FC2ブログ

2014.03.16.10.18

『カレッジ・ツアー (College Tour)』 by パティー・ウォータース (PATTY WATERS)

images
例えば仮に、『無人島レコード (Desert Island Discs)』を10枚選べと、ぼくが謂われたとしたら残念ながら、この作品は決して選ばれない。だけれども、選ぶべき盤の枚数を100枚に拡大してもらえるとしたら、その選択の過程で2, 3枚は選ばれてしまうのに違いない。
つまり、一度、選択肢のうちのひとつとして挙げた事を忘れ去ってしまって、何度もその候補に挙げてしまう、と謂う訳だ。

変な喩え話だけれども。

ぼくが日常的に聴く幾つもある作品のなかのひとつであるのは間違いないのだけれども、だからと謂って、確固たる地位をこの作品は築き上げていない。

と、書いてしまうと、否定的な見解になってしまうが。

そうではなくて、風に流離うかの様に、波に彷徨うかの様に、常に揺れ動いていて、その在り処をいつも、ぼくが見失ってしまうからなのだ。それが例え、風や波に翻弄されていたとしても、決して、そこにある事は変わらない筈なのに。

そして、聴く度にいつも、後悔する。
前回 [そしてそれは随分前の事だ] 聴いて抱いた印象の記憶に引き摺られて、その印象の再現を求めて聴いたとしても、この作品は決しておなじ表情をみせてはくれない。
いつ、聴いても、新しいなにかが発見出来て、そして、それを発見出来た事をいつも、後悔する。
何故ならば、今、聴いている当人であるぼくが、その新発見を求めて聴いているとは、必ずしも限らないからだ。

本当に。

それにも関わらずに、何度となく、[忘れた頃になって] この作品に掌を延ばすのは、こころの片隅に、煮凝りの様に、この作品の存在がこびりついているからなのだ。

決して、時代の最先端を切り開く作品でもないし、万人に薦められるモノでもない。
だけれども、この作品はこれしかない。
先駆者もいなければ、後継者もいない。

ESP ディスク・レコード (ESP-DISK’) という特殊で独特な文脈をもつレコード・レーベルの、他の作品と比べても隔絶している。
レコーディングに参加しているジュゼッピ・ローガン (Giuseppi Logan) やバートン・グリーン (Burton Greene) やラン・ブレイク (Ran Blake) 等は勿論、そのESP ディスク・レコード (ESP-DISK’) から作品を発表していたミュージシャンだけれども、自身のソロ作品でみせるものとは、随分とその趣が違う。

勿論、本編の主人公パティー・ウォーターズ (Patty Waters) のヴォーカリゼーションの、技巧的なモノや表現上のモノだけをみれば、[先駆者はともかくとしても] これに影響を受けたモノはいるのに違いない。そして、そういうヒトビトの名が、この作品の寿命を長引かせている事は間違いない。
だけれども、この作品を聴く度に陥る、ある種の感興を、彼らもまた与えてくれるのかと問えば、素直にイエスとは謂いがたいモノもあるのだ。

この作品には、みっつのライヴ・セッションが収められているが、そのどれもが、パティー・ウォーターズ (Patty Waters) に寄り添う様にして、かしづいている様に聴こえる。
彼女のリーダー作だから当然だろうと謂う声も聴こえない訳ではない。
だが、この盤におけるセッションと同日のプレイらしきモノが、バートン・グリーン (Burton Greene) には『バートン・グリーン・オン・ツアー (Burton Greene Trio on Tour)』として、ラン・ブレイク (Ran Blake) には『プレイズ・ソロ・ピアノ (Plays Solo Piano)』として、それぞれがリーダー名義の作品が発表されている様に思える(この盤がそうである様に、どちらもレコーディング・データは不明瞭なままだ)。
だから、彼女の『カレッジ・ツアー (College Tour)』にそれぞれのミュージシャン達が帯同したと謂うよりも、彼らのツアーにゲストとして招待された、と考える事も出来ない訳ではない。
そうすると、文字通りに、主客を逆転して考えなければならない [この作品の中核を成すジュゼッピ・ローガン (Giuseppi Logan) のセッションは、果たしてどこへ?]。

この作品で聴く事の出来るミュージシャンとしてのパティー・ウォーターズ (Patty Waters) は、音と声と言葉だ。
それだけだ。歌は、恐らくここにはない。
あらかじめ意味が喪われているモノ、意味を持つ事を放棄しているモノ。さもなければ、それとは逆。意味を伝達させるだけのモノ、意味しかそこに備わっていないモノ。
本来ならば、たったひとつのモノが備え持っている筈の要素が、悉くに分断され、解体され、それらがそのまま、なんの脈絡も優先順位も考慮されずに、彼女の肉体から発信されている。
そして、恐らくぼくは、この作品を聴く度に、音と声と言葉を、おのれの都合のいいモノに引き寄せて解釈しようとする。この駄文だって、おそらくそうだろう。でも、そこで得られる解釈はきっと、統合性も整合性も欠けたモノに違いない。

この作品を聴く度にぼくが、後悔してしまうのは、恐らく、そんな理由なのだ。
解答がある訳もなく、だからと謂って、謎が隠されている訳でもない。
音と声と言葉と、そして、それにすがりつく様な音楽が聴こえるだけなのだ。

アルバム・ジャケットを観る度に、そこには曰く謂いがたいモノばかりがみえてしまう。
単なる女性のバスト・ショットでしかないのに、何故、ここまで儚げで朧げなのか。まるで、いまにもどろどろどろと溶解し始めてしまいそうな危うさまでもが、そこにたたえられている。
こんなにも真っ正面から、彼女を撮らえているのにも関わらずに、その表情は一切、読めない。笑っている様でもあり、哀しんでいる様でもあり、今にも消え入りそうな佇まいでありながら、にも関わらずに、そこにいると謂う主張だけは決して翻さない。
遺影に観えなくもないし、産まれたばかりの姿にも観える。

そのジャケットを裏返せば、ステージ上の彼女に混じって、スナップ・ショット的な写真も記載されていて、そこでぼくはようやく安心する。
1枚の写真のなかで、樹にもたれかかった彼女が、嗤っているからなのだ。

ものづくし(click in the world!)137. :
『カレッジ・ツアー (College Tour)』
by パティー・ウォータース (PATTY WATERS)


images
カレッジ・ツアー (College Tour)』 by パティー・ウォータース (PATTY WATERS)

1. Song Of Clifford 4:00
2. Hush Little Baby With Ba Ha Bad 6:46
3. Wild Is The Wind (Standard) 5:52
4. Prayer 2:51
5. It Never Entered My Mind 4:47
6. Song Of Life With Hush Little Baby 4:23
7. Song Of The One (I Love) Or Love My Love 7:25

RAN BLAKE / piano (It Never Entered My Mind)
BURTON GREENE / piano (Wild Is The Wind (Standard))
STEVE TINTWEISS / bass (Wild Is The Wind (Standard))
SHELLY RUSTEN
/ drums (Wild Is The Wind (Standard))
GIUSEPPI LOGAN / flute (on all other tracks)
DAVE BURRELL / piano (on all other tracks)
PERRY LIND / bass (on all other tracks)
SCOBE STROMAN / drums (on all other tracks)

(5) ラン・ブレイク (Ran Blake) - piano
(3) バートン・グリーン (Burton Greene) - piano スティーヴ・ティントウェス (Steve Tintweiss) - bass シェリー・ラステン (Shelly Rusten) - drums
(1, 2, 4, 6 & 7) ジュゼッピ・ローガン (Giuseppi Logan) - flute デイヴ・バレル (Dave Burrell) - piano ペリー・リンド (Perry Lind) - bass スコーブ・ストローマン (Scobe Stroman) - drums

I’m very happy, about this,my special album.
All the musicians who played are the finest in the world, and I’m so very pleased and proud to have recorded with them.
Patty Waters

1966年4月 ニューヨーク録音
Recorded Live on the N.Y. State College Tour in April, 1966

all compositions by Patty Waters.
(C) SYNDICORE (BMI) SYNDICORE is a division of ESP-DISK’, LTD.
front cover photo : Chuck Stewart・engineer : David B.Jones
(P) 1966 ESP-DISK’, LTD. (P) 1993 Venus Records, Inc

THE ARTISTS ALONE DECIDE WHAT YOU WILL HEAR ON THEIR ESP-DISK.

ぼくが所有している国内盤には『バーナード・ストゥルーマン・インタヴュー April. 92』(by トム・クラット 訳:高橋将人)、『ESP DISK STORY』(by ジョン・リトワイラー 訳:高橋将人)及び、『パティー・ウオータース カレッジ・ツアー』(今井正弘 1993年7月29日記)が掲載されている。
関連記事

theme : おすすめ音楽♪ - genre : 音楽

adventures of t. g. chaung | comments : 0 | trackbacks : 0 | pagetop

<<previous entry | <home> | next entry>>

comments for this entry

only can see the webmaster :

tackbacks for this entry

trackback url

https://tai4oyo.blog.fc2.com/tb.php/1404-db124857

for fc2 blog users

trackback url for fc2 blog users is here