FC2ブログ

2013.09.13.03.32

Jack And Diane

その老夫婦は、いつもと同じ様に起き、日がな一日、陽のあたる場所にふたりで佇み、日没とともに、そのちいさな一軒家にかえる。
その習慣は、忘れるくらいに遥かな昔から始まり、そして恐らく未来永劫、続くのに違いないのだ。

いつこのふたりが出逢ったのか、それを知るものは誰もいない。恐らく、とうのふたりすら、憶えている可能性はないのだ。彼らのすむ一軒家のまわりにはなにもなく、彼らをおとなう者もここには誰もいない。たったふたりだけの生活がずっとずっと昔に始まり、そのおわりの訪れる気配は一切ない。

もちろん、彼らにはふたりをうみ育てた両親もあったし、彼らとともにおおきくなった幼馴染というものもあった。
だが、それもとうの昔。自身の父や母よりも、齢を重ね遥かに年老いてしまってから、もうずいぶんの時が流れた。
瞳を閉じて憶いだせる彼らの姿も、若く元気なときでしかない。

いや、もしかしたら、老いた父や母の記憶はあえて封じているのかもしれない。なぜならば、たとえ誰であろうとも、死をみとったその日を憶いだすのは、辛く哀しい時なのだから。
ふたりは忘却を選び、その結果として、永く終わりのないふたりだけの時のなかにある。

だから、ふたりがもうけたこどもたちや、そのこどもたちのさらなるこどもたちのことも、とっくの昔に忘れ果ててしまっている。
ふたりの許を去ったかれらは、二度とふたりに逢う事はないからだ。

このふたりが自身の境遇をどこまで理解しているのか、それは定かではないし、それを気遣うものはおそらく誰もいない。
滅びた文明の唯一生き遺ったつがい、それで充分なのである。

彼らの種族が繁栄を誇っていた惑星が喪われたのは、遥か昔の事である。いくつかの生体サンプルを採取し、かつての彼らの惑星の環境がそのまま、この星の一角に設けられた。
老夫婦はそこに棲んでいる、いまや貴重な生体標本なのである。

[the text inspired from the song "Jack And Diane" from the album "American Fooll" by John Cougar aka John Mellencamp]


関連記事

theme : 今日の1曲 - genre : 音楽

a song for you | comments : 0 | trackbacks : 0 | pagetop

<<previous entry | <home> | next entry>>

comments for this entry

only can see the webmaster :

tackbacks for this entry

trackback url

https://tai4oyo.blog.fc2.com/tb.php/1250-f9c4a19c

for fc2 blog users

trackback url for fc2 blog users is here