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2018.11.20.08.46

あかしあのあめがやむとき

子供心にただ怖かった。
開口一番「死んでしまいたい」と唄われるのだから。
しかも、それ以前にある「アカシア」と謂うモノが解らない。
しかも、そこから降り注ぐ「雨」がそのヒトの生死、その命運を握っていると謂うのだから。

[この曲のオリジナル・シンガーである西田佐知子 (Sachiko NIhcida) による歌唱はこちら等で聴ける。この歌の歌詞はこちら等で読む事が出来る。]

マンガ『ワースト (Worst)』 [小室孝太郎 (Kotaro Komuro) 作 1969週刊少年ジャンプ連載] の冒頭に降る、死に至らしめる雨は、その作品で語られる破滅と再生の物語の発端となっている。
映画『魔鬼雨 (The Devil's Rain)』 [ロバート・フュースト (Robert Fuest) 監督作品 1975年制作] の最期に降る雨は、狂信者 (Fanatic) 達に破滅をもたらす。
しかし、その歌『アカシアの雨がやむとき (When The Rain Under Acacia Stops)』[作詞:水木かおる (Kaoru MIzuki) 作曲:藤原秀行 (Hideyuki Fujiwara) 歌唱:西田佐知子 (Sachiko NIhcida) 1960年発表] はそんな物語にぼくが出逢う以前に登場し、ぼくの不安を増長させ、雨と謂う自然現象に恐怖感を抱かさせてしまったのである。

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この歌が発表され、ヒットした当時はまだ、ぼくは産まれていない。その歌を題材とする同名映画『アカシアの雨がやむとき (When The Rain Under Acacia Stops)』 [吉村廉 (Ren Yoshimura) 監督作品 1963年制作] が公開された当時も、勿論だ。未見なのである。
では一体、どういうかたちでその歌に遭遇したのか。
[上掲画像はこちらから、同名映画作品のポスターである。猶、その映画作品に関する言及は上にある1文だけである。にも関わらずに、唯一の掲載画像として映画公開時のポスターを掲載したのはその作品が、この歌の当時の位置付けが朧げながらも、象徴しているのではないだろうか、と思うからだ。]

物心ついたときに体験したTV番組は断片的ではあるが、意外と憶えている。いしだあゆみ (Ayumi Ishida) が歌う『ブルー・ライト・ヨコハマ (Blue Light Yokohama)』 [作詞:橋本淳 (Jun Hashimoto) 作曲:筒美京平 (Kyohei Tsutsumi) 1968年発表] はTV番組『シャボン玉ホリデー (Bubble Holliday)』 [19611972日本テレビ系列放映] で、伯父夫妻の家にあるカラー・テレビ (Color Television) で観た。
アカシアの雨がやむとき (When The Rain Under Acacia Stops)』には、そんな記憶はとんと、ない。
森進一 (Shinichi Mori) が歌う『花と蝶 (Flowers And Butterflies)』 [作詞:川内康範 (Kohan Kawauchi) 作曲:彩木雅夫 (Masao Saiki) 1968年発表] は、雀荘で喰ったラーメンの味覚と密接になっている。美味しいからとかなり早い時間、雀鬼達がひしめく前に、そこへ父親に連れられていったのだ。
アカシアの雨がやむとき (When The Rain Under Acacia Stops)』には、そんな記憶はとんと、ないのだ。
[ちなみに、例示したふたつの歌謡曲 (Kayokyoku) のどちらも、1968年の作であるのは、単なる偶然である。]

幼い当時のぼくは身体が弱かったから、雨の降る日は1日中、家で大人しくさせられていた。童謡の『あめふり (It Rains)』 [作詞:北原白秋 (Hakushu Kitahara) 作曲:中山晋平 (Shinpei Nakayama) 1925年発表] とは全く無縁の生活だった。
だから、他の子供達よりも余計に、雨への恐怖感や、くらい空から抱く不安はおおきかったのかもしれない。
それをかきたてたのがきっと、その歌なのである。

何故ならば、当時のぼくの記憶にあるその歌は、冒頭の2行の歌詞に終始しているのであるから。
「アカシアの雨にうたれて このまま死んでしまいたい (Being Exposed To The Rain Under Acacia, Leave Me So I Want To Die.)」
幼い当時のぼくにとってその歌とは、ここだけで完成されているのである。

その歌の全貌を知ったのは、戸川純 (Jun Togawa) のアルバム『昭和享年 (Showa Kyonen)』 [1989年発表] でのヴァージョン『アカシアの雨がやむとき (When The Rain Under Acacia Stops)』である。
それまでのあいだ、その歌の事はとんとわすれていた。
ネットで調べると、数多くのカヴァー・ヴァージョンがあるから、いつかどこかで体験した可能性はなくはないのだろうが、ぼくには全く記憶はない。歌謡曲 (Kayokyoku) を聴く日常も、それらが唄われるテレビ番組やラジオ番組とは全然、縁がなかったからなのだろう。

ところが逆に、戸川純 (Jun Togawa) の『アカシアの雨がやむとき (When The Rain Under Acacia Stops)』が発表されてからはそのオリジナル・ヴァージョンをよく耳にする様になる。
昭和 (Showa) と謂うながい時代、そのある一時期を象徴させるかの様に、この歌が登場する。つまり、この歌を聴くのは音楽番組ではなくて、報道番組やそれに類する番組に於いてなのである。
戸川純 (Jun Togawa) のそのヴァージョンは、この歌に付着しているそんな物語をも呑み込もうとするかの様に、構成されている。

次回は「」。

附記 1. :
なにかのタイミングできっと、アカシア (Acacia) が植物である事を、実は知ったのだ。
勿論、それがいつの事で、なにによってもたらされられた情報なのかは憶えていない。きっと、その歌に怯えていた当時のぼくは、親か誰かに尋ねたのだろう。「アカシアってなぁに?」と。だけどそれは、知的欲求の発露ではない筈だ。
「アカシア」にさえ出逢わなければ、仮令その時に雨が降っていたとしても、死ぬ事はないだろう、恐らく、そう考えたからに違いない。何度も書くが、それだけ怖かったのだ。
そしてそれ以来、幼心に、柳 (Willow) の下に幽霊 (Ghost) がいる様に、アカシア (Acacia) の下には自殺願望者 (Suicider) が佇んでいる、そんな連想がぼくには働いているのである。
勿論、その連想は、桜の樹 (Cherry Tree) の下の屍体 (Corpse) を知ったときよりも、早い。

附記 2.:
3部構成の歌詞の、その1番を読んでみる [歌詞はこちら等を参照の事]。
最初の2行で歌の主人公の願望、他者の視点でみれば絶望以外のなにものでもない、が宣言される。
その次の行「夜が明ける 日がのぼる (Dawn Sunrise)」で、時間の推移が告げられると同時に一瞬、そこに救済の可能性があるかの様に思わされる。だけど、そんな予感はたちどころに裏切られる。願望すなわち絶望が成就した姿を知らされるのみである。そして、その後に、主人公が抱く本当の願望が語られる。「あの人 (He)」の想いをしりたい、ただそれだけだ。
ところで、時間の推移を告げる「夜が明ける 日がのぼる (Dawn Sunrise)」の描写がある事によって、聴くモノの殆どは実は救済されているのだ。聴くモノの殆どはそこで、自身を主人公との同一化を放棄する事が出来るのだ。つまり、夜が明けて朝が訪れる事に一縷の光明を見いだせる、「夜が明ける 日がのぼる (Dawn Sunrise)」を寿ぐ側の人物へと自身を帰属させる事が出来るのである。そんな彼等が主人公に対して成し得るのは、同情しかない。この同情する側になりすます事が出来るのならば、きっと、この歌を客観的な立場で評価出来るだろう。
では、そうなる事が出来ないヒトビトはどうしたら良いのか、否、どうなってしまうのか。
主人公と自身を完全に同一視してしまうヒトに対しては、ぼくは謂うべき事は、実はなにもない。当事者が当事者として自身の問題に活路を見出すしかないからだ。それが結果的に、主人公とおなじ行為に耽けざるをえないとしても、それに対してぼくがどうこうするものでもない。どうにもこうにも、ぼくにはできない。
そこで、"そうなる事が出来ないヒトビト"の中には、自己同一化するヒトとは別のヒトがいる事を指摘したい。少数派には少なくとも、もう1派あるのだ。
それは主人公の謂う「あの人 (He)」だ。この歌を「あの人 (He)」の立場にたって聴くヒトは少なからずいるだろう。と同時に、そんな立場にたつ事が出来るヒト達こそ、この歌の真価を解っているのに違いない。この歌は「あの人」に聴かせるが為にこそ、存在しているのだから。
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