2008.10.07.20.40
詩人で画家のマリー・ローランサン(Marie Laurencin)との恋愛とその結果としての別離をうたった心情が感涙を呼ぶ。しかも、それだけではなくて、別れた後の、ふたりの生き方が相互にこの詩に反響して、また新たな感興を呼んでいる。
それは間違いない。
だが、僕にとってのギヨーム・アポリネール(Guillaume Apollinaire)への関心は、別のところから始っているのである。
二冊のエロティック文学の作者として、である。
その一冊『若きドン・ジュアンの冒険(Les exploits d'un jeune Don Juan)』では、幼児が児童それから少年と呼ばれ、その後に得る"なんとか"という呼称までの間に体験する事、すべき事、もしかしたら、すべきでない事、したらいけない事、それらを次々と体験していく主人公の行動を軽快な疾走感を伴って、書き進めている。

それよりも、大事なのはもう一作品の方。
『一万一千本の鞭(Les Onze Milles Verges
主人公のルーマニア(Romania)大守は、パリ(Paris)で出逢った19歳の奔放な少女に対して、誘惑の言葉を投げかける。
「もしも(わたしの言葉が)嘘だったのならば、一万一千本の鞭の罰を受けたって構いません」
このふたりの邂逅から始って、主人公とそのヒロインは、ヨーロッパを越えて、日露戦争(Русско-японская война)真っ最中の旅順(Port Arthur)へと渡る事となる。その道中、数多くの人々を巻き込んでありとあらゆる性愛の限りを尽くしてゆく。そして日本軍(Imperial Japanese Army)の捕虜となった際に犯してしまった殺人によって、鞭打ちによる死刑宣告を受ける。彼は、当地に野営している日本軍(Imperial Japanese Army)兵士の一人一人から一鞭を受けるのだ。
その数、一万一千鞭。
この作品には、ありとあらゆるエロティシズム(Erotisme)の要素が繰り広げられているものの、それ以上に、洪笑と速度に満たされている。
そして、何よりも主人公が放った無責任な言葉の放埒「一万一千本の鞭」が、物語の最期の最期になって、のっぴきならないものとしてその姿を現すと言う点が、痛快である。
何よりも、作者ギヨーム・アポリネール(Guillaume Apollinaire)の素っ頓狂な生き方がそのままシンボライズされている様にも読めるのだ。
もちろん、『若きドン・ジュアンの冒険(Les exploits d'un jeune Don Juan)』で繰り広げられる若き主人公の性的な冒険の多少が、作者本人の青春と性春を引き受けているというありきたりの解釈は可能だけれども、この『一万一千本の鞭(Les Onze Milles Verges
ここで簡単にギヨーム・アポリネール(Guillaume Apollinaire)の生涯をさらってみる事にする。
1880年、ポーランド(Poland)貴族とスイス(Switzerland)系イタリア(Italia)人貴族の血を継いで、ローマ(Roma)にて出生。
19歳でパリ(Paris)に出奔。そのモンパルナス(Montparnasse)で、キュビズム(Cubisme)のグループ、ピュトー・グループ(Puteaux Group)に参加する。1911年に起こったモナ・リザ盗難事件( Theft Of The Mona Lisa)に関与していると疑われて逮捕される(疑いが晴れてまもなく釈放)。
第一次世界大戦(World War I)が勃発すると、フランス人国籍(les Francais)を取得して、フランス軍人(Armee francaise)として従軍。1916年に戦地で頭部を負傷して帰郷し、1918年にスペイン風邪(Spanish Flu)がもとで死亡する。享年38歳。
以上が、ギヨーム・アポリネール(Guillaume Apollinaire)の一生である。
この間、ここで紹介したエロティック文学作品の他に、詩集『腐ってゆく魔術師(L'Enchanteur Pourrissant, Suivi De Les Mamelles
その一生は悲劇というよりも喜劇に近いのだが、それを生き急ぐ本人は、いたって大真面目なのである。
なお最期に、この愛すべきギヨーム・アポリネール(Guillaume Apollinaire)の生き方を、ふたりの人格に二分割して描いたと思しきフィクションが、映画『突然炎のごとく
次回は「る」。
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