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2018.03.27.12.29

ざしきわらし

と謂えば、様々な場所、様々な媒体で旧くから語られていて、妖怪 (Yokai) のうちでも有名な部類に属すると思われる。
だけれども、その姿を思い浮かべ様とすると、そこに顕れるのは酷く曖昧模糊とした映像なのであった。
座敷童子 (Zashiki Warashi) は、子供達にしかその姿はみえず、かつてはみることも出来たその子供達ですら、成年に達すると途端にその姿はみえなくなると謂う。
そんな妖怪 (Yokai) の特徴を鑑みれば、上に綴ったぼくの文章も、その妖怪 (Yokai) の特色の顕現である、と断言が可能なのかもしれないが、そおゆうはなしではない。

第一に、ぼくが産まれ育った場所は、その妖怪 (Yokai) の出現地である東北 (Tohoku Region) でもないし、その妖怪 (Yokai) の棲息場所である旧家の家屋敷でもない。ぼくは東海地方 (Tokai Region) の、四畳半一間 (Four-and-a-half-mat Room) のちっぽけな賃貸住宅 (Rental House) で産まれ育ったのである。

上の文章は純粋に、その妖怪 (Yokai) 自身の姿をとらえた2次元作品が想いあたらない、と謂う意味なのである。
否、そう断言してしまえば語弊はある。
寧ろその逆だ。
その妖怪 (Yokai) を語る言説があまりに多くある為に、それを絵画化乃至は映像化した作品が多岐にわたっていて収拾がつかない、と換言する方が、妥当なのかもしれない。

とは謂え、鳥山石燕 (Toriyama Sekien) の『画図百鬼夜行 (Gazu Hyakki Yagyo)』 [1776年刊行] には、その妖怪 (Yokai) は描かれてはいないのではあった。
その妖怪画 (Yokai-ga) の連作は、鳥山石燕 (Toriyama Sekien) 独創の妖怪 (Yokai) も多く描かれていて、必ずしも、我が国に古来から棲みついている妖怪 (Yokai) を網羅したモノとは謂い難い。しかしながら、この連作に描かれる事によって、その画像が、あたかもその妖怪 (Yokai) の肖像画であるかの如く、決定的な印象を与えている事も否定できないのである。

ちなみに、『画図百鬼夜行 (Gazu Hyakki Yagyo)』の幾つかの図象も引用している、雑誌『別冊太陽 (Separate Volume Taiyo)』 [1972平凡社 (Heibonsha Limited, Publishers) 創刊] のムック『日本の妖怪 (Yokai In Japan)』 [1987年刊行] にも、座敷童子 (Zashiki Warashi) の姿を見出す事も出来ない。
そのムックには『百鬼夜行絵巻 (Hyakki Yagyo Emaki)』 [伝土佐光信 (Attributed to Tosa Mitsunobu)] とか『大江山絵巻 (Oeyama Emaki)』とか『付喪神絵巻 (Tsukumogami Emaki)』とか『土蜘蛛草紙 (Tsuchigumo Zoushi)』と謂った著名な妖怪画 (Yokai-ga) が幾つも幾つも掲載されているのにも関わらずに、である。
その妖怪 (Yokai) に関する記述は僅かに『県別妖怪案内 (A GUide Of Prefecture Yokai)』[編:千葉幹夫 (Mikio CHiba)] にあるだけなのである。

「赤顔。たれ髪の小童。これがいる家は繁盛するが離れると衰亡する。枕がえしをしたり上からおさえつけたりする」 [『県別妖怪案内 (A GUide Of Prefecture Yokai)』より]

これがその全文であり、その凡例をみると、この記述は『綜合日本民俗語彙集 (Total Glossary For Japanese Folklore)』 [監修:柳田國男 (Kunio Yanagita) 1956年刊行] によった事が解る。
逆に謂えば、そのムックに座敷童子 (Zashiki Warashi) がたったそれだけの痕跡しか遺し得なかったと謂う事実は、その妖怪 (Yokai) がそのムックに幾つも掲載されている妖怪画 (Yokai-ga) の伝統や、その妖怪画 (Yokai-ga) を描きまた堪能した階層や文化とは根絶した場所に棲息していた事を物語っている。

では、もしかしたら鳥山石燕 (Toriyama Sekien) を継ぐ系譜にあるかもしれない水木しげる (Shigeru Mizuki) は、この妖怪 (Yokai) に関してどの様に語っているのであろうか。

「だれもいない奥の間や倉のなかにすんでいて、災害や盗難から家をまもっている。だが、おこらせると人をさらう」 [『水木しげるの妖怪大画報 (Shigeru Mizuki's Yokai Illustrated Magazine)』 [1997年刊行] より]

水木しげるの妖怪大画報 (Shigeru Mizuki's Yokai Illustrated Magazine)』 とは、週刊少年マガジン (Weekly Shonen Magazine) に掲載された、水木しげる (Shigeru Mizuki) と彼の作品群を特集したグラビア頁を総集したモノであって、上記引用文の初出は『大妖怪ショッキング画報 (Yokai Shocking Illustrated Magazine)』[1967週刊少年マガジン掲載] である。
それ故に、上の記述は必ずしも水木しげる (Shigeru Mizuki) 自身のモノであるとは断言出来ない。当時、その雑誌のグラビア頁を企画編集していたのは、大伴昌司 (Shoji Otomo) であるからである。

水木しげる (Shigeru Mizuki) が座敷童子 (Zashiki Warashi) を題材とした作品はマンガ『ゲゲゲの鬼太郎 (Gegege No Kitarou)』 [19651969週刊少年マガジン連載] の一篇『笠地蔵 (Kasa-jizou)』 [1968週刊少年マガジン掲載] である。豪雪に耐えかねて居候した民家の老夫妻を、彼等が善良で誠実であるが故に救済するその物語は、これまで語り伝えられてきたその妖怪 (Yokai) の伝承の変奏でありながらも、彼の特色をきちんと描写している。だが、それ故に、その物語で語られる座敷童子 (Zashiki Warashi) は、上の『水木しげるの妖怪大画報 (Shigeru Mizuki's Yokai Illustrated Magazine)』 の一文とは齟齬を来しているのである。
猶、そこに登場する座敷童子 (Zashiki Warashi) の容姿は、『水木しげるの妖怪大画報 (Shigeru Mizuki's Yokai Illustrated Magazine)』 に掲載された容姿と全く一緒である [こちらを参照の事]。

だけれども、水木しげる (Shigeru Mizuki) の作品に登場する妖怪 (Yokai) をブロンズ像 (Bronze Sculpture) として一同に会せしめている水木しげるロード (Mizuki Shigeru Road) にある座敷童子像 (Zashiki Warashi Sculpture) は、それとは違う。いつどこで、『笠地蔵 (Kasa-jizou)』の座敷童子 (Zashiki Warashi) が水木しげるロード (Mizuki Shigeru Road) の座敷童子像 (Zashiki Warashi Sculpture) へとその姿を変えたのかは今のぼくには、解らない。
そして、解らないが故に、水木しげる (Shigeru Mizuki) を起点とする座敷童子 (Zashiki Warashi) の全貌は、焦点がぼけたままになっている。

そのぼけたぼくの印象に魔がさす様に反映されるのが、佐藤蛾次郎 (Gajiro Sato) なのである。
彼は、座敷童子 (Zashiki Warashi) を題材とした小説『ユタとふしぎな仲間たち (Yuta With Strange Friends)』 [三浦哲郎 (Tetsuo Miura) 作 1971年発表] のTVドラマ化作品『ユタとふしぎな仲間たち (Yuta With Strange Friends)』 [1974NHK放映] で、座敷童子 (Zashiki Warashi) のひとり、ペドロ (Pedro) を演じたのである。
具体的にどんな物語だったのかは全然憶えていない。原作小説も未読である。その一方で、その小説を舞台化したミュージカル『ユタとふしぎな仲間たち (Yuta With Strange Friends)』 [1977年より 劇団四季公演] の映像はどこかで観た記憶がある。
しかも魔の悪い事に、『名作文学に見る「家」 謎とロマン編 (The Houses In Classic Literature : Mystery And Romance)』 [小幡陽次郎 (Yojiro Obata)、横島誠司 (Seiji Yokoshima) 著 1992年刊行] にはその小説の舞台となった銀林荘 (Ginrin-so) の離れ (Cottage) の図象化が試みられ、様々に乱反射しているその作品の世界をさらに、不思議な光明で包み込んでいる。
一言をもって語れば、読んだ事もないくせに読んだ気になっている、と謂うやつである。
そして、それを統合しているのが、座敷童子 (Zashiki Warashi) のひとり、ペドロ (Pedro) を演じた佐藤蛾次郎 (Gajiro Sato) なのである [こちらを参照の事]。

ちなみに、小説『ユタとふしぎな仲間たち (Yuta With Strange Friends)』に登場する座敷童子 (Zashiki Warashi) の正体は「元禄、天明、天保年間の大凶作、大飢饉のときに間引かれた、悲しい農村の子供達」であり、「成仏出来ずに、死んだ時の子供の姿のままで、この現世に遊んでいた」のであると謂う [引用文は『名作文学に見る「家」 謎とロマン編 (The Houses In Classic Literature : Mystery And Romance)』より]。
そして、その小説の根底を支えているのかもしれないその設定をしれば、少女マンガにも幾つか、座敷童子 (Zashiki Warashi) を題材とした、もしくは、座敷童子 (Zashiki Warashi) であるかの様な素振りを示している怨霊譚にも、辿り着けるのだ。
ぼくの記憶にあるのは、座敷童子 (Zashiki Warashi) になる事を宿命づけられた、ある少女の物語なのだが、残念ながら作家名や作品名の記憶がすっぽりと抜け落ちているのだった。

images
上掲画像は、石原豪人 (Gojin Ishihara) 画『座敷わらし (Zashiki Warashi)』 『いちばんくわしい日本妖怪図鑑 (Japanese Yokai Visual Dictionary)』 [著:佐藤有文 (Arihumi Sato) 1972立風書房 (Rippu Shobo Publishing Co., Ltd.) ジャガーバックス ((Jaguarbucks) 刊行] 掲載] である。
よくよくみれば、水木しげる (Shigeru Mizuki) の『笠地蔵 (Kasa-jizou)』の座敷童子 (Zashiki Warashi) とおなじ服装をしていて、巨大なその顔も、その座敷童子 (Zashiki Warashi) をそのまま踏襲したモノである。つまり、水木しげる (Shigeru Mizuki) 描く座敷童子 (Zashiki Warashi) を石原豪人 (Gojin Ishihara) ならではの筆致で描写してみた、そんな作品である。
しかしそこにあるモノは、純真とか無垢と謂う表現を呼び起こしながらも、それとは全然違う印象をも抱かしめる。
ある意味で、最も怖い座敷童子 (Zashiki Warashi) の図象、と謂えるのかもしれない。

次回は「」。

附記:
マンガ『ドラえもん (Doraemon)』 [19691996小学館の学習雑誌連載] をはじめとする、ひょんな事から中流家庭 (Middle‐class Family) に居候する事になってしまったおばけ (Ghost) やら宇宙人 (Alien) やらアフリカ原住民 (Native African) やらロボット (Robbot) やらの、藤子・F・不二雄 (Fujiko F Fujio) の物語は、座敷童子 (Zashiki Warashi) の変奏曲なのではないだろうか。
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