2014.11.16.09.30
『ラジオのように (comme a la radio)』 by ブリジット・フォンティーヌ (BRIGITTE FONTAINE)

キーワードとしてあるのは「世界は寒い (Il fait froid dans le monde)」、たったこれだけだ。
[以下、引用する歌詞はこちらから。その翻訳はぼくが所有しているCDに掲載されている沢ちよこ (Chiyoko Sawa) の訳によった。]
それに寄り添う様にあるのが、作品名である「ラジオのように (Comme a la radio)」と謂う、如何様にも解釈可能な語句であって、付帯情報 (Supplementary Information) としてあるのがアート・アンサンブル・シカゴ (Art Ensemble Of Chicago) との共演。
勿論、冒頭に掲げたキーワードは表題楽曲『ラジオのように (Comme a la radio)』の一節に顕れる語句であって、それぞれは嫌ようもなく、密接に結びついている。
だけれども、ぢゃあ、それはなんなのだと尋ねても、ぼく自身を納得させてくれるモノに出逢えた試しはない。
そして、恐らく同様にいま、こうやって書き綴られている文章が、どこかの誰かを納得させる事が出来るとは決して思ってはいないし、それ以前に、書き綴っている筈のぼく自身が了解出来るモノなのかどうか、それすらも覚束ない。
敢えて言えば自動書記 (Automatism) の様なモノであって、綴られたその結果を眺めて、驚いたり慌てたりするのが、恐らく、ぼく自身なのだ。
そして、殆どその為にのみ、ぼくは書き綴っている。
1980年代、ヨーロッパ系 (Europian) の女性ヴォーカリスト (Female Vocalist) の作品の幾つかを顕彰する言葉として何度か、まるで「ラジオのように (Comme a la radio)」の様な、と謂う表現をみかけたが、果たして、その言葉は信ずるに足るモノだったのだろうか。
作品を飾る、夢見がちの少女の様に、一見観える、モノクロのポートレイトに誑かされた結果ではないのだろうか。
「ラジオのように (Comme a la radio)」と謂う言葉が語られる状況を想像して、そこにノスタルジック (Nostargic) な佇まいを見出してしまうのは、ぼく達が既にテレビっ子 (Heavy Viewer) と謂う敬称を勝ち得ていたからだ。
その一方で「世界は寒い (Il fait froid dans le monde)」はあまりに断定的で、それを肯定するにしろ否定するにしろ、ぼく達には計り知れない勇気と度量を必要とされている。
仮令、隣に佇んでいる恋人がこの言葉を発っする様な、そんな叙景を思い浮かべたとしても、そう言われてしまったぼく達には、あまりに選択肢の数が限られている様な気がする。
それとは逆に、ぼく達を身構えさせるもしかたら最大の要因のアート・アンサンブル・シカゴ (Art Ensemble Of Chicago) [だって、そのキャリアを眺めてみれば、どうしてもそうなってしまう] の演奏は、以外な程に、やさしく響く。彼らは、あくまでも、本編の主役であるブリジット・フォンティーヌ (Brigitte Fontaine) の介添えに徹している様に、ぼくには聴こえる。
むしろ恐ろしげなのは、彼女の長年のパートナーであるアレスキ・ベルカセム (Areski Belkacem) の存在であって、彼のヴォーカリゼーションをフィーチャーした収録曲『夏、夏 (L'ete l'ete)』の方が、ボディ・ブロー (Body Blow) の様に、ぼくの体内にこだまする。
余談だけれども、戸川純 (Jun Togawa) の『ラジオのように (Comme a la radio)』 [アルバム『20th 戸川純 (20th Jun Togawa)』収録 2000年発表] は、殆ど完コピの様なアレンジでありながら、追い詰められてしまって怯えきっている小動物の様な佇まいの彼女の表情は、ある意味で、全くもって正統的な解釈の様に思える。
片言の仏語 [の様に聴こえる] 彼女の発話は、どこまで言語やメッセージとしての体裁や機能を持ち得ているか遥かに疑問だ。
だがしかし、作詞者でありオリジネイターであるブリジット・フォンティーヌ (Brigitte Fontaine) のそれもまた、どこまで遠くに正しく聴こえているのかも、あやしいのである。
その歌詞にはいみじくも「翻訳家よ、翻訳せよ (Traducteur, traduisez)」とあるが、果たして、それを実行し得たモノが存在していたのだろうか、と謂う意味において。
むしろ、アート・アンサンブル・シカゴ (Art Ensemble Of Chicago) の叩き出す寡黙なビートの方が、説得力も普遍性もあるのかもしれない [あれをループさせて24時間流し放しにして聴き続けてくれたら、ぼくの謂いたい事も解ってもらえるのかもしれない]。
ブリジット・フォンティーヌ (Brigitte Fontaine) の唄う『ラジオのように (Comme a la radio)』は、敢えて言えばザ・ローリング・ストーンズ (The Rolling Stones) の楽曲『ストリート・ファイティング・マン (Street Fighting Man』[アルバム『ベガーズ・バンケット (Beggars Banquet)
現状を把握しながらも手をこまねいて行動に移さない / 移せないモノの歌、という意味においては。
だから、時代を経るに従って、ザ・ローリング・ストーンズ (The Rolling Stones) のそれがただのロックン・ロール・アンセム (Rock 'n' Roll Anthm) に堕してしまったのも、致し方ないモノなのだ。
だからこそ問わなければならないのだろうか、それでは一体、『ラジオのように (Comme a la radio)』とは、と?
ものづくし(click in the world!)145. :
『ラジオのように (comme a la radio)』 by ブリジット・フォンティーヌ (BRIGITTE FONTAINE)

『ラジオのように (comme a la radio)
1. ラジオのように 8'08"
COMME A LA RADIO (B. Fontaine - A. Belkacem)
2. 短歌 II 1'56"
TANKA 2 (B. Fontaine - A. Belkacem)
3. 霧 3'24"
LE BROUILLARD (A. Belkacem)
4. 私は26才 3'01"
J'AI 26 ANS (B. Fontaine - A. Belkacem)
5. 夏、夏 3'55"
L'ETE L'ETE (B. Fontaine - A. Belkacem)
6. アンコール 1'33"
ENCORE (B. Fontaine - A. Belkacem)
7. レオ 3'57"
LEO (B. Fontaine - A. Belkacem)
8. 子馬 0'40"
LES PETTITS CHEVAUX (B. Fontaine - A. Belkacem)
9. 短歌 I 1'47"
TANKA 1 (B. Fontaine - A. Belkacem)
10. 手紙 6'02
LETTRE A MONSIEUR LE CHEF DE GARE DE LA TOUR DE CAROL (B. Fontaine - A. Belkacem - J. Higelin - J. C. Capon)
BRIGITTE FONTAINE / ARESKI BELKACEM / ART ENSEMBLE OF CHICAGO
ぼくが所有している国内盤CDには、沢ちよこ (Chiyoko Sawa) の対訳とT.H.による『ブリジット・フォンテーヌについて』と謂う小文が掲載されている。
これだけではレコーディング・データ、作品詳細としては不備なので、以下、補足のデータを掲載する。その詳細はこちらとこちらから。
Credits
Bass – Malachi Favors
Featuring – Jean-Charles Capon
Flute – Roscoe Mitchell
Guitar – Jacques Higelin
Lute – Albert Guez
Oboe, Saxophone [Sopranino] – Joseph Jarman
Percussion – Areski
Trumpet – Leo Smith, Lester Bowie
Vocals – Brigitte Fontaine
Zither – Kakino De Paz
Photography [Black & White] – Ned Burgess
Photography [Color] – Eric Serda
Producer – Pierre Barouh
Recorded By – Daniel Vallencien
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