2018.08.21.09.06
湖水を少女が泳いでいる。夜、一切が闇につつまれたみずを少女がゆっくりと泳ぐ。彼女のしろい衣装とそれをまとった彼女の肌がしろく輝く。
その映画の中で最もうつくしいシーンであろう。

映画『フェノミナ (Phenomena)』 [ダリオ・アルジェント (Dario Argento) 監督作品 1985年制作] の最終部、泳いでいるのはこの作品のヒロイン、ジェニファー・コルビノ (Jennifer Corvino) [演:ジェニファー・コネリー (Jennifer Connelly)] である。
この作品をちみどろに彩った犯罪者は既に破滅した。彼女の泳ぎはゆったりとゆるやかで、先程の感情の迸りは次第に影を潜めていく。
ほんのさっきまで、蛆虫 (Maggot) だらけの水槽で彼女が溺れそうになった事を思い出せば思い出す程、この情景は優雅にみちた情景なのだ。
これでエンド・クレジットが登場すれば完璧だな、ぼくはそう思う。と、同時に、ここでジェニファー・コルビノ (Jennifer Corvino) が微笑むのかもしれない。
そう思ったのは、同じダリオ・アルジェント (Dario Argento) 監督作品の映画『サスペリア
(Suspiria)』 [1977年制作]、その最期のシーンを思い出したからである。その作品のヒロイン、スージー・バニヨン (Suzy Bannion) [演:ジェシカ・ハーパー (Jessica Harper)] は惨劇の舞台から脱出するや否や、そこに笑みを浮かべるからである。そして、その笑みがあるからこそ、その物語はそこで完結する事を許されず、微妙な余韻と深い謎を遺すのだ。
映画『フェノミナ (Phenomena)』と映画『サスペリア
(Suspiria)』の構造はとてもよく似ていて、後者の続編を謳って公開された映画『サスペリア パート2
(Profondo rosso)』 [ダリオ・アルジェント (Dario Argento) 監督作品 1975年制作:正続両編の2作品の制作年を見比べれば解る様に、実際にはこの2作品なんの関連性もない。同じ監督の旧作を"正編"のヒットに便乗して"続編"として公開しただけなのである] よりも、遥かに密接である様に思える。
寧ろ、同じ主題を異なる編成で演奏した変奏曲であるかの様に理解するのが正しいのではないか。
だから、ぼくはそのシーンに於いて、ジェニファー・コルビノ (Jennifer Corvino) の微笑を期待したのである。
その作品の中で呈示された幾つかの謎は一切、解決はついてはいないものの、ダリオ・アルジェント (Dario Argento) 監督作品ならば決して不思議ではない事だ。彼の作品には論理的な説明を求める事は出来ない。観るモノに感覚的な裁断が求められているのだ。
伏線が伏線と機能しない。あらかじめなんらかの説明が求められるべきモノが問答無用に、さも当初から存在していたかの様な顔をして、そこに初めて登場する。そんな事はよくある事なのである。
そして、大事な事は、上の段落が、監督や彼の作品を貶しているのではなくて、褒め言葉として機能するべき事を理解して欲しい。それだからこそ、彼の作品群に於ける恐怖や怪異は絶品の様相を呈してくれるからである。
ぼくがジェニファー・コルビノ (Jennifer Corvino) の微笑を期待したのは、そんな理由だ。
しかし、そんな期待を裏切るかの様に、物語は思ってもみなかった様な終結部を迎える。
しかも、それまで語る事を一切忘れてしまったかの様な、これまでのその作品に於ける挿話の悉くを、無理矢理に、さも伏線であったかの様な回収を謀るのである。
[そんな急展開も、ダリオ・アルジェント (Dario Argento) 監督ならではの世界観 / 物語感であって、彼の諸作品を知るモノにとっては常套句ではあるのだが、それでもやっぱり驚かされてしまう。]
次回は「な」。
附記:
映画『フェノミナ (Phenomena)』には昆虫学者ジョン・マクレガー (Professor John McGregor) [演:ドナルド・プレザンス (Donald Pleasence)] が登場する。主人公である少女との関係性をみると、映画『ハロウィン
(Halloween)』 [ジョン・カーペンター (John Carpenter) 監督作品 1978年制作] とそのシリーズ作品に登場する精神科医サム・ルーミス医師 (Dr. Sam Loomis) [演:ドナルド・プレザンス (Donald Pleasence)] を想起させられる。
精神科医とは謂いながら、サム・ルーミス医師 (Dr. Sam Loomis) はまるで経験と勘だけで行動する老獪な刑事の様な佇まいだ。失踪したマイケル・マイヤーズ (Michael Myers) を追って、ハドンフィールド (Haddonfield) の街を果敢に徘徊する彼をみるとそう思う。しかし、第2作である映画『ブギーマン [ハロウィンII]
(Halloween II)』 [リック・ローゼンタール (Rick Rosenthal) 監督作品 1981年制作] に於いて、マイケル・マイヤーズ (Michael Myers) との相討ちを謀った結果、物語終了後の生死は不明のままだ [彼が同シリーズに"復活 (The Return)"するのは第4作『ハロウィン4 ブギーマン復活
(Halloween 4 : The Return Of Michael Myers)』 [ドワイト・H・リトル (Dwight H. Little) 監督作品 1988年制作] に於いて、なのだ]。
だから?
ドナルド・プレザンス (Donald Pleasence) は映画『フェノミナ (Phenomena)』に於いては半身不随の車椅子 (Wheelchair) 姿となって、昆虫学者ジョン・マクレガー (Professor John McGregor) が登場する。
その映画の中で最もうつくしいシーンであろう。

映画『フェノミナ (Phenomena)』 [ダリオ・アルジェント (Dario Argento) 監督作品 1985年制作] の最終部、泳いでいるのはこの作品のヒロイン、ジェニファー・コルビノ (Jennifer Corvino) [演:ジェニファー・コネリー (Jennifer Connelly)] である。
この作品をちみどろに彩った犯罪者は既に破滅した。彼女の泳ぎはゆったりとゆるやかで、先程の感情の迸りは次第に影を潜めていく。
ほんのさっきまで、蛆虫 (Maggot) だらけの水槽で彼女が溺れそうになった事を思い出せば思い出す程、この情景は優雅にみちた情景なのだ。
これでエンド・クレジットが登場すれば完璧だな、ぼくはそう思う。と、同時に、ここでジェニファー・コルビノ (Jennifer Corvino) が微笑むのかもしれない。
そう思ったのは、同じダリオ・アルジェント (Dario Argento) 監督作品の映画『サスペリア
映画『フェノミナ (Phenomena)』と映画『サスペリア
寧ろ、同じ主題を異なる編成で演奏した変奏曲であるかの様に理解するのが正しいのではないか。
だから、ぼくはそのシーンに於いて、ジェニファー・コルビノ (Jennifer Corvino) の微笑を期待したのである。
その作品の中で呈示された幾つかの謎は一切、解決はついてはいないものの、ダリオ・アルジェント (Dario Argento) 監督作品ならば決して不思議ではない事だ。彼の作品には論理的な説明を求める事は出来ない。観るモノに感覚的な裁断が求められているのだ。
伏線が伏線と機能しない。あらかじめなんらかの説明が求められるべきモノが問答無用に、さも当初から存在していたかの様な顔をして、そこに初めて登場する。そんな事はよくある事なのである。
そして、大事な事は、上の段落が、監督や彼の作品を貶しているのではなくて、褒め言葉として機能するべき事を理解して欲しい。それだからこそ、彼の作品群に於ける恐怖や怪異は絶品の様相を呈してくれるからである。
ぼくがジェニファー・コルビノ (Jennifer Corvino) の微笑を期待したのは、そんな理由だ。
しかし、そんな期待を裏切るかの様に、物語は思ってもみなかった様な終結部を迎える。
しかも、それまで語る事を一切忘れてしまったかの様な、これまでのその作品に於ける挿話の悉くを、無理矢理に、さも伏線であったかの様な回収を謀るのである。
[そんな急展開も、ダリオ・アルジェント (Dario Argento) 監督ならではの世界観 / 物語感であって、彼の諸作品を知るモノにとっては常套句ではあるのだが、それでもやっぱり驚かされてしまう。]
次回は「な」。
附記:
映画『フェノミナ (Phenomena)』には昆虫学者ジョン・マクレガー (Professor John McGregor) [演:ドナルド・プレザンス (Donald Pleasence)] が登場する。主人公である少女との関係性をみると、映画『ハロウィン
精神科医とは謂いながら、サム・ルーミス医師 (Dr. Sam Loomis) はまるで経験と勘だけで行動する老獪な刑事の様な佇まいだ。失踪したマイケル・マイヤーズ (Michael Myers) を追って、ハドンフィールド (Haddonfield) の街を果敢に徘徊する彼をみるとそう思う。しかし、第2作である映画『ブギーマン [ハロウィンII]
だから?
ドナルド・プレザンス (Donald Pleasence) は映画『フェノミナ (Phenomena)』に於いては半身不随の車椅子 (Wheelchair) 姿となって、昆虫学者ジョン・マクレガー (Professor John McGregor) が登場する。
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