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2013.11.26.11.27

ちゅーりっぷ

椅子はなかった。
手動だったし、連動でもなかった。いちいち手でこめなければならないのだ。
そのひとつひとつにはちいさな灰皿が装着されていて、そこが空であった事は滅多にない。
それどころか室内は、もうもうとした紫煙であふれかえっていた。
それでも、いや、それだから、か。
すでにチューリップはあった。
産まれてから小学校の1学期までに棲んでいたぼくの近所には、数軒のパチンコ屋が並んでいた。

物心つくかつかないかの頃には、ビリヤード場もあった様な気がするが、それは次第に姿を消していった。入口正面の扉の硝子窓にはおおきく、赤い玉と白い玉がまるでどこかの政党のロゴマークの様にデザイン処理されていたその店々の幾つかは、パチンコ屋へと変貌していったのだ。

だから、その店構えの中に、ぼくが入った事はなかったと、想う。
映画やテレビにばかりに登場するそんな空間にぼくが出逢うのは、もう少し先だ。ボーリングが大ブームになる頃で、予約待ちの数十分、父がたった独りで赤い玉と白い玉を弄ぶ事になる。

そんなビリヤード場とは正反対に、ぼくは何度となく、パチンコ屋に出入りする事になる。

尤も、子供ひとりで店内に入れてくれる訳もなく、ましてや、打つ事なんかとても不可能だ。それに第一、子供の小遣い程度で、愉しめる程には、安くない。
ぼく達が打てるのは、温泉街の遊興施設か、デパートの屋上にあるゲーム場にある台がせいぜいだ。
しかも、その大半は旧くて錆びていて、碌に整備もされていない。他の最新のゲーム機よりも遥かに劣ってみえる。いくら、玉があふれかえっても、景品ももらえないし、それに第一、チューリップもないのだ。

近所のパチンコ屋へは、周囲の大人達に連れられての事もあったし、そこで遊んでいる筈の大人達に用向きで出かける事もあった。

ぼくの近所のすぐそばで雑貨化粧品屋を営んでいる伯母が、店番をぼくに託して出かけるのだ。店に訪れるヒトビトは皆、気の知れたヒト達ばかりだし、使う金額はたかが知れている、ぼくの様な保育園児でも、小一時間程の店番は出来るという訳だ。
店番の椅子に腰掛ける。
すると眼の前には、ボールペン、包装紙、糊、セロテープと一揃いの文具が顕われる。だから、それで絵描きや工作等、大概の事をしていれば、あっと謂う間なのだ。
今に、夕餉の買い物に出かけた母が来る事だろう。そうすれば、彼女と交代すればいいのだ。そうして、伯母の打つ台を捜しに出かければいい。

伯母であろうと誰であろうと、店内に入れば、彼らの、一握りくらいの玉は提供してもらえた。
彼らの立場にたって考えてみれば、自分自身はここにいるのだし、さして広くない店内、その中にさえ居てもらえば、迷子の心配もない。特にこのこ=つまりぼく、は目新しいところに来るといつも勝手にほっつき歩いていなくなってしまう、足止めしておくには、これで充分だ。
そんなところだろう、彼らが当時、考えていた事は。

大人からの手渡しの玉は、こどもの掌では両手で抱えてようやくその中に収まる。だから、玉入れのプラスチックの容器をどこかで調達してから、台を捜す事となる。

だけれども所詮は子供だ、台を選ぶとか当たる台当たらない台という発想は一切ない。あえて選ぶとしたら、奇麗な台穢い台の違いくらいだ。煙草の吸殻がうずたかく溜まっている台なぞ、見向きもしない。それが結果的に、当たる台を避けて当たらない台を選んでいる事になってしまうが、当時はそんな発想も、当然の様にない。

自身の視野の真正面にちょうど、玉をうつレバーが来る。投入口はその上だ。
そこから玉をひとつ、そして全力でうてば、玉は外周を一周してもとの位置に戻ってしまう。
では、と、恐る恐る打てば、今度は別の理由でもとの位置に戻ってしまう。
意外と難しい。
チューリップがどうのこうの以前の問題だ。
そんな悠長な遊びをひとしきりしていると、連れである大人がぼくを捜して顕われる。
そしてさっき与えたばかりの玉を取り上げて、これを打ち終わったら還ると謂う。

運がよくて、彼ないしは彼女の機嫌がよければ、取り上げた玉の幾つかを投入して、チューリップを開かせる。そして、ぼくに台を明け渡して、ここに玉を入れれば良いと謂う。
但しそれは、あくまでも、ふたつの要件が揃った上での事だ。
数十年前のそんな些細な出来事をぼくが記憶しているくらいだ、恐らく1回、あってもせいぜいが2, 3回の出来事ではなかったか。

結局、彼ないしは彼女は、擦ったのか勝ったのか。
結果はどうあれ、途中、駄菓子屋に立ち寄って、チューインガムやチョコレート、さもなければクッキーを、ひとつせしめて帰路に着く。

先ずは盤面最上段の天釘狙うを狙う。

images
そんな生半可な知識の仕入れ先、マンガ『釘師サブやん』 [原作:牛次郎 作画:ビッグ錠 1971週刊少年マガジン連載] が登場する5年も前、間寛平が唄う『ひらけ! チューリップ』 [作詞作曲:山本正之 1975年] がヒットする10年近くも前の話である [画像はこちらから]。

次回は「」。
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