2016.11.01.09.32
ギリシア神話 (Greek Mythology) にキマイラ (Chimaira) と謂う怪物が登場する。
それはテューポーン (Typhon) とエキドナ (Ekhidna) の娘で、山羊 (Goat) の胴体に獅子 (Lion) の頭部と蛇 (Snake) の尻尾を持ち、その口腔からは火焔を放出する。
みっつの生物の複合したその外観から現代では、多種多様な要素を統合しているモノを評して、その怪物の名称を起源とする、キメラ的 (Chimera) と謂う形容句が流通している。
ところで、我が国にも、キマイラ (Chimaira) に相当する様な怪物が登場した事がある。
猿 (Monkey) の頭部、狸 (Raccoon Dog) の胴体、虎 (Tiger) の四肢、蛇 (Snake) の尾。
夜毎、御所 (Imperial Palace) に黒雲が湧き、時の近衛天皇 (Emperor Konoe) を苦しめる。それを源頼政 (Minamoto no Yorimasa) とその家臣、猪早太 (Ino Hayata) が退治したのだ。
『平家物語 (The Tale Of The Heike)』に記されている。

[上掲画像は月岡芳年 (Tsukioka Yoshitoshi) による『新形三十六怪撰 (New Forms Of Thirty-six Ghosts)』[1889~1892年刊行] のひとつ『内裏に猪早太鵺を刺図 (Hayata Killing A Nue)』。猶、余談ながら猪早太 (Ino Hayata) の右腕には、髑髏 (Skull Head) を想わせる文様が描かれていて、ぼくにはそこから得る印象の方が、苦悶の表情をした怪物よりも恐ろしい。]
だが実のところ、その怪物をもって、鵺 (Nue) と呼ぶのではない。
黒雲の中に源頼政 (Minamoto no Yorimasa) が弓を射て撃ち墜としたそれを、猪早太 (Ino Hayata) が格闘の末に絶命させたのだが、そこに記されているのは、その怪物の異様な姿だけなのである。
そして、次の様なことばが綴られている。
「鳴く声は鵺にぞ似たりける (It's Sounds Resembled Nue's)」
つまり、頭部が猿 (Monkey) で、胴体が狸 (Raccoon Dog) で、四肢が虎 (Tiger) で、尾が蛇 (Snake) である様に、その鳴き声が鵺 (Nue)、なのである。
では、一体、ここで謂う鵺 (Nue) とはなんなのか。
『源平盛衰記 (Genpei Josuiki)』には、源頼政 (Minamoto no Yorimasa) の挿話とは別のところにも、鵺 (Nue) が登場する。
内裏 (Imperial Palace) で、鵺 (Nue) の鳴き声が聴こえるので、平清盛 (Taira no Kiyomori) が鵺 (Nue) の討伐を命じられる。平清盛 (Taira no Kiyomori) が鳴き声の主を退治してみればそれはちいさな鳥であって、その正体は毛しゅう (Moushuu) と謂う。
毛しゅう (Moushuu) ではなくて、もうしゅう (Moushuu) ならば、かつて垂仁天皇 (Emperor Suinin) の時代に宮中 (Imperial Palace)に顕れて変事を成した事があると謂う。
ところが、毛しゅうを毛朱 (Moushu) と綴れば鼠 (Mouse) の事になる。
また、一説にはこれは毛未 (Momi) の誤記であって、仮に毛未 (Momi) ならばこの場合、鼯 (Flying Squirrel) の事となる。
よくわからない。
ただ、よくわからない割にわかっているのはただひとつあって、ここでも鵺 (Nue) の正体は不明な事なのだ。
しかも『源平盛衰記 (Genpei Josuiki)』では源頼政 (Minamoto no Yorimasa) の挿話に登場する怪物は、背部が虎 (Tiger) で、四肢が狸 (Raccoon Dog)、尾が狐 (Fox) であるとされているのだ。時代も近衛天皇 (Emperor Konoe) の治世ではなくて、二條天皇 (Emperor Nijo) の頃だと謂う。
ますますわからない。
むしろ、このよくわからなさをもって、鵺 (Nue) と呼ぶと解するべきなのではないだろうか。
形容句として起用される鵺 (Nue) と謂う語句の意味は、まさしくそれだ。
ちなみに、源頼政 (Minamoto no Yorimasa) が招集されたのは、これよりも以前に、堀河天皇 (Emperor Horikawa) が同じ様な事態に遭遇し、その際には、源義家 (Minamoto no Yoshiie) の鳴弦 (Sounds From Bow) によって、怪異を退散させたと謂う前例があるからだと謂う。
同じ血をひく、源氏 (Minamoto Clan) の武士ならばたおせるだろうと謂うのである。
果たして、その退散したモノの本性とは一体、何だったのだろうか。
次回は「え」。
それはテューポーン (Typhon) とエキドナ (Ekhidna) の娘で、山羊 (Goat) の胴体に獅子 (Lion) の頭部と蛇 (Snake) の尻尾を持ち、その口腔からは火焔を放出する。
みっつの生物の複合したその外観から現代では、多種多様な要素を統合しているモノを評して、その怪物の名称を起源とする、キメラ的 (Chimera) と謂う形容句が流通している。
ところで、我が国にも、キマイラ (Chimaira) に相当する様な怪物が登場した事がある。
猿 (Monkey) の頭部、狸 (Raccoon Dog) の胴体、虎 (Tiger) の四肢、蛇 (Snake) の尾。
夜毎、御所 (Imperial Palace) に黒雲が湧き、時の近衛天皇 (Emperor Konoe) を苦しめる。それを源頼政 (Minamoto no Yorimasa) とその家臣、猪早太 (Ino Hayata) が退治したのだ。
『平家物語 (The Tale Of The Heike)』に記されている。

[上掲画像は月岡芳年 (Tsukioka Yoshitoshi) による『新形三十六怪撰 (New Forms Of Thirty-six Ghosts)』[1889~1892年刊行] のひとつ『内裏に猪早太鵺を刺図 (Hayata Killing A Nue)』。猶、余談ながら猪早太 (Ino Hayata) の右腕には、髑髏 (Skull Head) を想わせる文様が描かれていて、ぼくにはそこから得る印象の方が、苦悶の表情をした怪物よりも恐ろしい。]
だが実のところ、その怪物をもって、鵺 (Nue) と呼ぶのではない。
黒雲の中に源頼政 (Minamoto no Yorimasa) が弓を射て撃ち墜としたそれを、猪早太 (Ino Hayata) が格闘の末に絶命させたのだが、そこに記されているのは、その怪物の異様な姿だけなのである。
そして、次の様なことばが綴られている。
「鳴く声は鵺にぞ似たりける (It's Sounds Resembled Nue's)」
つまり、頭部が猿 (Monkey) で、胴体が狸 (Raccoon Dog) で、四肢が虎 (Tiger) で、尾が蛇 (Snake) である様に、その鳴き声が鵺 (Nue)、なのである。
では、一体、ここで謂う鵺 (Nue) とはなんなのか。
『源平盛衰記 (Genpei Josuiki)』には、源頼政 (Minamoto no Yorimasa) の挿話とは別のところにも、鵺 (Nue) が登場する。
内裏 (Imperial Palace) で、鵺 (Nue) の鳴き声が聴こえるので、平清盛 (Taira no Kiyomori) が鵺 (Nue) の討伐を命じられる。平清盛 (Taira no Kiyomori) が鳴き声の主を退治してみればそれはちいさな鳥であって、その正体は毛しゅう (Moushuu) と謂う。
毛しゅう (Moushuu) ではなくて、もうしゅう (Moushuu) ならば、かつて垂仁天皇 (Emperor Suinin) の時代に宮中 (Imperial Palace)に顕れて変事を成した事があると謂う。
ところが、毛しゅうを毛朱 (Moushu) と綴れば鼠 (Mouse) の事になる。
また、一説にはこれは毛未 (Momi) の誤記であって、仮に毛未 (Momi) ならばこの場合、鼯 (Flying Squirrel) の事となる。
よくわからない。
ただ、よくわからない割にわかっているのはただひとつあって、ここでも鵺 (Nue) の正体は不明な事なのだ。
しかも『源平盛衰記 (Genpei Josuiki)』では源頼政 (Minamoto no Yorimasa) の挿話に登場する怪物は、背部が虎 (Tiger) で、四肢が狸 (Raccoon Dog)、尾が狐 (Fox) であるとされているのだ。時代も近衛天皇 (Emperor Konoe) の治世ではなくて、二條天皇 (Emperor Nijo) の頃だと謂う。
ますますわからない。
むしろ、このよくわからなさをもって、鵺 (Nue) と呼ぶと解するべきなのではないだろうか。
形容句として起用される鵺 (Nue) と謂う語句の意味は、まさしくそれだ。
ちなみに、源頼政 (Minamoto no Yorimasa) が招集されたのは、これよりも以前に、堀河天皇 (Emperor Horikawa) が同じ様な事態に遭遇し、その際には、源義家 (Minamoto no Yoshiie) の鳴弦 (Sounds From Bow) によって、怪異を退散させたと謂う前例があるからだと謂う。
同じ血をひく、源氏 (Minamoto Clan) の武士ならばたおせるだろうと謂うのである。
果たして、その退散したモノの本性とは一体、何だったのだろうか。
次回は「え」。
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