2017.10.03.09.25
「"愚者"を最初のタロット・カードの前に置き、他のカードを横に左から右へと順番に並べると、『愚者』が他のカードに向かって次々に歩んで行こうとしているのが分かる。霊的に目覚めていない入門者のように、"愚者"は、「神の知恵」の門をくぐるという最高の冒険の旅に出ようとしている」 [註:引用符 (Quotation Mark) で括られた文字には実際、圏点 (Emphasis Mark) が添えられてある。]
上記引用文は、マンリー・P・ホール (Manly P. Hall) による『象徴哲学体系 III カバラと薔薇十字軍 (The Secret Teachings Of All Ages - An Encyclopedia Outline Of Masonic, Hermetic, Qabbalistic And Rosicrucian Symbolical Philosophy)』 [1928年刊 訳:大沼忠弘 (Tadahiro Onuma)・山田耕士 (Koshi Yamada)・吉村正和 (Masakazu Yoshimura) 1981年日本版刊] による。
引用文に登場する「"愚者"」とは、全78枚で構成されているタロットカード (Tarot Cards) の1枚であって、その中で大アルカナ (Major Arcana) と呼ばれる22枚のカードの1枚、愚者 (The Fool) の事である。引用文中の「他のカード」とは、大アルカナ (Major Arcana) の他の21枚を指している。
引用文をもう少し具体的に説明しようとすれば、例えとして、次の様なモノを呈示出来る。

レッド・ツェッペリン (Led Zeppelin) 主演の映画『レッド・ツェッペリン 狂熱のライヴ
(The Song Remains The Same)』 [ジョー・マソット (Joe Massot)・ピーター・クリフトン (Peter Clifton) 監督作品 1976年制作] の中で演奏される楽曲『幻惑されて (Dazed And Confused)』 [アルバム『レッド・ツェッペリン I (Led Zeppelin I)
』収録 1969年発表] では、彼等の第4作『レッド・ツェッペリン IV (Led Zeppelin IV)
』 [1971年発表] の内ジャケット (Inner Sleeve) に描かれている光景が、バンド・メンバーのひとり、ジミー・ペイジ (Jimmy Page) の一人二役によって演じられている。
上掲した内ジャケット (Inner Sleeve) の図 [『隠者 (The Hermit)』 [画:バリントン・コルビー (Barrington Colby MOM) ] では、遥かな頂きに立ち、闇の中に光をなげかける隠者 (The Hermit) の遥か下方で、青年がひとり、彼をめざし苦闘している場面が描かれている。
その映像がすなわち、愚者 (The Fool) が大アルカナ (Major Arcana) 第9のカードである隠者 (The Hermit) の許へと赴く光景と解する事が出来る。
単純に謂ってしまえば、引用文を前提にすれば、内ジャケット (Inner Sleeve) と同趣向の絵画作品があと20点制作可能なのである。そしてその結果得られた21点の絵画作品を並べてみればそこにおおきな物語が構成される事になる。
だから、タロットカード (Tarot Cards) とはそんなおおきな物語を分断し、独自の解釈によって再構成する為に存在すると謂う事も可能だ。
但し、この魅力的な解釈が総てのタロットカード (Tarot Cards) に当て嵌まるとは謂えない。
現在、最も流布しているライダー版タロットカード (Rider Waite Tarot) [作:アーサー・エドワード・ウェイト (Arthur Edward Waite) 画:パメラ・コールマン・スミス (Pamela Colman Smith) 1909年発行] では、この解釈をそのまま鵜呑みにして適用する事が適わないのである。
何故ならば、ライダー版タロットカード (Rider Waite Tarot) はそれ以前から流通している他のタロットカード (Tarot Cards) と異なる独自の解釈が幾つか試みられており、その結果として、引用文に抗うかたちが出来てしまっている。
すなわち、ライダー版タロットカード (Rider Waite Tarot) に於ける愚者 (The Fool) は、他のタロットカード (Tarot Cards) と異なり、左側を向いた人物が描かれているのである。引用文に従って「左から右へと順番に並べ」るとその結果、必然的に愚者 (The Fool) は後ろ向きに歩む事になるからである。
それならば、「左から右へ」ではなく、その逆、右から左へと並べれば良いのではないか、そんな指摘が聴こえてきそうだ。
しかし、タロットカード (Tarot Cards) では、左は過去の事象、右は未来の事象と解釈する事になっている。右から左へと歩む事は、つまり、過去に向かって遡る事となる。そして、隠者 (The Hermit) に描かれた人物が左を向き、そしてその結果、その側を照らし出しているのは、そう謂う原則があるからである。隠者 (The Hermit) は過去に得た経験や記憶、そして智性に光を投げかける存在 [もしくは隠す存在] なのである。
レッド・ツェッペリン (Led Zeppelin) の内ジャケット (Inner Sleeve) 作品も同じだ。仮に、おのれの右側に光を投げかける様に頂きに立つのならば、それに向かって右側 [つまり未来] から青年が登攀する事になる。これでは全く違う物語となってしまう。
勿論、愚者 (The Fool) とはすなわち智者 (The Wise) の謂いである、と謂う解釈の登場をここで促しても良い。
愚者 (The Fool) が智者 (The Wise) であるとは一聴、意味不明のたわごとの様に響くがそうではない。
ソクラテス (Socrates) の「無知の知 (I Know That I Know Nothing)」 [『ソクラテスの弁明 (Apology Of Socrates)』 [プラトン (Plato)著] に登場] を想い出しても良い。
宮廷道化師 (Jester) があらゆる階級から自由であり、雇用主である王 (King) と対等、時には王 (King) よりも不遜であり、宮廷内にあるありとあらゆる些事一切を知り得る事が可能だった事を想い出しても良い。
さもなければ、ザ・ビートルズ (The Beatles) の『フール・オン・ザ・ヒル (The Fool On The Hill)』 [アルバム『マジカル・ミステリー・ツアー (Magical Mystery Tour)
』収録 1967年発表] の歌詞を想い起こしても良い。その歌では愚者 (The Fool) ただひとりが地動説 (Heliocentrism) を認知しているのだ。
だからそれらに準じて、ライダー版タロットカード (Rider Waite Tarot) の愚者 (The Fool) もまた、全知全能を得たが為に智者 (The Wise) すなわち愚者 (The Fool) となり得たと解釈する事が、出来ない訳ではない。ただ違うのは、引用文の顰に倣えば、彼は「最高の冒険の旅」にこれからでるのではなくて、「最高の冒険の旅」を既に終えた事になるのではなかろうか。
しかし、この仮説を肯定するのはまだ難問が控えている。
ライダー版タロットカード (Rider Waite Tarot) の愚者 (The Fool) には、零 (Zero) が記載されているのである。
ライダー版タロットカード (Rider Waite Tarot) を除くその他のタロットカード (Tarot Cards) では、愚者 (The Fool) を除く大アルカナ (Major Arcana) 21枚には1枚1枚、1から21までの数字が割り当てられているが、愚者 (The Fool) だけは数字が記載されていない。そして、記載されていないが為に、大アルカナ (Major Arcana) 22枚の中での、愚者 (The Fool) の位置と地位が議論を呼んでいる。引用文には明示されていないが、そのカードには零 (Zero) と謂う位置が与えられていると謂う前提にあるのであろう。
他には、愚者 (The Fool) を22番目すなわち最終のカードとする説や20番目と21番目の間にあるとする説がある。
それでは、ライダー版タロットカード (Rider Waite Tarot) は零 (Zero) をもって愚者 (The Fool) に据えているのだから、22枚のカードの最初だろうと謂いたいのだが、そんな簡単な問題ではない。
零 (Zero) は無であると同時にその逆、永遠を意味する事すらあるのだから。
そしてその結果、ぼくはここで引用文に記された事と、実際に手許にある愚者 (The Fool) との間を、未来永劫に渡る堂々巡りをしてしまうのだ。
次回は「や」。
附記:
念の為に断りを入れておくと、上の駄文は正しい意味での駄文であって、学問的にも学際的にも、なんの根拠もない。
つまり、決して信用しない様に。
上記引用文は、マンリー・P・ホール (Manly P. Hall) による『象徴哲学体系 III カバラと薔薇十字軍 (The Secret Teachings Of All Ages - An Encyclopedia Outline Of Masonic, Hermetic, Qabbalistic And Rosicrucian Symbolical Philosophy)』 [1928年刊 訳:大沼忠弘 (Tadahiro Onuma)・山田耕士 (Koshi Yamada)・吉村正和 (Masakazu Yoshimura) 1981年日本版刊] による。
引用文に登場する「"愚者"」とは、全78枚で構成されているタロットカード (Tarot Cards) の1枚であって、その中で大アルカナ (Major Arcana) と呼ばれる22枚のカードの1枚、愚者 (The Fool) の事である。引用文中の「他のカード」とは、大アルカナ (Major Arcana) の他の21枚を指している。
引用文をもう少し具体的に説明しようとすれば、例えとして、次の様なモノを呈示出来る。

レッド・ツェッペリン (Led Zeppelin) 主演の映画『レッド・ツェッペリン 狂熱のライヴ
上掲した内ジャケット (Inner Sleeve) の図 [『隠者 (The Hermit)』 [画:バリントン・コルビー (Barrington Colby MOM) ] では、遥かな頂きに立ち、闇の中に光をなげかける隠者 (The Hermit) の遥か下方で、青年がひとり、彼をめざし苦闘している場面が描かれている。
その映像がすなわち、愚者 (The Fool) が大アルカナ (Major Arcana) 第9のカードである隠者 (The Hermit) の許へと赴く光景と解する事が出来る。
単純に謂ってしまえば、引用文を前提にすれば、内ジャケット (Inner Sleeve) と同趣向の絵画作品があと20点制作可能なのである。そしてその結果得られた21点の絵画作品を並べてみればそこにおおきな物語が構成される事になる。
だから、タロットカード (Tarot Cards) とはそんなおおきな物語を分断し、独自の解釈によって再構成する為に存在すると謂う事も可能だ。
但し、この魅力的な解釈が総てのタロットカード (Tarot Cards) に当て嵌まるとは謂えない。
現在、最も流布しているライダー版タロットカード (Rider Waite Tarot) [作:アーサー・エドワード・ウェイト (Arthur Edward Waite) 画:パメラ・コールマン・スミス (Pamela Colman Smith) 1909年発行] では、この解釈をそのまま鵜呑みにして適用する事が適わないのである。
何故ならば、ライダー版タロットカード (Rider Waite Tarot) はそれ以前から流通している他のタロットカード (Tarot Cards) と異なる独自の解釈が幾つか試みられており、その結果として、引用文に抗うかたちが出来てしまっている。
すなわち、ライダー版タロットカード (Rider Waite Tarot) に於ける愚者 (The Fool) は、他のタロットカード (Tarot Cards) と異なり、左側を向いた人物が描かれているのである。引用文に従って「左から右へと順番に並べ」るとその結果、必然的に愚者 (The Fool) は後ろ向きに歩む事になるからである。
それならば、「左から右へ」ではなく、その逆、右から左へと並べれば良いのではないか、そんな指摘が聴こえてきそうだ。
しかし、タロットカード (Tarot Cards) では、左は過去の事象、右は未来の事象と解釈する事になっている。右から左へと歩む事は、つまり、過去に向かって遡る事となる。そして、隠者 (The Hermit) に描かれた人物が左を向き、そしてその結果、その側を照らし出しているのは、そう謂う原則があるからである。隠者 (The Hermit) は過去に得た経験や記憶、そして智性に光を投げかける存在 [もしくは隠す存在] なのである。
レッド・ツェッペリン (Led Zeppelin) の内ジャケット (Inner Sleeve) 作品も同じだ。仮に、おのれの右側に光を投げかける様に頂きに立つのならば、それに向かって右側 [つまり未来] から青年が登攀する事になる。これでは全く違う物語となってしまう。
勿論、愚者 (The Fool) とはすなわち智者 (The Wise) の謂いである、と謂う解釈の登場をここで促しても良い。
愚者 (The Fool) が智者 (The Wise) であるとは一聴、意味不明のたわごとの様に響くがそうではない。
ソクラテス (Socrates) の「無知の知 (I Know That I Know Nothing)」 [『ソクラテスの弁明 (Apology Of Socrates)』 [プラトン (Plato)著] に登場] を想い出しても良い。
宮廷道化師 (Jester) があらゆる階級から自由であり、雇用主である王 (King) と対等、時には王 (King) よりも不遜であり、宮廷内にあるありとあらゆる些事一切を知り得る事が可能だった事を想い出しても良い。
さもなければ、ザ・ビートルズ (The Beatles) の『フール・オン・ザ・ヒル (The Fool On The Hill)』 [アルバム『マジカル・ミステリー・ツアー (Magical Mystery Tour)
だからそれらに準じて、ライダー版タロットカード (Rider Waite Tarot) の愚者 (The Fool) もまた、全知全能を得たが為に智者 (The Wise) すなわち愚者 (The Fool) となり得たと解釈する事が、出来ない訳ではない。ただ違うのは、引用文の顰に倣えば、彼は「最高の冒険の旅」にこれからでるのではなくて、「最高の冒険の旅」を既に終えた事になるのではなかろうか。
しかし、この仮説を肯定するのはまだ難問が控えている。
ライダー版タロットカード (Rider Waite Tarot) の愚者 (The Fool) には、零 (Zero) が記載されているのである。
ライダー版タロットカード (Rider Waite Tarot) を除くその他のタロットカード (Tarot Cards) では、愚者 (The Fool) を除く大アルカナ (Major Arcana) 21枚には1枚1枚、1から21までの数字が割り当てられているが、愚者 (The Fool) だけは数字が記載されていない。そして、記載されていないが為に、大アルカナ (Major Arcana) 22枚の中での、愚者 (The Fool) の位置と地位が議論を呼んでいる。引用文には明示されていないが、そのカードには零 (Zero) と謂う位置が与えられていると謂う前提にあるのであろう。
他には、愚者 (The Fool) を22番目すなわち最終のカードとする説や20番目と21番目の間にあるとする説がある。
それでは、ライダー版タロットカード (Rider Waite Tarot) は零 (Zero) をもって愚者 (The Fool) に据えているのだから、22枚のカードの最初だろうと謂いたいのだが、そんな簡単な問題ではない。
零 (Zero) は無であると同時にその逆、永遠を意味する事すらあるのだから。
そしてその結果、ぼくはここで引用文に記された事と、実際に手許にある愚者 (The Fool) との間を、未来永劫に渡る堂々巡りをしてしまうのだ。
次回は「や」。
附記:
念の為に断りを入れておくと、上の駄文は正しい意味での駄文であって、学問的にも学際的にも、なんの根拠もない。
つまり、決して信用しない様に。
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