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2014.03.25.11.05

ろーれらいのうた

件名に掲げた語句で検索すると、次から次へと出てくるのは『ローレライの詩 (A Poem For Loreley)』。
作詞・作曲:上松載康 (Noriyasu Agematsu)、歌唱:リア (Lia) による、プレイステーション・ポータブル (PlayStation Portable) 用ロールプレイングゲーム (RPG : Role-playing Game)『シャイニング・ブレイド (Shining Blade)』 [発売元:セガ (SEGA Corporation) 2012年発表] の主題歌である。
この曲について検索して、この頁に辿り着いた方には申し訳ないが、この件はこれまでだ。
ぼくがこれから紹介しようとする『ローレライの歌 (A Song For Loreley)』は、全く異なる物語の中に登場する。

その物語に辿り着く前に原則的な事を確認しておこう。
つまり、ローレライ (Loreley) とはなにか、ローレライ (Loreley) とは誰か、と謂う事である。

ローレライ (Loreley) とはライン川 (Der Rhein) 流域、ザンクト・ゴアルスハウゼン (Sankt Goarshausen) 近郊にある岩山の事である。川面から、130メートル程の高さだ。急流でなおかつ浅瀬、古来より、ライン川 (Der Rhein) の難所として知られている。
そして、それ故に、ひとつの伝説が産まれて育まれ、そこで船乗りを惑わす少女ローレライ (Loreley) の存在がまことしやかに語られる。
失恋した少女がライン川 (Der Rhein) に身をなげ、以来、水精 (Undine) と化した彼女が、船を誘惑し、破滅させると謂うのである。
あたかもそれは、ホメーロス (Homerus) の『Odyssea (Odysseia)』 [紀元前9世紀頃成立] に登場するセイレーン (Seiren) の様でもある。
この伝説に取材して、クレメンス・ブレンターノ (Clemens Brentano) が詩『ローレライ (Die Lorelei)』 [1801年発表] を発表し、ハインリヒ・ハイネ (Heinrich Heine) が詩『ローレライ (Die Lorelei)』 [1824年発表] を発表し、そしてこの2作品のいずれかさもなければ両作品に感化された幾つもの創作物、つまり、歌や物語や演劇が、いくつもいくつも、産み出され発表され続けたのである。
もしかすると、この拙稿冒頭に掲げた『ローレライの詩 (A Poem For Loreley)』も、その遥かな末裔のひとつかもしれない。

そして、ぼくがここで紹介しようと謂うのも、そんな末裔のひとつ [かもしれない]。
マンガ『マジンガーZ (Mazinger Z)』[作:永井豪 (Go Nagai) 1972年~1973週刊少年ジャンプ連載] の中の一挿話である。
ローレライの歌編 (Episode “A Song For Loreley”)』と謂う。

本編の主人公は、マジンガーZ (Mazinger Z) を駆使する兜甲児 (Koji Kabuto) の弟、兜シロー (Shiroh Kabuto) であって、彼の初恋篇であると同時に、悲恋篇でもある。また、彼らの前にはその姿を顕さないモノの、ドクター・地獄 [ヘル] (Dr. Hell) のいつつの軍団のそのひとつ、鉄十字軍団 (The Iron Crosses) を指揮するブロッケン伯爵 (Count Brocken) が初登場した逸話でもある。

この篇の前篇『機械獣大作戦編 (Episode “The Big Battles Against Mechanical Beasts”)』において、いくつもの機械獣 (Mechanical Beasts) とともに海底要塞サルード (Submarine Fortress Saluud) を喪ったあしゅら男爵 (Baron Ashura) は、ブロッケン伯爵 (Count Brocken) 麾下の飛行要塞グール (Fortress In The Air Ghoul) に身を寄せていて、そこから陣頭を指揮している。そして、今回の作戦において、あしゅら男爵 (Baron Ashura) とブロッケン伯爵 (Count Brocken) は、ある賭けをするのだ。その賭けの結果として、この篇に続く次の挿話から、あしゅら男爵 (Baron Ashura) は一戦を退き、対マジンガーZ (Mazinger Z) 攻略の陣頭には今後、ブロッケン伯爵 (Count Brocken) が立つ事になるのである。
そう、ブロッケン伯爵 (Count Brocken) が、兜甲児 (Koji Kabuto) 達の目の前に顕われて、策略の限りを尽くすのは、この次の挿話から、なのだ。

このあしゅら男爵 (Baron Ashura) とブロッケン伯爵 (Count Brocken) のやりとり、そしてその結果としての、あしゅら男爵 (Baron Ashura) の退場とブロッケン伯爵 (Count Brocken) の登場は、『ローレライの歌編 (Episode “A Song For Loreley”)』という物語だけを観ていると、そこで語られている物語のそとの出来事の様に、一見、思えてしまう。
視点を逆にしてみれば、マンガ『マジンガーZ (Mazinger Z)』[作:永井豪 (Go Nagai) 1972年~1973週刊少年ジャンプ連載] と謂う物語の中で重要な地位を占める敵将という地位を巡っての、あしゅら男爵 (Baron Ashura) とブロッケン伯爵 (Count Brocken) との交代劇を演出する為に設けられた挿話の様にも、読めてしまう。
確かにこの直前の物語『機械獣大作戦編 (Episode “The Big Battles Against Mechanical Beasts”)』に観られる様な、激しさは息を潜めている。
あたかも、初登場の新キャラクター、ブロッケン伯爵 (Count Brocken) の登場を促す為にのみ、機能しているエピソードにも、観えなくもない。

だが、果たして、実際にそうなのだろうか。
もう少し、後でこの事は考えてみる。

とりあえず、主人公である兜シロー (Shiroh Kabuto) の方に、眼を転じてみよう。

大急ぎで粗筋を紹介する [詳しくはこちらで紹介されている]。
兜シロー (Shiroh Kabuto) の教室にひとりの少女が転校してくる。名はローレライ・ハインリッヒ (Lorelai Heinrich)。彼女と親しくなった兜シロー (Shiroh Kabuto) は、少女の自宅を訪問し、彼女の父シュトロハイム・ハインリッヒ (Schtroheim Heinrich) を紹介される。シュトロハイム・ハインリッヒ (Schtroheim Heinrich) は、兜シロー (Shiroh Kabuto) の祖父兜十蔵 (Juzo Kabuto) [彼こそがマジンガーZ (Mazinger Z) の産みの親だ] と同期のライヴァルであると告げ、マジンガーZ (Mazinger Z) を越えるロボットを開発したと告げる。

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物語はこの後、シュトロハイム・ハインリッヒ (Schtroheim Heinrich) の許にあしゅら男爵 (Baron Ashura) が姿を顕し、彼の開発したロボット、ドナウα1 (Danube α1) を巡って攻防がなされる。その争いの成果を受けてそのまま、ドナウα1 (Danube α1) とマジンガーZ (Mazinger Z) の死闘へと発展し、その過程で、ローレライ・ハインリッヒ (Lorelai Heinrich) の正体もあらわとなる [掲載画像はこちらから]。

物語は、亡び逝くローレライ・ハインリッヒ (Lorelai Heinrich) がいつまでも唄い続けている『ローレライの歌 (A Song For Loreley)』によって、幕引きがなされるが、実はこの物語、ローレライ (Loreley) の伝説に則っているのは、この最期に唄われる歌の事だけなのである。
むしろ、この物語が出典とすべきなのは、クレメンス・ブレンターノ (Clemens Brentano) の詩『ローレライ (Die Lorelei)』 [1801年発表] でもなく、ハインリヒ・ハイネ (Heinrich Heine) の詩『ローレライ (Die Lorelei)』 [1824年発表] でもなく、別の物語なのだ。それは、E. T. A. ホフマン (E. T. A. Hoffmann) の『砂男 (Der Sandmann)』 [1816年発表] である。

つまり、この物語のヒロインは、本来ならば、ローレライ (Loreley) を名乗るべきではなくて、その短編小説のヒロイン、オリンピア (Olimpia) の名を引用すべきだったのかもしれないのだ。

否、それでは単なるネタバレだ。芸がない。

と、謂う様な堂々巡りをしても仕様がない一方で、ここで『砂男 (Der Sandmann)』 [1816年発表] の詳細を語ってしまうのも、同じ様に躊躇われる。興味をもったのならば、実際に、双方を読み比べてもらった方が、面白いからだ。
だから、ここでは別の事を指摘してみせる。

ホンモノのローレライ (Loreley) はライン川 (Der Rhein) にある。
この物語に登場するローレライ・ハインリッヒ (Lorelai Heinrich) の命運を握る、シュトロハイム・ハインリッヒ (Schtroheim Heinrich) のロボットの名はドナウα1 (Danube α1)、その名はどう読んでみても、ドナウ川 (Die Donau) に由来している筈だ。
物語を読み進めて行くと、あたかもローレライ (Loreley) がドナウ川 (Die Donau) にある様にも、ドナウ川 (Die Donau) とライン川 (Der Rhein) が一心一体であるかの様にも、誤読出来てしまう。
だから、このマンガ『マジンガーZ (Mazinger Z)』[作:永井豪 (Go Nagai) 1972年~1973週刊少年ジャンプ連載] を原作とするアニメ『マジンガーZ (Mazinger Z)』[原作:永井豪 (Go Nagai) 1972年~1974フジテレビ系列] の、この物語によったエピソード、第61話『宿命のロボット ラインXの歌 (Song Of The Robot Of Fate Ryne X)』では、登場するロボットの名前はライン X1 (Rhine X1) と改められた。

果たして、それでよかったのか。

と謂うのは、互いにライヴァルであった兜十蔵 (Juzo Kabuto) とシュトロハイム・ハインリッヒ (Schtroheim Heinrich) とは、その設定年齢から考えると、第二次世界大戦 (World War II) 前後に、青年期を過ごした筈だからだ。
つまり、可能性のひとつとして、兜十蔵 (Juzo Kabuto) は旧日本軍 (Japanese Army) の、シュトロハイム・ハインリッヒ (Schtroheim Heinrich) はナチス・ドイツ (Deutsches Reich) の、指揮系統下にある研究所の出身ではないかと考えられる。
マジンガーZ (Mazinger Z) もドナウα1 (Danube α1) も、マンガ『鉄人28号 (Tetsujin 28-go)』 [横山光輝 (Mitsuteru Yokoyama) 作 19561966少年連載] がそうである様に、戦争と戦争の為の兵器開発の結果、誕生したモノではないか、と考える事が出来るのだ。

ナチス・ドイツ (Deutsches Reich) の管理下で研究に勤しんできた、若きシュトロハイム・ハインリッヒ (Schtroheim Heinrich) が、彼らの理想とするモノに感化されて、大ドイツ主義 (Grossdeutsche Losung) 的な思想を抱いていたとしても、不思議ではない。
その彼が、ドイツ (Deutschland) に端を発する2大河、即ち、”父なるライン”たるライン川 (Der Rhein) と”母なるドナウ”たるドナウ川 (Die Donau) に因んだ名称を、己のロボットと己の娘の名に用いたとしても、それは必然の産物とでも謂うべきモノなのだ。

それ故に、あからさまにナチス・ドイツ (Deutsches Reich) を剽窃したかの様に観える、ブロッケン伯爵 (Count Brocken) と彼の鉄十字軍団 (The Iron Crosses) の登場は、もしかしたら、大きな伏線になり得たのかもしれないのである。
そう、兜十蔵 (Juzo Kabuto) とブロッケン伯爵 (Count Brocken) との間に、さもなければシュトロハイム・ハインリッヒ (Schtroheim Heinrich) とブロッケン伯爵 (Count Brocken) との間に、かつて、確執や争いのもととなるモノがなかっただろうか。と、謂う様な。

だがしかし、マンガ本編は1973年に、物語の途上で連載を中断してしまうのだけれども。

次回は「」。

附記:
ドナウα1 (Danube α1) の身体的特徴である、ふたつの顔をもったロボット、と謂う構造に着目しよう。
ふたつの顔と書いたが、実質的に、意思も感情も思考も、その総てを持ち合わせているのは、腹部にある方の顔であって、構造的な意味で頭部にある顔は逆に、その一切を持ち合わせていない。
この構造、アニメ『マジンガーZ (Mazinger Z)』[原作:永井豪 (Go Nagai) 1972年~1974フジテレビ系列] の続編であるアニメ『グレート・マジンガー (Great Mazinger)』[原作:永井豪 (Go Nagai) 1974年~1975フジテレビ系列] に登場するミケーネ帝国 (Mycenae Empire) の戦闘獣 (Warrior Beasts) が、それをそのまま踏襲している。
また、それとは逆に永井豪 (Go Nagai) 作品を遡って行くと、『魔王ダンテ (Demon Lord Dante)』 [永井豪 (Go Nagai) 作 1971週刊ぼくらマガジン連載] の主役、魔王ダンテ (Demon Lord Dante) の眉間に、その人間体、宇津木涼 (Ryo Utsugi) の顔がそのまま現出している事に気づく。しかも、マンガ『魔王ダンテ (Demon Lord Dante)』 [永井豪 (Go Nagai) 作 1971週刊ぼくらマガジン連載] の発展系であるマンガ『デビルマン (Devilman)』 [永井豪 (Go Nagai) 作 19721973週刊少年マガジン連載] に登場するデーモン (Damon) のいくつかにも、これと良く似た構造を持っているのが存在しているのだ。
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