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2008.12.16.20.10

けしのはなはあかくさく

芥子(Poppy)の花が紅く咲くと唄ったのは藤圭子だけれども、彼女が唄った暗いその歌を教えてくれたのは、赤塚不二夫なのかちばてつやなのか、それとも、上村一夫なのか辰巳ヨシヒロなのか、今となってはもう想い出せない。僕が憶えている事といったら、彼らがその作品の登場人物達に唄わせたその歌は、テレビやラジオで唄われていたのではなくて、当時の世相を如実に反映していたマンガ週刊誌においてだったという事なのだ。
そして、その記憶は、ある種独特の匂いと共にある。
それは、月に一度、嫌々連れてかれた理容室の、刈り取られた毛髪の匂いかもしれないし、父親に連れて行かれた雀荘で食べたラーメンの匂いかもしれない。

そして、その芥子(Poppy)の花が紅い理由を知ったのは、それからさらに十年ばかりが過ぎた頃の事だ。
ザ・フー(The Who)というロック・バンドにも、ケン・ラッセル(Ken Russell)という映画監督にも一切の予備知識もないままに観た『ロック・オペラ「トミー」(Tommy)』という映画での事である。
"戦死した"父親の追悼の為に、少年トミーは母親[アン=マーガレット(Ann-Margret)演]と共に、紅い芥子(Poppy)の花で飾った白い十字架を献花するシーンが出てくるのだ。


トミー(Tommy)[ロジャー・ダルトリー(Roger Daltrey)演]はその後、ある事件が原因で三重苦(deaf, dumb and blind)を背負い、その治療の為(?)に様々な体験をし、三重苦(deaf, dumb and blind)なるが故にヒーローに祭り上げられ、さらに、奇跡的にも三重苦(deaf, dumb and blind)から解放されたが為に聖人と崇められるが....、という物語へと発展する。そして、その物語の渦中で、度々、強迫観念(Obsessions)の様に登場するのが、紅い芥子(Poppy)の花で彩られた白い十字架なのである。
それは、父親の不在というテーゼなのかもしれない[物語ではその結果,母と息子の物語へと集約されていくのだが]。
上に紹介するのは、その三重苦(deaf, dumb and blind)の治療(?)の為に、義父[オリバー・リード(Oliver Reed)演]が手配したアシッド・クイーン(Acid Queen)[ティナ・ターナー(Tina Turner)演]が施術する不法薬物による治療のシーン。鉄の処女(Eiserne Jungfrau / La vierge de fer)を模した自働薬物注入器の中に収納されたトミー(Tommy)[ロジャー・ダルトリー(Roger Daltrey)演]が垣間観る幻覚(?)シーンでは、彼自身が紅い芥子(Poppy)の花で躯中を刺し貫かれた殉教者の様相(Sebastianus)を呈している。
そしてこの十字架のイメージは、姿形を変えて、ヒーロー~聖人と化すトミー(Tommy)[ロジャー・ダルトリー(Roger Daltrey)演]の重要なアイコンとなっていくのである。

僕は、このアイコンをずぅっと、純粋に映画的な映像演出だと思っていたら、イギリスで毎年11月11日(November 11th.)に行われる、両大戦の戦没者を追悼するポピー・デイ(Poppy Day)というのが、そのイメージの源泉でした。
そして、それを教えてくれたのがスージー&ザ・バンシーズ(Siouxsie And The Banshees)の、藤圭子あの歌以上に陰鬱な曲「ポピー・デイ…2分間の黙祷(Poppy Day : 2 minutes silence) 」[アルバム『ジョイン・ハンズ(Join Hands)』収録]でした。

僅か四行にも満たない短い詩なので、ここで拙訳を掲載します[原詩はこちらで読めます]。

フランダースの野に 十字架が並ぶ
その間隙に ひくくひくく 芥子が咲く
そして気づかされるのだ
わたし達は 既に死者なのだ、と


次回は「」。
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