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2019.06.11.08.40

めめくらげ

は、マンガ『ねじ式 (Nejishiki)』 [作:つげ義春 (Yoshiharu Tsuge) 1968ガロ掲載] に"登場"する。
"登場"と表記したのには理由がある。メメクラゲ (XX-Jellyfish) は実在しない架空の生物だからだ。
しかも単に、虚構の水母 (Jellyfish) と謂うだけではない。その虚構性は2重にも3重にもなるのだ。

ひとつには、生物学上にも、もしくは文献上にも、いずれの場合もそのマンガ以外の場所で存在した事がないと謂う意味だ。神話や伝承の類いにもメメクラゲ (XX-Jellyfish) は顕れた事はない。

ひとつには、そのマンガ作品に登場するのは、物語の冒頭、主人公の独白と謂うかたちである事だ。それ以外のどこにも、メメクラゲ (XX-Jellyfish) は登場しない。つまり、誰一人としてその姿を観たモノはいないのだ。物語の中で、その形態や生態が語られる事もない。主人公の噛まれた左腕だけがその実在の証拠としてあるだけなのである。主人公を除く作中人物もその物語のなかでみてはいないし、その主人公ですら危うい。況んや、読者である我々に於いてをや、と謂う事なのだ。
しかしながら、メメクラゲ (XX-Jellyfish) の名が主人公に告げられて初めて、その物語が始まるのだ。 しかも、主人公のことばの中に顕れるその生物による、主人公の肉体に遺された痕跡こそが、これから語られるべき物語の主導権を握っているのである。

そして、ひとつには、メメクラゲ (XX-Jellyfish) と謂う生物をこの物語の中に登場せしめた張本人、すなわち、その創造主が果たして誰なのか解らない、と謂う点がある。
通常、一般的に、常識の範囲内では、作者がそれにあたる筈である。しかしながら、ことメメクラゲ (XX-Jellyfish) に於いては、果たしてそう断言して良いものか、躊躇われる。
と、謂うのは、作者は当初、メメクラゲ (XX-Jellyfish) ではなくて××クラゲ (****-Jellyfish) として原稿を提出したのだ。それが当時の編集者である高野慎三 (Shinzo Takano) の誤解、即ち誤植 (Misprint) によって、××クラゲ (****-Jellyfish) がメメクラゲ (XX-Jellyfish) とされて公開されたのである。作者はその誤植 (Misprint) を、正式なるモノとして追認しただけに過ぎない。作者は、創作者の権限を行使して作品発表後、修正も訂正も敢えてしなかったのである。
と、なると、メメクラゲ (XX-Jellyfish) の創造主は果たして、その物語の作者であるつげ義春 (Yoshiharu Tsuge) なのか、それとも、その物語の掲載誌編集者である高野慎三 (Shinzo Takano) なのか。

ところで、誤植 (Misprint) によってメメクラゲ (XX-Jellyfish) が誕生したと謂う裏話は、その作品ないしその作家のファンならばよく知るところであって、上の様な勿体ぶった表現は実は、不必要なのだ。ウィキペディア日本語版 (Japanese Wikipedia)この頁でも紹介されている。公然たる事実 (Fact Well Known To The Public) に過ぎない。

個人的には、作者が当初構想していたとおりに××クラゲ (****-Jellyfish) として公表されなくて良かった、誤植 (Misprint) された現行のかたちで発表されて良かった、と思っている。
と、謂うのは、仮に××クラゲ (****-Jellyfish) とあった場合、そこが、この作品を現実が侵犯する起点になり得るからである。××クラゲ (****-Jellyfish)、すなわち、クラゲ某 (A Certain Jellyfish) と表記する事は、その生物の実在を可能としてしまうからだ。実在する生物を前提としてその物語を語る事は、その生物が斯界とその物語を接着する事になる。それではきっと、この物語の自由度が喪われてしまうのに違いないのだ。猶、ここで謂う自由度とは、物語を語る側にとっての事は勿論だが、それと同時に、その物語を読むぼく達にとっても、と謂う意味をも含んだモノとして理解してもらいたい。

ところで、ぼくはこのメメクラゲ (XX-Jellyfish) 誕生の裏話を一体、どこで知ったのだろうか。ウィキペディア日本語版 (Japanese Wikipedia) でないのは、間違いはない。それを読む遥かな昔に知ったのは間違いはない。だが、だからと謂って、その物語を体験するそれ以前でも、その直後でもないのも確かだ。
何度も何度も、この作品を読み、そしてこの作品以外のその作者の作品を幾つも幾つも読んでいく過程で知った筈なのである。
もしかしたら、作者自身の文章なのかもしれない。だが、それを確認するすべはいまのところ、ぼくにはない [殆どの書物は押入れ奥深くに埋没しており、また仮にそこから幾つかの書物をひっぱりだしたとしても、そのどこかに掲載されている保障は一切ないのだ]。

そして、ふと思い立ったのは、もう一方の当事者である高野慎三 (Shinzo Takano) 自身の文章なのかもしれないと謂う事だ。そう謂えば、高野慎三 (Shinzo Takano) の[権藤晋 (Susumu Gondo) 名義の] 著書『つげ義春幻想紀行 (Yoshiharu Tsuge's Fantasy Travel Writing)』 [1998年刊行 文庫版『つげ義春を旅する (Taking A Journey In Yoshiharu Tsuge's)』 2001年刊行] は、掌の届くところにある。
だから読む。そして失望する。
その裏話が事実であった事を当事者の一方が事実として認めてはいる。が、しかし。
そこに登場するのはこれだけの事なのだ。

「『ねじ式』が発表されて数日後、作者と作品について雑談を交わしていた。『××クラゲ』と作者が書いたのを、私が『メメクラゲ』と勘違いして誤植してしまったことをわびたときだったかもしれない」

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ぼくは此処で筆を擱く事にする。実は、高野慎三 (Shinzo Takano) の著書『つげ義春幻想紀行 (Yoshiharu Tsuge's Fantasy Travel Writing)』に対しては憤懣遣る方無いのである。その書物では、つげ義春 (Yoshiharu Tsuge) 作品の物語の背景になった幾つもの場所を著者が訪問する。作品内に顕れた光景を捜し求め、その景観を撮影すれば、それだけで素敵な写真集になった、とぼくは思う。しかし、その著作は、それだけでは済まない。幾つもの作品の、幾つもの光景を訪ね歩く事によって、結果、つげ義春 (Yoshiharu Tsuge) 作品に隠された幾つもの事実を明かしていく。つげ義春 (Yoshiharu Tsuge) 作品に感化された数多くのヒトビトにとっては、これ以上もない副読本である。にも関わらずに、ぼくはその著作に不平不満だらけ、なのだ。客観的には素晴らしい作品であるべきの筈なのに。まるで、マンガ『リアリズムの宿 (Realism No Yado : Inn By Realism)』 [1973株式会社双葉社 『漫画ストーリー』掲載] の主人公の様に、自身のなかにわだかまるモノの、その向かうべき場所を見出せずにいつまでたってもそのモノとそのモノからわきおこる自身の感情に翻弄されているのだ。と、綴ると、ヒトは、虚構作品のなかに顕れるその世界観をずるずると現実にひきずりだされ白日のもとに晒されたと感じるからだろう、それが面白くないのだ、おまえの謂う「この物語の自由度が喪われてしまう」なのだろう、と思うかもしれない。しかし、そうではない。著者の、作品やその作者への距離の置き方がぼくにとっては好ましいモノに思えないのだ。一言で謂えば、著者は作者に近すぎる。作家とその担当編集者として培ってきた長年の交流のその結果が、如実に披露されているのが、ぼくには耐えられないのだ。もしかしたら、作家と一面識もない様な人物の掌によって、その著作が企画され執筆された方が良かったのかもしれない。さもなければ、××クラゲ (****-Jellyfish) をメメクラゲ (XX-Jellyfish) と誤植 (Misprint) してしまった感性を自身の著作物に於いても発揮してもらいたかったのだ。マンガ『リアリズムの宿 (Realism No Yado : Inn By Realism)』に関して綴ったこの駄文のなかで、ぼくはこう綴った。「この作品を読むとぼくはいつも、作品と作者との距離を考えさせられてしまうのである」と。それと同様の問題がその著書にも潜んでいる様にぼくは思うのだ。というようなことを書こうかと思ったが、そう書くことは拙稿の主人公、メメクラゲ (XX-Jellyfish) に対して少し惨酷な気がしたため、ここで筆を擱く。

次回は「」。
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