fc2ブログ

2014.01.19.09.33

『Music For Silent Movies』 by 上野耕路 (Koji Ueno)

images
無声映画 (Silent Film) の、そこには存在しない筈のサウンドトラックを制作する試み、その作品集である。

この試みは必ずしも、斬新とも画期的とも呼べる様な企みではない。
現に、ぼくのCD棚にも、同種の企画作品がいくつもある。

ざっと観渡しただけで、次の3作品。
F・W・ムルナウ (Friedrich Wilhelm Murnau) の2本の映画、『吸血鬼ノスフェラトゥ (Nosferatu – Eine Symphonie des Grauens)』[1922年制作] と『ファウスト (Faust)』[アール・ゾイ (Art Zoyd) の同名の2作品、つまり『ノスフェラトゥ (Nosferatu)』 [1988年発表] と『ファウスト (Faust)』 [1995年発表] がある。
アンディ・ウォーホル (Andy Warhol)の1963年制作の2本の短編映画イート (Eat)』と『キッス (Kiss)』に対するジョン・ケイル (John Cale) の『イート / キッス (Eat / Kiss : Music For The Films Of Andy Warhol)』 [1997年発表] がある。

これに、映画以外の表現手段、例えば、文学や絵画作品への架空のサウンド・トラックへと捜索範囲を幅広くすれば、もっと出てきそうだけれども、そこまで手広くするのも面倒だ。

ただ、ぼくの手許にあるモノだけでも、これだけあるし、これまでにも、そんなかたちで既発表済みの表現作品に、寄り添う様なかたちで発表される音楽作品には、ずいぶんと出逢ってきた様な気もする。
音源というかたちに遺るモノに限定しない、コンサートやライブ企画も、いくらでもある様な気もするし、そおゆう意味では、既に手垢にまみれた、ぞんざいな企画なのかもしれない。

単純に考えれば、クラヴ・イベント等でそこで響き渡る音楽以上に、時に雄弁であろうとする、引用された映像の乱舞も、そこに加えてもいいのかもしれないのだ。

ただ、この作品が発表された1985年当時、少なくともぼくにとっては、初めて接する企みであった事は事実なのだ。

尤も、現在になっても、彼と彼のこの作品以前に同種の企画作品があったとは聴いた事はない。但し、無声映画の上映会という形式に則りながら、そこにその為に、あらたに作曲演奏される音楽作品というモノがあったかもしれないが、それはもう、想像の域でしかない。

そして、それは単に、未知の試みというだけではない。
深夜の音楽番組の中で、ただ垂れ流し的に垂れ流されている音楽クリップの中で、極めて異質な映像と音楽が、その時に放送されていたのである。

1985年はMTV (MTV : Music Television) の全盛期だった。
と、書けば当時を知るヒトは理解可能かもしれない。
そこで流れている映像の殆どが、歌詞の中で唄われているモノゴトの忠実な再現でしかなかったし、視点を変えれば、歌詞は映像のト書きや台詞でしかなかった。
観ていさえすればその曲のメッセージは忠実に理解可能だったし、聴いてさえいればその映像の中で起こっているモノゴトは想像可能だった。
解りやすいと謂えば、その一言ですんでしまうが、それ故に、過剰だし能弁だしおせっかいでもあった。
映像を観るモノにも、音楽を聴くモノにも、想像力と創造力を一切、要求しない。否、むしろ、そんなモノがあると却って、観る事も聴く事も愉しめなくなってしまう。そんな映像と音楽なのだ。

そのただ中で、本作品のミュージック・クリップは、シンプルで寡黙で愛想ないモノだった。それはその楽曲を奏でているのが、ヴォーカリストのいない、弦楽四重奏 (String Quartet) に上野耕路 (Koji Ueno) の弾く鍵盤楽器群 (Keyboard Instruments) だけだったから、というだけではないだろう。
フィーチャリングされている映像そのものが、そうなのだ。

冒頭で、”無声映画 (Silent Film) の”と書いた。
その実態は、1920年代 (1920s) に、シュルレアリスト (surrealiste) と呼ばれるヒトビトが制作した作品群だ。列挙してみよう。

images
理性への回帰 (Return a Raison)』 [マン・レイ (Man Ray) 監督作品 1923年発表]

images
アネミック・シネマ (Anemic Cinema) 』 [マルセル・デュシャン (Marcel Duchamp) 監督作品 1926年発表]

images
バレエ・メカニック (Ballet Mecanique)』 [フェルナン・レジェ (Fernand Leger) 監督作品 1924年発表]

images
ひとで (L'etoile de Mer)』 [マン・レイ (Man Ray) 監督作品 1927年発表]

images
幕間 (Entr'acte)』 [ルネ・クレール (Rene Clair) 監督作品 1924年発表]

images
エマク・バキア (Emak Bakia)』 [マン・レイ (Man Ray) 監督作品 1927年発表]

娯楽作品とはとても呼びがたいその素振りからはむしろ、”実験映画 (Cinema experimental) の”と、言い換えるべきかもしれない。

なお、『幕間 (Entr'acte)』 [ルネ・クレール (Rene Clair) 監督作品 1924年発表] の為に収録された作品のみ、その制作者のひとりでもあるエリック・サティ (Erik Satie) 作の楽曲メドレーで、それ以外は上野耕路 (Koji Ueno) のオリジナル作品である。

インターネットに接続すれば、かつて音と映像でやっきになってやっていた事がそのまま、そこに氾濫する言語で繰り返されている様な気がしてならない。
過剰で能弁でおせっかいで、その上に、想像力と創造力の働く余地が一切ない。

本作品を取り上げてみたのも、そんなところに理由がある。

ものづくし(click in the world!)135. :
『Music For Silent Movies』 by 上野耕路 (Koji Ueno)


images
Music For Silent Movies』 by 上野耕路 (Koji Ueno)

1. 理性に帰る (Return a Raison) 2'02"
 監督 マン・レイ / 1923
2. アネミック・シネマ (Anemic Cinema) 5'25"
 監督 マルセル・デュシャン / 1926
3. バレエ・メカニック (Ballet Mecanique) 10'28"
 監督 フェルナン・レジェ / 1924
4. ひとで (L'etoile de Mer) 11'37"
 監督 マン・レイ 出演 キキロベール・デスノス / 1927
5. 幕間 (Entr'acte : JACK IN THE BOX, PARADE, EMBRYONS DESSECHES, AVANT DERNIERE PENSEES) 14'06"
 原案・美術 フランシス・ピカビア、脚本・監督 ルネ・クレール
 出演 エリック・サティマルセル・デュシャンフランシス・ピカビアマン・レイジョルジュ・オーリックジャン・ボルランロルフ・ド・マレ他 / 1924
6. エマク・バキア (Emak Bakia) 13'21" 監督 マン・レイ 1927

Performed by
Koji Ueno / piano, prepared piano, synthesizer, computer, harpsichord
Yasuaki Shimizu / alto saxophone, clarinet, bass clarinet
Asuka Kaneko / violin
Nobuko Nakamura / violin
Yoko Yamamori / viola
Yohei Asaoka / violoncello

Produced by Koji Ueno
Directed by Keiko ShinozakiEngineered by Akitsugu Doi, Shinji Miyoshi, Masao Saotome
Recorded at Studio "A", LDK Studio, Aoi Studio, and Media Bum Studio, Tokyo Japan.
Mastered by Mitsuharu Kobayashi / CBS SONY
Artist Management by Keisuke Sakurai / CODE, Kiyoshi Ozawa
All tunes composed by Koji Ueno / except Side B-1 by Erik Satie
A & R Co-ordination Masanobu Kondo
Special Thanks to Moichi, Pitecan, A-Minowa, K-Terasaki

Photograph and Direction : Takashi Shimizu
Design : Siho Sakamoto
Co-ordination : Masayuki Kawakatsu
Hair and Make-up : Yasuo Yoshikawa
Special Thanks to Masashi Kuwamoto

ライナーノート:上野耕路
データ:桜井圭介

(P) 1990 ALFA RECORDS, INC, TOKYO, JAPAN

なお、ネット上でこの作品に関係する楽曲が視聴出来るのは、『KOJI UENO / Music for Silent Movies』という名義の作品だけである様だ。この映像作品は、上に書いた様に、作品発表時にプロモーション・クリップとして放送されていたのを、観た記憶がある。
上記、楽曲クレジットの英文タイトルでリンクしてあるのは、その楽曲の素となった映像作品である。だから、そのクリック先で聴く事の出来る音楽は、必ずしも、本作品収録曲ではない事を、ここで記しておく。
また、上記クレジットにある様に『幕間 (Entr'acte : Jack In The Box, Parade, Embryon Desseches, Avant-Dernieres Pensees』はエリック・サティ (Erik Satie) 作の4曲のメドレー。この4曲のリンク先で試聴出来るヴァージョンも、本作品の収録ヴァージョンではない。
関連記事

theme : おすすめ音楽♪ - genre : 音楽

adventures of t. g. chaung | comments : 0 | trackbacks : 0 | pagetop

<<previous entry | <home> | next entry>>

comments for this entry

only can see the webmaster :

tackbacks for this entry

trackback url

https://tai4oyo.blog.fc2.com/tb.php/1353-07b2275a

for fc2 blog users

trackback url for fc2 blog users is here