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2019.03.19.08.53

ひのひでしのげんしょくのことう

とにかくこわかった。そして、そのこわさをどうかたったらよいかがわからない。

現在のぼくならばその作品の一読後、小栗虫太郎 (Mushitaro Oguri) の折竹孫七 (Magoshichi Oritake) の人外魔境 (Ominous Place Outside The Human World) シリーズ にも、香山滋 (Shigeru Kayama) の人見十吉 (Jyukichi HItomi) を主人公に据えた秘境探険小説 (Adventure Fiction In Land Of Mystery) にも、比して語る事も出来るだろう。
さもなければ、その物語の構造に、小説『瓶詰の地獄 (Hell In A Bottle)』 [作:夢野久作 (Yumeno Kyusaku) 1928年発表:こちらも参照の事] との類似点をみいだしているかもしれない。

だが、初めてその作品を読んだ時は、上に挙げた様な作家もその作家の作品群も知らない。
そのマンガ『幻色の孤島 (Genshoku No Kotou)』 [作:日野日出志 (HIno HIdeshi) 1971少年キング掲載] を読んだのは雑誌掲載時の事で、当時のぼくは小学生だった。

物語は、いずことも知れぬ孤島 (Solitary Island) から始まる。そこで意識が回復した主人公は、自身の記憶を一切喪っている。ここがどこなのかわからない。じぶんがだれなのかわからない。そして、これからここでどうしたらよいのかわからない。
読者であるぼくは、その主人公と同化した様に、彼の彷徨うがままに、ぼく自身も彷徨う。

孤島 (Solitary Island) の奇観の描写はたしかに怖い。しかし、その怖さがどこからくるのかよく解らない。
その作品には恐竜 (Dinosaur) 然とした怪物が登場するが、冷静に観ると、その怪物の造形もそれを描写する筆致も決して、怖ろしさが先にたつものではない。
例えばマンガ『ウルトラマン (Ultraman)』[作:楳図かずお (Kazuo Umezu) 19661967週刊少年マガジン連載] に登場する怪獣 (Kaiju) 達から沸き起こる怪奇性は、その作品に登場する怪物 (Monster) 達には決してないのだ。むしろ、牧歌的で幻想的な佇まいすら示している。
にも関わらずに、怖いのである。
だから、楳図かずお (Kazuo Umezu) が呈示する怪奇や恐怖とは、全く異なるモノがそこにあるといって良い。

主人公は孤島 (Solitary Island) を流離ううちに、ある城壁 (Castle Wall) の下へと辿り着く。人間が棲んでいる。その悦びのままにたすけを乞うも、逆に城壁 (Castle Wall) の上から攻撃されてしまう。その結果、彼は腕を負傷し、その傷は癒える事なく、腐敗してしまう。主人公は隻腕となっしまうのだ。

主人公が意識を回復し、そして隻腕となるそれまでの間、物語の背景のひとつとして幾度となく死が登場する。そしてその死は、常に腐敗や排泄とともにある。しかもそれらのひとつひとつどれもが、あざやかな色彩をもって登場するのだ。作品の題名にある「幻色 (Coloured By Illusion)」の由来はここにあるのだろう。
もしかしたら、ぼくの感じる怖さはここに帰依するモノなのかもしれない。つまり、死と密接に結びついた異臭であり、そしてその異臭が幻想的な、耽美な色彩をもって認識させられているからだ [しかも、それは1色刷りの印刷物から、だ]。

主人公は、城壁 (Castle Wall) から投棄される汚物や腐肉を喰い漁って、その生命をかろうじて維持している。ある時、彼はある人物と遭遇し、その人物から城壁の内部へ入るある手段を教わる。
そして、物語は突然、ぼくの理解の及ばない点へと横着する。

舞台は一転し、四畳半 (Four And A Half Tatami Mats) にある座卓で執筆に勤しむ青年の姿がある。
彼は書き終えたばかりの文章が綴られているその用紙を幾度か折り、紙飛行機 (Paper Plane) をつくる。
そして、彼は紙飛行機 (Paper Plane) を部屋の窓から、そとへと飛ばすのである。

その物語を読み終えたぼくは混乱した。そして、その混乱の記憶ばかりがこの作品の印象として遺っている。
それまで孤島 (Solitary Island) を彷徨っていた主人公はどこへ行ったのか、その青年は誰なのか、もしかすると、その青年がすなわち孤島 (Solitary Island) を流離っていた主人公なのか、それならば、何故、五体満足なのだろう、主人公は城壁 (Castle Wall) からの攻撃で傷つき、腕をひとつ、喪っているのだ。

ひたすら混乱し続けている小学生のぼくには、現在のぼくがこう教える事も出来るだろう。
物語前半の孤島 (Solitary Island) での逸話は、青年の創作なのだ、と。
そしてその創作をしたため終わった彼がその文章を、紙飛行機 (Paper Plane) として虚空へ飛翔させたのだ、と。

合理的な解釈をその作品に施そうとすれば、それは決して難題ではない。
そして、そこから考えねばならない事があるとしたら、青年が綴る孤島 (Solitary Island) での逸話が意味するモノはなにか、と謂う程度の事だ。これも決して難しくはない。
ある人物から教わった城壁 (Castle Wall) の内部へとはいるある手段が、その理解の一助となるに違いない。

images
しかし、そんな常識的な理解を阻むモノが上掲のコマなのだ。
ようやくのことで、城壁 (Castle Wall) のなかに潜入できた主人公がみた景色である。
上空に漂う異様な気配こそ、その孤島 (Solitary Island) ならではのモノだ。しかし、その下に拡がる光景は、青年が棲む場所のそれ、作品発表当時の日本のどこにでもある様な街並みなのである。

もしかしたら、この街並みのどこかで青年は暮らしており、いつか孤島を彷徨った主人公と邂逅するやもしれない ...、そんな余韻すらもたたえているのである。
青年の立場からみれば、自身の創作物のなかの、空想上の登場人物と遭遇する事となる。

次回は「」。

附記 1;
現在、単行本『幻色の孤島 (Genshoku No Kotou)』 [1972虫コミックス刊行] に収録されているその作品の冒頭1頁は、ペンを持つある人物の掌と、その人物が綴りつつある文章がおおきく描かれている。そこでの描写はそのまま、その物語の最終部へと素直に直結している。
しかしながら、ぼくのあやふやな記憶を信頼すれば、雑誌発表時にはその頁はなかった。物語は現行の2頁目、すなわち孤島 (Solitary Island) の情景から始まっているのだ。
ぼくの記憶があやまっているのか、それとも単行本収録時に於いて加筆されたのか [お解りの方は是非、ご教授下さい]。
いずれにしても、この頁の存在の有無によって、この作品の解釈がおおきく左右する様な気がする。勿論、その1頁がない方が、作品解釈の恣意性は読者におおきく委ねられるのである。

附記 2.:
当時のぼくを怖がらせた日野日出志 (HIno HIdeshi) の他の作品に出逢うのは、それから10年近くも後の事である。何故ならば、そのマンガ家の作品が、通常の少年誌に掲載される事が殆どなかったからである。
ふと立ち寄ったある書店のマンガ・コーナーでようやく出逢えた。しかもその書籍を手中にして、すぐにマンガ『幻色の孤島 (Genshoku No Kotou)』で味わった恐怖を憶い出した。ずっと忘れていた怖さ、記憶や体験から封印していた怖さである。
その時に、ぼくの掌にあったのは、単行本『蔵六の奇病 (Zouroku No Kibyou)』[1976ひばり書房刊行] であった。
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