this night wounds time, とわのうた
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2016.02.02.11.30

とわのうた

例によって、上掲の件名の様に読ませる創作作品は幾つかあるが、今回取り上げるのは、レッド・ツェッペリン (Led Zeppelin) の『永遠の詩 (The Song Remains The Same)』である。
恐らく、この作品から派生して、その他の幾つもの同名作品が登場したのではなかろうか。

レッド・ツェッペリン (Led Zeppelin) の『永遠の詩 (The Song Remains The Same)』とは謂うモノの、これが指し示す作品は、厳密に謂えばふたつ、大雑把に謂えばみっつ存在する。
とは謂うモノの、実は全く逆の数え方も可能なのである。つまり、厳密に謂えばみっつ、大雑把に謂えばふたつ存在する、と謂う断定もあり得るのである。

それは単純に謂えば、翻訳に関する問題に依拠するモノであって、今回この拙稿の主題はそれに関する事なのである。
だから、レッド・ツェッペリン (Led Zeppelin) の『永遠の詩 (The Song Remains The Same)』と謂う創作作品そのものについて語るのは、そのごく鳥羽口でしかない事を、あらかじめここで言明しておこう。

レッド・ツェッペリン (Led Zeppelin) の『永遠の詩 (The Song Remains The Same)』は、先ず、彼らの第5作であるアルバム『聖なる館 (Houses Of The Holy)』[1973年発表] の収録楽曲『永遠の詩 (The Song Remains The Same)』として登場した。
そして、この楽曲名は彼等の初のライヴ・アルバムのアルバム名『永遠の詩 (The Song Remains The Same)』[1976年発表] として登場する。
このライヴ・アルバムは1973年に行われたニューヨーク (New York) はマディソン・スクエア・ガーデン (Madison Square Garden) での公演を収録したモノであって、この公演は同時に、同名のドキュメンタリー映画の主要部分を成すモノでもある。ライヴ・アルバムはその映画のサウンド・トラック作品として発表された。
だから、本来ならば、その映画作品が本邦で公開された際に映画題名として『永遠の詩 (The Song Remains The Same)』を引き継ぐべきところを、実際にはそうはならなかった。
映画の題名は『レッド・ツェッペリン狂熱のライヴ (The Song Remains The Same)』[ジョー・マソット (Joe Massot)、ピーター・クリフトン (Peter Clifton) 監督作品 1976年制作] と謂うのである。

拙稿冒頭で、ふたつとかみっつとか、逡巡した謂い回しをしたのは、そおゆう訳なのである。
英語原題で数えればみっつの創作作品がたちどころに顕れ、邦題を基準におけばふたつの作品しかそこにはない。

どうしてこんな事になったのであろうか。

映画の配給会社とレコードの発売元との事前のコミュニケーション不足、と謂う様な事はすぐに脳裏に浮かぶのではあるが、それが全くなかったとは考えにくい。と、謂うのは、ライヴ・アルバムの正式な邦題は『永遠の詩 [狂熱のライヴ] (The Song Remains The Same)』[1976年発表] と謂い、映画の邦題がサヴ・タイトルに組み込まれているからなのである。

寧ろ、考えなければいけないのは、映画作品と音楽作品のメディアの違いではなかろうか。
但し、ここで謂うメディアと謂うのは、それぞれの記録形式 [フィルム (Film) とレコード (Record)] でもなければ、宣伝広報媒体でもない。否、後者に関しては多少の影響もないではないが、それぞれがそれぞれにコアな宣伝広報手段と捉えるモノは、それ程、差異はないだろうと思う。
では一体、何か。
それは映画と音楽とがそれぞれ商品として直接、消費者と接する場所である。つまり、映画館 (Movie Theatre) とレコード店舗 (Record Store) と謂うメディア対策の為に、この様に異なる邦題が命名されたのではないだろうか、とぼくは考えているのである。
それを実際に検証するには、恐らく、音楽を主題とする映画作品の邦題と原題を詳らかにみていけばいいのだろう、と思う。

水野晴郎 (Haruo Mizuno) が存命ならば、如何に自身が命名した映画の邦題が素晴らしいのか、何故、その様な邦題にしたのかをきっと朗々と語ってくれる筈だ。そしてその際には絶対に映画『ビートルズがやって来るヤァ! ヤァ! ヤァ! (A Hard Day's Night)』 [リチャード・レスター (Richard Lester) 監督作品 1964年制作] を引き合いに出すだろう。
確かにこの邦題は映画公開時に於けるビートルズ (The Beatles) と謂うアーティスト集団の存在を如実に語る言説ではあるし、歴史に遺るべき邦題でもある。だけれどもビートルズ (The Beatles) の聴き手としてこの邦題を拝む際の気恥ずかしさと謂うのも絶対に忘れられないモノでもある。だから、映画公開時にその映画の表題曲して発表された彼らの楽曲とその収録アルバムは映画邦題をそのまま引用したモノでもあるが、現在ではそれぞれ単純に原題のカナ表記である『ハード・デイズ・ナイト (A Hard Day's Night)』 [1964年] として呼ばれてもいるし、映画も逆にそれに倣って『ハード・デイズ・ナイト (A Hard Day's Night)』 [リチャード・レスター (Richard Lester) 監督作品 1964年制作] と邦題を改めている。

つまり、ビートルズ (The Beatles) のそれと同様の雰囲気が映画『レッド・ツェッペリン狂熱のライヴ (The Song Remains The Same)』[ジョー・マソット (Joe Massot)、ピーター・クリフトン (Peter Clifton) 監督作品 1976年制作] とそのサウンド・トラック作『永遠の詩 (The Song Remains The Same)』[1976年発表] の間には臥っているのであり、しかもそれはビートルズ (The Beatles) やレッド・ツェッペリン (Led Zeppelin) だけに存する問題でもない。おおかれ少なかれ、音楽を主題とする映画作品の邦題と原題の、どこかに潜んでいる雰囲気なのである。

それはさておき。閑話休題。
拙稿冒頭で「翻訳に関する問題に依拠するモノであって、今回この拙稿の主題はそれに関する事」としておきながらも、ここまで綴ってきた事は、翻訳云々と謂うよりも、マーケティング (Marketing) やマネージメント (Management) に浴する事である。
つまり、ここからが本題なのだ。

『永遠の詩 (The Song Remains The Same)』の原題の方を、ぼくなりの言語感覚で翻訳すると、"あるがままにそのうたはある (The Song Remains The Same)"とでも、なるのだろうか。但し、ここでの訳は、その名称の楽曲名に存する歌詞にまで、踏み込んではいない。単純に5文字の英単語の羅列を訳したモノなので、楽曲そのものの内実までを意識したモノではない。

だからこそ謂えるのではあるが、邦題である『永遠の詩 (The Song Remains The Same)』とは、名訳と手放しで絶賛はしないが、英単語のあるがままを表象していると謂う意味に於いては、決して悪い訳ではない。

何故、こんなひねた、持って回った表現をするのか、と謂うと、これが最善なのだろうか、と謂う逡巡がぼくにあるからなのだ。
と謂う一方で、具体的な妙案がある訳でもない。

「永遠の詩」と綴って"とわのうた"と読ませているのだが、"とわ"の漢字表記には"永遠"の他には"永久"もある。"うた"の漢字表記には"詩"の他には"歌"もあれば"唄"もあれば"譜"もある。所有や所属を顕す助詞である"の"には、平仮名に開く代わりに"乃"もあれば"之"もあるし、この場合片仮名の"ノ"であっても意味は通用する。
数限りない組み合わせの中で、何故、「永遠の詩」を選んだのか、他に最良の組み合わせはなかったのだろうか、と謂う疑問なのである。
無論、「永遠の詩」を"えいえんのし"と呼んでしまえば、考慮すべき表記の組み合わせ [と謂うか発話の可能性か?] は増える筈なのだが、ぼくがレッド・ツェッペリン (Led Zeppelin) のそれを知った際には、既に「とわのうた」とルビが振られていた様な記憶がある。つまり、公式的にも『永遠の詩 [とわのうた] (The Song Remains The Same)』なのだ。
[ルビを起用して本来備わっている発話方法とは異なる発話を強要する、もしくは、漢字表記に備わっている表音文字の役割を放棄させるこの方法は、もしかしたら今後、喪われてゆくのではないだろうか。と、謂うのは、インターネット上では困難な表示だからだ。「永遠の詩(とわのうた)」と謂う表示方法があるにはあるが、ルビの持っている特性の一部はこの時点で既に奪われてしまっている様に思える。]

となると、この邦題の発案者には「とわのうた」と謂う発音が最初にあったモノと看做す事は出来るだろう。
だから仮にぼくが邦題を設定する任にあったとして、先ず原題の訳語として「とわのうた」が浮かぶか否か、そして仮に浮かんだとして「永遠の詩」と謂う表記に行き着くのだろうか、と謂う事をずっと考えているのである。

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いいかい。
読みはともかくとして、中島美嘉 (Mika Nakashima) の楽曲も『永遠の詩 (Eien No Uta)』 [作詞:宮沢和史 (Kazufumi Miyazawa) 作曲:シン (Sin) アルバム『ヴォイス (Voice)』収録 2007年発表] だし、週刊少年マガジン (Weekly Shonen Magazine) に連載されていたマンガも『永遠の詩 (Towa No Uta)』[原作:佐木飛朗斗 (Hiroto Sasaki) 作画:上田ナツオ (Natsuo Ueda) 19981999年連載] なのだ。
その一方で、PCのキーをいくら叩いても素直に「永遠の詩」とは変換してくれないのだけれども、ね。

そおゆう点 [簡単な表現を使えば影響力] を考慮しても、『永遠の詩 (The Song Remains The Same)』と謂う邦題は、最善のモノに近い選択肢を選んだとも謂えるのではなかろうか。

次回は「」。
として、ここで終わりにしてもいいのだろうが、せっかくだから、ぼくなりの楽曲解読も綴っておく。

この楽曲が初めて発表されたアルバム『聖なる館 (Houses Of The Holy)』[1973年発表] でも、その楽曲名を冠したライヴ・アルバム『永遠の詩 (The Song Remains The Same)』[1976年発表] でも、その映画版の『レッド・ツェッペリン狂熱のライヴ (The Song Remains The Same)』[ジョー・マソット (Joe Massot)、ピーター・クリフトン 監督作品 (Peter Clifton) 1976年制作] でも、同じ構造をしているのだが、楽曲『永遠の詩 (The Song Remains The Same)』はその後に続く『レイン・ソング (The Rain Song)』とのメドレー構成となっている。
楽曲である『永遠の詩 (The Song Remains The Same)』が短いパッセージの中で、次から次へと怒涛の如くに様々なリフを紡ぎ出しながらも、あっとい謂う間に楽曲が過ぎ去り [と謂っても演奏時間は5分あまりもある] 次の曲『レイン・ソング (The Rain Song)』に引き継いでいるから、『永遠の詩 (The Song Remains The Same)』単体では妙に印象が薄い。楽曲名が"あるがままにそのうたはある (The Song Remains The Same)"と謂う割には、たちまち消え去ってしまうのだ。
と謂うのもそれもその筈、当初、この楽曲は『レイン・ソング (The Rain Song)』の序曲の様な立ち位置で構想され、後になってヴォーカリストであるロバート・プラント (Robert Plant) の歌詞が提出された時点で初めて、単体の楽曲としての地位にありつけたそうなのだ。
つまり、『永遠の詩 (The Song Remains The Same)』と『レイン・ソング (The Rain Song)』のメドレー構成は、前作『レッド・ツェッペリン IV (Led Zeppelin IV)』[1971年発表] 収録曲の楽曲『天国への階段 (Stairway To Heaven)』をひっくり返した様な構造と謂う事も出来るのかもしれない。静謐なバラード調の楽曲が一転、ハードな様相を呈する『天国への階段 (Stairway To Heaven)』と、ハード面を担った『永遠の詩 (The Song Remains The Same)』に続いてバラード調の楽曲『レイン・ソング (The Rain Song)』が奏でられると謂う意味では。
だけど、それよりも、『永遠の詩 (The Song Remains The Same)』で幾つも幾つも錯綜するギター・リフに着目すれば、後に登場する『アキレス最後の戦い (Achilles Last Stand)』[アルバム『プレゼンス (Presence)』収録 1976年発表] の前駆として看做すべきなのかなぁ、とも思う。それ以前のこのバンドの楽曲の殆どが、たったひとつのリフを執拗に繰り返してきた、と謂う視点でもって振り返ってみると。

でないと、何故、彼らが自身のドキュメンタリー映画や初のライヴ・アルバムの表題に掲げたのか、その本意がいつまでたっても解らないからなのだ。

"あるがままにそのうたはある (The Song Remains The Same)" とは、非常に美しい響きをもったことばだ。
だが、それだけでは、公演で演奏された楽曲が、映画 (Film) や音盤 (Record) に記録されたと謂う意味しかここにはないのである。

次回は「」。

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