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2013.10.25.12.22

Popcorn

とっくのむかしに券売機に変わってしまったが、もぎりはいまでもそこに座っている。

いつもの馴染のおんなはいなかった。館主自らがおれからチケットを受け取った。流行の感冒らしい。へぇ、あんなやつでも風邪をひくんだ。風邪じゃあない、インフルエンザだ。もしかしたら、またどこかのおとこに騙されて、いなかのモーテルで泣いているかもしれないがね。

館主のそんな無駄口を適当にあしらって、なかに入る。案の定の臭いだ。

狭いロビーに入ると正面にトイレがある。こいつのせいだ。むかし尋ねたことがある。いくらなんでも、これは酷いだろう、と。いてもたまらなくなった輩が借りにくるから、これでいいらしい。そのためにだけ、入場券を買わせるんだ。非道いはなしじゃあないか。

だがおれは知っている。その昔、事件があったことを。その結果、いまのかたちに建て直したらしいのだ。ひとけのない映画館で、だれもいない個室につれこまれれば、おれだって命の保証はないものな。へたなミステリよりも現場は惨憺だったらしいから。

そんないわれのある臭いに追い立てられて右にまわれば、申し訳程度の売店がある。婆ぁがひとり、座っている。いつもの様にめくばせしたら、頚をふった。品定めをするふりをしながら問い糺そうとすると、顎をしゃくって、今夜はもぎり嬢の館主をさした。そうか、そういうわけか。ボスが見張っているのならば、おいたはできないよな。

扉をあけてなかにはいる。まっくらな館内は不規則にひかり、もうそこはクライマックスのさなかだった。

しばらく立ち止まっていると、眼がなれた。最前列にいるあいつはまた大酒をくらって寝ているだろう。女性席ふたつに陣取っている彼女達は、自分たちもクライマックスの真っ只中だ。50席にもみたない座席のほとんどは、いつものように人待ち顔だ。ここに立っているとスクリーンの向こうよりも、映写機のたてる音の方がおおきく聴こえる。

最後部のひとつを選んでそこに座って、婆ぁの施し物をほうばる。塩の味しかしないそれは湿気ていて、まるで老けたあのおんなそのものだった。

[the text inspired from the song "Popcorn" for the album "Popcorn aka Music To Moog" by Gershon Kingsley]


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