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2019.02.26.08.39

かいだんへびおんな

その映画のポスターやスチル写真をみると、花嫁 (Bride) 姿の若い女性の柔肌のその一部に蛇鱗 (Snake Scales) がみとめられる。その花嫁 (Bride) は蛇体 (Snake's Body) と化しつつあるのだ。
しかし、その作品を実際にみると解る様に、その花嫁 (Bride) が映画題名にある蛇女 (Snake Woman) なのではない。

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映画『怪談蛇女 (Snake Woman's Curse)』 [中川信夫 (Nobuo Nakagawa) 監督作品 1968年制作] はユーチューブ (Youtube) で観た。削除されていなければこちらで観る事が出来るだろう。
[上掲画像はこちらから。]

ちなみにぼくはその映画を体験する前日、ユーチューブ (Youtube) で映画『女吸血鬼 (Lady Vampire)』 [中川信夫 (Nobuo Nakagawa) 監督作品 1959年制作] を観ていたのだ。その映画作品が体験出来るこちらのページの右側に幾つも掲載されている「あなたへのおすすめ (REcomended For You)」のひとつに映画『怪談蛇女 (Snake Woman's Curse)』があったのである。恐らく同じ監督の作品である故なのだろう。

映画『怪談蛇女 (Snake Woman's Curse)』は、狭い隧道 (Tunnel) を1台の馬車 (Coach) がはしりぬけるシーンから始まる。そしてその馬車 (Coach) にとりすがる様に並走するひとりの農民の姿がある。馬車 (Coach) には地主 (Landlord) の大沼長兵衛 (Cyobei Onuma) [演:河津清三郎 (Seizaburo Kawazu)] が乗っていて、借金のかたとして僅かばかりの土地を取り上げられた小作人 (Peasant) の弥助 (Yasuke) [演:西村晃 (Ko Nishimura )] が、地主 (Landlord) に慈悲を乞い懇願しているのである。
「土かじってでも借金はお返ししますから (I'll Pay Back, Even If We Eat Soil)」と。
そしてこの台詞は物語が語られている間、常にその小作人 (Peasant) によって叫ばれ続ける。つまり、映画の鑑賞者であるぼく達も、その叫びをずっと聴き続ける事になるのである。

物語は、狭い隧道 (Tunnel) の向こうにある村落を舞台として語られる。そして、物語の登場人物達はその隧道 (Tunnel) の向こうへと出る事はない。
この構造は、同じ監督の映画作品『地獄 (The Sinners Of Hell)』 [中川信夫 (Nobuo Nakagawa) 監督作品 1960年制作] と共通している。映画『地獄 (The Sinners Of Hell)』では物語の舞台は鉄路 (Railroad) の向こうにあって、物語の登場人物達は鉄路 (Railroad) の向こうで死ぬ。誰一人として生きて鉄路 (Railroad) の向こうから帰ってくるモノはいない。つまり、その鉄路 (Railroad) が、此岸 (This World) と彼岸 (The Other World) を隔てる境界 (Boundary) となっているのである。
映画『怪談蛇女 (Snake Woman's Curse)』では、その役割を隧道 (Tunnel) が務めていると解する事が出来るだろう。

と、あっさりと結論づけると途端に異議が発せられるに違いない。何故ならば、その映画の中で地主 (Landlord) は、警察署長 (Police Chief ) [演:丹波哲郎 (Tetsuro Tanba)]に呼び出しを喰らい、隧道 (Tunnel) のこちらへと向かうからなのだ。
だが、その作品のそのシーンをよく観てみると良い。
地主 (Landlord) を乗せた馬車 (Coach) が隧道 (Tunnel) を抜ける直前に、巡礼者 (Pilgrim) の後ろ姿が認められるのを。それに地主 (Landlord) が気づくや否や、怪異に遭遇し、恐怖のあまりに落車してしまう。映像上では、彼はその先に向かう事が妨げられるのである。
何故ならば、巡礼者 (Pilgrim) が向かう場所へ彼が赴く事は決して許されないモノなのだから。
[何故、その場面に巡礼者 (Pilgrim) が登場し、その人物はどこへ向かうのかは、物語の最終場面、旅立つ4人の巡礼者 (Pilgrims) を観る事でようやく理解出来る。]

すこし先を急ぎすぎた。
物語冒頭に視点を戻そう。

地主 (Landlord) にすがるその小作人 (Peasant) は、疲労困憊のあまりにその後、まもなく死んでしまう。そして、その死によって、遺された妻すえ (Sue) [演:月丘千秋 (Chiaki Tsukioka)] とその娘あさ (Asa) [演:桑原幸子 (Yukiko Kuwahara)] は地主 (Landlord) の許で奉公人 (Servant) として働く事になる。そこから、母娘の悲劇が始まる。
母は、地主の一人息子である大沼武雄 (Takeo Onuma) [演:山城新伍 (Shingo Yamashiro)] によって殺されようとする1匹の蛇 (Snake) を助けようとして、結果的にその息子に殺される。
身寄りのないひとりぼっちとなった娘は、その息子に犯され、それを苦にして自殺する。

その小作人 (Peasant) は死後、幽霊 (Ghost) と化して幾度か地主 (Landlord) の許に出没する。その際の彼の吐く台詞は先に述べた様に「土かじってでも借金はお返ししますから (I'll Pay Back, Even If We Eat Soil)」だ。決して、うらみつらみ、のろいの類ではない。

そしてそれと同様、自殺した娘も霊 (Spirit) となって出没するが、その際の吐く彼女の台詞は「堪忍してください (Please Be Patient Endurance)」のひとことだけなのである。うらみつらみ、のろいの言葉ではない。彼女を襲う息子に対して向けられた精一杯の抵抗の台詞なのである。

死んでしまった小作人 (Peasant) とその娘、そのどちらもが自身を追い詰めた存在に対し、敵意や悪意を示していないのである。否、示せないのである。それが通常の怪異譚や幽霊譚と、この映画がおおきく異なる点だ。
だから、題名にある「怪談 (Ghost Story)」と謂う語句に引きづられて、この作品を怖い怖くないその1点でもって評価しようとすると、恐らく辛い判定しか下されないだろう。

だが、視点を変えてこうみてはどうか。

自身を死に追い詰めた張本人達に主張できる言葉が、「土かじってでも借金はお返ししますから (I'll Pay Back, Even If We Eat Soil)」や「堪忍してください (Please Be Patient Endurance)」なのである。事情を知らないモノにとっては、相手を責めるどころか自身に非がある事を認め、それを詫びている様にしか聴こえない。否、事情を知る当事者達すなわち張本人達は、その発言を言質とし、おのれ達の行為を正当化させもするだろう。
つまり、それらの言葉は、相手の地位を脅かすどころか、その地位に甘んじる事を認め、その地位を保障しさえもする発言として機能するのだ。
生きている限り、彼等の地位や立場が好転する事は絶対にあり得ない。しかも、死してなお、その逆境は継続され、彼等2人が救済される事は決してないのである。
そこをもってぼく達は、この作品にある怖さを認め、それを評価すべきではないだろうか。

それ故に、小作人 (Peasant) とその娘は実は題名に顕れている蛇女 (Snake Woman) とは無縁の存在なのである。
蛇女 (Snake Woman) とはもうひとりの死者、彼等にとって妻であり母であるその人物である。うらみつらみ、のろいの言葉を決してはく事の出来ない父娘に代わって唯一人、その意思を主張する。地主一家 (Landlord Family) を襲うのは妻であり母であるそのおんな、なのだ。
そのおんなは非業の死を遂げた娘の代わりとなって、地主 (Landlord) の一人息子の眼前に怪異を現前させる。彼と祝言を挙げたばかりの花嫁 (Bride) 大沼きぬ (Kinu Onuma) [演:賀川雪絵 (Yukie Kagawa)] の姿が、彼の眼には蛇 (Snake) の化身として映るのだ。

その映画の、蛇女 (Snake Woman) の復讐譚はこうしてはじまるのである。

次回は「」。

附記 1.:
この映画のなか、絶えず歌が唄われるシーンが登場する。子供達が唄うわらべ歌、物売りが唄う囃し歌、奉公人達 (Servants) が唄う労働歌、等々。これらの歌が映画のなかで、どの様な機能をもたらされているのかはいまのぼくには解らない。
とはいえ、なんとなく映画『二十四の瞳 (Twenty-Four Eyes)』 [木下惠介 (Keisuke Kinoshita) 監督作品 1954年制作] を想い起こさせられるのである。

附記 2.:
娘の窮状をその恋人である捨松 (Sutematsu) [演:村井国夫 (Kunio Murai)] に告げる役回りとして、奉公人 (Servant) のひとり、さき (Saki) [演:高毬子 (Mariko Taka)] と謂う女性が登場する。彼女の出番はそこだけなのに、他のどの女優よりも印象に遺る。
まさか容姿や発声がぼくの好みのタイプであって ... てな事ではあるまいに。
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