2015.06.19.10.42
その盲人がぼくに語ったことばは、おおむね、つぎのようなものだった。
むかしはふつうの生活だった。めもみえていた。いまでは一歩もあるけない。ひとりではなにもできない。
ふとしたはずみで、ひとがみえないものがみえるようになった。いや、ゆめやまぼろしではない。きもくるってはいない。
そうさな、すけてみえるんだ。洋服のうちがわ、かべのむこう、もののかげ、そんなものが、な。
透視っていうのかな。荒唐無稽な物語に登場する超人の、あれさ。
最初はよろこんださ、わかかったしな。まちをいくおんながみんな、はだかなんだから。
うせものもすぐにみつかる。おれにかくしごとはできない。はは。有頂天さ。
やすみの日に街角にすわってな、口上をのべるのさ。千里眼でござい。こずかい銭くらいはかせげたよ。
たねもしかけもないからな。ひとのポケットの内側をあらいざらい、かぞえたてればいい。
そこでおわってくれれば、よかったんだがな。
もっともっと、みえるようになっちまったのさ。
おんなのはだかのそのなかみ、かべのむこうのそのまたむこう。
しかもそこからさらにひどくなる。
なんでもかんでもみえてしまう。
かわのそこ、つちのなか、やまのむこうまでさ。
おれのめをさえぎるものはない。どこまでもどこまでもおみとおしさ。
そして、このざまさ。なんにもみえなくなっちまいやがった。いや、ちからはまだある。いや、むかしよりもさらに、さ。みえるのさ。
ただ、なんでもすけてみえるかわりに、手前のものが一切、みえない。おまえもこえだけがきこえる。
そらもくももうみもみえない。おれの足下のじべたもさ。
まっしろい闇のなか、なんにもない空間におれはうかんでいるのさ。
ただただ、ひかりがみえる。
わかるのはこの掌にふれているものの感触だけだ。
[the text inspired from the song "X-Ray" from the album "Colour It In
" by The Maccabees]
むかしはふつうの生活だった。めもみえていた。いまでは一歩もあるけない。ひとりではなにもできない。
ふとしたはずみで、ひとがみえないものがみえるようになった。いや、ゆめやまぼろしではない。きもくるってはいない。
そうさな、すけてみえるんだ。洋服のうちがわ、かべのむこう、もののかげ、そんなものが、な。
透視っていうのかな。荒唐無稽な物語に登場する超人の、あれさ。
最初はよろこんださ、わかかったしな。まちをいくおんながみんな、はだかなんだから。
うせものもすぐにみつかる。おれにかくしごとはできない。はは。有頂天さ。
やすみの日に街角にすわってな、口上をのべるのさ。千里眼でござい。こずかい銭くらいはかせげたよ。
たねもしかけもないからな。ひとのポケットの内側をあらいざらい、かぞえたてればいい。
そこでおわってくれれば、よかったんだがな。
もっともっと、みえるようになっちまったのさ。
おんなのはだかのそのなかみ、かべのむこうのそのまたむこう。
しかもそこからさらにひどくなる。
なんでもかんでもみえてしまう。
かわのそこ、つちのなか、やまのむこうまでさ。
おれのめをさえぎるものはない。どこまでもどこまでもおみとおしさ。
そして、このざまさ。なんにもみえなくなっちまいやがった。いや、ちからはまだある。いや、むかしよりもさらに、さ。みえるのさ。
ただ、なんでもすけてみえるかわりに、手前のものが一切、みえない。おまえもこえだけがきこえる。
そらもくももうみもみえない。おれの足下のじべたもさ。
まっしろい闇のなか、なんにもない空間におれはうかんでいるのさ。
ただただ、ひかりがみえる。
わかるのはこの掌にふれているものの感触だけだ。
[the text inspired from the song "X-Ray" from the album "Colour It In
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