2014.06.08.11.35
こんな夢をみた。

the movie “Another Country
” directed by Marek Kanievska
今日が最期の授業だ。
もう半日もすれば、ぼく達はここをでてゆく。
郷里にかえるものもいれば、街ではたらくものもいるだろう。
だがその大半はこの週末からはじまる試験をひかえている。だから、センチメンタリズムが巾をよせる居場所はどこにもない。
ぼくもそのひとりだ。
感傷にひたっているのは教授陣ばかりで、ここ数日、勿体ぶった講義ばかりがつづく。
だけれども、ぼく達は数十時間後には、ここを引き払わなければならないのだ。
誰もが荷造りに追われている。机の奥から這いずりだされる黴の塊に涙している閑はないのだ。
最期の日といえど、日程はいつもと変わらない。
講義があり、その合間に休憩時間があるのと同様に、食事の時間もあれば掃除の時間もある。
今日のぼくが割り当てられているのは、下級生達の部屋を数室だ。
そこに赴き、彼らの掃除を監督するのだ。
最初に担当の部屋部屋をひとつひとつ訪ね、清掃のはじまりを告げる。そして、適当な時間にぐるりともう1周し、終了の時間がきたことを告げればいい。
ことばにすればお気楽だが、実際にはそうもいかない。
鼠の死骸が出ればそれを片付ける。”汚れ”ている下着が履き捨てられていれば、それを洗う。
どれもこれもぼく達、上級生の仕事だ。
だから、みたものをみていなかったことにするのも、あるものをなかったことにするのも、ぼく達の役目のひとつでもある。
ふん。
それも今日が最期だ。
消灯時間がとうに過ぎて寝静まった時間に、ぼくをおこしにくる者がいる。
「寮長がお呼びだ」
「どうやらばれたらしい」
それはこの学期の最初におきた。寮全体を震撼させたその事件は、この棟に暮らすほぼ全員が当事者だった。
ながい時間をかけて、寮生全員の聴き取りまで行ったものの、はかばかしくなく、うやむやのまま、謎の事件として終ろうとしている。
それがいまがいまという時になって、下手人をつかまえようというのだ。
ぼくが絶句したのも、当然のことなのだ。
階段教室のひとつに、数十名の学生が集められている。事件発覚当時、被害者だったり発見者だったり、最初に犯人と疑われたもの達ばかりだ。
壇上には教師が数人。そして教壇のテーブルには、雑然とこまごまとしたものが置かれている。
そこで名探偵気取りの教授がくちを開く。
「… そうして我々はようやく証拠品を手に入れたのであります。それがこれです」
彼が手にしていたのは、ちっぽけなビニール袋だ。そして、そのなかの紙片をみいだして、ぼくは大声で笑いそうになる。
それを吞み込んだまま、名探偵の推理にもう少しの時間、つきあう。
そして、ちょうどいい頃合いを見計らって彼の長広舌を遮り、ぼくは名乗りをあげる。
「先生、ぼくです。ご存知のようにそれはぼくのものです。その日以来、なくなってしまっていたのです」
茶番劇はこうして幕をひらく。
最初からの手筈通りに用意しておいたトラップだ。
これで、ぼく達全員が事件の被害者だ。
そうして数時間後、ぼく達は他の誰よりも早く、この学校から、この街から出て行く。
朝がくるのはまだ先だ。
それまでに出来る限り、遠くへと逃げるのだ。

the final scene for the comic “Lost Heart For Thoma
” created by Moto Hagio

the movie “Another Country
今日が最期の授業だ。
もう半日もすれば、ぼく達はここをでてゆく。
郷里にかえるものもいれば、街ではたらくものもいるだろう。
だがその大半はこの週末からはじまる試験をひかえている。だから、センチメンタリズムが巾をよせる居場所はどこにもない。
ぼくもそのひとりだ。
感傷にひたっているのは教授陣ばかりで、ここ数日、勿体ぶった講義ばかりがつづく。
だけれども、ぼく達は数十時間後には、ここを引き払わなければならないのだ。
誰もが荷造りに追われている。机の奥から這いずりだされる黴の塊に涙している閑はないのだ。
最期の日といえど、日程はいつもと変わらない。
講義があり、その合間に休憩時間があるのと同様に、食事の時間もあれば掃除の時間もある。
今日のぼくが割り当てられているのは、下級生達の部屋を数室だ。
そこに赴き、彼らの掃除を監督するのだ。
最初に担当の部屋部屋をひとつひとつ訪ね、清掃のはじまりを告げる。そして、適当な時間にぐるりともう1周し、終了の時間がきたことを告げればいい。
ことばにすればお気楽だが、実際にはそうもいかない。
鼠の死骸が出ればそれを片付ける。”汚れ”ている下着が履き捨てられていれば、それを洗う。
どれもこれもぼく達、上級生の仕事だ。
だから、みたものをみていなかったことにするのも、あるものをなかったことにするのも、ぼく達の役目のひとつでもある。
ふん。
それも今日が最期だ。
消灯時間がとうに過ぎて寝静まった時間に、ぼくをおこしにくる者がいる。
「寮長がお呼びだ」
「どうやらばれたらしい」
それはこの学期の最初におきた。寮全体を震撼させたその事件は、この棟に暮らすほぼ全員が当事者だった。
ながい時間をかけて、寮生全員の聴き取りまで行ったものの、はかばかしくなく、うやむやのまま、謎の事件として終ろうとしている。
それがいまがいまという時になって、下手人をつかまえようというのだ。
ぼくが絶句したのも、当然のことなのだ。
階段教室のひとつに、数十名の学生が集められている。事件発覚当時、被害者だったり発見者だったり、最初に犯人と疑われたもの達ばかりだ。
壇上には教師が数人。そして教壇のテーブルには、雑然とこまごまとしたものが置かれている。
そこで名探偵気取りの教授がくちを開く。
「… そうして我々はようやく証拠品を手に入れたのであります。それがこれです」
彼が手にしていたのは、ちっぽけなビニール袋だ。そして、そのなかの紙片をみいだして、ぼくは大声で笑いそうになる。
それを吞み込んだまま、名探偵の推理にもう少しの時間、つきあう。
そして、ちょうどいい頃合いを見計らって彼の長広舌を遮り、ぼくは名乗りをあげる。
「先生、ぼくです。ご存知のようにそれはぼくのものです。その日以来、なくなってしまっていたのです」
茶番劇はこうして幕をひらく。
最初からの手筈通りに用意しておいたトラップだ。
これで、ぼく達全員が事件の被害者だ。
そうして数時間後、ぼく達は他の誰よりも早く、この学校から、この街から出て行く。
朝がくるのはまだ先だ。
それまでに出来る限り、遠くへと逃げるのだ。

the final scene for the comic “Lost Heart For Thoma
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