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2020.03.03.08.54

ともよ

同名異曲 (The Same Name But Different Songs) が幾つもある様なのだが、拙稿で取り上げるのは岡林信康 (Nobuyasu Okabayashi) の楽曲である。
1968年、彼のデヴュー・シングル『山谷ブルース (Sanya Blues)』B面曲として発表されて、後に彼のデヴュー・アルバム『わたしを断罪せよ (Behead Me)』 [1969年発表] に収録された楽曲『友よ (Dear Friend)』である。
ここで綴るのは、そんな事実関係から離れた、この楽曲とぼく自身との遭遇について、である。

ぼくがこの楽曲の存在を知ったのは、マンガ『共犯幻想 (Kyouhan Gensou : Complicity Illusion)』 [原作:斎藤次郎 (Jiro Saito) 作画:真崎守 (Mori Masaki) 19721973週刊漫画アクション連載] に於いてである。
だから、楽曲としての遭遇はもっと後の事である。マンガ (Manga) と謂う媒体では音楽そのものに接する事は出来ないのだから。その作品で語られている物語の、状況の説明として、もしくは、その際の登場人物の感興の一貫として、その楽曲が登場するのだ。
いや、正しくは楽曲として、ではない。文字として、ことばとして、詩作品として、歌詞の一部が引用されているだけだ。

上の段落を読むと、とっても単純な事柄を極めて遠回しに述べているだけの様に感ずるだろうが、ぼく自身としてはきっと、そんな簡単明瞭な事実に辿り着くのに、迂遠した道のりを辿ってしまったのだろう。

マンガ『共犯幻想 (Kyouhan Gensou : Complicity Illusion)』 に、楽曲『友よ (Dear Friend)』は、次の様なかたちで登場する。

物語は、自校の時計台 (Watch Tower) に籠城する男女4人の学生達の、彼等それぞれが何故、そこにいるのかを回想し他の3人に語り出す事によって、始まる。
彼等が籠城している直接の動機は、第一義的には、学校のありかたへの異議である。しかし、突き詰めて各自が自身に秘めている動機と謂うのは、別のところにあった。そして、その結果、彼等が語るモノは自ずと現在の自身のあり方を決定せしめたある事件に関して、となったのである。
明朝、警官隊が彼等を捕縛する為に時計台 (Watch Tower) へ突入してくる事は解りきっている。その最後の1夜を、彼等はその様に過ごすのである。
篭城当初は、彼等4人の他に、もっと数多くの学生達がそこにいた。日を経る事によって、時間がたつ事によって、その人数は徐々に減じていく。だから、その4人もそうであっても不思議ではない。その4人もそうする事が出来るのにも関わらずに、未だにそこにいる。そして問う。いま、ここを立ち去ればおのれの安全は保証されている。何故、自分自身を含めてのこの4人はここにこうして遺っているのだろうか、と。
そのひとり、柊幸夫 (Yukio Hiiragi) の場合はこうである。
彼はピアノ (Piano) の才能を認められ、彼が通う音楽教室の講師から厳しい課題を課せられていた。その厳しさから、音楽教室の生徒はひとり去りふたり去り、その結果、生徒は彼1人だけとなってしまう。にも関わらずに、それとも、それ故と謂うべきなのだろうか、教師の教えはさらに過酷なモノとなっていく。そんな厳しさに耐えかねたのかある日、彼は降りるべき駅を通過してしまい、新宿 (Shinjuku) まで出てしまう。そして、これまで彼が接してきた音楽のあり方とは全く異なる音楽の光景に遭遇するのである。新宿駅西口 (Shinjuku West Exits) の一角を占拠して演奏している若者達のむれ、新宿フォークゲリラ (Shinjuku Folk Guerrilla) である。『友よ (Dear Friend)』と謂う楽曲は、彼等が歌い奏でる楽曲のひとつとして、この作品に先ずは登場するのだ。
その光景とそこで歌い奏でられる楽曲群に圧倒され、感動した彼は、ピアノ (Piano) を捨てる決心をする。アコースティック・ギター (Acoustic Guitar) を買い、翌日から彼等とともに、ギター (Guitar) を奏でて歌うのである。
そして、ある日に、破滅が訪れる。
新宿フォークゲリラ (Shinjuku Folk Guerrilla) を含む、新宿駅西口 (Shinjuku West Exits) にたむろする若者達を排除すべく、機動隊 (Riot Police Unit) が投入されるのである。その騒乱のなか、彼は右掌2指を喪う。
流れる血のとまらない右掌指元を抱え、彼は、傷みに悶える。肉体の痛みばかりではない、彼にとってのピアノ (Piano) とその為の才能の行方はここで完全に絶たれたのだ。そして、彼が新たに出逢ったギター (Guitar) と謂う可能性さえも。
その様を描く見開き2頁1コマの描写の、背景のひとつとして、『友よ (Dear Friend)』の歌詞が引用されているのである。
「よあけはちかい (Right Before Dawn)」と。

ところで、この作品を通じてこの楽曲を知ったぼくは、後に、その曲そのものを聴いて、愕然としてしまったのだ。
こんな曲だったのか、と。
ぼくのなかで未だ聴かざるその楽曲は、もっと冷酷にしてかつ峻烈たる表情をしている筈なのだ。
だが、実際は。
その楽曲を初めて聴いたぼくの耳には、あまりにも素朴で、あまりにも朴訥として、あまりにも茫洋としたモノとして響いてしまっているのである。
つまり、その作品を読む事によってぼくは、未だ歌われざるもうひとつの『友よ (Dear Friend)』と謂う楽曲を、自身のなかに創造してしまったのである。
そして、ぼくの『友よ (Dear Friend)』をもって、現実に岡林信康 (Nobuyasu Okabayashi) に歌われている楽曲『友よ (Dear Friend)』とを比較し、失望してしまっているのだ。
これはぼくの『友よ (Dear Friend)』ではない、と。

さて、その作品の中では柊幸夫 (Yukio Hiiragi) 自身の物語は、ここからをもって、つまり2指の喪失をもってようやく発端となる。だから、『友よ (Dear Friend)』と謂う楽曲はその前奏曲 (Overture) として位置づけられるのかもしれない。

実際に、彼を含めて篭城している4人がいる時計台 (Watch Tower) は、もうまもなく朝を迎えんとしているのだ。

そう謂った物語上での役割を除外した上で、この作品が発表された当時、楽曲『友よ (Dear Friend)』のこの作品での起用をどの様なモノとして、読者は受け止めたのだろうと、ぼくは想像する。
つまり、その楽曲がもたせられていた印象の範囲内のモノなのだろうか、それとも、と謂う様な事なのである。
この楽曲を聴き馴染んでいたヒトビトにとって、納得のいく起用だったのか、予想外のモノだったのだろうか、と。

逆に謂えば、この作品のふたりの作者、すなわち、原作者と作画家は、その楽曲の果たすべき役割を、従来通りのモノとして作品内に投下したのか、さもなければ、新たな解釈をもって投下したのだろうか、とぼくは考え込んでしまうのである。

何故ならば、それ如何によっては、ぼくのこの作品への、否、そのなかで彼自身によって語られている柊幸夫 (Yukio Hiiragi) の物語への、評価事態が危うくなってしまうのだから。

次回は「」。

images
[上掲画像は、その後の彼を描いたモノだ。死に瀕している講師の許に訪れ、彼に課題曲として与えられた楽曲を、喪われた2指をも駆使して披露せんとする]。

附記 1. :
いつもの本ブログ上の記事であれば、なんらかのかたちをもってある楽曲が記事上に登場する場合は、その楽曲自体を試聴出来る様に、関連サイトへのリンクタグをつけている。拙稿では、その楽曲が未知のモノであった事に関して綴っている為に、その楽曲に関しては、その歌詞を掲載してある関連サイトへのリンクタグとなった。

附記 2. :
他の4人の拉致被害者 (The Abductions Of Japanese Citizens From Japan) と共に、曽我ひとみ  (Hitomi Soga) が帰国した2002年の事である。その際の万感を込めて、彼女は1篇の詩を発表する。そして、その詩に共感した少なからぬヒト達が、その詩を基に新たな曲をおこしたのである。
幾つかのTV局のいくつかの報道番組で、作曲者自身の演奏によるその楽曲の幾つかをぼくは聴いた憶えがある。あらためて、ここで強調するが、作曲者も楽曲も複数だ。極端な表現をすれば、チャンネルを切り替えれば、あらたな作曲者が登場し、あらたな楽曲を披露してくれるのだ。
つまり、たった1篇の詩から、幾つもの新曲が誕生したのである。
そして、どの曲も全く異なる曲調、全く異なる旋律を携えている。
この件に関して当時、いろいろな事を考えさせられたが、ここではたったひとつの事だけを指摘しておく。
ことばは時に音楽を紡ぐ事がある。しかし、そこから産まれ得るモノは必ずしも、絶対的な存在、唯一のモノではない。そのことばがはらんでいた数多くの可能性のなかから、作曲者の恣意に基づいて育まれたモノなのである。
音楽からみれば、ことばと謂うモノは、ぼく達が考えている以上に、ちっぽけで、脆弱な存在なのかもしれない。
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