2018.08.19.08.53
『イズ・ザット・ユー? (IS THAT YOU?)』 by ビル・フリゼール (BILL FRISELL)

彼を知ったのは、ジョン・ゾーン (John Zorn) のプロジェクトのひとつ、ネイキッド・シティ (Naked City) [1988年~1993年活動] のギタリストとして、だった。

その最初の作品、『ネイキッド・シティ (Naked City)
ぼくの視点からみれば、そのプロジェクトのギタリスト、ビル・フリゼール (Bill Frisell) とは、フレッド・フリス (Fred Frith) からギタリストの地位を奪った人物に、みえなくもない。
勿論、そんな視点が偏見や誤謬に基づいているのは、今ならば自明だ。
このプロジェクトの趣旨を知ればそれはたちどころに氷解する。
ネイキッド・シティ (Naked City) とは、ジョン・ゾーン (John Zorn) が作曲した楽曲を忠実に再現するプロジェクトで、そこに個々のミュージシャンによるインプロビゼーションが存在する事はない。
その趣旨をギタリストとして忠実に履行する事を求められた結果 [さもなければ忠実に履行する事が可能な技術をもっている結果]、ビル・フリゼール (Bill Frisell) はそこにギタリストとして存在しているのである。
ギタリスト、フレッド・フリス (Fred Frith) の感性と能力がそこに介在する必要性は一切にないのである。
[と謂う考えに至ってしまうと、ベーシストとしてのフレッド・フリス (Fred Frith) とはなにかと謂う疑問に横着してしまうが、それを考える事は本稿の目的からは離れていってしまう。ちなみに、彼に関しては既にこちらで紹介してある。]


そこから遡るかたちで、ニュース・フォー・ルル (News For Lulu) [1987年〜1992年活動] でのビル・フリゼール (Bill Frisell)に辿り着く。彼等の最初のアルバム『ニュース・フォー・ルル (News For Lulu)
そこでの彼の演奏は勿論、ネイキッド・シティ (Naked City) でのそれとは全く違うモノである。
だけれども、唯一共通しているモノがあるとしたら、演奏する彼の表情だろう。
いつでもどこでも、彼の表情は変わらない。
それをニコニコと評していいのかどうかは解らないけれども、常に愉しそうなのだ。
彼の発する音や音質や音階に関係なくいつも嬉しそうなのだ。喩えそれらが、禍々しくあったり、凶暴であったりしても、変わらない。[と、綴ると精神的に病んでいるとも捉えかねないので慌てて書き加えると] 悲しみにみちたそれらであっても哀しみを感じるべきそれらであっても、変わらないのだ。
演奏する、音を発する、音楽を育む、そんな行為が彼にとって、とてつもなく快感で悦びをもたらすモノの様なのである。
それは汗に象徴されうる様な、肉体的なモノではない。少なくとも彼の額にそれが滲む事もない様な気がする。彼が感じる快感は、どこまでいっても、精神的なモノに思える。
それを聴いているぼくがそこからなにをくみとるかと謂うと、ある情感をたたえた景観の様な気がする。
いつかどこかでみたような、そして、それはある種の記憶をよびさます。
とは謂うモノの、絶対にぼく自身が体感した事もない様な光景だ。
虚構としての追憶が構成されていくのである。
ところで、ビル・フリゼール (Bill Frisell) 自身とも思われる少年の笑顔が印象的な本作、彼も含めて蒼いモノトーンに沈むその映像は過去に去来したモノだろうと思われる。そして、その手前に置かれてある幾つかのオブジェは現在のものかとも思われる。そんな解釈をしてみれば、そのオブジェはシールド (Shielded Cable) だったり、プラグ (Plug) だったり、現在の彼、ギタリストであるビル・フリゼール (Bill Frisell) にそのまま投影してみる事が出来る。謂うまでもなく、画面右上から左下へとはしる6本の導線はギターの弦 (Guitar Strings) なのである。
しかし。
と、なると、画面右下に登場している馬蹄形磁石 (U Shaped Magnet) は一体、なんなのだろう。
かつての彼、少年だった彼と、現在の彼、音楽家である彼を繋ぐモノ、と看做すべきなのだろうか。
ものづくし (click in the world!) 190. :
『イズ・ザット・ユー? (IS THAT YOU?)』 by ビル・フリゼール (BILL FRISELL)

『イズ・ザット・ユー? (IS THAT YOU?)
現代の音楽シーンをリードするギタリストの新作アルバム
1. ノーマンズ・ランド
NO MAN'S LAND [6:40]
2. サムワン・イン・マイ・バックヤード
SOMEONE IN MY BACKYARD [2:45]
3. ラグ
RAG [4:00]
4. イズ・ザット・ユー?
IS THAT YOU? [6:50]
5. ザ・ウェイ・ホーム
THE WAY HOME [6:00]
6. トゥエンティ・イヤーズ
TWENTY YEARS [2:43]
7. チェイン・オブ・フールズ
CHAIN OF FOOLS [3:30]
8. ハロー・ネリー
HELLO NELLIE [4:07]
9. 酒とバラの日々
THE DAYS OF WINE AND ROSES [3:35]
10. ユーバ・シティ
YUBA CITY [5:42]
11. ハーフ・ア・ミリオン
HALF A MILLION [4:00]
12. ホープ・アンド・フィアー
HOPE AND FEAR [4:00]
ALL COMPOSITIONS BY BILL FRISELL, FRIZ-TONE MUSIC [BMI]
EXCEPT "YUBA CITY" BY WAYNE HORVITZ, OTHER ROOM MUSIC [ASCAP] ;
"THE DAYS OF WINE AND ROSES" BY HENRY MANCINI, WITMARK & SONS [ASCAP] ;
AND "CAIN OF FOOLS" BY DON COVAY, 14TH HOUR MUSIC / PRONTO MUSIC [BMI].
[パーソネル]
ビル・フリゼール [ギター、ベース、バンジョー]
ウェイン・ホーヴィッツ [キーボード]
ジョーイ・バロン [ドラムス]
デイヴ・ホフストラ [チューバ、ベース]
BILL FRISELL : GUITARS. BASS, BANJO, UKULELE, CLARINET
WAYNE HORVITZ : KEY BOARDS, DRUM PROGRAMMING, MOMENTARY BASS
JOEY BARON : DRUMS
DAVE HOFSTRA : TUBA (IS THAT YOU? HELLO NELLIE), BASS (CHAIN OF FOOLS)
[プロデュース] ウェイン・ホーヴィッツ
[録音] 1989年8月シアトル、アイアンウッド・スタジオ
PRODUCED BY WAYNE HORVITZ
RECORDED AT IRONWOOD STUDIOS, Seattle, AUGUSUT 1989
ENGINEER : JAY FOLLETTE
MIXED AT SKYLINE STUDIOS, NEW YORK CITY, JANUARY 1990
ENGINEER : ROGER MOUTENOT, ASSISTANT ENGINEER : JON GOLDBARGER
EXECUTIVE PRODUCER : ROBERT HURWITZ
ART DIRECTION AND DESIGN : MANHATTAN DESIGN
PHOTOGRAPHY : STEPHEN FRAILEY
THANKS TO ALEX VARTY
BILL FRISELL PLAYS A SADOWSKY GUITAR
"YUBA CITY" IS EXTRACTED FROM THE STRING QUARTET BY THE SAME NAME, COMMISSIONED BY THE KRONOS QUARTET AND RAVINIA FESTIVAL.
REPRESENTATION : TONE FIELD PRODUCTIONS
(P) 1990ELEKTRA ENTERTAINMENT
ELEKTRA ENTERTAINMENT. A DIVISION OF WARNER COMMUNICATIONS INC.
ぼくが所有している国内盤CDには、大場正明 (Masaaki Oba) のライナー・ノーツ [1990年10月付] が封入されている。
- 関連記事
-
- "IN CAMERA" by Peter Hammill (2018/10/21)
- "WHAT'S GOING ON" by MARVIN GAYE (2018/09/16)
- 『イズ・ザット・ユー? (IS THAT YOU?)』 by ビル・フリゼール (BILL FRISELL) (2018/08/19)
- 『ビッチ・イン・ザイオン (Bitch In Zion)』 by エリ (ellie) (2018/07/15)
- 『ペルレン (Perlen ...)』 by デア・プラン (Der Plan) (2018/06/17)