、『怪談 (Ghost Story)』の演出者であるかの様な印象を受けるが、実はそうではない。結末までみとどければ、彼女もまた、その呪いの被害者である事が解る。

附記 2. :
この映画では呪われる側、恨まれる側を演じた梶芽衣子 (Meiko Kaji) は後年、自身のいくつかの代表作、例えば映画『女囚701号 / さそり (Female Prisoner 701 : Scorpion)』 [原作:篠原とおる (Toru Shinohara) 伊藤俊也 (Shun'ya Ito) 監督作品 1972年制作] や映画『修羅雪姫 (Lady Snowblood)』 [原作:小池一夫 (Kazuo Koike) 藤田敏八 (Toshiya Fujita) 監督作品 1973年制作] で演じるのは、怨む側、呪う側である。
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