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2016.03.08.12.00

ぶらっくびゅーてぃー

前回の記事が『らくだのこぶ』この連載企画趣旨に則れば、語頭が"ぶ"の語句を件名に据えた記事を書かなければならない。と、大上段に振りかぶらずとも、前回の記事最終行で予告済みだ。
次回は「」、と。

語頭が"ぶ"である語句で真っ先に念頭に浮かんだのが上記件名の「ぶらっくびゅーてぃー」で、ブラックビューティー (Black Beauty) と謂えばあれだ、となる。だが勿論、ブラックビューティー (Black Beauty) 即ち、黒く美しきモノ (Black Beauty) と謂えば、いくらでもあるだろう。あれだって、そうだ。例えそれが正式名称であろうと略称であろうと愛称であろうと。そもそも、ぼくの最初に念頭にあったブラックビューティー (Black Beauty) 自体は正式名称でもなんでもない代物だ。

と謂う様な思考回路を経て検索エンジンでその語句を入力すると予想外の代物が登場する。

予想外の代物とは、小説『黒馬物語 (Black Beauty : The Autobiography Of A Horse)』[作: アンナ・シュウエル (Anna Sewell) 1877年発表] の事である。
しかし、英原題をみれば予想外の代物でもなんでもない。至極順当な手順で、検索されるべきモノが検索されただけなのである。

ぼく自身はこの小説は未読だし、またこれを原作にした映像作品も数々あるらしいのだが [直近の作品で謂えば映画『黒馬物語 ブラック・ビューティー (Black Beauty)』[キャロライン・トンプソン (Caroline Thompson) 監督作品 1994年制作] になる]、そちらも未見だ。
だから、そこで語られている物語に関しては一切、語るべきモノを持っていない。
だけれども、その小説の中で試みられている手法に興味を惹かれてしまったので、そこを接点にしてこの拙稿を綴ってみたいと思う。

小説好き、文学好きからは思いっきり非難される様な事をしでかしてしまっているのかもしれないが、世間に横行している事は大なり小なり似た様なモノなのだ、と責任を誰かに転嫁してしまって、このまま続ける。

物語の主人公はブラック・ビューティー (Black Beuty) と名付けられた黒馬 (Black Horse) だ。しかも、彼自身の視点、一人称形式 (Writing In The First Person) で物語が綴られている。
推理小説 (Detective Story) の手法に倒叙法 (Inverted Story) と謂う、探偵 (Detective) の視点ではなく、犯人 (Criminal) の視点、犯人 (Criminal) の一人称形式 (Writing In The First Person) で綴られていく物語の手法があるが、あれの黒馬ヴァージョン (Black Horse Version) だと想えばいい。
と、綴ってみると却って混乱する。

民話 (Folktale) や寓話 (Fable) や童話 (Fairy Tale) やその手の手法を擬えた物語ならば、不思議でもなんでもない。だが、それとは一線を画す様だ。そもそも、民話 (Folktale) や寓話 (Fable) や童話 (Fairy Tale) に登場する、人間にあらざる主人公は多種多様ではあるが、その物語の殆どは客観描写 (Objective Description) に徹している。彼等乃至は彼女等自身の視点、一人称形式 (Writing In The First Person) で語られている物語は、即座には思い当たらない。また、喩え、そんな手法の物語があったとしても、その殆どは後代の改変の成果の様な気がする。果たして、原典に於いて、その様な手法が採られているのだろうか。

最も小説『黒馬物語 (Black Beauty : The Autobiography Of A Horse)』の手法に肉薄しているのは小説『黄金の驢馬 (Asinus aureus (The Golden Ass))』 [作:アプレイウス (Apuleius) 2世紀後半成立] だ。主人公である驢馬 (Ass) が数々の危難や苦難に遭遇する遍歴を綴った物語だが、そもそもが主人公の驢馬 (Ass) の正体は見習い魔術師ルキウス (Loukios / Lucius) であって、見様見真似で動物に変身する魔法をかけたものの、それが解けないと謂うのが物語の発端だ。小説『黒馬物語 (Black Beauty : The Autobiography Of A Horse)』とは全く異なる。こちらのブラック・ビューティー (Black Beuty) は黒馬 (Black Horse) として産まれて黒馬 (Black Horse) として死ぬのだ。

それに気づいてしまえば、薄々感付いていた、実存主義文学 (existentialisme litterature) の大半とも異なる事に気づいてしまう。
小説『変身 (Die Verwandlung)』 [フランツ・カフカ (Franz Kafka) 1915年発表] に於ける毒虫に変身してしまったグレゴール・ザムザ (Gregor Samsa) を筆頭に、本来は人間である属性が何かの拍子に奪われてしまう物語とも小説『黒馬物語 (Black Beauty : The Autobiography Of A Horse)』とは異なるのだ。
もしもその点を踏まえて、物語との共通性を訴えるとしたら、小説『虚構船団 (Kyoko Sendan : Fleet Of Fantasy)』[作:筒井康隆 (Yasutaka Tsutui) 1984年発表] の様なモノしかない。この小説に登場するのは総て、文房具達 (Stationeries) なのであって、この辺りの手法になると最早、実存主義文学 (existentialisme litterature) の向こう側へと突き抜けているのかもしれない。

と謂う様に、民話 (Folktale) や寓話 (Fable) や童話 (Fairy Tale) やその手の手法と、実存主義文学 (existentialisme litterature) との間で宙ぶらりんになっているとふと脳裏に浮かぶのが小説『ガリヴァー旅行記 (Gulliver's Travels)』 [作:ジョナサン・スウィフト (Jonathan Swift) 1726年発表] だ。その第4篇に登場するフウイヌム国 (The Country Of The Houyhnhnms) は馬の国 (The Country Of The Horse) ではなかったか。

でも残念ながらこれも全く隔たりがあるのだ。小説『黒馬物語 (Black Beauty : The Autobiography Of A Horse)』に登場するブラック・ビューティー (Black Beuty) が体験する世界はこの小説が執筆された当時の、家畜としての馬 (Horse) が与えられた環境そのものであり、それを読書を通じて主体的に体験する為に採られたのが、この小説の手法であるらしいのだ。

だから、この小説が発表された後に登場する人語を解し人語を話す馬達とも異なるのに違いない。
TV番組『ミスター・エド (Mister Ed)』[19611966年放映 CBS制作] の主人公エド (Mister Ed) や、『ワンダースリー (W3) (The Amazing 3)』 [作:手塚治虫 (Tezuka Osamu) 1965週刊少年マガジン連載] のノッコ (Nokko) の事なのだけれども、彼等の出自を一体、どこに求めるべきなのだろう。

images
いや、少なくとも後者の正体は、地球 (Terra) に派遣された銀河パトロール (The Galactic Patrol) のひとり、つまりぼく達の視点からみれば宇宙人 (Alien) なのだ。
任務とは謂え未開の地に送り込まれてそこのさらなる下等生物の姿に変身せざるを得ない彼の運命を慮れば、小説『黄金の驢馬 (Asinus aureus (The Golden Ass))』 [作:アプレイウス (Apuleius) 2世紀後半成立] の主人公ルキウス (Loukios / Lucius) の末裔と謂う事も可能なのかもしれない。
[掲載画像はこちらから:左から馬 (Horse)、鶩 (Duck)、兎 (Rabbit) ならぬノッコ (Nokko)、プッコ (Pukko)、ボッコ (Bokko)]

次回は「」。

附記:
黒馬 (Black Horse) と謂うのは、白馬の王子 (Prince Charming or White Knight) との対比で考えると、悪なる存在、禍々しき存在としての象徴を担っている。
小説『メッツェンガーシュタイン (Metzengerstein)』 [ 作:エドガー・アラン・ポー (Edgar Allan Poe) 1832年発表] に登場するのも黒馬 (Black Horse) だし、映画『ベン・ハー (Ben-Hur)』[ウィリアム・ワイラー (William Wyler) 監督作品 1959年制作] のクライマックス、戦車競走 (Chariot Racing) のシーンで主人公ジュダ=ベン・ハー (Judah Ben-Hur) [演:チャールトン・ヘストン (Charlton Heston)] が白馬 (White Horse) の4頭立て戦車 (Chariot) であるのに対し、彼の仇敵メッサラ (Messala) [演:スティーヴン・ボイド (Stephen Boyd)] の戦車 (Chariot) が黒馬 (Black Horse) だったのも、それだ。
果たして、小説『黒馬物語 (Black Beauty : The Autobiography Of A Horse)』にはそれに類する類の挿話は登場するのだろうか。
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