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2019.08.06.14.54

うわき

興信所に、生活に疲れた乱れ髪の中年の婦人がきている。調査員が聞く。
「で、どうされました?」
「主人が ...」
「ご主人がどうされました?」
「浮気を! ワー」
泣き崩れる婦人を見て、困り顔で呟く。
「されるだろうなァ」

上に綴った、ふたりの男女のやりとりは、いしかわじゅん (Jun Ishikawa) のマンガ評論集『漫画の時間 (Time For Cartoon)』 [1995晶文社刊行] の1章『大したもんなんだもんね (It's Amazing, Isn't it!?)』から抜粋したモノである。ちなみにその章は、東海林さだお (Sadao Shoji) のマンガ『漫画文学全集 (Complete Literature Collection By Cartoon)』 [19671978週刊漫画タイムス連載] に関するモノであって、ぼくが抜粋した上のモノは、そのマンガの第1話からの台詞だけを抜粋したモノである。つまり、いしかわじゅん (Jun Ishikawa) の引用をさらにぼくが引用したモノである。
さらに補足しておけば、その引用の引用の原典は、横2段縦3段組みの6コマのマンガである。勿論、その6コマは第1話の一部を成しているモノだろう。

と、状況を整理した上で、本題に入る。
主題はいしかわじゅん (Jun Ishikawa) による評論でもなく、その対象である東海林さだお (Sadao Shoji) の作品でもなく、その6コマに顕れた「浮気」について、なのである。

さぁ、気持ちをここで切り替えよう。

最近は、浮気 (Flirt) なる語句を読みもしなければ聴きも観もしなくなった。ついでに綴れば、書きもしない。だからと謂って、そう呼ばれるべき行為や心情が、この世からなくなった訳でもない。何故ならば、その語句の代わりに大手を振って歩いている語句に、不倫 (Affair) と謂うモノがあるからだ。
つまり、浮気 (Flirt) は死語と化しているのかもしれない。そしてその地位を継承したモノが不倫 (Affair) なのかもしれない。そんな気がするのだ。

でも、どうなのだろう。
不倫 (Affair) ですっかりそのまま浮気 (Flirt) の代替が出来るのだろうか。浮気 (Flirt) で表白すべきコトを不倫 (Affair) で代弁出来るのだろうか。
微妙に、それぞれが意味しているモノ、指示しているコトにはズレが生じている様な気がする。

例えば、冒頭に掲げた男女のやりとりである。
そこにある浮気 (Flirt) と謂う語句を、不倫 (Affair) と差し替えても、大丈夫なのだろうか。

差し替えた途端に、「されるだろうなァ」と発言した「調査員」に向けて非難が集中してしまいそうな気がしてしまうのだ。
つまり、その作品の作者である東海林さだお (Sadao Shoji) が意図した笑いはそこには登場し得ないのだ。

もしそうだとしたら、作品の制作年代、その当時の世相が反映されているから、なのだろうか。
それは多分にあるだろう。
少なくとも、その作品のそのやりとりの一端を担うふたりのうちのひとり、「婦人」の描写はそれがおおきく反映されている。
何故ならば、「ご婦人は団子っ鼻で鼻毛が出ていて、こめかみに膏薬が貼ってある」からだ。いまどき、こんな容姿の「婦人」はいないだろうし、仮にいたとしてもそんな容姿の「婦人」が興信所 (Private Inquiry Agency) へは赴かないだろう。猶、大慌てで補足すれば、この「婦人」の描写はいしかわじゅん (Jun Ishikawa) の評論に顕れているモノからの引用である。
つまり、いしかわじゅん (Jun Ishikawa) の描写によれば「ご婦人は団子っ鼻で鼻毛が出ていて、こめかみに膏薬が貼ってある」のである。ぼくがその「婦人」をそうみているのではないのだ、念の為。悪しからず。

仮に、「浮気」の相談に赴いた「婦人」の容姿がそうであるのならば、「浮気」ではなくて不倫 (Affair) の相談に赴いた「婦人」の容姿は如何なるモノが相応しいのだろうか。
上のやりとりをそのままのかたちでいかす場合もあるだろうが、上とはまったく異なるかたちのやりとりが必要となる場合もあるだろう。
勿論、それはギャグ・マンガ (Comedy Cartoon) であると謂う前提にたっての事だ [その前提さえも取っ払ったところから立案してしまうと、きっと拙稿の主題である浮気 (Flirt) は凄まじく焦点が惚けたモノとなってしまう]。

ちなみに、いしかわじゅん (Jun Ishikawa) の評論はふたりのやりとりを紹介してその直後に、次の様な論を展開する。

「<前略>ぼくは確信するが、彼女の夫は、きっと浮気をするに違いないのだ。このご婦人は納得しないかもしれないが、それが現実というものなのだ。彼女にとって、それは人生の不幸であり人目も構わず泣き崩れるほどの大事件であろうが、傍観者にとっては、実はそれは笑いごとでしかない。東海林は、その喜劇である悲劇を、実に慈愛の目でもって、描くのだ。当事者も情けないかもしれないが、読んでいるほうだって情けない。どっちも情けないんだからいいんだもんね、と情けない顔でうむうむとうなずきながら肯定するのだ。」

仮に、上の引用文にある「浮気」を不倫 (Affair) に差し替えても、彼の論は果たして彼の意図する様なかたちで理解され得るだろうか。
さもなければ、彼の「浮気」に関する認識をそのまま不倫 (Affair) に関する認識へと差し替える事が可能だろうか。

恐らく「傍観者にとっては、実はそれは笑いごとでしかない」と放言してしまう事は、躊躇せざるを得なくなってしまう様な気がする。

そしてその後に登場する「情けない」と謂う形容句を使用して語られる部分は、不倫 (Affair) と謂う語句の存在によって、その論旨がおおいなる破綻を来してしまう様に、ぼくには思える。
不倫 (Affair) と謂う語句には、その様な心情を包摂し得る許容が、決してない様にぼくには思えるからなのだ。
「情けない」と謂う認識でもって、他者を許すと同時に自身に内省を促す様な行為は決して不倫 (Affair) と謂う語句は成し得ない。寧ろ、他者を断罪する行為が為に、不倫 (Affair) と謂う語句が存在している様に思えるのだ。

次回は「」。

images
上に掲載するのは浮気 (Flirt) ではなくてそれとは全く無関係のクリスチャン・コワニー / Christian Coigny撮影の『ウーメン・アウトドアズ / Women Outdoors』からの1点つまり、浮き輪 (Swimming Ring) の写真である。
ぷかぷか。
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