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2017.06.23.09.12

Yet Again

おおきなその天幕は2本の支柱でささえられていて、きみはいまそのうちの1本の、最上部にいる。

まっすぐまえをにらめば、そこにあるのはもう1本の支柱だ。そしてここからそこへとほそい1本の綱がわたされている。
きみの手許には1本のながいながい竿があり、それをつかってきみはむこうへわたらなければならない。

どのくらいの距離かって?
それはきみのすきにしたがいい。でなければ、ここでこうきみにはなしをしているぼくは一体、だれだい?
きみの直下で口上をのべているのがぼくさ。まちがったって、蟋蟀でも良心でもない。目下のところ、ぼくは観客への応対で精一杯なのだ。

ぼくがのべおわると、きみがわたる。わたったさきで大仰な最敬礼をして今度はうしろむきでもといたところへともどる。
なぁに、きみにとってはたいしたことではない。

そして今度は、ながいながい竿のかわりにいろどりもあざやかなみっつのボール、それがおわればボールのかわりのするどい5本の刀剣、それらを見事にあやつりながら、きみは綱のうえをいったりきたり。そしてさらには、目隠をしてさえわたるんだ。
これだって修練をつんだきみのことだもの。造作もないことさ。

そうやって難易度を次から次へとあげていっても、きみにはなんの負担も危険もない。
修行に修行をつんだから?
ここで過信しちゃだめさ。
きみとぼくとのそのあいだ、数メートルものたかさのちょうどまんなかに、おおきな網がはられている。真実とは、すなわちその網のことなのだ。

だからいいかい。今夜の興業、きみの演目のその最後にその網をおろしてしまおう。そうすればきっと、きみはおじけづいて一巻のおわりさ。
5本の刀剣やみっつのボールはおろか、竿があったとしてもわたれない。

なぜって、いいかい。わたりかたは何度も何度も練習したが、落下の方法だけはやったことがない。
だれもきみにおしえていなかったのさ。

[the text inspired from the song "Yet Again" from the album "Shields" by Grizzly Bear]


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