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2016.05.03.10.08

らるげゆうす

人間が人間以外の生物と築き得る友好な関係を一体、何と呼べば良いのだろうか。
その人間がその人間以外の生物を一体、どういう存在と看做しているのだろうか。
そして、その一方で、その人間以外の生物は一体、人間をどういう存在と看做しているのだろうか。
悩ましいのは、ここで既にぼくが”友好な関係”と呼んでしまっている点だ。
冷静に、そして、厳密に考えるのであるのならば、果たしてそれを”友好な関係”と呼ぶべきモノなのだろうか、という時点まで立ち戻って考えなければならない。

と、ここまで読んできたヒトの中には、上の文章を嫌らしい程に衒学的な衒いが横溢していると感じるかもしれない。
だが時に、サイエンス・フィクション / Science-Fictionと分類される作品には、往々としてそこまで引き戻されるモノがあるのだ。

一見するとそれは第三者の視点からは単に、”飼い主”と”ペット”との信頼関係と見て取れる現象を、”飼い主”の視点からみればどうなのか、または、”ペット”としての視点からみればどうなのか、と謂う疑義を綴ったのにすぎないのではあるが。

特撮TV番組『ウルトラQ (Ultra Q)』 [1966TBS系列放映] の第12話『鳥を見た (I Saw A Bird)』 [監督:中川晴之助 (Harunosuke Nakagawa) 脚本:山田正弘 (Masahiro Yamada) 特技監督:川上景司 (Keiji Kawakami)] は、それを考えるのに相応しい素材なのかもしれない。

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物語の殆どを費やして語られるのは、三郎 (Saburo) [演:津沢彰秀 ( Akihide Tsuzawa)] と謂う孤独な少年と、彼がクロオ (Kuro) と名付けた1羽の鳥との交友だけなのだ。
その少年が孤独な理由は一切語られず、彼の孤独を癒すでもなく論うでもなく、その鳥クロオ (Kuro) は顕れ、彼の行くところに居る。しかも、クロオ (Kuro) が自らを語る訳もなく、それ故に少年自らが自身の境涯を語る術もない。
だからと謂って、彼等の出逢いからここまで語られてきた少年と鳥との物語は決して、特殊な物語でも異常な物語でもない。
そう、もしかしたら、時代や時間、さもなければ相手は違えてはいても、誰にも経験がある事なのかもしれないし、もしかしたらこれから、体験する事なのかもしれない。
それ程に、そこで語られている、少年と鳥の物語は普遍的な輝きをもつモノなのだ。
ある夏の、出逢いと別れ、そこまで純化させて読む事さえも可能なのである。
[掲載画像はこちらから。]

だが、残念ながら、その鳥には妖しい影が潜んでいる。
鳥が少年の許に顕われると時を同じくして、その街に怪現象が幾度となく発生する。そして、その怪現象のいずこでも、1羽の鳥が飛翔するのだ。
この物語の題名はそれを暗示している。

少年は一切、その怪現象の現場にたちあっていない。鳥と常にいる少年だけは、鳥の怪異を見ていない。

だから、この特撮TV番組の主人公トリオ、万城目淳 (Manjome Jun) [演:佐原健二 (Kenji Sahara)]、戸川一平 (Ipei Togawa) [演:西條康彦 (Yasuhiko Saijo)]、江戸川由利子 (Yuriko Edogawa) [演:桜井浩子 (Hiroko Sakurai)] らが少年に突きつけるモノは状況証拠 (Circumstantial Evidence) の積み重ねでしかなく、彼にしてみれば、いつも少年が突きつけられてきた身勝手な大人の謂い分がそこでも振り回されているだけにすぎない。

物語の最後、大人達の許から奔走した鳥は、少年の許に再び現れ、そのままいずこともなく姿を消す。
それを別離と呼ぶか否かは、物語をみてきたモノ自らが判断すればいい。

第12話『鳥を見た (I Saw A Bird)』は斯様に、何も起こらない物語だ。

怪現象が幾つも起きているとか、物語のクライマックスは鳥の巨大化だろうとか、主張するのは簡単だ。だが、同じ『ウルトラQ (Ultra Q)』の第2話『五郎とゴロー (Goro And Goroh)』 [監督:円谷一 (Hajime Tsuburaya) 脚本:金城哲夫 (Tetsuo Kinjo) 特技監督:有川貞昌 (Sadamasa Arikawa)] は、巨大化してしまったところから、物語が始まっているのだ。その物語の主人公、聾唖者の青年五郎 (Goro) [演:鈴木和夫 (Kazuo Suzuki)] と猿のゴロー (Gorou) との間にある関係や感情は、第12話『鳥を見た (I Saw A Bird)』での少年と鳥のそれと違うのか否か。

一方で、第12話『鳥を見た (I Saw A Bird)』の脚本家山田正弘 (Masahiro Yamada) は、同じ『ウルトラQ (Ultra Q)』の第6話『育てよ! カメ (Grow Up! Little Turtle)』 [監督:中川晴之助 (Harunosuke Nakagawa) 脚本:山田正弘 (Masahiro Yamada) 特技監督:小泉一 (Hajime Koizumi)] では、主人公である少年浦島太郎 (Taro Urashima) [演:中村和夫 (Kazuo Nakamura)] が率先して、1匹の亀を巨大化させようと奮闘し、その努力が成就する物語を描く。

第2話『五郎とゴロー (Goro And Goroh)』と第6話『育てよ! カメ (Grow Up! Little Turtle)』を目の当たりにリアル・タイムでみてきたぼく達からしてみれば、第12話『鳥を見た (I Saw A Bird)』は一切、なにも起きない物語、物語が語られ始めると同時に幕を告げられてしまう物語なのだ。

三郎 (Saburo) [演:津沢彰秀 ( Akihide Tsuzawa)] にとって、クロオ (Kuro) は1羽の鳥でしかない様に、物語を固唾を呑んで見守ってきたぼく達にとっても、それは鳥でしかない。
いくら、その物語の中で、その正体が古代怪鳥ラルゲユウス (Larugeus) だと解き明かされたとしても、だ。
この物語の題名が暗示しているのは、その事だ。

だからこそ、長じたぼく達は今、ただ去るだけのクロオ (Kuro) を見守るしかなかった少年に自らをなぞらえて空をみあげる。
しかし、そこではただ、第28話『あけてくれ! (Open Up!)』[監督:円谷一 (Hajime Tsuburaya) 脚本:小山内美江子 (Mieko Osanai) 特技監督:川上景司 (Keiji Kawakami)] の主人公沢村正吉 (Shokichi Sawamura) [演:柳谷寛 (Kan Yanagiya)] と同じ焦燥感に囚われるしかない。
「連れて行ってくれ (Take Me Away With You)」と。

次回は「」。

附記 1. :
第2話『五郎とゴロー (Goro And Goroh)』を山田正弘 (Masahiro Yamada) なりに翻案したのが第12話『鳥を見た (I Saw A Bird)』なのだとしたら、その意趣返しとばかりに金城哲夫 (Tetsuo Kinjo) が第12話『鳥を見た (I Saw A Bird)』を翻案したのが、特撮TV番組『戦え! マイティジャック (Fight! Mighty Jack)』[1968フジテレビ系列放映] の第16話『来訪者を守りぬけ (Protect The Escape Visitors)』 [監督:東條昭平 (Shohei Tojo) 脚本:金城哲夫 (Tetsuo Kinjo) 特技監督:佐川和夫 (Kazuo Sagawa)] だ。
飛来した宇宙人が遺した白い鳩は、巨大化すら許されずに、駕籠の中で惨殺されてしまうのである。

附記 2. :
但し、制作順で謂えば、第12話『鳥を見た (I Saw A Bird)』が6番目で第2話『五郎とゴロー (Goro And Goroh)』が7番目なのである。念の為に、脚本ナンバーを併記すると前者が第7脚本であって後者は第11脚本にあたる。と、謂う事は附記 1. に綴った様な、後者を翻案して前者を云々と謂う事はあり得ない事にはなりそうだ。
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