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2017.06.27.09.04

やまだたろう

マンガ『ドカベン (Dokaben)』 [作:水島新司 (Shinji MIzushima) 19721981週刊少年チャンピオン連載] が画期的だったのは、その作品の主人公を捕手 (Catcher) に設定した事だ。この作品はそれに尽きるし、そしてそれ故に、様々な性格や特色を持った登場人物の登場を促し、その結果高校野球 (High School Baseball In Japan) と謂うスポーツを巡る物語を語る事が出来た様に思う。
尚、念の為にここで記しておくが、本作品には幾つもの続編があり、しかもその続編は未だ連載中であるが、ここで謂うマンガ『ドカベン (Dokaben)』はそれら諸作品を含めてはいない。ついでに綴っておけば、それらの作品に関してはぼくは未読であるし、あまり興味もない。
ぼくにとってのその作品の主人公、山田太郎 (Taro Yamada) とは明訓高校野球部 (Meikun High School Baseball Club) に所属している彼、なのである。

山田太郎 (Taro Yamada) 登場以前の野球マンガの殆どは、主人公は投手 (Pitcher) であった。
梶原一騎 (Ikki Kajiwara) 原作のふたつの作品、マンガ『巨人の星 (Star Of The Giants)』 [画:川崎のぼる (Noboru Kawasaki) 19661971週刊少年マガジン連載] の星飛雄馬 (Hyuma Hoshi) とマンガ『侍ジャイアンツ (Samurai Giants)』 [画:井上コオ (Koo Inoue) 19711984週刊少年ジャンプ連載] の番場蛮 (Ban Banba) は謂うまでもない。
その前の時代のマンガ、福本和也 (Kazuya Fukumoto) 原作の2作品、マンガ『ちかいの魔球 (Chikai No Makyu : The Promised Pitch)』 [画:ちばてつや (Tetsuya Chiba) 19611962週刊少年マガジン連載] の二宮光 (HIkaru Ninomiya) とマンガ『黒い秘密兵器 (Kuroi HImitsu Heiki : Black Secret Weapon)』 [画:一峰大二 (Daiji Kazumine) 19631965週刊少年マガジン連載] の椿林太郎 (Rintaro Tsubaki) もそうだろう [と謂いながらも全巻は未読、物語全編のごく一部しか知らないのだが]。
数奇な運命によって結成される野球チームの命運を描くふたつの作品、マンガ『群竜伝 (Gunryu-Den : The Legend Of The Dragons Group)』 [作・画:本宮ひろ志 (Hiroshi Motomiya) 1972週刊少年マガジン連載] とマンガ『アストロ球団 (Astro Kyuudan)』 [作:遠崎史朗 (Shiro Toozaki) 画:中島徳博 (Norihiro Nakajima) 19721976週刊少年ジャンプ連載] そのそれぞれに於いても、実質的な主人公は投手 (Pitcher) であった。
マンガ『父の魂 (Chichi No Tamashii : The Spirit Of My Father)』 [作・画:貝塚ひろし (Hiroshi Kaizuka) 19681971週刊少年ジャンプ連載] での、バット職人の匠を父にもつ南城隼人 (Hayato Nanjo) も父に抗うかの様に投手 (Pitcher) であり、墨谷二中野球部 (Sumiya Second Junior High School Baseball Club) の歴代主将 (Successive Captains) を主人公に据えたマンガ『キャプテン (Captain)』 [作・画:ちばあきお (Akio Chiba) 19721979月刊少年ジャンプ連載] に於いても初代主役、谷口タカオ (Takao Taniguchi) も投手 (Pitcher) として活躍せざるを得なかったのだ。

勿論、幾つかの例外はある。
マンガ『バット君 (Bat-Kun)』 [作・画:井上一雄 (Kazuo Inoue) 19471949漫画少年連載] の主人公、バット君 (Bat-Kun) はその名が示す通り、打者 (Batter) である事に重きを置いている様だが、残念ながらその守備位置は解らない。流石にそんな旧い作品は読んだ事はない。幾つかの資料でその存在を知っているだけだ。
マンガ『スポーツマン金太郎 (Sportsman Kintarou)』 [寺田ヒロオ (Hiroo Terada) 19591963週刊少年サンデー連載] も同様だ。これは幼い頃に単行本を入手しているから憶えている事だけを綴れば、主人公である金太郎 (Kintaro) は当初は投手 (Pitcher) であったものの、読売巨人軍 (Yomiuri Giants) に入団する際に投手 (Pitcher) と謂う地位を放棄している。尤も、この作品の最初のクライマックスは南海ホークス (Nankai Hawks) に入団した幼馴染、桃太郎投手 (Momotaro, The Pitcher) との日本シリーズ (Japan Series) での対戦にあるのだから、彼が打撃に専心するのは必然だ [万一、記憶違いで実際の作品と異なっている様でしたらご指摘願います]。
但し、これらの作品は、当時の人気選手が、赤バット (Red Bat) の川上哲治 (Tetsuharu Kawakami)、青バット (Blue Bat) の大下弘 (Hiroshi Oshita)、物干し竿 (Wash‐line Pole Bat) の藤村富美男 (Fumio Fujimura) に代表される様に、強打者 (Slugger) であったと謂う背景によっていると謂う指摘もある [ぢゃあ、それがいつ何故に、投手 (Pitcher) への関心へと移っていったのか]。

このふたつの例外作品を除けば [実際には例外と呼ぶべき作品はもっとあるだろうし、逆にないと困ると謂えなくもない] どの作品に於いても、捕手 (Catcher) は主人公である投手 (Pitcher) の"女房 (Wife)"であり、それに徹する事によって逆に作品の中に於ける自身のあり方を見出している様にすら思える。極端な話、彼等は後逸すらしなければ良いのだ。それが主人公と主人公の投げるボールの威力を保障する事になるのである。
仮に、主人公に相応しい捕手 (Catcher) が不明の場合は、彼の"女房 (Wife) "の不在とその捜索そのものが物語の主軸にすらなっている様に思える。マンガ『アストロ球団 (Astro Kyuudan)』に於ける正捕手 (Regular Catcher) はふたりいて、初代上野球二 (Kyui Ueno, The Founder) の悲劇的な絶命と2代目上野球二 (Kyuji Ueno, The Second) の壮絶な生誕は、その極端な例だ。
マンガ『巨人の星 (Star Of The Giants)』の伴宙太 (Cyuta Ban) も、マンガ『侍ジャイアンツ (Samurai Giants)』 の八幡太郎平 (Tarohei Hachiman) も、当初は主人公の投げる豪速球 (Radio Ball) や魔球 (Unhittable Pitch) を捕球出来る、たったそれだけが唯一の存在理由となっていた筈だ。彼等は主人公の苦悩をそのまま引き受けるかの様に彼等の放つ豪速球 (Radio Ball) や魔球 (Unhitable Pitch) で文字通りに身を切ってその補球術を会得していく。それが捕手達 (Catchers) の唯一の存在証明なのである。だが、それはいっときの勝利に他ならず、それ故に彼等もおのれをみうしなう。そして、そこからの打破がこのふたりの追求すべき物語となっていずれは語られていく。

しかもそれは、マンガ『ドカベン (Dokaben)』の作者、水島新司 (Shinji MIzushima) の前作『男どアホウ甲子園 (Otoko Doahou Koushien)』 [作:佐々木守 (Mamoru Sasaki) 19701975週刊少年サンデー連載] に於いてもそうなのだった。その作品に登場する捕手 (Catcher)、豆タンこと岩風五郎 (Goro Iwakaze aka Mame-Tank) が盲目なのは、ある意味に於いて"女房 (Wife) "としての捕手 (Catcher) を徹底させる為の方便と謂えなくもない。

そして、それまで"亭主 (Husband) "と"女房 (Wife) "との関係になぞらえて語られてきた投手 (Potcher) と捕手 (Catcher) の物語を逆転させたのが、マンガ『ドカベン (Dokaben)』だ。これから向かうであろう高校野球 (High School Baseball In Japan) と謂う活躍の場で、おのれの覇を唱えようと謂う投手達 (Pitchers) がこぞって、山田太郎 (Taro Yamada) の進学先を伺うのだ。不知火守 (Mamoru Shiranui) も雲竜大五郎 (Daigoro Unryu) もそして里中智 (Satoru Satonaka) も、山田太郎 (Taro Yamada) と謂う才能をみこして、しのぎを削る。

images
さらに山田太郎 (Taro Yamada) の進学先である明訓高校野球部 (Meikun High School Baseball Club) に於いても、彼を巡る争いが生じる。そこには正捕手 (Regular Catcher) である土井垣将 (Sho Doigaki) がいたのだ。
[上掲画像は守備位置争いの過程に於ける山田太郎 (Taro Yamada) と土井垣将 (Sho Doigaki) との確執を描く場面。後年に於ける、後者から前者に対する全幅の信頼を思い出せば、ショッキングなシーンとも謂える。掲載画像はこちらから。]

そこで気になる発言がある。

土井垣将 (Sho Doigaki) は山田太郎 (Taro Yamada) の体型を一瞥するや否や、こう指摘するのだ。
「一昔前の捕手だ (He Is A Catcher In The Old Style.)」

そう、山田太郎 (Taro Yamada) はその外見だけに着目すれば、従来型の捕手 (Catcher) としての人物像の具象化に他ならない。つまり、伴宙太 (Cyuta Ban) や八幡太郎平 (Tarohei Hachiman) や豆タンこと岩風五郎 (Goro Iwakaze aka Mame-Tank) と違わない。
しかし、その違わなさ、旧来的な容姿を得ているからこそ、そこで作品世界に飛躍も発展も促す。
土井垣将 (Sho Doigaki) 自身もそれを認め、正捕手 (Regular Catcher) としての座を山田太郎 (Taro Yamada) に明け渡す。後に明訓高校野球部 (Meikun High School Baseball Club) に入部するもうひとりの捕手 (Catcher) 微笑三太郎 (Santaro Hohoemi) が山田太郎 (Taro Yamada) をレギュラーの座から引きずりおろせなかったのもそこに理由がある。

だからこそ、ぼくはそこに不満を感ずる。マンガ『ドカベン (Dokaben)』の前に実は、もうひとつの捕手 (Catcher) の物語がどこかのだれかの掌によって描かれるべきではなかったのか、と。
山田太郎 (Taro Yamada) を「一昔前の捕手だ (He Is A Catcher In The Old Style.)」と一蹴する視点、そして誰もがその主張を首肯せざるを得ない描写、それを明瞭にさせる作品が登場するべきだったのではなかろうか。敢えて謂えば、土井垣将 (Sho Doigaki) の思い描く現代的な捕手像 (Image Of The Carcher) を主人公に据えた作品が本来ならば、望まれていたのでなかったろうか。
極論を謂えば、正捕手 (Regular Catcher) としての地位にある土井垣将 (Sho Doigaki) を主人公とした作品がそこにあっても良かったのではないだろうか。
そんな気がするのである。

例えば、その時代の水島新司 (Shinji MIzushima) のもうひとつの代表作『野球狂の詩 (Yakyuukyou No Uta : Poetry Of Baseball Enthusiasts)』 [19721976週刊少年マガジン連載] である。
その作品は当初、東京メッツ (Tokyo Mets) と謂う弱小プロ野球団を舞台にした、一癖も二癖もある選手達の人物像を描き出す連作の、読み切り連載作品だった。それが後に、水原勇気 (Yuuki Mizuhara) と謂う女性投手 (Female Pitcher) の活躍と悲劇を綴る長編へと移行する。
水原勇気 (Yuuki Mizuhara) 登場以前には、東京メッツ (Tokyo Mets) の正捕手 (Regular Catcher) は虎谷虎之介 (Toranosuke Toratani) であり、連作の一篇『ガニマタ (Ganimata : Bench-Legged)』で主役を演じる。土井垣将 (Sho Doigaki) の言葉を借りれば彼は正に「一昔前の捕手だ (He Is A Catcher In The Old Style.)」。
それが水原勇気 (Yuuki Mizuhara) の登場によって、帯刀守 (Mamoru Tatewaki) と謂う新しい正捕手 (Regular Catcher) が登場する。例えて謂えば、土井垣将 (Sho Doigaki) 任ずるところの現代的な捕手像 (A Catcher In The New Style) が帯刀守 (Mamoru Tatewaki) にあてがわれている。虎谷虎之介 (Toranosuke Toratani) から帯刀守 (Mamoru Tatewaki) への転換は水原勇気 (Yuuki Mizuhara) の登場と謂う一因をもって行われた様に作品では描かれているが、本来ならば、東京メッツ (Tokyo Mets) と謂う弱小プロ野球団が現代的な野球集団へと脱皮する過程に於いて、必要とされる捕手像 (Image Of The Catcher) の変転でなけらばならない。
つまり、水島新司 (Shinji MIzushima) はこの作品に於いては、水原勇気 (Yuuki Mizuhara) と謂う虚構を排除したところで、虎谷虎之介 (Toranosuke Toratani) と帯刀守 (Mamoru Tatewaki) とのレギュラー争いの物語を描く必要があったのではないだろうか。

次回は「」。

附記:
マンガ『すすめ!!パイレーツ (Susume!! Pirates : Go Ahead!! Pirates)』 [作・画:江口寿史 (Hisashi Eguchi) 19771980週刊少年ジャンプ連載] は万年最下位球団、千葉パイレーツ (Chiba Pirates) を舞台にした群像喜劇ではあるのだが、正捕手 (Regular Catcher) である犬井犬太郎 (Kentaro Inui) の引退劇 (Retire Game) が作品最終部にある点をもって、その作品の実質的な主人公を彼だと認識する事は不可能ではないのだ。
しかも、どこまでもどこまでもギャグの暴走を謀る彼に翻弄されるばかりか、ひとつひとつ常識人としてツッコミをいれるのがそのチームのエース (Ace In The Team) 富士一平 (Ippei Fuji) である事を思えば、この作品もマンガ『ドカベン (Dokaben)』同様、これまでの野球マンガ (Baseball Comic) の定石をひっくり返そうと謂う試みである、と謂えなくもないよね?
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