FC2ブログ

2008.01.27.15.01

海には出たけど泳げない:Though I got to the sea, I cannot swim.

音楽が終ったら
images

"Sarah" photo by Joel Meyerowitz.

原題『Les Quatre Cents Coups直訳すると「400回の殴打」の意)』を『大人は判ってくれない』と翻訳した時点で獲得した抒情と、それによって失われてしまったモノについて、考えてしまうときがある。
その抒情と失ってしまったモノは、日本での初公開時に描かれたポスターを観ても、感じ取る事が出来る。野口久光が描いたそのポスターは、監督のフランソワ・トリュフォーFrancois Truffaut)も気に入ったとされているのだけれども、果たして、そのフランソワ・トリュフォーFrancois Truffaut)自身は、そこで得たモノと失われたモノに気づいていたのだろうか?

ジャン・ヴィゴJean Vigo)の『新学期・操行ゼロZero de Conduite)』のパロディとされる散歩中の生徒たちが列から抜けて逃げ出すシーンに代表される様な、悪餓鬼達のほんのちょっとした悪戯をスケッチ風に描いた作品ならば、それでもいいのだろう。しかし、この映画に滲む苦味を、ほんの些細な日々の出来事から思い出してしまう事がある。


映画の主人公、アントワーヌ・ドワネル[Antoine Doinel 演:ジャン=ピエール・レオJean-Pierre Leaud)]は、過ぎた悪行の限りの結果、鑑別所に放り込まれてしまう。そして、ある日、そこを逃げ出す事に成功する。
彼は疾る。ひたすら疾る。どこまでも疾る。そして、疾って疾って疾ったその先に、海岸に辿り着く。
防波堤を乗り越えて、砂浜を駆け抜けて、海へと向う。そして、波間に脚を掬われ始めたとき、そこで初めて、こちらをふりかえる。
そのふりかえった瞬間が苦いのだ。その苦さを我々が嚥み込まざるを得なくなった途端に、スクリーンには「FIN」の文字が大きく映し出される。

「FIN」の文字で隠されてしまった主人公の顔は、これまでこの映画の中でも、彼がついぞ観せた事のない表情である。僕が初めてこの映画を観た時は、"オトナの顔"だと想った。
映画の中での、微笑ましいエピソードで描かれた少年期が終り、新しい階梯を彼が歩み始めたのだと想った。

果たして、そうなのだろうか?

アントワーヌ・ドワネル(Antoine Doinel)を演じたジャン=ピエール・レオJean-Pierre Leaud)を主人公にして、しかもその主人公をアントワーヌ・ドワネル(Antoine Doinel)と名乗らせる、所謂『アントワーヌ・ドワネルの冒険The Advenchers of Antoine Doinel』という連作がフランソワ・トリュフォーFrancois Truffaut)の作品にある。ジャン=ピエール・レオJean-Pierre Leaud)の実年齢に応じた、アントワーヌ・ドワネル(Antoine Doinel)と名乗る青年が出演するそれらの映画は、いやでも『大人は判ってくれないLes Quatre Cents Coups)』の続編と想わざるを得ない。しかしながら、あの映画のラストシーンでジャン=ピエール・レオJean-Pierre Leaud)が魅せた表情のアントワーヌ・ドワネル(Antoine Doinel)は、それらの映画の中にいない。
あの表情よりも、幼くて、滑稽で、無防備なアントワーヌ・ドワネル(Antoine Doinel)がそこにはいる。

実生活では、十代の頃は、運動部の主将で成績優秀その上に生徒会長もやっていた彼が、今や尾羽うち枯らして....てのは、よくある話だけれども、ちょっとそれに通じるニュアンスがある。

なぜって、『大人は判ってくれないLes Quatre Cents Coups)』の主人公のその後を描いた作品ならば、ちょっとしたピカレスク・ロマン(Picaresque Roman)を夢想しませんか?

ところが、フランソワ・トリュフォーFrancois Truffaut)はそうはさせなかった。図体ばかりオトナで、その図体を弄んでしまっているコドモの様な青年を主人公とさせた。

だからこそ、『アントワーヌ・ドワネルの冒険The Advenchers of Antoine Doinel』からフィードバック(Feedback)して、『大人は判ってくれないLes Quatre Cents Coups)』のエンディングを観ると、恐ろしく苦いのだ。

コドモからある日突然、オトナになる(もしくはオトナとして扱われる)。
と、いうよりも、ある日突然、君の席はここにはありませんよ、己自身の座席は、己自身で捜しなさいと宣言される。己自身は、昨日から今日になっても、何も変わっていないのに。
そして、ここではない・あそこでもないと、捜しあぐねて辿り着く。

そこが海
関連記事

theme : 今日の出来事。 - genre : 日記

out of the order | comments : 0 | trackbacks : 0 | pagetop

<<previous entry | <home> | next entry>>

comments for this entry

only can see the webmaster :

tackbacks for this entry

trackback url

https://tai4oyo.blog.fc2.com/tb.php/120-a29d4184

for fc2 blog users

trackback url for fc2 blog users is here