2014.04.25.08.08
おれと妻はまもなく処刑される。
なにをしたわけではない。おれたちふたりはただの旅行者だ。陸路をわたって、この国のむこうにむかうところだった。
それが突然、連行される。なにがあったかわからない。国境近くの街でおれたちは逮捕されて、何日もかけて護送されて、この国の首都までつれてこられた。
貧しい国だ。首都といっても名ばかりだ。首相をなのるおとこのまえまでひきずりだされ、その場で罪と刑が確定した。
弁護士、たしかにそんな役回りのおとこはいた。始終、いたるところにあらわれたが、なにをするわけでもない。おれたちのことばもつうじず、英語でさえも片言だ。
ただ、えへらえへらわらっているその態度から、そんな名前の太鼓持ちなのだろう。かたちばかりの、エクスキューズな存在だ。
やつらにいわしめれば、この国の存続をあやぶませる重大な犯罪をおかしたんだそうだ。
超一級の犯罪者で反逆者が、おれと妻なのだ。
笑っちゃうぜ。笑いでなみだがあふれてきた。
もうまもなく、刑は執行される。
公開処刑で、しかも、その模様は全国に放送されるとか、いう。
妻は、おれのおんなは憔悴しきっている。ふたりがべつべつにされなかったのが、せめてものさいわいだ。
この国の杜撰さのおかげで、最初から最期まで、おれたちは一緒だった。おれにできるのは、彼女の掌をとり、彼女の肩をだくだけだ。
かろうじて、おれが正気でいられるのも、彼女がいるからだ。もしも、たったひとりっきりだったら、今の彼女よりも、無様にちがいない。
<断章>
おれたちはひきたてられる。
にわかづくりのステージにいる。したには、おおくの観衆がいる。なんのためにやつらはあつまってるのか。そんなにおれの死をみたいのか。それとも、国家とやらの命令か。いやいや、あつめられたろくでもないやつらなのか。いまのおれには、その判断はつかない。
舞台の袖には、銃をかまえた兵士が10数名、きっと、やつらの銃がおれたちの命をうばうのだ。
彼女はもう、ほとんど意識はない。ひとりでたつこともかなわず、さっきからずっとおれがわきでかかえている。こきざみにふるえをかんじるが、これは彼女のものなのか。それとも、おれ自身のものなのか。
もう、わからない。
めのまえに将校があらわれる。そして、おれたちにむかって、ふたりの名前をつげて、あらためて、罪と刑をよみあげる。
将校は、おれたちのまえに手帳をさしだし、ここにかかれているうたをうたえという。
この国の国歌だ。
つきつけられる手帳をうけとるちからも意思ももうすでになく、ただ、うたえということばだけに反応する。
くちのはしから、ことばとメロディがこぼれでる。
それは国歌ではなかった。
この国では、ずっとむかしに、うたうことを禁ぜられたものだった。
それはずっと、ずっとあとでしった。
だから、おれのくちからこぼれるそれをきいて、そのばにざわめきがおこる。
将校はおおあわてでおれにはりてをくらわし、ひるんだおれを殴打する。
なんどもなんどもなぐり、けり、たたき、うちのめす。
この光景は、そのままその国全土に流されたそうだ。
その結果、その国がどうなったのか、おれはしらない。
その将校によっておれはすでに絶命していたのだ。
the text inspired from the song “The Patriot Game” from the album “The Singles Collection
” by The Bluebells]

for the single “Sugar Bridge (It Will Stand),
included as free additional track “The Patriot Game” by The Bluebells
なにをしたわけではない。おれたちふたりはただの旅行者だ。陸路をわたって、この国のむこうにむかうところだった。
それが突然、連行される。なにがあったかわからない。国境近くの街でおれたちは逮捕されて、何日もかけて護送されて、この国の首都までつれてこられた。
貧しい国だ。首都といっても名ばかりだ。首相をなのるおとこのまえまでひきずりだされ、その場で罪と刑が確定した。
弁護士、たしかにそんな役回りのおとこはいた。始終、いたるところにあらわれたが、なにをするわけでもない。おれたちのことばもつうじず、英語でさえも片言だ。
ただ、えへらえへらわらっているその態度から、そんな名前の太鼓持ちなのだろう。かたちばかりの、エクスキューズな存在だ。
やつらにいわしめれば、この国の存続をあやぶませる重大な犯罪をおかしたんだそうだ。
超一級の犯罪者で反逆者が、おれと妻なのだ。
笑っちゃうぜ。笑いでなみだがあふれてきた。
もうまもなく、刑は執行される。
公開処刑で、しかも、その模様は全国に放送されるとか、いう。
妻は、おれのおんなは憔悴しきっている。ふたりがべつべつにされなかったのが、せめてものさいわいだ。
この国の杜撰さのおかげで、最初から最期まで、おれたちは一緒だった。おれにできるのは、彼女の掌をとり、彼女の肩をだくだけだ。
かろうじて、おれが正気でいられるのも、彼女がいるからだ。もしも、たったひとりっきりだったら、今の彼女よりも、無様にちがいない。
<断章>
おれたちはひきたてられる。
にわかづくりのステージにいる。したには、おおくの観衆がいる。なんのためにやつらはあつまってるのか。そんなにおれの死をみたいのか。それとも、国家とやらの命令か。いやいや、あつめられたろくでもないやつらなのか。いまのおれには、その判断はつかない。
舞台の袖には、銃をかまえた兵士が10数名、きっと、やつらの銃がおれたちの命をうばうのだ。
彼女はもう、ほとんど意識はない。ひとりでたつこともかなわず、さっきからずっとおれがわきでかかえている。こきざみにふるえをかんじるが、これは彼女のものなのか。それとも、おれ自身のものなのか。
もう、わからない。
めのまえに将校があらわれる。そして、おれたちにむかって、ふたりの名前をつげて、あらためて、罪と刑をよみあげる。
将校は、おれたちのまえに手帳をさしだし、ここにかかれているうたをうたえという。
この国の国歌だ。
つきつけられる手帳をうけとるちからも意思ももうすでになく、ただ、うたえということばだけに反応する。
くちのはしから、ことばとメロディがこぼれでる。
それは国歌ではなかった。
この国では、ずっとむかしに、うたうことを禁ぜられたものだった。
それはずっと、ずっとあとでしった。
だから、おれのくちからこぼれるそれをきいて、そのばにざわめきがおこる。
将校はおおあわてでおれにはりてをくらわし、ひるんだおれを殴打する。
なんどもなんどもなぐり、けり、たたき、うちのめす。
この光景は、そのままその国全土に流されたそうだ。
その結果、その国がどうなったのか、おれはしらない。
その将校によっておれはすでに絶命していたのだ。
the text inspired from the song “The Patriot Game” from the album “The Singles Collection

for the single “Sugar Bridge (It Will Stand),
included as free additional track “The Patriot Game” by The Bluebells
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