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2016.07.05.10.32

らゔみーどぅ

レコード・コレクターズ (Record Collectors' Magazine) 増刊号『ザ・ビートルズ・コンプリート・ワークス 1 (The Beatles Complete Works 1)』 [1998年刊行] に掲載されている記事『すでに始まっていた天才達の疾走』で、著者の大鷹俊一 (Toshikazu Otaka) が冒頭、次の様に綴っている。
「昔からの疑問の一つなのだが、どうして『ラヴ・ミー・ドゥ』はデヴュー・シングルに選ばれたのだろう」

確かにそうなのだ。
その曲『ラヴ・ミー・ドゥ (Love Me Do)』 [アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー (Please Please Me)』収録 1962年発表] から全米でブレイクするシングル『抱きしめたい (I Want To Hold Your Hand)』 [アルバム『パスト・マスターズ (Past Masters)』収録 1963年発表 猶こちらも参照の事] までに至る2年間の間に発表された5枚のシングル楽曲を聴き比べると、どうしても『ラヴ・ミー・ドゥ (Love Me Do)』は見劣りをしてしまう。

但し、これが5枚のシングルのB面曲をも含めた全10曲を聴き比べると、その判断が正しいのかどうか途端に自信がなくなってしまう。それは『ラヴ・ミー・ドゥ (Love Me Do)』が最下位に甘んじる事は決してない、と謂う意味ではない。当時のザ・ビートルズ (The Beatles) と謂うバンドの持てる音楽性の振幅が限りなく広く感じられて、ヒットするや否や、と謂う視点だけで聴く事が不可能となってしまうのである。
例えば、3枚目のシングルA面曲『フロム・ミー・トゥ・ユー (From Me To You)』 [アルバム『パスト・マスターズ (Past Masters)』収録 1963年発表] は、それに先行する2曲のシングルA面曲のいいところだけを寄せ集めた、謂わば二匹目の泥鰌 (Try To Catch Lightning In A Bottle Twice) を狙った様にしか聴こえない一方で、5枚目のシングルB面曲『こいつ (This Boy)』 [アルバム『パスト・マスターズ (Past Masters)』収録 1963年発表] のしみじみとしたコーラス・ワークを聴くと、何故これがB面なんだろうねとつい愚痴りたくもなってしまう。
勿論、そのA面曲こそが『抱きしめたい (I Want To Hold Your Hand)』であり、この曲から彼等の神話が始まる訳でもあるのだが。

そして、その神話が語り終えられた後にいるぼく達が、神話の序章ですらないかもしれない当時の作品のひとつを取り上げて、現在の視点でもってそれを一言、見劣りをしてしまうと断罪してしまうのは、とても卑怯な発言なのかもしれない。
だけれども翻って、ではその楽曲が当時、凄まじく光り輝いてみえたのかどうか、もし、そうみえたのならば、それは何故なのか、それを考えてみるのは決して無駄な行為ではないと思える。
とりあえず、ぼく達の知っているザ・ビートルズ (The Beatles) と謂うバンドがいつ始まったのか、それを考える手立てにはなるのではないだろうか。と、謂うのは、この楽曲がレコーディングされる前後、そのバンドはジョンポールジョージ・アンド・リンゴ (John, Paul, George and Ringo) ではなかったのだから。

images
19626月6日イー・エム・アイ (EMI : Electric And Musical Industries Ltd.) のアビー・ロード・スタジオ (Abbey Road Studio) で、ザ・ビートルズ (The Beatles) のオーディションが成される。収録されたのは次の4曲である。
ベサメ・ムーチョ (Besame Mucho)』 作:コンスエロ・ベラスケス (Consuelo Velazquez) ザ・ビートルズ (The Beatles) 版はアルバム『ザ・ビートルズ・アンソロジー1 (The Beatles Anthology 1)1995年発表] に収録]、『ラヴ・ミー・ドゥ (Love Me Do)』、『P.S. アイ・ラヴ・ユー (P.S.I Love You)』 [アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー (Please Please Me)』収録 1962年発表] そしてアスク・ミー・ホワイ (Ask Me Why)」 [アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー (Please Please Me)』収録 1963年発表] だ。
その時、リンゴ・スター (Ringo Starr) は加入していない。この時のドラマー (Drummer) は、前任者のピート・ベスト (Pete Best) である。
[上掲画像は左から右へピート・ベスト (Pete Best)、ジョージ・ハリスン (George Harrison)、ポール・マッカートニー (Paul McCartney) そしてジョン・レノン (John Lennon)。『The Beatles With Pete Best In Their New Suits 1962』より]

ところで『ビートルズ・レコーディング・セッション (The Complete Beatles Recording Sessions)』 [著:マーク・ルーイスン (Mark Lewisohn) 1988年発表] の同日の記録に興味深い点がふたつ記されている。
ひとつは、セッションは当初、ロン・リチャーズ (Ron Richards) のプロデュースの下に行われていたが、『ラヴ・ミー・ドゥ (Love Me Do)』収録の時点で彼は上司であるジョージ・マーティン (George Martin) を呼び出して感想を求め、それ以降の作業はジョージ・マーティン (George Martin) 自らが行った事。その結果、バンドの扱いに関する最終判断はジョージ・マーティン (George Martin) に一任される事になる。
そしてもうひとつは、ジョージ・マーティン (George Martin) に判断を委ねられた結果から、当時の音楽ビジネスの慣行から、ジョン・レノン (John Lennon)・アンド・ザ・ビートルズ (The Beatles) とすべきかポール・マッカートニー (Paul McCartney)・アンド・ザ・ビートルズ (The Beatles) とすべきか、一任された彼が悩んだ事。つまりいずれをリード・ヴォーカリストもしくはバンド・リーダーとして引き立てるか、それが目下の彼の大命題であったのだ。
考えあぐねた結果、彼が出した結論は、ザ・ビートルズ (The Beatles) はザ・ビートルズ (The Beatles) のまま、現行のままで行こうと謂う事であり、それをもってザ・ビートルズ (The Beatles) はイー・エム・アイ (EMI : Electric And Musical Industries Ltd.) 傘下のパーロフォン・レーベル (Parlophone Records) からデヴューする事になる。

この時点で、冒頭に掲げた大鷹俊一 (Toshikazu Otaka) の疑問に対する解答は幾らかでも提出できそうな気がする。
ロン・リチャーズ (Ron Richards) とそしてジョージ・マーティン (George Martin) の行動をみる限りに於いても当時、『ラヴ・ミー・ドゥ (Love Me Do)』は新鮮な魅力を放っていたのであろう、と謂う事。そして、その魅力の正体がジョン・レノン (John Lennon) とポール・マッカートニー (Paul McCartney) のふたつの異なる個性が同時に存在する事なのかもしれないと謂う事なのである。

それは、大鷹俊一 (Toshikazu Otaka) がその記事に於いても、こう綴っている。
「<前略>その最大の要因はビートルズがドリフターズやコースターズといった黒人コーラス・グループへの傾向が強くなり、<中略>曲そのものがシンプルなフレーズ、言葉の繰り返しによってファンキーなパワーを生み出す要素も持っている」 [前掲書より]

この言葉を踏まえて『ラヴ・ミー・ドゥ (Love Me Do)』を聴くとあながち間違った判断ではないよなぁとも思えるが、後段のジョン・レノン (John Lennon) とポール・マッカートニー (Paul McCartney) ふたりを比べて云々と謂う点に関しては疑義が生じるかもしれない。と、謂うのはこの曲、名義上こそ、彼等の通例に従いレノンマッカートニー (Lennon = McCartney) とクレジットされているが、実際は100%、ポール・マッカートニー (Paul McCartney) の創作物なのである。リード・ヴォーカルも彼なのだ。

だけれども19626月6日 の時点、この曲のコーラス部での一段低い声で繰り返される部分は、ジョン・レノン (John Lennon) の歌唱であったのだ [それが現行のモノになるのはジョージ・マーティン (George Martin) によって、そのパートにジョン・レノン (John Lennon) によるハーモニカ (Harmonica) の旋律が起用された為]。
つまり、ジョージ・マーティン (George Martin) はその曲のそこでジョン・レノン (John Lennon) とポール・マッカートニー (Paul McCartney) のふたつの異なる個性を知る事になるわけだ。

いつかどこかでこのつづきを書きます。

次回は「」。

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