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2018.09.14.10.35

The Long Goodbye

そいつはその席でひとりごちていたんだ。

名前? さぁね。おれもしらないし、だれもしらないだろう。
この店の常連で、すわる席はいつもそこだ。だからといって店のものもべつにかまいやしなかったのさ。
陽がしずめばふらっとあらわれて、そこにすわり、いっぱいの酒をたのむ。そして、店をしめるまでずっとそこにいる。だれとくちをきくでもない。おとすかねはたかがしれてる。
店からみれば有難迷惑、いや、むしろまねかざる客、そんなひとりさ。

そうさ、このおれにしたって、やつらにどうおもわれているのか、わからないんだし。

そいつがその日にかぎっていやに饒舌でさ。
だからといってだれがあいてをするでなし。ぶつぶつぶつとひとり、ほざいていたのさ。

そいつはこんなことをいっていた。
わかれのことばはやさしさかね。にどとあうつもりもないのに、またあおうっていえるかね。いうべきかね。そいつはいずれおっちぬんだ。おれだって明日をもしれぬ。そんなふたりがいったい、なにをしゃべればいいのかね。
そんなことばが無限にループしていた。

いいとししたおやじがほざくべきたわごとなのだろうか。おれはそうおもった。
なさけないほどに感傷的だよな、ともおもった。

そして、その夜をさいごににどとやつはそこにすがたをあらわすことはなかった。
あの長広舌がそいつならではの店へのはなむけだったのだろう。

[the text inspired from the song "The Long Goodbye" from the album "Destination" by Ronan Keating]


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