fc2ブログ

2013.12.31.04.39

えきばしゃ

1939年制作で日本で公開されたのが翌1940年、ジョン・ウェイン (John Wayne) 主演の映画『駅馬車 (Stagecoach)』 [ジョン・フォード (John Ford) 監督作品] を観たのは成年以降の事だけれども、それ以前にずっと昔から知っている映画作品なのだった。

と、謂うのは、この映画を知るのは本編よりも先ず先に、その主題曲『駅馬車 (Stagecoach)』での方が早かったからだ。

ぼくの家にステレオのミニ・コンポがはいったのは、ぼくが12歳のとき。口実としては中学進学だ。
その時に、そのミニ・コンポで聴く為のLPとして購入された映画音楽集のなかに、映画『駅馬車 (Stagecoach)』 の主題曲『駅馬車 (Stagecoach)』が収録されていた、という訳だ。

だからと謂って、映画本編を体験出来る機会はなかなかに、やってはこなかった。

ジョン・ウェイン (John Wayne) 主演の他の映画作品は、幼い時からとっくの昔に何度も観ていた。それは殆どの場合が、~名画劇場という名の下でのTV放映であって、しかもその殆どの場合がジョン・フォード (John Ford) の監督作品だった。
だから、本来ならば、ふたりの最初のカップリング作品である映画『駅馬車 (Stagecoach)』も当時、同じ様な環境の許で、観劇出来てもおかしくない筈なのに、そうならなかったのは、やっぱりこの作品がモノクロ作品であるからかもしれない。

でも、だからと謂って、この作品が黙殺されていた訳でもないし、逆にこの作品を放送しないが故に、ブラウン管の中での解説者は、映画『駅馬車 (Stagecoach)』という作品やそこでジョン・ウェイン (John Wayne) が演じたヒーロー、リンゴ・キッド (The Ringo Kid) について声高に語っていた様な記憶がある。

つまり、これからその番組内で公開される映画作品は、あるモノが喪われたところから物語が語られるからである。映画『駅馬車 (Stagecoach)』の後の物語、しかも、それを物語り得る世界が既に郷愁のものとなってしまった世界での物語なのである。
それは主人公が老年の域に達した事が理由なのかもしれないし、西部劇 (Western) と謂う物語が単純な勧善懲悪 (Poetic Justice) の物語に徹しきれなくなったからかもしれない。
当時、既にマカロニ・ウエスタン (Western all'italiana) は、登場していたと謂うか、物心ついた時は全盛期だったけれども、あの世界観は似て非なるモノだ。あの中には、ジョン・ウェイン (John Wayne) の居場所はない。はなっから否定されている。
いずれにしろ、その喪われたモノを再び取り戻す事も出来ないし、そのモノが喪われたところへと引き返す事も出来ない。
それ故に、当時ですら、かつての栄光の残滓として、輝いて観えたモノが映画『駅馬車 (Stagecoach)』であり、その中に登場するヒーロー、リンゴ・キッド (The Ringo Kid) [演:ジョン・ウェイン (John Wayne)] なのだ。

疾駆する駅馬車 (Stagecoach) をひきとめて乗り込むリンゴ・キッド (The Ringo Kid) [演:ジョン・ウェイン (John Wayne)] の勇姿や、アパッチ (Apache) の襲撃にあい、一巻の終わりかと観念した矢先に聴こえる騎兵隊 (Cavalry) の騎馬騎る音、そおゆう作品の中のワン・シーンが汲めども尽きぬ愛情をもって語られるのである。

勿論、そんな愛情溢れる語り部に相応しいのは、淀川長治 (Nagaharu Yodogawa) を置いて他にはいないのだけれども、だからと謂って、西部劇 (Western) ないしはジョン・フォード (John Ford) 作品さもなければジョン・ウェイン (John Wayne) 主演作を語るモノの殆どは皆、それらの出発点である映画『駅馬車 (Stagecoach)』に触れざるを得なかったし、と同時に、触れた途端に相好を崩してしまうのだ。

それは例えばぼくの父や、ぼくの家を訪れた父の友人達も同じ事であって、新品のミニ・コンポの脇に置かれたその映画音楽集のなかに、その映画の主題曲『駅馬車 (Stagecoach)』をみつけた時は誰も、同じ様な表情をみせているのだ。

だから、そんなおとな達に囲まれて育ったぼくには、いくつも、実際は、観劇の実体験がないのにも関わらずに、観た事になっている作品がいくつもあって、その代表格のひとつがこの映画『駅馬車 (Stagecoach)』なのである。

それ故に、本当の意味で初めてこの映画を観た時は、殆どが確認作業でしかなかった様な案配なのであった。所謂、名シーン的な場面では、遺されたスチル写真と連動して、ぼくのなかでの、独自のカット割りが出来上がってしまってもいたのである。

ぢゃあ、実際にどうだったのか。

その事を明らかにするよりも、ぼくが語りたいのは、この映画は実はジョン・ウェイン (John Wayne) の映画ではないかもしれない、と謂う事。彼の映画ではなくて、酩酊してばかりいるブーン医師 (Doc Boone) を演じたトーマス・ミッチェル (Thomas Mitchell) の映画ではないか、と謂う事。
リンゴ・キッド (The Ringo Kid) [演:ジョン・ウェイン (John Wayne)] 登場以降、物語はひたすらまっすぐの道を一直線に突き進むけれども、そのダイナミックさに眼を奪われるよりも、それよりも前の物語の方が、とても興味深いのだ。

images
物語の主要舞台となる"駅馬車 (Stagecoach)”に乗り合わせた人物達 [画像はこちらから]。
画面右端がブーン医師 (Doc Boone) [演:トーマス・ミッチェル (Thomas Mitchell)]。みんなが好きなリンゴ・キッド (The Ringo Kid) [演:ジョン・ウェイン (John Wayne)] は左から2人目。

乗っている駅馬車 (Stagecoach) そのものが向かっている場所は明確な筈なのに、乗客達の誰もが皆、己の向かう先に不安を抱えている。この作品を観ているぼく達の誰もが皆、どこへ物語が向かおうとしているのかとてつもなく不確かな中、狭い車中に膝をつきあわせている乗客達が揺れ続けている様に、それぞれが抱えている不安にも同調して、揺すらされ続けている。そんな最中に交わされる会話の取り留めのない行方を支配しているのが、ブーン医師 (Doc Boone) [演:トーマス・ミッチェル (Thomas Mitchell)] なのである。

彼が主役をはった作品がこの後、いくつも登場してもおかしくないのになぁ、とずっと想いながら観ていたのである。

映画『風と共に去りぬ (Gone With The Wind)』 [ヴィクター・フレミング (Victor Fleming) 監督作品 1939年制作] で、主人公スカーレット・オハラ (Scarlett O'Hara) [演:ヴィヴィアン・リー (Vivien Leigh)] の父親ジェラルド・オハラ (Gerald O'Hara) を演じた俳優と同一人物だとは、全くもって気がつかなかった。
いやほんと。

そして同じ年に制作されたふたつの作品に出演した彼は、映画『駅馬車 (Stagecoach)』の方で、アカデミー賞 (Academy Awards) 助演男優賞 (Academy Award For Best Supporting Actor) を受賞。逆に謂えば、その年のアカデミー賞 (Academy Awards) 主要部門を総舐めにした映画『風と共に去りぬ (Gone With The Wind)』は、映画『駅馬車 (Stagecoach)』でのブーン医師 (Doc Boone) [演:トーマス・ミッチェル (Thomas Mitchell)] によって助演男優賞 (Academy Award For Best Supporting Actor) 受賞を阻止された格好である。

次回は「」。

附記:
淀川長治 (Nagaharu Yodogawa) こそが、ユナイト映画 (United Artists) の宣伝担当員として、『ステージコーチ (Stagecoach)』という原題に『駅馬車 (Stagecoach)』と謂う邦題を与えた張本人であって、彼なくしてはこの映画が今日に置ける様な地位に、この国にもあったのかどうかは疑わしい。そして、生前、彼はその当時のエピソードをいろいろな場所で語っていたし、ぼくも聴いたり読んだりしていた。
今では、そのエピソードはこの頁でも読む事も出来る。
だけれども、その裏話に、もうひとりの主役として野口久光 (Hisamitsu Noguchi) [当時東和映画 (Towa Movies) が関わっていたのは淀川長治 (Nagaharu Yodogawa) 自身も語っているのだけれども、肝心の野口久光 (Hisamitsu Noguchi) 自身のことば、と謂うモノを、寡聞にして、未だかつてお目にかかった事はない。
彼が編集したと謂う映画予告編も含め、どこかで出逢える可能性と謂うモノはないのだろうか。
関連記事

theme : ふと感じること - genre :

i know it and take it | comments : 0 | trackbacks : 0 | pagetop

<<previous entry | <home> | next entry>>

comments for this entry

only can see the webmaster :

tackbacks for this entry

trackback url

https://tai4oyo.blog.fc2.com/tb.php/1336-389ae9b5

for fc2 blog users

trackback url for fc2 blog users is here