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2016.01.12.10.04

やねうらのさんぽしゃ

江戸川乱歩 (Edogawa Ranpo) の短編小説『屋根裏の散歩者 (Watcher In The Attic)』 [1925新青年掲載] に関する事どもやその小説から派生した事どもをいつもの様に書き殴ってやろうとしてみたが、上手くまとまらない。と、謂っても上手くまとまったためしなぞ、ついぞないわけではあるが、それにしても酷すぎる。
なので、今回はまとまらないモノをまとまらないまま、そのまま箇条書き (Itemize) にしてみる事にする。

作品名が非常に蠱惑的に響くが、その蠱惑さが実際に作品内にたたえられているのであろうか。江戸川乱歩 (Edogawa Ranpo) 作品にはよくある事だが、この作品もそのよくある事のひとつなのだろうか。

外形的には、密室殺人事件 (Locked-room Mystery) を扱った倒叙形式 (Howdunit) の推理小説 (Detective Fiction) と謂える。だから、主人公は名探偵 (Fictional Detectives) である明智小五郎 (Kogoro Akechi) ではなくて犯人である郷田三郎 (Saburo Goda) だ。
物語は最初から最後まで、犯人の視点で語られている。

そう謂う意味では、同じ作者の短編小説『人間椅子 (The Human Chair)』 [1925苦楽掲載] も似た構造ではあるが、その小説には明智小五郎 (Kogoro Akechi) はおろか名探偵 (Fictional Detectives) なるモノは一切登場しない。物語は殆ど、ある人物が綴った書簡の中で語られている。

その一方で、短編小説『屋根裏の散歩者 (Watcher In The Attic)』に登場する明智小五郎 (Kogoro Akechi) は、犯人の知己である。しかもそれどころか、物語の冒頭から彼は登場している。
しかもその設定がなければ、物語のクライマックスは訪れようもない。

明智小五郎 (Kogoro Akechi) が物語冒頭から登場している作品には短編小説『D坂の殺人事件 (Murder On D Street)』 [1924新青年掲載] がある。名探偵 (Fictional Detectives) の初登場作品である。そして、この作品でも彼は物語の語り手の知己であると同時に、そこで起こる殺人事件 (Murder Case) は密室殺人事件 (Locked-room Mystery) なのである。

短編小説『D坂の殺人事件 (Murder On D Street)』は名探偵 (Fictional Detectives) も物語の語り手も共に事件究明に乗り出す古典的な本格派の推理小説 (Detective Fiction) の定型に則っている。しかし、その事件現場を密室 (Locked-room) とする手法が独特なのだ。本来ならば密室 (Locked-room) たりえない日本風家屋で起こっているのである。

一方で短編小説『屋根裏の散歩者 (Watcher In The Attic)』は、犯人の視点でもって綴られる変格派すなわち倒叙形式 (Howdunit) の推理小説 (Detective Fiction) ながらも、その事件現場は物語執筆当時に盛んに建設された単身者向けの洋風集合住宅である。
そこは、窓も扉も閉ざしてしまえば、自室にあるありとあらゆる鍵を施錠さえすれば、簡単に密室 (Locked-room) が形成されてしまう。推理小説 (Detective Fiction) にとっては極めて便利至極な空間なのである。
事件現場だけは古典的な佇まいをみせているのだ。

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上掲写真は、短編小説『屋根裏の散歩者 (Watcher In The Attic)』の舞台となった東栄館 (Toei-kan) を彷彿とさせる日本館 (Nihon-kan) [掲載画像はこちらから]。

密室殺人事件 (Locked-room Mystery) を取り扱った2小説等、江戸川乱歩 (Edogawa Ranpo) 作品を素材にした都市論に、『乱歩と東京 (Rampo And Tokyo)』 [松山巖 (Iwao Matsuyama) 1984年刊] がある。日本館 (Nihon-kan) もこの書物で知った。

密室殺人事件 (Locked-room Mystery) を取り扱った2小説を題材に、映画監督実相寺昭雄 (Akio Jissoji) はふたつの映像作品を発表した。映画『屋根裏の散歩者 (Watcher In The Attic)』 [1994年制作] 映画『D坂の殺人事件 (Murder On D Street)』 [1998年制作] だ。明智小五郎 (Kogoro Akechi) の役はいずれも嶋田久作 (Kyusaku Shimada) が演じている。

短編小説『屋根裏の散歩者 (Watcher In The Attic)』を素材とした映像化作品は多い。それは視る事、窃視をこの小説が題材にしているからだ。その一方で、短編小説『人間椅子 (The Human Chair)』を題材としたそれは殆どみる事が出来ない。視覚以外の感覚が、縦横に描かれているからだ。中でも重きを成すのが触覚だ。

小説の中でも、またその外部でも犯人である郷田三郎 (Saburo Goda) を特異な人物としているが、屋根裏の散歩 (Watching In The Attic) は必ずしも彼の専売特許ではない。
時代劇 (Jidaigeki) の中では、屋根裏 (Attic) から様子を伺う人物は幾つもの物語に何度も何度も登場したではないか。

郷田三郎 (Saburo Goda) が当該の殺人事件を犯す直前までの行動は、同じ作家の短編小説『赤い部屋 (The Red Chamber)』 [1925新青年掲載] の主題とあい通じるものであり、彼が破滅へと至る明智小五郎 (Kogoro Akechi) が提示した証拠物件も、同じく短編小説『心理試験 (The Psychological Test)』 [1925新青年掲載] にあるそれと全く手法によるモノだ。

郷田三郎 (Saburo Goda) が犯罪を犯しうる偶然性を指弾する声は予てからあるが、それならば、同じく密室殺人事件 (Locked-room Mystery) を扱ったアーサー・コナン・ドイル (Arthur Conan Doyle) の短編小説『まだらの紐 (The Adventure Of The Speckled Band)』 [1892年発表 『シャーロック・ホームズの冒険 (The Adventures Of Sherlock Holmes)』収録] における偶然性をも指摘しなければならない。
尤も、短編小説『まだらの紐 (The Adventure Of The Speckled Band)』では、その偶然性が犯人に破滅をもたらす事になるのではあるが。

短編小説『屋根裏の散歩者 (Watcher In The Attic)』が、自らを特権的に視る存在へと変身する装置の物語としてみるのならば、つまり屋根裏 (Attic) と謂うモノがそれを可能とするのであるのならば、同じく自らを視点だけの存在へと化さしめようと試みる物語は数え切れない程もある。
にも関わらずに、それだけが主題となって語られている物語はあるのだろうか。

小説『透明人間 (The Invisible Man)』 [作:H・G・ウェルズ (H. G. Wells) 1892年発表] もそれが可能である筈なのに、そうはならなかった。
そうなりえたかもしれないもうひとつの小説『箱男 (The Box Man)』 [作:安部公房 (Kobo Abe) 1973年発表] の主題は、獲得した匿名性の代償としてのアイデンティティーの喪失だ。

拙稿冒頭に、この短編小説への読前の期待の大きさとそれに反しての読後の軽い失望めいたモノを綴った。
結局それは、窃視への過度なロマンティシズム (Romanticism) を抱かせながらもそのロマンティシズム (Romanticism) が達成されないからなのかもしれない。
つまり、みたいモノをこの小説ではみせてくれないのだ。
否、違う。作家がみたいモノしかこの小説では拝めないのだ。
数多くの映像作品が創られたのも結局は同じ事。作家がみたいモノが綴られた文章では満足できない映像作家が、自らがみたいモノだけを詰め込んだ自作を創るのだ。ある意味で、罪作りな小説と謂えなくもない。

と、謂う事はとどのつまり、ぼくはぼく自身にとっての『屋根裏の散歩者 (Watcher In The Attic)』を創らざるをえないのか。

それとも、ぼく自身が郷田三郎 (Saburo Goda) になるざるをえないのか。

次回も「」。
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