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2020.02.25.11.12

すこっと

チャーリー (Charlie) ことモンゴメリー・スコット (Montgomery 'Scotty' Scott) [演:ジェームズ・ドゥーアン (James Doohan) TV番組『宇宙大作戦 (Star Trek)』 [19661969NBC系列放映] について、彼が自身の民族としてのアイデンティティーを表出した逸話、つまり、彼をチャーリー (Charlie) ではなくスコッティ (Scotty) と呼ばなければならない理由について綴ってもいいのだが、ここに取り上げるのはもうひとりのスコット (Scott) である。
ちなみに、沖雅也 (Masaya Oki) がTV番組『太陽にほえろ! (Taiyo ni Hoero!)』 [19721986日本テレビ系列放映] で演じた役はスコッチ刑事 (Scotch) であって、チャーリー (Charlie) でもスコッティ (Scotti) でもない。

こんな映像をいつまでも憶えている。

視界を遮る様な吹雪のなかだ。そこにあるのは一面の銀世界である筈が、くらい。しろくみえるのは雪の飛沫だけ、そして、それもまた視界を遮るのである。そんな苛酷な描写を背景にして、防寒具に身を包んだおとこ達の背面がみえる。そして、そのむこうに1旒の旗が、吹雪に吹き飛ばされそうになりながらも、誇らしげに翻っている。

ロバート・スコット大佐 (Captain Robert Falcon Scott) 率いるイギリス南極探検隊 (The Antarctic Regions : The Discovery Expedition) がその目的地、南極点 (South Pole) に到達した際の状況を、描いたモノだ。そして、それはそのまま、彼等の敗北を描いたモノであると同時に、彼等が迎えねばならない死の直前を描いたモノでもある。

見開き2頁の、おそらく2色刷り、その挿画の下に、本文として、彼と彼が率いる部隊を襲った悲劇について、簡潔に記されている。そして、それを読んで、ぼくはこの実話を初めて知ったのだ。
掲載してある書物の名はもう、憶えていない。恐らく、小学館 (Shogakukan) の学年誌 (Grade Magazine) か、学研 (Gakken) の学習雑誌 (Learning Magazine)、もしかすると週刊少年漫画誌 (Weekly Manga magazine) のグラビア特集 (Special Issue On Gravue) だったのかもしれない。時季的には、ぼくが小学校低学年か、それ以下の年齢で、1960年代末から1970年代初頭の頃の事だ。

と、謂う事から綴り起こして、ロバート・スコット大佐 (Captain Robert Falcon Scott) の悲劇を詳細に語るのではない。彼等が南極点 (South Pole) に到達した際に、そこに掲げられていた旗、ノルウェー国旗 (Flag Of Norway) を遺していったロアール・アムンセン (Roald Amundsen) 率いる探検隊の栄光を語るのでもない。
ぼくが綴りたいのは、何故、その挿画を未だに憶えているのだろうか、という様な事なのである。

つまり、南極点 (South Pole) 到達と謂う業績を何故、勝者の視点としてでなく、敗者の視点でもって、記憶しているのか、そんな疑問である。と、同時に、何故、その様な視点でもって、ぼく達にそれを知らしめようとしたのだろうか、と [小学館 (Shogakukan) の学年誌 (Grade Magazine) であろうと学研 (Gakken) の学習雑誌 (Learning Magazine) であろうと、はたまた、週刊少年漫画誌 (Weekly Manga magazine) のグラビア特集 (Special Issue On Gravue) であろうと、そこにはその読者であろう少年少女への教育 (Education) ないし啓蒙 (Enlightenment) と謂う視線が、編輯 / 出版する側にあった筈なのだから]。
少なくとも、ぼくはロアール・アムンセン (Roald Amundsen) と謂う人物とその業績よりも、ロバート・スコット大佐 (Captain Robert Falcon Scott) と謂う人物とその失敗を先に知ったのだ。

ひとつには、峻烈たる自然、雪の恐怖と謂うモノがあるだろう。
ぼくは雪の少ない土地に産まれた。街の遠景としてそびえる山々はその季節になると白く染まる。そして、ぼくはその白さをただ眺めるモノとして育った。
だから、実話であるその悲劇を知ることによって、少なからずも、画面の向こうの出来事としか観る事の出来なかった幾つもの挿話、TV番組『ウルトラQ (Ultra Q)』 [1966TBS系列放映] 第5話『ペギラが来た! (Peguila Is Here!)』 [脚本:山田正弘 監督:野長瀬三摩地 特技監督:川上景司] やTV番組『ウルトラセブン (Ultra Seven)』 [19671968TBS系列放映] 第25話『零下140度の対決 (Showdown At 140 Degrees Below Zero)』 [脚本:金城哲夫 監督:満田かずほ 特殊技術:高野宏一] が描く怪異や恐怖もほんの少しではあるが、想像し理解する事が出来たのだと思う [TV番組『『ウルトラマン (Ultraman)』 [19661967TBS系列放映] 第30話『まぼろしの雪山 (Phantom Of The Snow Mountains)』 [[脚本:金城哲夫 監督:樋口祐三 特技監督::高野宏一] やTV番組『怪奇大作戦 (Kaiki Daisakusen)』 [19681969TBS系列放映] 第26話『ゆきおんな (Yukionna)』 (佐川和夫)』 [脚本:藤川桂介 監督:飯島敏宏] も、主題そのものがそれではないにしろ、背景としてそれが存在しているとも想う]。
だから、もう少し後になって体験する、南極 (Antarctic) での怪異を主題とする作品群、例えば小説『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語 (The Narrative Of Arthur Gordon Pym Of Nantucket)』 [作:エドガー・アラン・ポー (Edgar Allan Poe) 1838年刊行] や小説『狂気の山脈にて (At The Mountains Of Madness)』 [作:ハワード・フィリップス・ラヴクラフト (Howard Phillips Lovecraft) 1936年発表] を読んだり映画『遊星からの物体X (The Thing)』 [ジョン・カーペンター (John Carpenter) 監督作品 1982年制作] を観ている過程にあるぼくの脳裏のどこかにはその実話が反芻されていたに違いない。

勿論、それだけが理由ではないだろう。

そこにあるのは、1人のロアール・アムンセン (Roald Amundsen) の勝利の背後には、幾人ものロバート・スコット大佐 (Captain Robert Falcon Scott) とその敗北である。そして、多数もしかしたら無数の犠牲者があって初めて、1人の栄光が約束されたモノである。
それは解る。
そして、それを教育 (Education) ないし啓蒙 (Enlightenment) したいだろうと謂う意思の存在も決して疎かには出来ないモノだ。

images
だけれども、例えば映画『八甲田山 (Mount Hakkoda)』 [森谷司郎 (Shiro Moritani) 監督作品 1977年制作 上掲画像はこちらから] を観ると、誰1人欠ける事なく行軍を為し得た徳島大尉 (Captain Tokushima) [演:高倉健 (Ken Takakura)] 率いる弘前歩兵第三十一連隊 (Hirosaki Infantry Regiment No. 31) の物語としてではなく、全滅してしまった神田大尉 (Captain Kanda) [演:北大路欣也 (Kin'ya Kitaoji)] 率いる青森歩兵第五連隊 (Aomori Infantry Regiment No. 5) の物語として、ぼく達は認識してしまう。果たして、それで良いのだろうか。
勿論、その映画全体の尺の中では、徳島大尉 (Captain Tokushima) の達成よりも神田大尉 (Captain Kanda) の落伍に遥かに時間を割いている。少なくとも、製作者側が語りたいのは、神田大尉 (Captain Kanda) を襲った悲劇なのだ [でも、その意思のよってたつモノは果たしてなにか]。
そしてそれ故に、徳島大尉 (Captain Tokushima) の追想として、夏の闇夜にうかぶ弘前ねぷた (Hirosaki Neputa) の光景の意味を、ぼく達はもっと異なるモノとして観る事が出来ないのであろうかとも、想うのだ。
[この映画を観ると、徳島大尉 (Captain Tokushima) = ロアール・アムンセン (Roald Amundsen)、神田大尉 (Captain Kanda) = ロバート・スコット大佐 (Captain Robert Falcon Scott) と謂う安易な方程式が描けてしまう。それは片や目的達成と帰還、片や遭難と全滅と謂うだけでなく、それぞれの所与の条件が微妙に似ているのだ。]

当時、ぼく達が南極点 (South Pole) 到達の物語を悲劇として語られてしまったのは、もしかしたら、時代の趨勢ないし時代の要求だったのかも知れない。
何故ならば、それはその物語だけの事ではない。当時のぼく達は、勝者の物語ではなくて敗者の物語ばかりをみせられ聴かされ読まされてきた様な印象があるのだ。
時代の趨勢ないし時代の要求とは次の様なモノだ。
第2次世界大戦 (World War II) があってそこで敗戦し、そして、連合国軍占領下 (Occupation Of Japan) にあったと謂う様な、さらに謂えば、そこから復興し、高度経済成長 (Japanese Economic Miracle) と呼ばれる発展があったと謂う様な。
つまり、自身がかつて敗者である上にそこから脱却し、勝者へと転じようとした時代ならではの意識が働いていたのではないだろうか。そして、それを裏づけるモノとして、必死から脱却して勝ち得た少なからぬ余裕と謂うモノが影響しているのではないだろうか。

もし、そう謂う認識が妥当なモノだとしたら、今は、南極点 (South Pole) 到達の物語を悲劇としては語り得ない筈、否、そんな余裕などない筈なのだ。

次回は「」。
附記 1. :
小学校中学年のときである。ある授業が、自習時間となった。恐らく、その時季の国語の単元は誰かの伝記だったのだろう。クラス全員で図書室に赴き、そこにある伝記を各自1冊選び、その時間をその読書に充てる事となった。そこでなにを血迷ったのか、ぼくが選んだのはロアール・アムンセン (Roald Amundsen) のそれだった [その書籍の詳細、著者名や出版社名はいまはもう解らない]。口絵数頁に彼の生涯を語る写真が数点掲載されている。彼の幼年期を読みながら、なかなか本題である探検行の物語に入らない退屈さから、数頁読みすすめてはその口絵頁へと逃避する。そして、そんな事をしているうちに、その時間は終わってしまった。

附記 2.:
南極 (Antarctic) の真反対にある北極 (Arctic) 探検に関しては、ロアール・アムンセン (Roald Amundsen) も関与している。上に綴った伝記口絵頁にも、1926年に行われた彼の北極 (Arctic) 飛行の写真が掲載されている。
そして、北極点 (North Pole) 到達の物語は、 1958年の原子力潜水艦ノーチラス号 (USS Nautilus :SSN-571) の物語 [その書籍の詳細、著者名や出版社名はいまはもう解らない] を、先の図書室で借りて読んだ。人類 (Human Race) 初のそこへの到達者ロバート・ピアリー (Robert Peary) 等の物語は未読である。

附記 3. :
だからと謂って、その原子力潜水艦 (Nuclear Submarine) の航海記録が、"人類 (Human Race)"よりも先に北極点 (North Pole) 到達を目的とする怪物 (Creature) の物語である、小説『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス (Frankenstein : Or The Modern Prometheus)』 [作:メアリー・シェリー (Mary Shelley) 1818年刊行] や、そこを舞台とする映画『遊星よりの物体X (The Thing From Another World)』 [クリスティアン・ナイビイ (Christian Nyby) 監督作品 1951年制作] を観るぼくにどの様な影響を及ぼしているのかは解らない。
解っているのは、その原子力潜水艦 (Nuclear Submarine) の名称が小説『海底二万里 (Vingt mille lieues sous les mers)』 [作:ジュール・ヴェルヌ (Jules Verne) 1870年発表] に登場する潜水艦 (Submarine) から命名された事と、映画『原潜 vs. UFO / 海底大作戦 (The Atomic Submarine)』 [スペンサー・ゴードン・ベネット (Spencer Gordon Bennet) 監督作品 1959年制作] や映画『地球の危機 (Voyage To The Bottom 0f The Sea)』 [アーウィン・アレン (Irwin Allen) 監督作品 1961年制作] がその原子力潜水艦 (Nuclear Submarine) の航海がなんらかの制作動機になっただろう、と謂う事だけである。
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