2013.12.10.09.10
ぼくはこのスタジオ・レコーディング・ヴァージョンよりも先に、1977年発表のライヴ・レコーディング作『感激! 偉大なるライヴ (Love You Live)
でも、そんなアレンジメントに関する事の前に、もうひとつふたつ、確認しなければならない事があるのだ。
先ずは最初に、曲名に関して。
「ユー・キャント・オールウェイズ・ゲット・ホワット・ユー・ウォント (You Can't Always Get What You Want)」をそのまま仮名表記に下したら、既にここにある様に無意味に長くなるから、邦題「無情の世界 (You Can't Always Get What You Want)」を宛てがったのだろうけれども、これは恐らく、作品発表当時の、定型に準拠したまでの事である。
例えば、ザ・ローリング・ストーンズ (The Rolling Stones) ではその前例として『一人ぼっちの世界 (Get Off Of My Cloud)』 [1965年発表 『ビッグ・ヒッツ:ハイ・タイド・アンド・グリーン・グラス(Big Hits : High Tide And Green Grass)
他にもピーター・アンド・ゴードン (Peter And Gordon) の『愛なき世界 (A World Without Love)』 [1964年発表 『愛なき世界 (A World Without Love)
と、綴ってみせたのは、実は皮肉だ。いいかい。真正直に、文面に踊らされない様に。
まぁ、それだけ『~の世界 (The World Of)』という題名は便利なモノで、歌の主人公の主観のみで綴られている歌曲のどれにも宛てがう事も出来れば、あるバンド / アーティストのデヴュー作や本邦初登場作に宛てがう事も出来る、融通の利く便利至極な、と同時に極めて陳腐でつまらないフレーズなのである。ここまでに登場したのはほんの一例で、思い当たるモノを書き出してみただけだから、きちんと調べてみれば、相当数のモノが登場してくる様な気がする。
ちなみに後者に関して、例を挙げると、イエス (Yes) の『イエスの世界 (Yes)
さらについでに書いておくと、アーサー・ブラウン (Arthur Brown) の、クレイジー・ワールド・オブ・アーサー・ブラウン (The Crazy World Of Arthur Brown)
一見、凄まじく仰々しい言葉の羅列だけれども、これまでの論旨を辿ってしまうと、それを大層に受容しなければならないこちら側が、なんだか、とっても、おちょくられてしまっている様な感じがしないでもない。
と、ひたすら、本題とは"無縁な世界 (Have Nothing To Do With)"をひた走っしまっているので、もときた道を辿り直してみれば、ザ・ローリング・ストーンズ (The Rolling Stones) の『無情の世界 (You Can't Always Get What You Want)』だ。
歌詞 [こちら等を参照の事] を読んでみれば、己の想い通りにならない事ばかりが綴られているから、おそらく、そんな状況を"無情の世界 (You Can't Always Get What You Want)"と解釈したのだろう。そう、考えてみれば、それ程、無鉄砲な邦題ではない様な気もしないではない。
でも、その歌詞をきちんと丁寧に読んでみれば、その後に続く"でも試してみろよそうすれば/ 欲しいものが転がり込んでくるかもしれないぜ (But if you try sometimes well you just might find / You get what you need)"の言葉の方が大事だ。
つまり、そんな"無情の世界 (You Can't Always Get What You Want)"にあってもさらに、挑み続ければ、想い通りに事が運ぶかもしれない、というのが、この楽曲の真意でありメッセージだ。そして、その大事な筈の真意とメッセージのニュアンスがすっぽりと抜け落ちているのが、この邦題なのである。
と、いうよりも歌詞そのものに肉迫するそれ以前に、そもそもが、「ノット・オールウェイズ (Not~Always)」は部分否定 (Partial Negation) の構文。「必ずしも~ではない」と訳さなければならない。それは受験生であろうがなかろうが、関係はない。部分否定 (Partial Negation) と全文否定 (Total Negation) を混交させてしまうと、誰しもがその真意を見誤る結果を招いてしまう。
つまり、この楽曲の題名を直訳すると"あなたの欲しいものがいつも手に入れられるとは限らない"となる。
裏返した謂い方をすれば"欲しいものが入手できる事もたまにはあるよ"であって、どちらの表現を選ぼうとも、全文否定 (Total Negation) の"欲しいものは決して手に入らない"とも全文肯定の"汝己の欲するもの普く得るべし"とも、決して交わらないのである。
猶、この辺の発想が不明なヒトは、論理学 (Logic) の初歩の、命題 (Proposition) とその逆・裏・対偶 (Converse・Converse Of Contrapositive・Contraposition) を復習し直して下さい。
そして、つまり、部分否定 (Partial Negation) が産み出す、この微妙な謂回しが邦題には一切、反映されていない、という事なのである。
ただ、まあ、もし仮に、部分否定 (Partial Negation) を包含した邦題があったとしても、もしかしたら日本人的な発想の許では、ネタばらし的なニュアンスしか得られないかもしれないなぁ、とも想える。つまり、楽曲のもつメッセージを真正面に真っ正直に、題名にも反映させる事の是非、という意味だ。含蓄と謂う語句も、頭をもたげもする。
そしてそれと同じ問題は、そのメッセージ自体は若干、複雑なモノなのだけれども、ザ・フー (The Who) の『無法の世界 (Won't Get Fooled Again)』にもそっくりそのまま、該当するモノでもあったりする。
だから、ぼくの中では、邦題としての『無情の世界 (You Can't Always Get What You Want)』に関しては、判断停止のところにある。
と、そんな中途半端なところに、邦題問題を宙ぶらりんにしたまま、次の課題へと移る。
歌詞の最初のヴァースには、ナンパの光景が描かれている。時代的気分を反映させるのならば、ナンパというよりもスケコマシと謂うべきかもしれない。
あるパーティーの席上で出逢ったある女性とその態度について、なのであるが、よくよく読んでみると、この件は、バンドのヴォーカリスト、ミック・ジャガー (Mick Jagger) とマリアンヌ・フェイスフル (Marianne Faithfull) の出逢いの場面そのものぢゃあないだろうか。
このふたりの馴初めは、1964年。
ある宴席での事だと謂う。
マリアンヌ・フェイスフル (Marianne Faithfull) を見初めたミック・ジャガー (Mick Jagger) が彼女のドレスに酒を [わざと] ひっかけて、そのお詫びから始まったと聴く。恐ろしく古典的な手口だけれども、1964年の事だからね。今時、通用しないからね。でも今時の餓鬼どもはこんな手口しらないから逆に新鮮かもね。
尤も、 [二重の意味で] ひっかけられた方である彼女自身はその時、相当に、ミック・ジャガー (Mick Jagger) を毛嫌いしたらしいから、その当時でも、そんなに巧い手では、なかったのかもしれない。
ただ、話がこれでお仕舞ならば、単なるグルーピーと [デヴューしたての] ロック・スターの一夜でしかないのだけれども、そのパーティーには、バンドのマネージャーであるアンドリュー・ルーグ・オールダム (Andrew Loog Oldham) も同席していた事から事態はふたりの想わぬ所へと転がり出す。彼女のヴィジュアルに魅了された彼は、彼女をシンガーとしてデヴューさせるのである。
ここから先は、知っているヒトは知っている逸話ばかりが続く。
彼女のデヴュー曲はジャガー=リチャーズ (Jagger / Richards) の『涙あふれて (As Tears Go By)』 [1964年発表 『ヴェリー・ベスト・オヴ・マリアンヌ・フェイスフル (Very Best Of Marianne Faithful)
だから、普通ならば、ふたりの蜜月時代とそこからの別離を彩るいくつもの楽曲群と同列に『無情の世界 (You Can't Always Get What You Want)』が語られていても不思議ではないのだけれども、いまだかつて、そんな取り上げ方をした記述をぼくは、観た記憶も読んだ記憶も聴いた記憶もないのだ。
上に既に出た『涙あふれて (As Tears Go By)』 [1964年発表 『ヴェリー・ベスト・オヴ・マリアンヌ・フェイスフル (Very Best Of Marianne Faithful)
そしてその理由と原因は、恐らく、この楽曲がその収録作品やバンド自身にとって、意味している位置にあるのではないか、と、考えている。
1960年代 (1960s) の最終作、自らのレーベルであるローリング・ストーンズ・レコード (The Rolling Stones Records) 創立の直前のレコーディング作、ブライアン・ジョーンズ (Brian Jones) が物故し新メンバーであるミック・テイラー (Mick Taylor) を迎えての最初の作品、そして、壮大なオーケストレーションと華麗なコーラスの参加した、およそらしからぬアレンジメント。
その総ての要素が、この楽曲に、重要なマイル・ストーン (Milestone) であるべきモノを要求している様にみえるのだ。
そして、それに目眩を感じたぼく達は、その曲のそもそもの始まりのエピソードを忘却してしまっているのでないだろうか。

『無情の世界 (You Can't Always Get What You Want)』は、本国では『ホンキー・トンク・ウィメン (Honky Tonk Women) 』とのカップリング曲としてシングル・カットされたけれども、国によっては『サッド・デイ (Sad Day)』 とのカップリングでA面扱いでも販売された様だ。上に掲載するのはその日本盤 [画像はこちらから]。
「ローリング・ストーンズの最高傑作はこの曲だ!!」だ、そうです。
次回は「い」。
附記:
ザ・ローリング・ストーンズ (The Rolling Stones) は冒頭に記した『感激! 偉大なるライヴ (Love You Live)
まぁ、どだい、スタジオ・ヴァージョンの大編成での演奏を、彼らのツアー編成に求めるモノも、難しいモノでもあるのだけれども。
彼らならではの、ラフな演奏に徹していて、これはこれで毎回、ライヴの見せ場のひとつにもなっている。
その一方で、スタジオ収録に参加し、そこでピアノ (Piano)、オルガン (Organ) そしてフレンチ・ホルン (French Horn) を演奏したアル・クーパー (Al Kooper) は、『ソウル・オヴ・ア・マン (Soul Of A Man)
あたかも、『レット・イット・ブリード (Let It Bleed)
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